Thomas C. Veatchという人のユーモア論A Theory of Humorはかなり面白かった。その他のユーモア論と交えて、まとめておく。
ある人がユーモアを感じる必要十分条件
その人にとって
1)あるべきこと、すべきこと、普通とは何か異なる(Vと記す)
ーーこうだと思いこんでいること(規範・固定観念)とは異なる、こうあるべきと思い入れがあることとは、異なる
でも、
2)許せる(Nと記す)
ーーー受け入れられる・歓迎する
ような事態を認識し、
3)2)が1)より優勢
4)1)と2)が共存
している場合、また、その場合に限りユーモアとして、認識する。
条件が欠ければ可笑しくない、条件がそろえば可笑しい。
くすぐりによる笑いとの類似
肉体を攻撃すれば痛みになるが、肉体への攻撃とは肉体的秩序への侵犯(→涙)であるが、それが痛みを伴わない限度で、安心安全であればくすぐりに依る笑いが生じる。接触なしにも笑うことがあるが、これは仮想攻撃に対するものである。また、自分でやるとくすぐったくないが、自分だと攻撃性がないからである。
とすれば、くすぐりによる笑いとは、痛みに至らないソフトな肉体秩序に対する(仮想)攻撃・侵犯だが、ユーモアによる笑いは、あなたの保持する規範・秩序に対する痛みを伴わない仮想・心理的攻撃・侵犯といえ、くすぐりによる笑いと連続性がある。
コロラリー
あ)こうあるべきという知識、また、こうあるべきと思っていないで、それがどうでもいい、と思っているひとにはおかしくない。
い)その規範違反が全体の設定を考慮しても許せない、と思っている人には、可笑しくない。
禁止→許可→自由などに関していろいろな分類はできるが、例えば、
不可・禁止 絶対にない・当然あってはならない (思い入れ・感情移入大)
当為 あるべきでない。
可笑 あるべきでないが、あってもよい。
可・許 どちらでもよい、どうでもよい。 (思い入れなし)
可笑 あるべきだが、なくてよい。
当為 あるべき。
必然 当然 絶対ある。 (思い入れ強・感情移入大
という風にまとめることもできよう。
例えば、食卓でのおならはある人にとっては顰蹙行為だが、他の人にとっては笑いを誘う行為である。あるひとにとっては、あるべきでない当為・禁止事項であるが、他のひとにとっては、あるべきではないが、あってもよい程度の思い入れしかない。しかも、普通の場面で、普通にない現象なので可笑しい。
過去にしでかした自分のへまというのは、たいていその場では赤面ものであるが、時間が経つと他の人と同じように可笑しなる。事件が遠ざかる、事件と距離をおくことによって、他人事のように感じることができるからである。自分にはあってはならいことであったのだが、他人事のように、距離をおくことによって、あるべきではないが、許せる、という態度にかわったのである。
可笑しさによる笑いというのはこのように、すべきでないことをした、という攻撃的なメッセージと、でも、いいんだよ、という受容的なメッセージがある。
もっとも、そもそも、どうでいいことであれば、あるいは、そのように認識していれば、ユーモアを感じない。
例えば、貧乏やブスということは、普通でないという意味では笑いの標的になりうる。貧乏やブスであってはならない、あるいはある特定のへまをしてはならないと思っている人にとっては可笑しいことではなく、自分ならば恥さらし、他人ならば、憤慨の対象になり、どうでもいいと思っているひとにも、可笑しくもなんともない。
笑い飛ばす、という態度には、べし、べからずに関する既存の価値からの解放の一段階を意味する。
女性芸人が自分がデブであること、ブスであること、男性っぽく演技することをお笑いにして、、女性は美しくあるべき、女性はこうあるべき、という価値観を利用しその逸脱をお笑いにしているのだが、それを平気でやることで、その価値観からの解放されている、という側面がある。
当該価値観に関してある程度の自由を得ると笑えるが、べしべかずが消滅し、どうでもいいと思っている場合にはユーモアを感じない。すべての価値はどうでもいいと思っているニヒリストに笑いはない。
う)併存の対比がはっきりしないと、可笑しくない。
ふざけたキャラがふざけたことをやってもあまり可笑しくない。真面目なひとがふざけたことをすると可笑しい。
ボケがわかりにくいのをツッコミでフォローしてウケを狙う。
え)対比がはっきりし、対立(可能・不可能・善悪・生死・性・非性など)する意味が生成され、あるいは、共存すると可笑しさが増す。
例
一人息子がちゃんと留守番できているかどうか、
公衆電話から他人のふりをして家に電話してみた。
「もしもし、お母さんいる?」
息子「いらない」。 http://members2.jcom.home.ne.jp/kato526/osuso10.htm
お)順序はV→NでもN→Vでもよい。
十字架にかけられたイエスが弟子にペトロに「ペトロよ、来てみなさい」
ペトロは十字架にはしごをかけて、イエスの口元に耳を近づける。イエスは小声で
(←ここまで異常な事態のさなかという意味ではV)
「ここからだとお前のうちがよく見えるよ」
冗談は嘘か?
