おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

信さん・炭坑町のセレナーデ

2024-05-24 07:07:25 | 映画
「信さん・炭坑町のセレナーデ」 2010年 日本


監督 平山秀幸                                
出演 小雪 池松壮亮 石田卓也 小林廉 中村大地
   村上淳 中尾ミエ 岸部一徳 大竹しのぶ 柄本時生
   金澤美穂 光石研

ストーリー
昭和38年、小学生の守は、都会での結婚生活に失敗した母・美智代と共に、彼女の故郷・福岡の炭鉱町に引っ越してくる。
そこは、炭坑によって支えられ、男も女も子供たちも貧しくとも明るく肩を寄せ合って暮らす町。
ある日、悪ガキたちにいじめられていた守は、あざやかに相手を打ち負かした札付きの悪童、信さんに助けられる。
親を早くに亡くし、親戚に引き取られ厄介者扱いされて育った信さん。
美智代は、悪い評判ばかりの信さんに対して、含むところなく素直に感謝し、以来、優しく接し何かと面倒を見るようになる。
誰も自分のことなどわかってくれない、そう思ってきた信さんにとって、息子を守ってくれたこの事件を期にやさしく接してくれる美智代は特別な存在になる。
それは母への愛情とも恋心ともつかない感情だった。
けれど、信さんにもこの炭坑町にも、受け止め乗り越えなければいけない厳しい現実がすぐそばまで忍び寄っていた…。


寸評
郷愁をそそる映画として「ALWAYS 三丁目の夕日」などがヒットしたが、この映画もそれに劣らずノスタルジックでリアルである。
私は炭鉱町に住んだことも見たこともないが、それでもこの映画の炭鉱住宅のセットと様子などは、さもありなんと納得してしまうし、三角ベースの野球などは「そうだったよなあ…」と懐かしく見ることが出来た。
野球はやりたいが人数はいないので、どうしてもエリアを狭くした三角ベースになってしまっていたのだ。
私が三角ベースに興じた頃はこの映画の設定よりも少しばかり前だが、当時の大人や子供は生き生きと動き回っていて、おじさん、おばさんも含めて賑やかな声があちこちから聞こえていた。
子供だってこの映画の様にガキ大将の元で結構小遣い稼ぎをやっていて、私なども電線修理で捨てられた銅線を拾い集めて小銭に変えていた経験を有している。
この映画はそんな活気ある時代の一つの切ない物語だ。

今年はチリ鉱山の落盤事故が大きなニュースになったが、当時の日本でも時々落盤事故による生き埋めのニュースが報じられていて、子供心ながら鮮明な記憶として目に耳に残っている。
やがて迎えた閉山とそれに伴う解雇と労働争議もまた記憶に残っている。
この映画の背景にある石炭産業の斜陽化がこの時代の子供たちにも少なからず影響を及ぼす様が観客である現代の我々に迫ってくる。
大上段に構えず切々と描くスタイルは効果的だった。
全くの子供なのに、綺麗で若い守の母である美智子に、母への慕情を通り過ごした「淡い恋心」を抱く信さんの心情も実によくわかるのは抑制的な演出によるところも大きいと思う。
府として目にした胸元(乳房をみたわけではない)や盆踊りでみた襟足の汗に心ときめかすシーンなどはナイーブな少年の気持ちを見事に表現していたと思う。

信さんをやさしく包む母を、母に特別な感情を抱く信さんを守はどんな気持ちで眺めていたのだろう。
時折挿入されるじっと見つめる守の姿が想像を掻き立て深みを持たせる。
悲しい出来事もあるけれど、信さんの妹になる美代や朝鮮人の李英夫などの青春もみずみずしく描かれ、ラストの船上シーンを余韻あるものにしていた。
美智子の信さんに対する想いは一体ぜんたいどのようなものだったのだろうと思わないではいられない。
大竹しのぶや岸辺一徳の脇役陣も良かったが、とりわけ中尾ミエが好演であった。




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