2月の最終週の月曜日の夜、タケルは、黒いプリメーラで、北鎌倉を走っていた。
スピーカーからは、キャンディー・ダルファーのノリノリの音楽がかかっていたが、
タケルは、真面目に何かを考えていた。
「アイリは、最近、エッチが最高潮になってくると、「タケル」とは呼ばず「あなた」と呼ぶようになった・・・僕に対する希望が変わったということじゃないのか?」
と、タケルは考えている。
タケルは、日頃から、アイリに対して、大人にならなくては、と考えていた。
早く大人に成長し、アイリを安心させてやること・・・それがタケルの使命だと考えていた。
「だからこそ、アイリは、僕に対して、いつも一生懸命なんだ。あの姿勢を見ていれば・・・僕だってアイリの為にがんばりたくなる・・・」
タケルは考えながら、走っていく。
建長寺の坂を登りきり、坂は一気に鶴ヶ岡八幡宮へ導いてくれる。
「アイリは、僕がまだ若いということに気をつけている。だから、結婚のことについては、一切触れたりしない・・・それが僕のプレッシャーになってはいけないから・・・」
と、タケルは考える。
「でも、アイリは、きっとその話題に触れたいんだ・・・僕から、その話題に触れ、少し話をしたほうがいいんじゃないだろうか・・・彼女が触れないのなら・・・」
と、タケルは考える。
「「タケル」と呼んでいたアイリが、「あなた」と呼ぶようになった・・・それは、同等のパートナーとして、僕を認めはじめたということじゃないのか?」
と、タケルは考える。
「結婚相手として意識している・・・そういうことなんじゃないか?」
と、タケルは考えている。
「僕らは、きっと二人でひとつなんだよ。生まれる前に無くした身体のもう半分・・・それが僕にとってアイリであり、アイリにとって、僕・・・そういうことじゃないかな」
タケルは、伊豆旅行の直後に、自分で出した答えを、思い出す。
「うん。私もそう思うわ・・・タケルは私のもう半分・・・大事な大事なかけがえの無い、わたしのもう半分なのよ」
タケルは、伊豆旅行の直後に、アイリが出した答えも、思い出す。
「僕らは結婚を現実的に考えるべき時に、ようやく到達したんじゃないのか?」
タケルは、ある結論に辿り着こうとしている。
車は由比ガ浜に出て、右に曲がり、134号を西に走り始める。
「「まだ、結婚とか、考えなくていいのよ。週末、一緒に過ごせるだけで、私、こんなにしあわせなんだもん」アイリは、よくそういう言い方をする・・・」
「でも、それは気持ちの裏返しで・・・「結婚のことも、たまには考えて欲しいし、言葉にして欲しい。わたしを安心させて欲しいの」アイリは、そう言いたいんじゃないか?」
タケルは考えている。
「そもそも、アイリは、頑張り過ぎるところがある。僕にプレッシャーを与えないようにって、自分が犠牲になってるところがある・・・それはダメだ」
タケルは考えている。
「だから、僕が大きくなろう・・・次に会う時に、結婚の話題を出そう。そして、話してみればいい。二人で、その問題に向かい合えばいいんだ」
タケルは思い出す。
「そう言えば、以前、アイリとのことで、こうやって、夜の鎌倉を走りながら考えていた時、結論は、二人で、問題に立ち向かおう!だったはずだ。今回も、それで行こう」
タケルは結論を出す。
「問題にぶつかったら、僕ひとり、アイリひとりでなく、二人で、立ち向かうこと。何でも話して、お互い、頑張り過ぎないようにしなくっちゃ」
タケルは結論を出すと、ニヤリと笑い、アクセルを踏み込んでいく。
プリメーラは湘南の夜の闇に、スピードをあげて、消えていった。
2月の最終週の金曜日の夜。
少し早い時間に仕事をあがれたタケルは、アイリの待つマンションにたどり着いていた。
「ふうー・・・一週間の疲れも、アイリの顔を見ると、吹っ飛ぶなあ」
と、風呂あがりのタケルはご機嫌さんだ。
「風呂あがりのタケルを見ると、わたしも、なんとなくホッとするわ。なんとなく、疲れもいなしてくれた感じだし」
