ふろむ播州山麓

京都山麓から、ブログ名を播州山麓に変更しました。本文はほとんど更新もせず、タイトルだけをたびたび変えていますが……

コンピュータは勝負師? (2) 1000分の1秒!

2013-06-15 | Weblog
 株式や円相場の乱高下はあいかわらず、ジエットコースターのようでスリル(恐怖?)満点です。ひとによっては、バンジージャンプ並みとか言っています。コンピュータ取引について、専門家の解説を引用紹介します。

 最近の株式市場などの相場変動では、コンピュータで自動的に株を高速取引するHFT(high frequency trading=高頻度取引)という手法が問題にされる。1ミリ秒(1000分の1秒)に1回の売買が成立するという。人間のまばたき(300~400ミリ秒)をはるかに上回るスピードだ。
 6月3日の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数では、トムソン・ロイター社が15ミリ秒早く伝えたことで、2800万ドルもの売買が成立した――。シカゴの調査会社ナネックス社が米国CNBCを通じてこんな調査結果を発表した。HFTの威力を感じさせる話だが、当のISM側は否定している。
 ナネックス社によれば、その1ミリ秒の間に米S&P500種株価指数ETF(上場投資信託 )3万株が売買可能という。6月3日も発表直前に369社の株価が下落した。このときの数字は予想より悪かったため、発表15ミリ秒前にそれを知って売りをかけたプロたちがいたことが想像できる。
 さらに12日にはトムソン・ロイター社がミシガン大学消費者信頼感指数を、一部の「会員」機関投資家に対しては発表直前に伝えてきたことが発覚した。発表は10時だが、「普通会員」は9時55分、「エリート会員」は9時54分59秒、「ウルトラ・エリート会員」は9時54分58秒にそれぞれこのデータにアクセスできるというのだ。これもCNBCが報じたのだが、トムソン・ロイター社は正式に認めている。
 トムソン・ロイター社はミシガン大に年間100万ドル程度を支払っていた。「有料会員」がトムソン・ロイター社にいくら払っていたかは不明だ。
 高頻度取引で浮かび上がってきた、投資指標発表を巡る公正・公平性。投資家の間で問題視されそうだ。(豊島逸夫「日経web版」6月13日<株変動だけじゃない 高速取引の波紋>)
 

 例えば米雇用統計の発表時に雇用者数の前月比がプラスだったら円売り・ドル買いを出すプログラムを組み込んだとする。プラスの数字が発表された途端、瞬時に円売りが殺到して相場が円安に跳ねる。それを見た市場参加者が慌てて円売りに加わり、円安が一気に加速する仕組みだ。
 米量的緩和の縮小に言及するかが注目された5月22日のバーナンキ米連邦準備理事会(FRB )議長の米議会証言。冒頭、性急な緩和縮小に否定的な発言が出た途端、瞬時に円買い・ドル売りが殺到した。だが証言では縮小の可能性についても述べており、少し間を置いて今度は一転して円売り・ドル買いが強まった。
 ある市場関係者は「いくつかのキーワードに反応するプログラムが組み込まれ、冒頭の否定的な発言に瞬時に機械が反応したのではないか」と推測する。(小栗太「日経新聞」6月12日<円相場惑わす新要因 ファンド新規参入・高頻度取引…中長期的な運用を>)

