日本の女性の情緒、所作を書くことを自家薬籠中のものとしている著者の佳作が並んでいます。
◆「夕顔の女」(松村の不倫相手だった女性の娘「三重子」は、亡くなった松村の娘の許婚の尾形と結ばれるが、その結末は悲惨だった)。
◆「北国から来た女」(田舎から出てきてラーメン屋で働いていた「あづさ」が店で盗難事件にあい、大銀行の頭取のお手伝いさんになる。あづさはこの盗難事件と関わったそこの幸子夫人の甥である青年伊勢と結ばれる)。
◆「茜の女」(独身で婚期を逃したOLの「タミ」に北村という初老の富豪を世話した男友達の戸沢、実は戸沢はタミを好いていた、その顛末は・・・)。
◆「江戸紫の女」(母親の嫉妬が原因で離婚した「多江子」、娘の麻子と暮らしていたが彼女が結婚する段になって、突然ロンドンにいた元夫の洋右とハネムーンのやり直しが待っていた)。
◆「藍の女」(米子に住み浜絣を織る「美知代」は見合いで結婚した無骨で粗野な俊介という夫がいたが離婚同然の状態で姑の滝江と暮らしていた。東京の織物の取引相手、佐々間清志が美知代に求婚に来る。ふたりは結婚。高齢にも拘わらず妊娠、幸せな家庭を作ることができた。別れた俊介がすっかり老け込んで美知代を訪れてきて亡くなった姑の最期を伝えにくる)。
◆「パナマ運河にて」(豪華船での世界一周の旅、「信子」は夫である哲夫の浮気に愛想をつかし離婚を覚悟でこの旅に参加したのだが、入港したバルボアでその哲夫が乗船してくる。信子は困り果て、偶然を装って夫を殺害、意外な結末)。
◆「シンガポールの休日」(ビジネスマンの小沢輝夫はシンガで東京からの「鈴代」を呼び寄せ婚前旅行を実行したが、古色蒼然としたホテル、輝夫の持病である高血圧を知られることになり、もはやプロポーズは無理と思った矢先・・・)。
どれもこれも一見、他愛ない話のようではあるが、当事者にとっては深刻な話ばかり。玉手箱に入った手触りのよい掌の小説群のよう。
わたしは図書館で借りた単行本で読みましたが、画像は文庫版です。