映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

セイジ 陸の魚

2013年03月10日 | 西島秀俊
人を救うためには対価を払わなくてはならない



            * * * * * * * * *

わーい、西島秀俊さんですね~。
これは伊勢谷友介監督作品ということでもまた、楽しみな作品だったんだねー。


大学最後の夏休みに自転車で一人旅をしていた“僕”(森山未來)。
国道沿いの寂れたドライブイン「HOUSE475」で、成行きで店を手伝うことになります。
そこの雇われ店長であるセイジ(西島秀俊)は、
寡黙でどこか陰りがあるのだけれど、土地の人々には慕われている感じ。
いつもむっつりしているけれど、店の常連の孫の女の子にだけは笑顔を見せるんだよね。
そして、言葉少なだけれど、時折はっとさせられるような深い言葉を発する。
謎めいた店長に“僕”は興味を惹かれていくわけだ。

始めはオーナーの祥子に心惹かれて、この店にいついてしまったようなんだけど、
次第に彼の興味はセイジの方に移っていくね。

「彼は陸の魚よ。この世で生きることを諦めている。」

祥子はセイジについて、こんなふうに言うね。
またある人は、
「彼はなんでもわかりすぎていて、人生に絶望しているのだ」
ともいうんだな。
彼のなんらかの過去が、彼をこうしたのだろうと思われるのだけど・・・。
それがわかるのはずっと最後のほう。
彼が生きることに全く執着していないように思えるのは、まあ、無理もないかなあ・・・。
ところが、予想外に、悲惨な事件がこの町を襲う。
普通ではない成り行きにびっくりさせられました!



今作の“僕”が、就職の内定も決まった大学生というところにも意味がありそうだね。
うん、誰かの庇護下にある“子ども”と社会へ出て自立する“大人”の
瀬戸際にいるということなのだろうね。
店に集まる若者たちも、やんちゃでいながら勤めに出て社会の一員となっていて、
まだちゃらんぽらんな一人が友人たちを眩しく思ったりしている。
そんな中でもセイジは一段と隔絶した“大人”なのだと思う。
ほとんど神の位置に近いくらいにね。
彼の耐え難いくらいに過酷な経験が彼をそこまで成長させたんだろうね・・・。
で、ラストをどう見ますか?
人が人を救うということの究極の意味を言っているんじゃないかなあ・・・。
今作のインタビューで西島氏がこんなふうに言っているよ。

「人を救うためには対価を払わなくてはならない」

う~ん、普通人を救うとご褒美がもらえるのでは?
いやいや、そもそも人を救おうなんていう考えが傲慢なんだよ、たぶん。
私たちは自分が生きていくだけで精一杯だ。
助け合うのならともかく、人を救うというのにはそれなりの覚悟がいるってことだよ。
それは自分の身を投げ出して、人々の罪を贖ったというキリストにも似ているね・・・
そう・・・、おそらくそんなふうに深淵の話なのだけれど、
こんなふうに日常の物語にして何気なく語っているところがすごいと思う。
この役、やっぱり西島秀俊じゃなきゃダメって気がするね。
今作は「CUT」と撮影時期が一部重なっていて、
「CUT」の秀二とセイジにはどこか近いものがあると西島氏は語っております。
そうだねー、どちらも純粋で、人間離れしてるなあ・・・。
ぎりぎりの状況の中で、自分を保っているっていう感じ?
そういう魅力が、私達を惹きつけてやまないのだ・・・と、まとめることにしましょう。



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2011年/日本/108分
監督:伊勢谷友介
原作:辻内智貴
出演:西島秀俊、森山未來、裕木奈江、新井浩文、渋川清彦

西島秀俊の魅力★★★★★
予測不能度★★★★☆
満足度★★★★☆