ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

力による現状変更に対して

2022-02-27 11:42:51 | 日記


力による現状変更は認めない。岸田首相は口癖のように、あちこちでこの種の文言を振りまいている。例えばこんな具合だ。

「岸田文雄首相は25日、ロシアによるウクライナへの大規模な侵攻を受けて記者会見し『力による一方的な現状変更の試みで、明白な国際法違反だ。国際秩序の根幹を揺るがす行為として、断じて許容できず、厳しく非難する。わが国の安全保障の観点からも決して看過できない』と厳しく批判した。」
(産経ニュース2月25日配信)

同種の見解は、林外相もEU外相との会談などで開陳している。察するに、これは岸田首相個人の意見ではなく、日本政府の公式的見解なのだろう。

その上で問題にしたいのだが、では「力による現状変更」は、なぜ認められないのだろうか。

こうした見解を口にするとき、日本政府首脳の念頭にあるのは、明らかに、中国の覇権膨張主義への対抗である。中国は近年、力(軍事力)に物を言わせて、台湾を自国の領土に繰り入れようとしている。その毒牙をわが国の尖閣諸島や沖縄諸島にまで伸ばそうとする中国の野望は、わが国としてはなんとしても阻止しなければならない大きな脅威になる。中国の野望、これは明らかに「力による現状変更」の企てであり、だから断じて認めるわけにはいかないというのである。

中国の野望を阻むための布石が、ロシアへの非難の文言であることは、言うを俟たない。ロシアによるウクライナ侵攻の企てを認めてしまえば、中国による台湾や沖縄への侵攻も見過ごさざるを得なくなる。だからロシアによるウクライナ侵攻の企てに対しては、日本政府は厳しい態度をとり、その不当性を国際社会に向って言い立てざるを得ないのである。

だが、ロシアによるウクライナ侵攻の企てにしても、中国による台湾や沖縄への侵攻の企てにしても、その不当性を訴えるのに、それが「力による現状変更の企てだから」という理由は、これを阻止する理由として充分だろうか。

それが正当な理由になるのは、少なくとも(既成の秩序としての)「現状」が「理性的に見て、妥当とみなしうる正当な秩序」である限りのことである。
だが、ある国(A国ならA国)の領土をかくかくしかじかと定める既成の国境の秩序は、何によってかく定められたのかといえば、そのほとんどは(世界史的に見れば、)戦争という力の行使によってだと言えるだろう。
「戦争の世紀」とされる20世紀、数多くの戦争が戦われ、それとともに数多くの「現状変更の企て」が企てられ、多くの国が生まれたり、消えたりした。

話が大きくなりすぎ、問題が見えなくなってはまずいので、話題をウクライナ問題に引き戻そう。ここで問題になっているのは、ある意味では国境の問題である。「ある意味では」と言ったのは、ここで問題になっているのは、「国と国との境界」という意味での国境ではなく、「(東西の)勢力圏の境界」という意味での国境だからである。

どういうことか。ウクライナがNATOに加盟すれば、東西の勢力圏の境界は確実に変わる。(既成の秩序としての)「現状」が変更されるのである。ロシアからすれば、これは「軍事同盟の武力に物を言わせた、不当な現状変更の企て」にほかならない。

私が何が言いたいかは、もうお分かりだろう。手短にいえば、「力による現状変更の企てだから」という理由は、ロシアや中国の野望を阻む理由としては充分ではないということである。ロシアや中国のーー特に中国のーー覇権膨張主義を阻むには、力に物を言わせるしかないのではないか。経済制裁や軍事力による対抗しかないのではないか。今や超経済大国に成り上がった中国を相手に、経済制裁がどこまで物を言うかは不明だが、これはまた別の問題である。


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