おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

歩いても 歩いても

2019-01-14 18:49:15 | 映画
「歩いても 歩いても」 2007年 日本


監督 是枝裕和
出演 阿部寛 夏川結衣 YOU
   高橋和也 田中祥平 寺島進
   加藤治子 樹木希林 原田芳雄

ストーリー
ある夏の終わり。横山良多は、再婚したばかりの妻ゆかり、ゆかりの連れ子のあつしとともに電車で実家に向かっていた。
今日は15年前に亡くなった横山家の長男、純平の命日だった。
だが、失業中の良多は気が重い。
実家に着いて仏壇に手を合わせた後、良多は母のとし子、引退した開業医の父・恭平、姉のちなみらと食卓を囲み、純平の思い出に花を咲かせる。
午後、とし子と良多一家の四人で墓参りへ行く途中、とし子とちなみ夫妻の同居が話題になるが、とし子は良多が戻ってきにくくなるという配慮から、これを否定する。
墓参りから戻ると、今井良雄という青年が線香を上げに来ていた。
純平は、海で彼を助けようとして溺死したのだった。
とし子は彼に、来年も来るようにと声を掛けて見送るが、恭平は“あんなやつのために”と悪態をつく。
その言葉に、良多は“医者がそんなに偉いんですか”と声を荒げる。
ちなみ一家が帰り、良多一家と老夫婦だけの夕食。
ゆかりは場を盛り上げようとするが、普段会話の少ない老夫婦は険悪な雰囲気になっていく。
やがて、おもむろにレコードを取り出してくるとし子。
それは『ブルーライト・ヨコハマ』で、30年以上も前の恭平の浮気にまつわる曲だった・・・。

寸評
脚本がうまいなあと感心した。
会話の一つ一つが実にリアリティがあって、相応の年齢の人には思い当たるフシのあることの連続だったと想像する。
あまりのリアリティのために、では一体どこが面白かったのかと問われた時に、あの場面が・・・と即座に思いつかないほど自然に流れていた。劇的なところはまったくない。
一見、ごくありふれた家族の1日を淡々と描いていた映画のように思える。
長男の命日に一家が参集するのだが、長女一家は先に家に着いて、長女は母親と料理を作っている。
やがて次男が妻と子どもを連れてやってくる。
無関心を装っていた父親も加わって、家族揃って食卓を囲んで楽しいおしゃべりが始まる。
一見、幸せそうな家族だが、その裏には各人の様々な感情が渦巻いているという話だ。
次男の長男に対する劣等感と、両親の兄弟に対する対応の違いへの積年の思いと、父親への反感。
長男が助けた男の子に対する母親の屈折した感情。
母親が夫に対する鬱積した思いをレコードに託して放つ言葉。
叫び、暴れまくることなどはしないのだが、静かに見せられるそれらの様子に人間の業の深さを感じ取る。
表に見せる表情とは別に、ずっとそんな思いを持っていたのだという怖さだ。
だからといって、この家族が崩壊しているわけではない。
そのあたりの微妙さが面白い作品だ。

また、子供のしたたかさもしっかりと描かれていたと思う。
今日だけは良ちゃんと呼ぶのを辞めてくれるように懇願されて色よい返事をしなかったのに、子供たちの会話の中でそれを聞かれた時に「普通にパパと呼んでいる」と平然と言ったり、死別した父親の職業を継ぎたくてピアノの調律師になりたいところを、「音楽の先生が好きだから」とウソを言ったりするところなどは子供の大人びた精神構造をあらわしていてゾクッとした。

自分の親が死んで、自分の子供と墓参りをし、自分が親としたことを子供と行う輪廻の構造が、特別ではない幸せを表現していて心打たれる。
墓参の帰り道で母親から聞かされた話を娘にする父親の姿はほのぼのとしていて、そこからカメラは上空にパンして彼らを飲み込んでいる海のある町の風景を映し出す。
社会の中で小さな幸せを感じながら生きていることの素晴らしさを感じさせて良かったと思う。
様々な問題をそれぞれが持ちながらも、どこかでつながっているのが家族というものなのだろう。

樹木希林のやる母親は一家を支える堂々とした大きな人のように描かれながら、すごく悪意を隠し持つ嫌らしいさも合わせ持つ二重人格者としても描かれており、そのあたりも単なるホームドラマの域を超えさせていた要因だったと思う。
YOU演じる良多の姉の持つ強さと明るさが、重くなりそうなテーマを和らげていて、エンターティンメントな作品に仕上ったことへの貢献をしていたと思う。


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