 そもそもコンピュータ売買はどのようなアルゴリズム(計算手順)になっているのだろうか。ヘッジファンド と長く取引し、今年5月に病気で急逝した草野豊己氏によれば「コンピュータによるロボットトレードの基本は4パターン」と分類している。一つ目は「トレンドフォロー型」。相場が上昇すると買い上がり、下落すると売る、相場の流れに追随する取引方法。人間と異なりコンピューターは「震えない、喜ばない、疲れない」。相場が1000円、2000円と大きく下げたときにも怖くなって売れなくなったり、値ごろ感から買ったりするという「投資家心理」を挟まずに、機械的に追随売りを出す。5月23日以降の下げ局面で中心となったプログラムといわれている。
 2つ目がブレイクアウト型。相場が新高値を更新すると買い、新安値で売るなど、相場が節目を突破するとさらに同じ方向に勢いづかせるプログラムだ。日経平均は3カ月間の平均売買値である75日移動平均(1万3034円)に接近しており、この節目を下回るようなら、「ブレイクアウト型」がさらに売り乗せしてくる可能性が大きくなる。売買高や価格の変化率上昇に応じて売買を拡大してくる「ボリューム・モメンタム型」も値動きを激しくするのに一役買っているようだ。
 今後、調整局面が落ち着き、株価が反騰する局面で登場しそうなのが「カウンタートレード型」だ。トレンドフォロー型の逆のタイプで、上昇トレンドのもとで買われすぎたり、下落トレンドが続いて売られすぎたと判断すると、安値買いや高値売りを繰り返しながら、トレンドの最後に起こる反落、反騰を利用して収益機会を広げようとする。
 CTA (先物投資顧問)とも呼ばれる、こうしたコンピュータ売買のマネーは世界で数十兆円あるとみられている。ヘッジファンドに詳しい市場関係者によれば、そのうち1~2割が現在、日本株に向かっているという。安倍政権の経済政策「アベノミクス」を機に、海外投資家の注目度が一気に高まり、収益機会がぐんと増えたためだ。
 コンピュータ売買が増幅した日本株相場の急落は、グローバルマクロ型など人間の相場観も加味して投資判断を下すヘッジファンドも「日本株の持ち高をいったん圧縮する」(ゴールドマン・サックス証券の宇根尚秀エクイティデリバティブトレーディング部長)要因となった。投資家は一般的に、保有する株式の価格にボラティリティー と呼ばれる予想変動率を乗じてリスク量をはじいている。市場が織りこむ相場の先行きの変動率を示す日経平均ボラティリティー・インデックスは5月半ばの20%台から37.4%と急上昇。相場に強気の投資家でも、リスク許容度の低下で日本株を持てる量が上限に達し、機械的な「投げ」が出て、さらに値が下がるという循環になっている。
 コンピュータは過去の相場の「ビッグデータ」を機械的に学習し、従来は人が「勘と経験」でこなしていた判断を身に着けているだけではなく、注文スピードも早い。10~20年の経験に裏打ちされたベテランディーラーも「もはや日中に場中の一瞬のサヤを狙う売買は太刀打ちできない」と舌を巻く。
 プログラム売買が相場の振幅を大きくする環境は当面続くだろう。では、投資家はどう身を守ればいいのか。コンピュータが持ち合わせないのは、想定外の規制発動という突発事態などに対処し、総合的な判断で戦略を変えていく柔軟性かもしれない。中川氏は「高速取引とは時間軸を変え、コンピュータが持たない中期的な相場観で持ち高を形成して勝負する」と話す。個人投資家にとってはコンピュータ売買が演出する短期的な変動に動揺せず、デイトレードより中長期の視点に立った投資で着実に収益を上げる道を探るほかなさそうだ。(藤原隆人「日経新聞web版」6月3日<プログラム売買>)

 今春にプロ将棋師5人が5種類のコンピュータソフトと対戦しました。結果は人間の1勝3敗1引き分け。ただひとり勝った阿部光瑠四段についての記事です。
 勝利は、いわば相手のソフト「習甦」(しゅうそ)の「癖」を利用したものだった。習甦の開発者は事前に、阿部にソフトを提供(貸し出し)していた。それを相手に200局ほど指した阿部は、習甦にはある展開になると「自爆」ともいえる無理な攻めを仕掛けてくる癖があることを見抜いた。そして本番で、みごとにその仕掛けを誘って完勝した。
「強かったです。人間は、自分が不利になりそうな変化は怖くて、読みたくないから、もっと安全な道を行こうとしますよね。でも、コンピュータは怖がらずにちゃんと読んで、踏み込んでくる。強いはずですよ。怖がらない、疲れない、勝ちたいと思わない、ボコボコにされても最後まであきらめない。これはみんな、本当は人間の棋士にとって必要なことなのだとわかりました。僕は習甦のおかげで強くなれたと思っています。コンピュータのおかげで人間が進歩すれば、またコンピュータも進歩する。そんな関係でいいんじゃないでしょうか。」
 引き分けに持ち込んだ「将棋界の武蔵」三浦弘行8段は、「コンピュータには大局観はありませんが、どの局面なら攻めが成立するのかを、ひとつひとつ深く読んでいる。だから正しいのですね。」(山岸浩史「現代ビジネスWeb版」4月29日・5月15日<人間対コンピュータ・頂上決戦の真実>)

 今日は引用ばかりになってしまいました。1000分の1秒には勝てません。
<2013年6月15日>

コメント
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