手作りの逸品
もう30年ほども前の話だから時効となるが、不良高校生どもはよく酒を飲んだ。私はその頃一人住まいだったので、誰かの誕生日とか、試験が終わった日とかの何か行事があった場合には、私の部屋に仲間が酒瓶持ってやってきた。飲んで騒いだ。
不良高校生どもは、たまにだが外へも飲みに行った。「養老会」というグループがあって、それは、きまって養老の滝で酒を飲む、という会。養老の滝には世話になった。
同じ中学出身の連中が集まる飲み屋もあった。その中学の学校区内にそこはあり、私の実家からは徒歩12、3分ほどの、目の前は国際通りという場所。
養老の滝は、誰かが店のフロアーにゲロしたとか、友情に感激してワンワン泣いた奴がいたとかの思い出しかないが、もう一つの飲み屋、名前を「田舎」と言ったが、そこでは旨い肴や、旨くは無いが滅多に食えない珍味などをいろいろ覚えた。中味(ナカミ:動物の臓物のこと)の料理は中味汁(沖縄の伝統料理)しか知らなかったが、中味イリチー(炒め物)をその店で初めて食べた。後の東京暮らしでモツ煮が好物になったのは、「田舎」の中味イリチーが美味しかったことに起因すると言っていい。
「田舎」では他にサメの刺身、海亀の刺身なども食べさせてもらったが、それらはまさに珍味、特に旨いと思うようなものでは無かった。が、同じ珍味という部類で出されたものではあったが、完璧に「旨い!」と感じた肴があった。それは、今まで食べたことも見たことも無く、その名前すら知らなかったもの。「豆腐よう」であった。
「豆腐よう」はたぶん、当時は市販されているものは無かったと思う。少なくともその辺のスーパーには置いてなかったと覚えている。家々で自家消費用に作られたものと、料亭などで客用に作られたものがあっただけではないだろうか。「田舎」の「豆腐よう」もきっと、ママさんの手作りであったに違いない。
今もって、「田舎」の「豆腐よう」に勝る「豆腐よう」に私は出会っていない。それにごく近いものは、私好みとして今、冷蔵庫にある。1個200円位する高級品。
トウフヨウ(豆腐よう): 酒の肴
泡盛、麹を用いた豆腐の発酵食品。主に酒の肴となる。方言名:トーフヨー
商品のパッケージに書かれている文字は「豆腐よう」の「よう」も漢字である。が、その漢字、広辞苑にも漢字源にもパソコンの辞書にも無い。パソコンに無いのでここに表すことはできない。説明すると、左に“食”、右に“羊”、その下に“?”となっている。
豆腐よう、の“よう”っていったいどういう意味だい?何語だい?(たぶん中国語)なんてことは置いといて、今でこそ多くの人がその名前、及びその存在を知っていて、スーパーにも常時並んでいて有名なトウフヨウ、しかし、30年ほど前までは、そう一般的に知られた存在ではなかった。ごく一部の飲み屋さんなどには置いてあったが、スーパーや観光土産品店などでお目にかかるようなものではなかった。でも、じつは昔から、ウチナーンチュの酒飲みたちに愛されてきた最上の酒の肴。
中国に似たようなものがあり、それを腐乳という。古より多くのことを琉球は中国から学んだ。だから、もちろんのこと、中国にトウフヨウに似たものがあるというより、中国からその製法が琉球に伝わり、それをトウフヨウと名付けたといった方が正確。
トウフヨウという表記であるが、ウチナーンチュが発音するとトーフヨーとなる。前にもどこかで書いたが、面倒臭がり屋のウチナーンチュは、「ト」あるいは「ヨ」と開けた口の形からわざわざ「ウ」などと閉じたりはしない。で、トーフヨーとなる。
記:ガジ丸 2005.8.22 →沖縄の飲食目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行