相手が誰であろうと
山の中に入るといろんなトンボに出会うことができる。一昨年、本島北部、名護にあるタナガーグムイ(注1)に遊びに行って、一人で沢登りをしている時にきれいなトンボを見つけた。何故か近付いても、そう遠くに逃げない、逃げないどころか、私の周りをウロチョロする。なもんで、うまい具合に写真を撮ることができた。後日、調べると、リュウキュウハグロトンボという種類だった。自慢しようかと思ったのだが、そう珍しいトンボではないらしい。せっかく、ハブに遭遇する危険を冒して沢に登ったのに、残念。
「何故か近付いても、そう遠くに逃げない。周りをウロチョロする。」のにはわけがあった。リュウキュウハグロトンボの雄は縄張りをもっていて、その中から遠く離れることは無いとのこと。しかし、自分の目から見れば遥かにデカイ、姿形も全然違う人間の私のことも彼は、雌を奪いに来るライバルに見えたのだろうか、私のことを見張るようにして近くに止まり、睨んでいる。お陰で、素人の私にも近写が撮れたのであった。
注1:タナガーグムイ
グムイは形容詞の付かない単独の場合はクムイと発音し、池や沼のことを指すウチナーグチ(沖縄口)。タナガーは、おそらくタナゲーが変化したもので、タナゲーのいる池という意味になるのだと思う。タナゲーは「川エビ」を指すウチナーグチ。
リュウキュウハグロトンボ(琉球羽黒蜻蛉)
カワトンボ科 南西諸島、中国、台湾、他に分布 方言名:アーケージェー
方言名のアーケージェーはトンボの総称であるが、渓流に住み、見た目も違うので違う名前があって良さそうなもんだと思う。しかし、文献に本種の特別な方言名は無い。
雌が卵を産みやすい場所に雄は縄張りをもっていて、雌がやってくるのを待つらしい。卵を産みやすい場所というのは、やはり人気があるらしく、油断しているとその縄張りを他の雄に奪われる。よって、雄はその中から遠く離れることは無い。
腹長50ミリ内外。成虫の出現は2月から12月。渓流地に住む。
雄
雌
記:ガジ丸 2005.6.27 →沖縄の動物目次
参考文献
『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄昆虫野外観察図鑑』東清二編著、(有)沖縄出版発行
『沖縄身近な生き物たち』知念盛俊著、沖縄時事出版発行