おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

英国王のスピーチ

2023-09-06 07:16:27 | 映画
「英国王のスピーチ」 2010年 イギリス / オーストラリア


監督 トム・フーパー
出演 コリン・ファース ジェフリー・ラッシュ ヘレナ・ボナム・カーター
   ガイ・ピアース ティモシー・スポール デレク・ジャコビ
   ジェニファー・イーリー マイケル・ガンボン クレア・ブルーム
   イヴ・ベスト フライア・ウィルソン ラモーナ・マルケス

ストーリー
大英帝国博覧会閉会式で、ヨーク公アルバート王子はエリザベス妃に見守られ、父王ジョージ5世の代理として演説を行ったが、吃音症のために悲惨な結果に終わり、聴衆も落胆する。
エリザベスはアルバートを説得して、言語療法士であるオーストラリア出身のライオネル・ローグのロンドンのオフィスをともに訪れる。
独自の手法で第一次世界大戦の戦闘神経症に苦しむ元兵士たちを治療してきたローグは、王室に対する礼儀作法に反してアルバートを愛称のバーティで呼びつけ、自身のことはローグ先生ではなくライオネルと呼ばせる。
クリスマス恒例のラジオ中継の後、父王ジョージ5世は、アルバートの兄に当たる王太子デイヴィッド王子は次期国王に不適格であり、アルバート王子が王族の責務をこなせるようにならねばならないと語り、厳しく接する。
王子はローグのもとを再び訪れ、口の筋肉をリラックスさせる練習や、呼吸の訓練、発音の練習などを繰り返し行い、アルバートはローグに吃音症の原因となった自身の不遇な生い立ちを打ち明け、二人の間に友情が芽生える。
1936年1月、ジョージ5世が崩御し、デイヴィッド王子が「エドワード8世」として国王に即位する。
しかし、新王はアメリカ人で離婚歴があり、まだ2番目の夫と婚姻関係にあるウォリス・シンプソン夫人と結婚することを望んでいたので、王室に大きな問題が起こるのは明白であった・・・。


寸評
吃音が故に内向的な性格となった王家の男が、本当は国王になるはずではなかったのに、兄が王位を捨てたことで国王になってしまう。
しかしこの映画はそんな人生の皮肉に翻弄されながらも困難を克服する男を描いているのではなく、僕にはハンデを抱えるジョージ6世が、妻のエリザベスと矯正専門家の助けを受けて大役をこなすことが出来るようになるという英国王室を舞台としたすホームドラマに思えた。
歴史知識不足の観客が受けがちな疎外感を感じることはまったくない。
非常にわかりやすく、華やかなこの時代の王室メンバーの魅力を感じさせてくれるとともに、主役二人の身分を超えた名タッグぶりに通快感を味わえる作品だった。

矯正の専門家であるライオネルは実にユニークな人物で、医者の免許を持たない役者上がりで、自ら矯正の専門家を名乗っている。
しかもその治療法もユニークだし、関係も平等だと愛称で呼び合う。
この男の存在が作品を面白おかしく仕上げている。
ライオネルは、大胆にも王をバーティと愛称で呼び、王の固定観念をどんどん打ち砕いていく。
コミカルな治療シーンが物語をリズミカルなものにしていた。
伝統や体裁を気にする上流社会にはないライオネルの実直さに触れて、王が自己の内面と向き合っていくプロセスがこの映画の大きな見所となっている。

反面、国王の身分を捨てて結婚経験のある恋人のもとに走ったエドワード8世は、題材としてはそちらの方が映画になりやすいのに今回はちょっとしたエピソードにとどまっている。
ただし、ジョージ6世の妻であるエリザベスが、実にチャーミングに描かれているのに比べて、エドワードの恋人であるウォリス・シンプソンには悪意でもあるのか嫌味な女として描いている。
皇室を基盤に持つ日本人にとっては王位継承の必要性と、その特異な責任の存在が理解できるし、皇太子妃の病状なども思い起こされ感情移入はたやすく行えた。
現エリザベス女王や、マーガレット妃もセリフ付きで子供として登場し、チェンバレンやチャーチルも登場するので歴史絵巻的な一面も楽しめる。
僕は兄エドワード8世の“王冠を賭けた恋”のことは知っていたが、ジョージ6世のことは知らないでいた。
しかしこの映画を見ると、国民に本当に愛されたのは、英国史上最も内気なジョージ6世その人だったということがわかった。
歴史上の人物を描いた作品の持つ功績のひとつでもあると思う。

