川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

「あなたの方がおかしい」と森昭雄氏に言われるの巻(世田谷区のゲーム脳講演リポートその2)。追記あり

2006-03-07 20:22:02 | トンデモな人やコト
最後の質問にあてていただいた。どうやら手を挙げたのはぼくだけだったらしいが。
発言したのは「三種類」のこと。

(1)来場した方々へのお願い
(2)森氏へのお願い・質問
(3)主宰者への質問

具体的には……

(1)来場者へ
森氏も講演中みずから認めていたように「ゲーム脳」には、懐疑的な声も多い。ぜひ、家に帰ったら「ゲーム脳」で検索し、自分で判断していただきたい。

(2)森氏へ
お願い
「ゲーム業界からお金をもらっているほかの脳科学者と違い」、森先生は「科学者なので言わなければならないことは言う」、また、「多くの研究者に一緒に研究して欲しい」とのことなので、是非、ゲーム脳についての論文を、ちゃんとした専門雑誌に投稿していただきたい。そうしていただかいないと1000例ものデータがもったいないのみならず、ほかの研究者が否定するせよ肯定するにせよ、研究することができない。

質問
ゲーム脳によってキレたり、殺人をおかす少年が増えるとのことだが、実際には森氏が17歳だった1964年に比べて今の少年の殺人は10万人あたりの発生率で比較すると三分の一以下だ。ファミコンの発売された1983年以来、一貫して凶悪犯罪は低水準。とすると、かりにゲーム脳が実在するにしても、殺人などの凶悪事件を「森氏の17歳」の同水準に引き上げるほどの影響はないと安心してよいのか。

(3)主宰者へ
今回、ぼくにとって衝撃的だったのは、ゲーム脳講演のちらしが学校を通じてひとりひとりの児童に配られたこと。埼玉県川口市の小学校のように学校に「ゲーム脳」活用した指導プログラムが導入されるようなことがないか心配だ。見解を問う。


 さて、森氏の回答は、(1)のネット検索問題、(3)の主宰者への問いに集中する。その一一方で、森氏への質問は無視される。
 
 ちなみに、ネット検索問題について、森氏は、「わたしは人の批判はしないが、わたしを批判したい人はたくさんいて、根拠のないことをネットで述べている」というようなことを主張。
「ゲームで自閉症になるなどとは、わたしは言っていない」といきなり言い出す(ぼくはそんなこととは言っていない)。すると、会場から「テープに残ってます」と、声。(自閉症児を持つ保護者の方らしい。森氏の自閉症発言をテープに取った方がいるということ?)。
 さらに、「論文を投稿したが、リジェクトされたなどと書かれているが、そんなことはない」と言い出す。ぼくは初耳なので、逆にびっくりする。
 
 また、埼玉県川口市での取り組みについて(ある小学校の生徒の脳波をはかり、ゲーム脳、ノーマル脳などと区別して指導をしたと毎日新聞の記事にあり。検索すればすぐ出てきます)、「わたしは、子どもたちにゲーム脳、ノーマル脳などとという言葉で指導していない」と反論。また、「わたしは、日本の子どもが、笑わなくなり、キレるようになり、おかしくなっているのを見て、日本のためにやっている。川口市の小学校でも、2年間の取り組みで不登校児がゼロになる(元々二人の不登校児がいたらしい)といういい結果が出た。そういうのを問題にするあなたの方がおかしい」と述べる。そして、会場からは拍手喝采が湧き起こる。
 
 というわけで、川端、完敗。
「質問」には回答をもらえず、言いたいことを言われたのみ。
 再質問することも許されなかった。
 
 後で、区議の赤沢さんと話をしていて、自分のプレゼンの方向性について反省する。
 
 つい、「正しい」ことを述べてしまえば伝わるような気になるが、それは間違い。
 ここに来ている人は、「ゲームにはまった子ども」に悩む保護者が多いわけで、講師批判ととられかねない発言をしてせ伝わらない。ぼくの発言は、やはり講師批判と取られかねないものだった。
 むしろ、「ゲームや携帯がすべての原因、という話でしたが、十分に証拠があがらない段階で、ゲームだけが悪としてしまうと、ほかに原因があったとしてもそれを見ずに済んでしまうので注意が必要では」といった主張から入った方が良かったのかもしれない。
 
