映画と本の『たんぽぽ館』

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「オールド・テロリスト」村上龍

2018年02月16日 | 本(その他)

立ち上がる老人たち

オールド・テロリスト (文春文庫)
村上 龍
文藝春秋

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「年寄りの冷や水とはよく言ったものだ。
年寄りは、寒中水泳などすべきじゃない。
別に元気じゃなくてもいいし、がんばることもない。
年寄りは、静かに暮らし、あとはテロをやって歴史を変えればそれでいいんだ」
怒れる老人たち、粛々と暴走す。

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本作、表紙は少しユーモラスなのですが、実際はもう少しシビアでした。
老人たちがテロを仕掛ける、といいえば、
この間見た映画「ジーサンズ」のように
不遇な人生に絶望した老人が社会への恨みを晴らすために・・・
というような想像をしてしまうのですが、
本作、そうではありません。


地位も名誉も、そしてお金もたっぷりある老人たち、
しかも戦争体験者のかなり高齢の老人たちが、過激なテロを目論みます。
今の日本はおかしい。
戦後の焼け野原に戻って、もう一度一からやり直すべきなのではないか
・・・というのが彼らの主張です。
この過激な老人集団に利用されてしまうのがジャーナリストのセキグチ。
いえ、実のところ離婚で妻子に去られてから全く仕事にやる気を無くして、
ほとんどホームレスのような生活をしていたのですが、
なぜが老人たちに見出され、彼らのテロのことを記事にするよう要求されてしまうのです。
セキグチはカツラギという謎の女性とともに、テロリストたちと対峙することに・・・。


と言うとセキグチがいかにも活躍しそうですが、かなり情けないです。
精神安定剤とアルコールでようやく正気を保ち、
嘔吐したりオシッコを漏らしたり・・・恐怖と緊張で死にそうになったりする。
それというのも、老人たちのテロ活動の前哨戦ともいえる幾つかの場に居合わせ、
人々の悲惨な死を目の当たりにしてしまっているからなのです。


老人たちの主張を聞くと、どこか共鳴する部分もある。
だからといって、なんの関わりもない一般市民までもを平気で巻き込み
命を奪ってしまうやり方を納得できるわけもない。
しかし、非力な自分に一体何ができるというのか・・・。
果てしなく苦悩するセキグチの運命やいかに・・・。


とは言え、老人たちは本当に日本中を焦土にしようとしているわけではなく、
もっと別の意味で日本の息の根を止めようとしていたというわけなのですが。

ケレン味たっぷり。インパクトの強い作品でした。
あとがきで、作中に登場する旧ドイツ軍の「88ミリ対戦車砲」が、
実際に日本にあるというのには驚きました・・・。

図書館蔵書にて(単行本)
「オールド・テロリスト」村上龍 文藝春秋
満足度★★★★☆