最後にヒトラーのナチスドイツに宣戦布告する際のスピーチの描き方は、天皇陛下をいただいているだけに、国民感情も理解できるものが有って感動出来た。
そして流れる音楽がドイツの楽聖ベートーベンの交響曲であるのも監督トム・フーバーの意識を感じた。


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2 コメント

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「英国王のスピーチ」について (風早真希)
2023-10-08 16:05:17
指導者の言葉の重さ。望んだわけではない地位と重責。
抑圧された屈折と全てを受け入れる覚悟。理解と友情。

この映画「英国王のスピーチ」は、掘り起こされた大変に興味深い歴史的な事実を、的確な脚本と素晴らしい役者たちの人間味溢れる演技によって、手堅く描いた作品だと思います。

冒頭で描かれる「閉会の辞」の件で、絶望的な状況を的確に描出して見せた後の本題への流れるような導入。

節目節目となるイベントの描写を省略し、最後の最後、冒頭と対になる形での「開戦の辞」に向かって、全てを盛り上げていく構成も王道なら、対立と和解を繰り返しながら、互いへの信頼と理解を深めていく2人の男のドラマとしても、唐突に罵詈雑言と歌が交じったり、いかにも英国的なユーモアのセンスが溢れでたりする爆笑コメディとしても、実に面白い。

開戦前夜、霧のロンドンの雰囲気を出した美術から撮影まで、なかなか丁寧に作られていて隙がないですね。

しかし、題材の面白さを横におくならば、この作品は、やはり俳優のための映画であると思いますね。

King's English で、しかも吃音で、人前で話すことのプレッシャーやフラストレーション。
端々から透けて見えるジョージ6世の半生。
国民のために運命を受け入れようとする覚悟。

それらを語らずして見せる演技は、やはり圧巻だ。
出演作の全てで好演しているコリン・ファースの脂の乗り切った名演を堪能させてくれる。

ただ、個人的な好みから言えば、最初にオファーされながら、その当時の精神の不安定さを理由に出演を断ったヒュー・グラントが、このジョージ6世を演じていたら、もっと魅力的な人物像になっていたのではないかと思うと、かえすがえすも残念でなりません。

一方、堂々たる態度で自分のやり方を通す「決してドクターとは呼ばせない」言語矯正の専門家を演じるジェフリー・ラッシュ。
彼自身も役柄と同じく(植民地)オーストラリアの出身だが、注意深く耳を傾けないと分からない程度のわずかな訛りを残した話し方で、この人物の一筋縄ではいかない半生までも演じきる。
まさに彼の本領発揮といったところですね。

映画はこの2人のためにあるようなものだが、父王ジョージ5世にマイケル・ガンボン、妻にヘレナ・ボナム・カーター、チャーチルにティモシー・スポールと英国の名優を配置し、「ハリー・ポッター」組から3人出演している他、兄にガイ・ピアース、大司教にデレク・ジャコビと脇にもいいキャストが並んで安定感が抜群なんですね。

言ってみれば、特殊な時代、とても特殊な状況に置かれた男たちのドラマではある。ニュース・フィルムに撮されたヒトラーのアジテーションを見て、「内容はわからないが、たいへんスピーチが上手いようだ」と感想を漏らすシーンがあるが、戦争の影がひたひたと迫る時期、国家のリーダーとしての言葉の重さや主人公に課せられた責任の重さであったりという、「状況」をこれほど端的に見せる秀逸なシーンもないだろう。
ちょっとした発表やらプレゼンテーションとはワケが違うのだ。

そうは言っても、我々観る者にとって、身近で卑近な事例と難なく二重写しにできてしまう間口の広さが、この作品が絶賛された理由なのかも知れません。

好感を抱くことのできる人物たちが、目の前の困難に必死で立ち向かい、乗り越えていく、あるいは、男同士の信頼と友情、そういう物語には、誰もが感情移入しやすいのだと思います。
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つらい立場 (館長)
2023-10-10 07:17:15
自分ではどうすることもできない立場の人の辛さが分かります。
我が国の皇室の方々の苦労も重なりました。
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