 これはプレゼンスキルの問題だなあ。
 
 もっとも、ああいう「アウェイ」で、自分の声を通すのは相当のことだ。
 講師というのは、本当に特権的な立場を保障される。
 ぼくはせいぜい2分くらいしか話していないけれど、森氏は1時間半以上だものなあ。
結局、来場者は「?」なまま帰途についたであろう。
 
 お開きになってから、ぼくの周りに5、6人の人が集まってきて、「よく頑張った」的なことを言ってくれたことで、やや気持を取り直す。
 400人のうちの5、6人。
 少ないけど、アウェイにしては、悪い数じゃない。
 
 さらに、主宰者(世田谷区)からのコメントについて書きます(続く)。

追記
うっかり書き忘れましたが、ぼくも森氏に「ゲーム業界とつながりがある方かもしれませんが……」と言われました(笑)。
言われたついでにディスクロージャーすると、これまでにゲーム会社と仕事をしたことは一度だけ。コナミの「メタルギアソリッド3」の初回分についていた限定ブックレットに「ロケットの歴史」みたいなエッセイを依頼され、書き、原稿料を得ました。でも、発言に影響することは、ありません。ましてや、今回のゲーム脳講演についての一切の発言、活動は、ぼくの個人的な信念から生じ、今のところ金銭的な対価を得ることもなく、行っているものです。


「潮」4月号に動物園についてのエッセイ

2006-03-07 18:30:08 | 自分の書いたもの
もう書店に並んでいるのか分からないけれど、潮の4月号に「がんばれ日本の動物園」と題したエッセイを書きました。
ずいひつ「波音」、というコーナーで、ごく短いもの。
今週金曜日に配本予定の文庫版「動物園にできること」(文春文庫)との連動企画、かな。まあ、たまたまエッセイを依頼されたので、動物園の話にさせてもったのだけれど。


森昭雄氏の世田谷区講演リポート

2006-03-07 05:57:04 | トンデモな人やコト
2006年3月6日午前10時より。世田谷区の区民ホールにて。
45分の予定を大幅オーバー、なんと1時間20分近く語り続ける大講演だった。結果、質問の時間は大幅圧縮。懸念された結果に終わりました。残念。
 
 内容は……

 ぼくは森氏の講演はこれが初めてであり(最後でもあると祈りたい)、森氏の語りは未体験ゾーンなのだが……「予想していたよりは」穏やかな話、ではあった。とはいえ、聞いていて頭が痛くなるところはたくさん。ノートに書き付けたメモをだいたい時系列に書き起こす。
 
 まず、動物の脳の研究を19年間してきたと自己紹介。今の学部に移って動物実験ができないことになったので、自分で開発した脳波計で脳波を取りはじめた。最初は認知症のお年寄り。しばらくして、学生たちを被験者にして「ゲーム脳」を発見する。
 ほどほどでやめようと思っていたが、笑わない子・切れる子どもが多いことに気付き、やめるにやめられなくなった。
 
 日本の若者が「やる気がない」社会調査。
 日本、韓国、中国、アメリカの高校生の中で、リーダーシップをとったりすることに対して日本が一番スコアが低い。産経新聞からの引用。それをゲームや携帯のせいだと論じる。
「ニート64万人」にも言及。このような「仕事につくつもりもない」若者がたくさんいるのはゲームのせいではないか。

 寝屋川の事件の「少年」を、「ゲーム漬けだった」と評する。また、その後、大阪で子どもをハンマーでなぐり「ゲームなら死ぬのに」と言った別の少年にも言及。

 大脳の基本的構成から始まって、ニューロン・ネットワークのこと、そして、前頭前野の役割について延々と述べる。これだけでたぶん30分以上。
 
 前頭前野の働きが衰えて、「人を殺しても反省しない」「なぜ殺したか分からない」といった、これまでにないタイプの少年犯罪が起きる。
 
 よく文脈を捉えられなかったが、富山大や和洋女子大で、「ゲーム脳の恐怖」が入試問題に使われたことを話題にする。
 
 人間は素晴らしい脳を持っており、それゆえに人間性ゆたかである(ネコや猿の前頭前野と比較して大きい)と説明。それを司るのが前頭前野。
 創造性豊かな猿など聞いたことがないと、ある意味では「猿差別」な発言も。
 
