朝日新聞のきょうの社説が気になった。《核兵器なき世界へ 逆行させ
ず交渉前進を》というタイトルをかかげている。2017年の年頭にあた
り、朝日新聞はどういう核廃絶のビジョンを示してみせるのか。どうせ
理想論の大風呂敷を広げるだけだろうとは思ったものの、理想論や正論
をぶつだけで済むとは朝日の論説委員だって考えていないはず。そこの
ところの(現実認識との)ギャップをどう取り繕うのか、野次馬根性の
興味があったのである。
朝日はまず、核廃絶に向けたオバマ大統領の取り組みを「なし得たこと」
と「なし得なかったこと」に分けて、列挙することから始めている。
オバマ大統領がやったこと、なし得たこと、それは、(1)核物質による
テロを防ぐために、4回の核保安サミットを開いたこと、(2)イランを
相手に、核開発を大幅に制限することで合意に達したこと、(3)現職大
統領として初めて、被爆地・広島を訪れたことである。
え?それだけ? 8年前、プラハでの演説で「核兵器のない世界を追求
する」と宣言し、ノーベル平和賞をもらった人物にしては、実際にやっ
たことは拍子抜けするほど少なく、そして小さい。「口だけ番長」かと、
ついからかいたくなる所以である。
これに対して、オバマ大統領がなし得なかったこと、やろうとしてでき
なかったことは、(1)戦略核弾頭を1550発以下に減らす新戦略兵器削減
条約(新START)をロシアと結んだものの、ウクライナ問題で対ロ関係
が悪化したため、さらなる削減へと交渉を進められなかったこと、
(2)核開発を進める北朝鮮に対して「戦略的忍耐」でのぞみ、4回に及ぶ
北朝鮮の核実験強行を阻止できなかったこと、(3)核攻撃がない限り核兵
器を先に使わない、という「核先制不使用宣言」を行えなかったことで
ある。
ご覧のように、オバマ大統領が「なし得たこと」に比べれば、「なし得
なかったこと」が持つ意味ははるかに大きい。オバマ大統領はなぜこれ
らのことをなし得なかったのか。世界第一の超大国の、そのトップの企
図を阻んだのは、いったい何だったのか。
朝日新聞は、この問題はさりげなくスルーして、先月の国連総会で決定
された核兵器禁止条約制定交渉を次の話題に取り上げ、この条約は「核
廃絶に向けた大きな一歩となる」と述べている。ところが、「核廃絶に
向けた大きな一歩」となるべきこの条約の、その制定交渉にこそ、無視
できない大きな障害がひそんでいるのである。
この障害とは、ほかでもない,核の威力で安全を保とうとする、いわゆ
る核抑止論である。「核の威力で安全を保とうとする抑止論から抜け出
さない限り、核廃絶は近づかない」と朝日は述べるが、核抑止論から抜
け出せていないのが、国際政治の現状である。そうである限り、核兵器
禁止条約の制定交渉が始まった現時点においても、国際社会は依然とし
て核廃絶から遠いままだと言えるだろう。
核抑止論から抜け出すのは難しい。オバマ大統領が「核先制不使用宣
言」を断念せざるを得なかった理由が核抑止論にあることを考えれば、
それは明らかである。核抑止論をめぐる問題については、以前に本ブロ
グで書いたので、ここでは繰り返さない(興味がある方は、2016年10
月30日付の本ブログ記事《核廃絶の倫理と論理》をご覧いただきたい。)
どうすれば世界は核抑止論から抜け出せるのか。その答えを朝日の社説
に期待する気持ちがなかったと言えば、それは嘘になる。期待しながら
も、この期待が裏切られることが、私には分かっていた。あらかじめ分
かってはいたことだが、わずかとはいえ期待した私が、ああ、馬鹿だっ
た。
ず交渉前進を》というタイトルをかかげている。2017年の年頭にあた
り、朝日新聞はどういう核廃絶のビジョンを示してみせるのか。どうせ
理想論の大風呂敷を広げるだけだろうとは思ったものの、理想論や正論
をぶつだけで済むとは朝日の論説委員だって考えていないはず。そこの
ところの(現実認識との)ギャップをどう取り繕うのか、野次馬根性の
興味があったのである。
朝日はまず、核廃絶に向けたオバマ大統領の取り組みを「なし得たこと」
と「なし得なかったこと」に分けて、列挙することから始めている。
オバマ大統領がやったこと、なし得たこと、それは、(1)核物質による
テロを防ぐために、4回の核保安サミットを開いたこと、(2)イランを
相手に、核開発を大幅に制限することで合意に達したこと、(3)現職大
統領として初めて、被爆地・広島を訪れたことである。
え?それだけ? 8年前、プラハでの演説で「核兵器のない世界を追求
する」と宣言し、ノーベル平和賞をもらった人物にしては、実際にやっ
たことは拍子抜けするほど少なく、そして小さい。「口だけ番長」かと、
ついからかいたくなる所以である。
これに対して、オバマ大統領がなし得なかったこと、やろうとしてでき
なかったことは、(1)戦略核弾頭を1550発以下に減らす新戦略兵器削減
条約(新START)をロシアと結んだものの、ウクライナ問題で対ロ関係
が悪化したため、さらなる削減へと交渉を進められなかったこと、
(2)核開発を進める北朝鮮に対して「戦略的忍耐」でのぞみ、4回に及ぶ
北朝鮮の核実験強行を阻止できなかったこと、(3)核攻撃がない限り核兵
器を先に使わない、という「核先制不使用宣言」を行えなかったことで
ある。
ご覧のように、オバマ大統領が「なし得たこと」に比べれば、「なし得
なかったこと」が持つ意味ははるかに大きい。オバマ大統領はなぜこれ
らのことをなし得なかったのか。世界第一の超大国の、そのトップの企
図を阻んだのは、いったい何だったのか。
朝日新聞は、この問題はさりげなくスルーして、先月の国連総会で決定
された核兵器禁止条約制定交渉を次の話題に取り上げ、この条約は「核
廃絶に向けた大きな一歩となる」と述べている。ところが、「核廃絶に
向けた大きな一歩」となるべきこの条約の、その制定交渉にこそ、無視
できない大きな障害がひそんでいるのである。
この障害とは、ほかでもない,核の威力で安全を保とうとする、いわゆ
る核抑止論である。「核の威力で安全を保とうとする抑止論から抜け出
さない限り、核廃絶は近づかない」と朝日は述べるが、核抑止論から抜
け出せていないのが、国際政治の現状である。そうである限り、核兵器
禁止条約の制定交渉が始まった現時点においても、国際社会は依然とし
て核廃絶から遠いままだと言えるだろう。
核抑止論から抜け出すのは難しい。オバマ大統領が「核先制不使用宣
言」を断念せざるを得なかった理由が核抑止論にあることを考えれば、
それは明らかである。核抑止論をめぐる問題については、以前に本ブロ
グで書いたので、ここでは繰り返さない(興味がある方は、2016年10
月30日付の本ブログ記事《核廃絶の倫理と論理》をご覧いただきたい。)
どうすれば世界は核抑止論から抜け出せるのか。その答えを朝日の社説
に期待する気持ちがなかったと言えば、それは嘘になる。期待しながら
も、この期待が裏切られることが、私には分かっていた。あらかじめ分
かってはいたことだが、わずかとはいえ期待した私が、ああ、馬鹿だっ
た。