と、ビールを注ぐアイリ。
「ありがと。今度は俺が注ぐ番」
と、アイリにもビールを注いであげるタケル。
「ありがと。じゃ、早速かんぱーい」「乾杯!」
と、キンキンに冷えたビールを飲むふたりは、
「くぅー!」「あー、おいしいわー」
と、大騒ぎだ。
テーブルの上には、和食を中心にしたアイリお手製の酒の肴が並ぶ。
「いやあ、やきとりが、美味しいねー。アイリなんでも作れちゃうんだなー」
と、タケルは素直に喜んでいる。
「タケルとつきあうようになって、和食を作る機会が普通に増えたから・・・タケルのおかげでも、あるのよ」
と、やさしい笑顔のアイリ。
「あのさ・・・アイリ、ちょっと提案があるんだけど・・・」
と、急に座り直すタケル。
「なあに?」
と、笑顔のアイリが聞く。
「明日、夕日が最高に気持ちよく見える場所に、デートに行かないか。夜、そういうレストランで食事しようよ。最近、アイリのマンションでばかりになってるから」
と、タケルは言う。
「そのー・・・たまには、大人の恋人同志、ロマンチックな時間を過ごさないか?本来は、僕がそういう場所を予約してくるべきなんだけど・・・」
と、タケルは少し言いよどむ。
「今週は忙しくて、そういう場所、調べる余裕もなくてさ・・・だから、ここはルール破りだけど、知ってたら、アイリに、そういう場所を教えて欲しくて・・・」
と、タケルはアイリの反応を見ながら、話す。
「いいわよ、タケル・・・そうね。麻布に、古いイタリアンレストランがあって、「Felice ogni giorno」って言うんだけど、そこの窓際の席なんて、最高に気分いいわよ」
と、お店通な、アイリは即座に提案してくれる。
「そこ、今から取れるかなあ」
と、タケルが不安そうに言うと、
「うん。ちょっと待ってて」
と、アイリは早速電話機の前に行き・・・テキパキと用事を済ませるとすぐに戻ってくる。
「大丈夫、問題なし。窓際のいい席がとれたわ・・・なにしろ、そのお店、パパの代から、常連だから、うちの家族」
と、アイリは笑う。
「うーん、そういう店でいいのかなあ・・・ま、いっか」
と、タケルは口の中で言うが・・・、
「うん、なあに?」
と、笑顔のアイリ。
「何でもないんだ。明日は楽しみだね」
と、屈託のない笑顔のタケル。
そのタケルの表情を見たアイリは、しあわせそうな笑顔になる。
「タケルの提案、すっごいうれしかった・・・私もたまには、外でデートしたかったの。明日はドレスアップしていこうっか?」
と、ルンルンな表情のアイリである。
「ね、午前中にタケルの服も買いに行こうか?また、タケルをドレスアップしちゃお。ね、いいでしょ、タケル」
と、アイリは素敵な思いつきに、有頂天状態である。
「そうだね。僕もおしゃれの楽しさをなんとなく理解してきたから・・・いいよ」
と、タケル。
「明日は午前中は、タケルのためのお買い物で、夕方はドレスアップして、大人のデート!わーい、楽しいぞー!」
と、アイリはうれしそうな笑顔だ。
「はい、タケル様、白ワインなぞ、お注ぎ致します!」
と、アイリはうれしそうに、はしゃぐ。
「おう、これは、わしの好きなドイツワインのブラックタワーじゃな」
と、タケル。
「は。先日、デパ地下で見つけまして、購入しておきましたで、ございますー」
と、アイリ。
「うむ、苦しゅうない・・・ああ、うめえ」
と、素直に喜ぶタケル。
「はい。アイリも・・・いやあ、アイリがお店通で、よかった」
と、タケルは、素の表情で、ワインをアイリに注いであげる。
「ありがとう・・・おいしいね。ドイツワインっぽい剛毅さがあって・・・」
と、アイリも喜んでいる。
「明日が楽しみね・・・」「そうだね・・・」
と、二人は、少しのワインで、顔を真赤にしていた。
都会の夜は、華やかに更けていった。
(つづく)
