【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

渡邊啓貴『フランス現代史』中公新書、1998年

2012-08-26 00:03:47 | 歴史

              

    フランスといえば、芸術、絵画、ワインなどを通して、この国のことを知ったつもりになっているが、その現代の政治、社会のことをどれだけの人が知っているだろうか。余程のフランスびいきの人でもない限り、知られていない、というのが現実だろう。専門家の世界でもそうらしく、著者はこの新書をまとめるにあたって、戦後のフランス史をたどることは、(その種の書物は邦語でも大部のものがいくつかあるだろうから)それほど難しい作業ではないと思っていたが、邦語の通史はおおざっぱすぎ、個別研究の数はあまりにも希少で、難渋したと述懐している(p.324)。

    本書は、第二次世界大戦のフランス解放から、シラク大統領の選出(1995年)、ミッテランの死(1996年)頃まで。ドゴール、ポンピドー、ジスカール・デスタン、ミッテラン、シラクと連なる大統領下の政治、経済、社会が淡々と綴られている。叙述は詳しいが、単調(しごく)。フランスの政治状況を時系列的にたどっていく手法で、几帳面にノートをとりながら読み進めることでもしないかぎり、頭に入らない。わたしの受け皿(フランス政治史の基礎知識)が貧しいので、こういうことになる。

   ポイントはいくつかある。第一は良くも悪くもドゴール主義がいまなお生きているということ。それは理想と現実主義との巧みな使い分けに象徴される。ドゴール主義はことに外交分野で顕著で、著者はそのことを「複雑なヨーロッパ国家関係の歴史の渦の中で生き抜いてきたフランスの知恵である。その意味では、核抑止力をついに放棄しなかったミッテランもその例外ではなかった。これをドゴール主義と呼ぶとすれば、左右の区別なく、フランス外交はつねにドゴール主義を堅持する」と要約している。

   第二はコアビタシオン(保革並存)。戦後は右翼、中道、左翼の力関係がつねに拮抗し、政権交代がたびたびであった。左翼(社会党、共産党)の影響力は無視できず、この点は日本の政治バランスをものさしとしているかぎり分りにくい。首相は大統領によって指名されること、歴史的なアルジェリア紛争、58年5月の学生紛争、われわれには想像しにくい事情がこの国にはある。

   本書執筆の基本姿勢が述べられている箇所があるので、少し長いがその個所を引用しておきたい、「戦後の復興期から高度成長期へと急速に拡大した国民経済は技術の急速な発展をともなって経済社会を安定させた。この産業社会は生活水準の向上と生活様式の大きな変化をもたらし、フランス社会の伝統的価値観を次第に崩壊させていった。そうしたなかで新旧の交代をドラスチックなは形で表現したのが68年5月革命であった。そして、それはまさに70年代の高度成長の限界=脱産業社会化の前兆でもあった。/今日のフランス社会は依然としてその延長にある。大きな流れとしては、イデオロギー収斂化の傾向のなかで、ネオリベラリズムへの傾斜が趨勢であるが、幾多の問題を内包するフランス社会は決定的な突破口を見出しているとは言い難い。しかし、ジスカール・デスタン時代、ミッテラン時代、シラク時代、さらに三度におよぶコアビタシオンの時代の経験は、苦衷からの脱出のためのフランス国民の倦むことのない試行錯誤でもある。そして、その内外政策の在り方がまさにフランスという社会の態様を明らかにしているのではないか」と(pp.323-324)。