小学校で英語の授業が始まっています。学校評議委員として一度拝見しましたが、英語を楽しむ時間でした。日本語をしっかり学んでからの外国語でいいはずと思いますが、グローバル経済、グローバリズムの進行は英語学習の低年齢化を促しています。しかし、それでいいのか?本書ではそのことを明解に切り捨てています。
中世ヨーロッパにおいて、各国で起こった宗教改革ではラテン語で書かれた聖書の「翻訳」がなされました。各土着語では聖書に書かれている抽象的な語彙は存在せず、土着語でその概念を表現する語彙を創りだし、翻訳は進みました。従来は、ラテン語を理解する宗教関係者や知識人だけが特権階級でありましたが、聖書の翻訳が土着語を「国語」にレベルアップさせることにより、民衆も知的レベルが上昇し、その後に起きる市民革命などの歴史を塗り替えました。すなわち、「翻訳」と「土着化」が近代化の原動力となりました。
日本においても、明治になり、英語公用語化も叫ばれましたが、土着語である日本語への「翻訳」と西洋学問が日本へ土着することにより、日本の明治維新は成功へと導かれました。
この論点から考察すれば、グローバル化による英語教育偏重の施策は、中世化への道につながり、英語が駆使できる少数の持てるエリートと、英語の出来ない多数の庶民に分断する方向へ進んでいます。これが書名にある「愚民化」です。
世界標準の英語による教育ではなく、母語で全ての教科を学べる日本はノーベル賞受賞者を輩出することは、英語を学びつつ、専門教科を英語で学ぶことによる弊害がないことに起因すると世界が認めています。英語の前に母語である日本語をしっかりと学習することが重要です。
最終章では日本が主張すべき方向性も書かれています。「翻訳」と「土着化」のしくみを全世界へ普遍化させる、すなわち母語で学べる環境を整備し、多様な言語や文化を尊重する「棲み分け型多文化共生世界」の実現こそが、環境問題やテロなどの解決にもつながるでしょう。
『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』(施 光恒著、集英社新書、本体価格760円)
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