「きみが受かったら一千万円あげるよ」の次には「いや、嘘嘘」「いや、冗談冗談」両方言える。この意味では冗談は嘘である。つまり、本当のことをいっているふり・演技をしているだけであり、聞き手が嘘と承知しているところに冗談が成立する。
しかし、
スイスの冗談好きのローランド・ヤコブさんは死後に最後の望みをかなえた。自分の訃報を新聞の転居通知として載せたのだ。ターゲス・アンツァイガー紙には「ローランド・ヤコブ住所変更のお知らせ:新しい住所はレハルプ墓地の区画番号4276です。ご訪問をお待ちしております。」と掲載された。
http://tokyo.txt-nifty.com/fukublog/2006/01/post_63bf.html
のような場合、まんざら、嘘とも言えない。例えば、舞台の上や小説のなかで「昨日は京都は大地震だった」というのが、真偽を問題にしないフィクション・遊び・演技・であるように冗談も、フィクション・遊戯の側面もある。
ユーモア以外の笑い
1) 笑み・微笑ー 嬉しい・欲求充足・快感による笑い。
ただ、欲求充足に「不安→安心」という構造をみてとると、ユーモアによる笑いと接近している。
2) 社交上の笑いー協調性の伝達
日常会話など可笑しくないことでも笑っている。
既存の笑い理論の対比
攻撃論
笑いは標的を笑いもの、恥さらしにして攻撃する武器であり、標的を賤しめ、笑う側(話者・視聴者)社会的地位を高めるもの。 http://www.humortheory.com/english/index.html
規範違反をした人を笑う場合のように、たしかにそうした場合もある。人は笑いものにならないように、規範を身につけていく。
しかし、攻撃的でない笑いもある。例、知的なユーモア
優越論
優越感を感じると笑う。
たしかにそうした笑いもある。相手を打ち負かしたときなどに見られる高笑い。
しかし、そうでない場合もある。
期待齟齬論
ある期待した枠組みと、別に意味をなす枠組みが併存するのがユーモアである。
規範通りのことは期待することが多いから真実はついているが、単なる齟齬ではユーモアとは限らない。1+1=3は間違い=正解からの齟齬はあるが、面白くない。間違い探し、はさほど可笑しくない。
抑圧解放論
規範は抑圧されることが多いから、その抑圧が解放される側面はある。
日本の神話・昔話の性器露出をみての笑い
確かに、性器露出が抑圧され、その圧縮が露出により噴出して笑いになったとも解される。
しかし、時代・文化によっては、公然性器露出は禁止、ーーー事実西洋の昔話には性器露出ー笑いというお話は少ないといわれるーーー場合との違いを説明できない。
本理論によれば、笑いですまされるのは、公然性器露出禁止の原則がそれほど厳格ではなく、性に関して寛大であり、すべきではないにせよ、許される範疇の認識にあった、と考えられる。マラ祭りの観客は微笑む。また、宴会芸でもある。
なお、河合は股を開くという行為に独得の意味=世界の開示=超越を読み込むが、しかし、それは読み込みすぎのきらいもなくはない。
因みに、コスミックジョークとは、本来無が常軌と観じて、にもかからず常軌を逸して有が現出し、しかも両者が共存し、また、それを歓迎するので無を背景にした有の世界が嘘のような、あるいは、真偽が問題でないようなフィクション的なジョークとしてお笑いの対象になるのだと解する。
http://www.zakairan.com/ZaKaiRansArticlesBooks/CosmicJoke.htm
http://itisnotreal.com/gpage6.html
お笑いを作る
ボケーーーまじめに
主体 誰が
客体 何・誰に対して
場面 どんな場面で、いつ、どこで、
様態 どんな風に、何で(手段・方法)何しながら
主観 何をどう思って、解釈して、
理由 どんな目的で、何をしようとして、どんな気持で、どんな気持から、どんな根拠で
行為 何をして
結果 どうなった、どうした
というのが普通・常道・常軌なのに、勘違い・聞き違い・読み間違い・取り違い・やり(間違い)などして、一部または全部、それ以外のことをしてミスマッチ・筋違いを演じる。
ーーノル
ボケと一致・同調し、またそれを強調して継続する
ツッコミーー驚いて、笑って、あきれて、怒って、落胆して、
ボケ(=逸脱・誤解・曲解・失敗・へま・顰蹙行為など)を指摘する。
そうじゃないだろ。
お前はーーーか(よ)?!