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スピーカーからは、キャンディー・ダルファーのノリノリの音楽がかかっていたが、
タケルは、真面目に何かを考えていた。
「アイリは、最近、エッチが最高潮になってくると、「タケル」とは呼ばず「あなた」と呼ぶようになった・・・僕に対する希望が変わったということじゃないのか?」
と、タケルは考えている。
タケルは、日頃から、アイリに対して、大人にならなくては、と考えていた。
早く大人に成長し、アイリを安心させてやること・・・それがタケルの使命だと考えていた。
「だからこそ、アイリは、僕に対して、いつも一生懸命なんだ。あの姿勢を見ていれば・・・僕だってアイリの為にがんばりたくなる・・・」
タケルは考えながら、走っていく。
建長寺の坂を登りきり、坂は一気に鶴ヶ岡八幡宮へ導いてくれる。
「アイリは、僕がまだ若いということに気をつけている。だから、結婚のことについては、一切触れたりしない・・・それが僕のプレッシャーになってはいけないから・・・」
と、タケルは考える。
「でも、アイリは、きっとその話題に触れたいんだ・・・僕から、その話題に触れ、少し話をしたほうがいいんじゃないだろうか・・・彼女が触れないのなら・・・」
と、タケルは考える。
「「タケル」と呼んでいたアイリが、「あなた」と呼ぶようになった・・・それは、同等のパートナーとして、僕を認めはじめたということじゃないのか?」
と、タケルは考える。
「結婚相手として意識している・・・そういうことなんじゃないか?」
と、タケルは考えている。
「僕らは、きっと二人でひとつなんだよ。生まれる前に無くした身体のもう半分・・・それが僕にとってアイリであり、アイリにとって、僕・・・そういうことじゃないかな」
タケルは、伊豆旅行の直後に、自分で出した答えを、思い出す。
「うん。私もそう思うわ・・・タケルは私のもう半分・・・大事な大事なかけがえの無い、わたしのもう半分なのよ」
タケルは、伊豆旅行の直後に、アイリが出した答えも、思い出す。
「僕らは結婚を現実的に考えるべき時に、ようやく到達したんじゃないのか?」
タケルは、ある結論に辿り着こうとしている。
車は由比ガ浜に出て、右に曲がり、134号を西に走り始める。
「「まだ、結婚とか、考えなくていいのよ。週末、一緒に過ごせるだけで、私、こんなにしあわせなんだもん」アイリは、よくそういう言い方をする・・・」
「でも、それは気持ちの裏返しで・・・「結婚のことも、たまには考えて欲しいし、言葉にして欲しい。わたしを安心させて欲しいの」アイリは、そう言いたいんじゃないか?」
タケルは考えている。
「そもそも、アイリは、頑張り過ぎるところがある。僕にプレッシャーを与えないようにって、自分が犠牲になってるところがある・・・それはダメだ」
タケルは考えている。
「だから、僕が大きくなろう・・・次に会う時に、結婚の話題を出そう。そして、話してみればいい。二人で、その問題に向かい合えばいいんだ」
タケルは思い出す。
「そう言えば、以前、アイリとのことで、こうやって、夜の鎌倉を走りながら考えていた時、結論は、二人で、問題に立ち向かおう!だったはずだ。今回も、それで行こう」
タケルは結論を出す。
「問題にぶつかったら、僕ひとり、アイリひとりでなく、二人で、立ち向かうこと。何でも話して、お互い、頑張り過ぎないようにしなくっちゃ」
タケルは結論を出すと、ニヤリと笑い、アクセルを踏み込んでいく。
プリメーラは湘南の夜の闇に、スピードをあげて、消えていった。
2月の最終週の金曜日の夜。
少し早い時間に仕事をあがれたタケルは、アイリの待つマンションにたどり着いていた。
「ふうー・・・一週間の疲れも、アイリの顔を見ると、吹っ飛ぶなあ」
と、風呂あがりのタケルはご機嫌さんだ。
「風呂あがりのタケルを見ると、わたしも、なんとなくホッとするわ。なんとなく、疲れもいなしてくれた感じだし」
