アンダジシジョーグー
毎年元旦には実家へ行き、新年の挨拶をしていた。実家には両親がいて、父はのんびりテレビの前、母は朝から正月料理を作っている。私の挨拶は「お早う。謹賀新年。はい、お年玉」の三言だけ。両親も「おめでとう」と返す。
私の少ない給料からコツコツと500円硬貨を貯めて、1年間で240枚前後となった貯金箱をお年玉として両親にあげる。5、6年前からの恒例。それに対し、母は「ありがとう」と言い、作ったばかりの正月料理を私に持ち帰らせる。
沖縄の正月料理は仏前に供えるウサンミ(御三味)と言われるものが中心。法事などに供えられるものと内容はほぼ同じ。私が持ち帰る料理は、サーターディンガク(田芋の砂糖煮)、魚や野菜の天麩羅、カマボコ、カステラカマボコ、揚げ豆腐に、料理名を何と言うのか不明だが、昆布とゴボウとコンニャクと豚肉を甘辛く煮たもの。
それらを持ち帰って、サーターディンガクはおやつに、天麩羅と昆布とゴボウと豚肉の1種は、私の正月の肴となる。実家から帰って、年末にやり残した部屋の掃除をした後、貰った料理を温めなおして、午後のまだ明るいうちから正月は酒となる。
翌日、母から貰った正月料理のうち、肴にならなかったものを別の料理にする。コンニャク、揚げ豆腐、カマボコ、カステラカマボコ、豚肉の別の1種、それと前日から水に漬けてあった干し椎茸を細い短冊形に切り、イナムドゥチ(猪擬き)を作る。これが正月2日、3日の朝食となる。二日酔いの朝にイナムドゥチはとても美味い。
さて、正月の酒の肴になる豚肉の1種と、イナムドゥチにする豚肉の別の1種とは、両者とも昆布とゴボウとコンニャクと豚肉を甘辛く煮た料理の中にあり、同じ味付けをされている。種類が違うのは味 付けでは無く、豚肉の部位の違いである。一方はロース肉で、もう一方は三枚肉。三枚肉の方が汁物にした場合、汁にこくが出て美味い。
三枚肉とは豚バラ肉の皮付きのこと。皮と脂身と赤味の三層あるからその名がある。沖縄の肉屋やスーパーには必ず置いてある。子供の頃から、たぶん20代までは、皮と脂身がトロトロになったラフテーや足ティビチを例外として、私は三枚肉があまり好きでは無かった。皮の硬さが嫌だったし、脂身の脂が美味いと思わなかったからである。
その頃、私の祖母がまだ健在で、彼女は三枚肉 を好んだ。その中でも特に脂身の方が好きで、ウチナーグチ(沖縄口)で言うアンダジシジョーグー(脂肉上戸)であった。歳取ると脂肉が好きになるのか、だから元気なのかなと私は思いつつ、「アンダジシは美味しいよー、あんたも食べるねー?」と訊かれたら、「マシサーがましさー。」と私は答えていた。マシサーとは真肉ということで、赤肉を指す。
今の私は三枚肉も平気である。とはいえ、脂分のたっぷり残った脂身はまだ少々苦手としている。汁物にして、脂をいくらか除去すると美味しい。
一昨年に母が無くなって、去年の正月はやっていない。実家には姉がいたが、正月料理を作ることも無く、私の恒例のお年玉も無かった。今年も実家には姉がいる。おそらく料理を準備するであろうが、彼女が作るものを私はきっと持ち帰らない。彼女が作るのよりは自分で作った方が母の味に近いものができると思うからだ。また、私のお年玉は今年も無い。老後の暮らしに不安のある私は、自分のための貯金が必要となったから。
記:ガジ丸 2008.12.26 →沖縄の飲食目次