映画と本の『たんぽぽ館』

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サイの季節

2016年05月24日 | 映画(さ行)
革命に翻弄される運命



* * * * * * * * * *

クルド人詩人、サデク・カマンガルをモデルに描く作品。


1979年イランイスラム革命の際、詩人であるサヘルは政治犯として投獄されました。
妻ミナは、夫の帰りを待ち続けていましたが、
夫が獄中で死亡したと聞かされ、トルコのイスタンブールで新たな生活をスタートさせます。
しかし、サヘルは実は生きていて、
30年もの投獄の後やっと自由の身となり、ミナの行方を探します。



この2人は愛と信頼で結ばれた仲の良い夫婦であったのですが、
そこに横恋慕する一人の男の影。
ミナの美しさに心奪われ、求愛をしても一笑に付されてしまう。
以来、この夫婦に異常に嫉妬心を燃やすのです。
革命側に身を置く彼こそが、二人の悲劇の元凶なのでした・・・。



このようにストーリーを書いてみるとメロドラマっぽいですね。
でも本作はそうではなくて、詩人を描く作品らしく、
物静かで若干陰鬱な雰囲気もある、まさに詩的映像に支えられた作品です。
どの世界でも革命と言うのは、それまでの支配する側、される側が入れ替わる劇的な出来事。
特別な罪を犯したとも思えないサヘルが、
ある日突然それまでの生活何もかもを奪われ、投獄されてしまう。
なんとも理不尽極まりない。
でも、実際そういうことがあるんですね・・・。



「サイの季節」と言うのは、モデルとなったサデク・カマンガルの詩の一つのようです。
砂漠やサイの皮膚のように、乾いてザラザラした感触。
そんな心象を歌った詩。
本作では、彼の詩を刻んだタトゥーが大きな意味を持つので、
要注目です。



革命に翻弄される人の運命、
そして「愛」だけが、そんな運命に翻弄される人を支えていく。
帰るべき場所を奪われた詩人の言葉。
「国境に生きるものだけが新たな祖国を作る」。
納得できてしまいます。
切ない人間のドラマです。



サイの季節 [DVD]
ベヘルーズ・ヴォスギー,モニカ・ベルッチ,ユルマズ・エルドガン,べレン・サート
ポニーキャニオン


「サイの季節」
2012年/イラク・トルコ/93分
監督・脚本:バフマン・ゴバディ
出演:ベヘローズ・ボスギー、モニカ・ベルッチ、ユルマズ・エルドガン、ベレン・サート
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★,5


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