と、ビールを注ぐアイリ。
「ありがと。今度は俺が注ぐ番」
と、アイリにもビールを注いであげるタケル。
「ありがと。じゃ、早速かんぱーい」「乾杯!」
と、キンキンに冷えたビールを飲むふたりは、
「くぅー!」「あー、おいしいわー」
と、大騒ぎだ。
テーブルの上には、和食を中心にしたアイリお手製の酒の肴が並ぶ。
「いやあ、やきとりが、美味しいねー。アイリなんでも作れちゃうんだなー」
と、タケルは素直に喜んでいる。
「タケルとつきあうようになって、和食を作る機会が普通に増えたから・・・タケルのおかげでも、あるのよ」
と、やさしい笑顔のアイリ。
「あのさ・・・アイリ、ちょっと提案があるんだけど・・・」
と、急に座り直すタケル。
「なあに?」
と、笑顔のアイリが聞く。
「明日、夕日が最高に気持ちよく見える場所に、デートに行かないか。夜、そういうレストランで食事しようよ。最近、アイリのマンションでばかりになってるから」
と、タケルは言う。
「そのー・・・たまには、大人の恋人同志、ロマンチックな時間を過ごさないか?本来は、僕がそういう場所を予約してくるべきなんだけど・・・」
と、タケルは少し言いよどむ。
「今週は忙しくて、そういう場所、調べる余裕もなくてさ・・・だから、ここはルール破りだけど、知ってたら、アイリに、そういう場所を教えて欲しくて・・・」
と、タケルはアイリの反応を見ながら、話す。
「いいわよ、タケル・・・そうね。麻布に、古いイタリアンレストランがあって、「Felice ogni giorno」って言うんだけど、そこの窓際の席なんて、最高に気分いいわよ」
と、お店通な、アイリは即座に提案してくれる。
「そこ、今から取れるかなあ」
と、タケルが不安そうに言うと、
「うん。ちょっと待ってて」
と、アイリは早速電話機の前に行き・・・テキパキと用事を済ませるとすぐに戻ってくる。
「大丈夫、問題なし。窓際のいい席がとれたわ・・・なにしろ、そのお店、パパの代から、常連だから、うちの家族」
と、アイリは笑う。
「うーん、そういう店でいいのかなあ・・・ま、いっか」
と、タケルは口の中で言うが・・・、
「うん、なあに?」
と、笑顔のアイリ。
「何でもないんだ。明日は楽しみだね」
と、屈託のない笑顔のタケル。
そのタケルの表情を見たアイリは、しあわせそうな笑顔になる。
「タケルの提案、すっごいうれしかった・・・私もたまには、外でデートしたかったの。明日はドレスアップしていこうっか?」
と、ルンルンな表情のアイリである。
「ね、午前中にタケルの服も買いに行こうか?また、タケルをドレスアップしちゃお。ね、いいでしょ、タケル」
と、アイリは素敵な思いつきに、有頂天状態である。
「そうだね。僕もおしゃれの楽しさをなんとなく理解してきたから・・・いいよ」
と、タケル。
「明日は午前中は、タケルのためのお買い物で、夕方はドレスアップして、大人のデート!わーい、楽しいぞー!」
と、アイリはうれしそうな笑顔だ。
「はい、タケル様、白ワインなぞ、お注ぎ致します!」
と、アイリはうれしそうに、はしゃぐ。
「おう、これは、わしの好きなドイツワインのブラックタワーじゃな」
と、タケル。
「は。先日、デパ地下で見つけまして、購入しておきましたで、ございますー」
と、アイリ。
「うむ、苦しゅうない・・・ああ、うめえ」
と、素直に喜ぶタケル。
「はい。アイリも・・・いやあ、アイリがお店通で、よかった」
と、タケルは、素の表情で、ワインをアイリに注いであげる。
「ありがとう・・・おいしいね。ドイツワインっぽい剛毅さがあって・・・」
と、アイリも喜んでいる。
「明日が楽しみね・・・」「そうだね・・・」
と、二人は、少しのワインで、顔を真赤にしていた。
都会の夜は、華やかに更けていった。
(つづく)
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