一度で二度美味しい
学生の頃、吉祥寺北口の、通称小便横丁といわれている中に、好きな店が2軒あった。1軒はコノワタ、メフン、クサヤなどの珍味や東北地方の旨いものを置いてある、少し値段の高い店。仕送りがあった時とか、バイト代が入ったときなどに飲みに行っていた。もう1軒は焼鳥屋。そこの軟骨塩とモツ煮が、私の好物であった。
私は年に2回ほど旅(主に国内)に出るが、旅先ではその土地土地の旨いものを食う。そして、たいてい最後の夜には焼鳥屋へ入る。軟骨塩とモツ煮を食いにだ。沖縄にも旨い焼鳥屋はあるが、そこにも軟骨塩とモツ煮があって旨いのだが、私の家からその焼鳥屋までは交通の便が悪い。バスを乗り換えなければならない。面倒。なので、めったに行くことは無い。旅先だと、駅前に行けばたいてい焼鳥屋があるので、楽なのである。
軟骨は手に入りにくいし、また、焼加減が難しいので、自分で作ることは無いが、モツ煮はたまに作る。モツは年中、どこのスーパーへ行っても置いてある。大腸だけのパックと、大腸、小腸をミックスしたパックがあり、1パックは小さいものでだいたい200から300グラム入っている。私はミックスのパックを買う。
モツの他にゴボウ、ニンジン、白ネギなどを買い、また、これはモツ煮には使わない材料だが、コンニャク、干シイタケ(ストックが無い場合)も買っておく。調味料の類、味噌、日本酒、味醂、唐辛子、生姜なども家に無いときは買っておく。
モツを塩で揉んだ後、水でよく洗い、鍋に入れ、たっぷりの水で茹でる。沸騰したらモツをザルにあけ、1回目の茹で汁は捨てる。新しい水でモツを煮直す。沸騰したら酒を加えて、弱火にしてトロトロ2時間ばかり煮る。そうしたら、茹で汁と中身の3分の1を別の鍋に移す。その鍋にゴボウ、ニンジンを加え、火が通ったら味醂、味噌で味付けして、さらに数分煮込んで、最後に白ネギを加え、モツ煮の出来上がり。
煮込んだモツの残りの3分の2も同時に料理する。一晩水に漬けて置いた干シイタケを短冊に切って、イナムルチコンニャクという名の短冊に切られたコンニャクと一緒に鍋に加える。もちろん、旨みたっぷりのシイタケの漬け汁も加える。塩で味付けし、ほんの少しの醤油で香り付けをし、出来上がり。器に盛ってからおろし生姜を加える。
実は、モツ煮はこの料理の副産物であって、メインでは無い。モツを買う時はこの沖縄の伝統料理、中味汁(ナカミジルと読む)を主たる食い物とする。モツ煮は酒の肴でしかないが、これは食事になる。寒い夜は体も温まる健康料理。私の好物である。副産物のモツ煮もまた、私の好物である。その夜の酒の肴となり、私を幸せにしてくれる。なわけでモツは、私にとって一度で二度美味しい食材となっているのである。
中味汁(ナカミジル)
正確には、ナカミは豚などの小腸を指す。中味もおそらく中身と書いた方が正しいのであろう。ナカミジルも正確に言えば、ナカミ ヌ(の) シームン(汁物)となる。
記:ガジ丸 2005.4.25 →沖縄の飲食目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行