 最近の母親は、授乳タイムが携帯メールタイムになっている。
 本来目を合わせて授乳すべきところを、目を見ないために、そうやって授乳された子どもは「人の目を見ない子」になる。
 それに対して、ある日本人と韓国人の夫婦は小さい頃から「読み聞かせ」をし続けて、きょうだい二人をIQ200にした。
 育て方によって、子どもとはこれほど変わるのだ。(ゲームをさせない育て方が大事だよ、ということか)
 
 128chの脳波計を使った最近の成果について。
 すでに1000例以上の脳波をはかり(2ch時代もふくむ?)データがはっきりしてきた。かなり確信を持っている様子。ただし、そのうちゲーム脳が何人で、というような「量」的な話は一切なし。見ている者には、ただ一例の「典型的」な例しかわからない。
 
 ゲーム脳の子(?)とノーマル脳の女子大生の脳の活動パターンを見せてくれる。
 ゲーム脳の子は、ゲームをした後、読書しても、前頭前野があまり活動しない。しかし、ノーマル脳の女子大生は活発になる。はっきりと差が出ている。さすがにデータをねつ造したわけじゃないだろうから、やはり問題はこういうパターンを示す子がどれだけいるのかを知りたいと思うが、やはり言及はない。これは1000例いるとしても、その中で極端な例をピックアップした、症例報告なのだ。それを「ゲームをやるとゲーム脳になり、すべてのゲーム脳はこのようである」みたいに聞こえる。
 ひょっとすると、森氏は意図せずして、読書に困難を感じるけれどゲームには入り込めるタイプのLDの子を拾い上げているのかもしれないと、ぼくは感じた(もちろん憶測。自分が研究者なら、そのあたりを確認してみたいと思う、という程度)。
 
 また、ノーマル脳(追記、ビジュアル脳だったのでは? という指摘あり。ぼくも確信もてずです)の女子大生が携帯メールを打つ時に、前頭前野が働いていないことを示す。ノーマル脳(ビジュアル脳)だったはずの女子大生が一転して、メール脳に……。森氏はゲームやメールの恐ろしさを強調しているわけだが、なんだかこれは、むしろ、「ゲーム脳」や「メール脳」が単なる「習熟の問題」だということを強く示唆しているように感じる。

 サンデー毎日で、森氏を批判した京大の久保田競氏に対しての批判。
「お年をめしたのか」「ゲーム業界との関係のせいなのか」と主張。ちなみに、京大はゲーム業界から70億円もらっているので好きなことが言えないとのこと。これ本当なのだろうか。だとしたら、びっくり。(追記、任天堂相談役の山内溥氏が京都大学に私財70億円を寄付したという話、らしい。http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20060222ik04.htm )。
 さらに久保田氏が、ゲーム業界の雑誌なのか引用元不明なのだが(メモ仕切れず。誰かメモできた方教えてください)、「ゲームをすると利益はあるとしても、害はいっさいない」と断言する文章を引用して、「データもないのに久保田氏はこんなことを言っている」と批判する。これが本当なら、たしかにぼくも久保田氏に対して「そこまで言い切るのはかなり問題」と感じる。久保田氏がどういう文脈で書いたものなのか是非知りたい。(ウェブで検索してみたら、久保田氏は、認知症防止のためのゲームソフト開発にかかわったことがある。それに関係するのかも??)
 また、こまれでに森氏が書いた英文論文の投稿先をリストにして見せる。「ゲーム脳」の論文だとは明言せず。加えて、久保田氏が「実在しない」としたNeuroscienceという学会は、本当はある、と主張。(たしかにウェブで検索するとSociety for neuroscienceというのがある(http://web.sfn.org/))。
 
 久保田氏への批判はかなり周到。ただ、櫻井氏への批判はない。斉藤環氏へもない。
 
 森氏は、各種学会で、ゲーム脳について話をしてきたと主張。口頭発表と論文をどことなく混同した発言に聞こえる。少なくとも、聞き手に対して、「ちゃんと研究しており、成果も発表している」と信じさせる効果がある。
 
 携帯メールによるゲーム脳化にもふたたび警鐘。
「携帯メールを打つのが早い人ほど危ない」とのこと。ここで、どどっと笑いを取る。
 
 とここまできて、とりあえず幕引き。
 
 以降は質疑応答篇に続く。