いい加減にしなさい。
ーーーイジル
相手の反応を引き出して、
自分が普通じゃないと思ったところを あるいは、 相手が変なことをしている、ようにわざと誤解・曲解してーーときに何かに喩えたり、面白くまねてーー(ここにボケの要素もある)指摘し、笑う。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%8E%E7%9F%B3%E5%AE%B6%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%BE
リズム
間
若干の具体例とコメント
ドリフの「もしもシリーズ」は単純だがギャグの基本
http://jp.youtube.com/watch?v=SeJKcOkd0W8
真似る
そっくりさんは可笑しくない。
そっくりで、本人がやらないようなところで、やらないようことを、おおげさにやるところに可笑しさがある。
キャラに対する期待からの背馳
友近さんのはそっくりさんに近い。
友近&ハリセンボン「万引きGメン」
http://jp.youtube.com/watch?v=WBTfoL54sNI&feature=related
柳原可奈子さんは彼女の太さで可笑しさが出ている。
女子高生
http://jp.youtube.com/watch?v=EG5vJXBREos&feature=related
スタイリスト北条マキ
http://jp.youtube.com/watch?v=Yn42duDQEYs&feature=related
女子大生マミ
http://jp.youtube.com/watch?v=2Usfeb6tSSQ&feature=related
なお、以下のリンクで
http://jp.youtube.com/watch?v=gCSa3AuYnfo&feature=related
「一日一週間分歳を取る、 それってどいうことかっていうと 一日一週間年をとるってことなのね」というのは、何かそれ以上言うべきなのにトートロジーになっているところが可笑しい。これはよく使われるギャグである。例えば、
「新郎新婦にあったのは今日が初めてではありません。」
「あたりまえだろう。」
http://jp.youtube.com/watch?v=c0oWULJplMU&feature=related
なお、サンドイッチマンはなかなかいい。
(不良息子)
http://jp.youtube.com/watch?v=3FjVfPXx1jo&feature=related
サンドウィッチマン 飲酒検問
http://jp.youtube.com/watch?v=OR06vXtsu70&feature=related
ボケるの例として「いとしきよし」
合コンってなんや?
http://jp.youtube.com/watch?v=aPm7Af9EOt0&feature=related
フアストーフード
落ち着け!
http://jp.youtube.com/watch?v=HAATDItGkEs&feature=related
新婚旅行ついていくよ
傷物にされたらこまる
http://jp.youtube.com/watch?v=WBLbnVBtDII&feature=related
ノルの例として、例えば、
「お茶でございます」
http://jp.youtube.com/watch?v=GNTcYRNJStQ&feature=related
気まずい→あくまでも乗る
イジリ、リズムなどの例としては、やはりさんまさんがいい。
やまもとモナ
http://jp.youtube.com/watch?v=yc35_CDFRYM&feature=related
オセロ
http://jp.youtube.com/watch?v=toEjO5x8PTA&feature=related
キロロ
http://jp.youtube.com/watch?v=Pjaaec4QKqY&feature=related
しのぶ
http://jp.youtube.com/watch?v=UPCyRpV4GOs
陣内智則の、既出のネタを後でつなげるというのは、落語なんかではあるのだろうが、新鮮味がある。
3年2組のまだはしっています。
走る→遅い
走る→まだ、
http://jp.youtube.com/watch?v=6Wo0OWo6ZRw&feature=related
お葬式にバレリーナ
大爆笑です。餃子 「ほーらまだ浮いています」
まだ、ういているのかい?
http://jp.youtube.com/watch?v=4rPh-3o8rMk&feature=related
おやじ?
http://jp.youtube.com/watch?v=ZWynX2qAlkw
なお、落語については、
http://ja.wikipedia.org/wiki/落語
http://d.hatena.ne.jp/R-HAJIME/20080506
落語のあらすじ 千字寄席
http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2008/07/post_0a46.html
熊と小舟で落語100席
http://d.hatena.ne.jp/R-HAJIME/
また、
長屋の花見の不一致論からの分析
などを参照
その他、最近の傾向については、
http://tvnaruhodo.blog110.fc2.com/blog-entry-139.html
http://blog.owarai-technic.com/archives/72
また、私の以前のお笑いに関する投稿、
神への冒涜?神々の遊び
http://blog.goo.ne.jp/kentanakachan/e/31022b7fa869704c765694a9389930ed
笑いの認知構造 中間報告
http://blog.goo.ne.jp/kentanakachan/e/5c0b11aaa78eea3ca2c83782926c476a
本 もっと笑うためのユーモア学入門
http://blog.goo.ne.jp/kentanakachan/e/f12d49003425d4d8f69f74debf0a000f
間
http://blog.goo.ne.jp/kentanakachan/e/819f8a4f17d69767842bbfa1c0de10f5
笑いの方程式
http://blog.goo.ne.jp/kentanakachan/e/efa796e7d155341eb6808ec4a8859dd2
本 ウケる技術
http://blog.goo.ne.jp/kentanakachan/e/f5002f7d5e46deeb990169d9f696c949
笑いの理論
http://blog.goo.ne.jp/kentanakachan/e/a1509b1599965e5a9b75d356047c7b3c