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「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(22)

2013年12月18日 | 今の物語
火曜日の午前中・・・所長に言われ、荷物を運んでいる途中のミウは車を赤谷川の近くで停車させ、川沿いに出た。

太陽が輝き、なんとなく、ポカポカした陽気だった。

ミウは、携帯で、サトルにメールを送った。

「今、電話して大丈夫ですか?」

と、書き送ると、少しして、メールが返ってくる。

「大丈夫です」

と書いてあったので、早速ミウはサトルに電話をかける。


「おはよう。サトル、元気にしてた?」


と、ミウが言うと、


「うん、ちょっと今、メールを書いていたんだ」


と、サトルは言う。


「へー、そうなの?」


と、ミウは言う。


「メール書くの、学生の頃から好きで・・・最近思っていることとか、今の自分の状況とか、まとめてメールにして学生時代のテニスサークルの仲間に送ったんだ」


と、サトルは説明する。


「へえ、そうなんだ・・・サトルは文章書くの好きなんだ?」


と、ミウは聞く。


「まあね・・・ま、とるに足らないアホ話だよ・・・それより、今、仕事中じゃなかったの?」


と、サトルが聞く。


「うん。今、荷物の運搬中・・・隣街に運んでいるところなんだけど、太陽がポカポカして、気持ちよかったから、少し川沿いで、休んでいるの」


と、ミウ。


「そうなんだ。気持ち良さそうだね、それ」


と、サトル。


「ねえ、サトル・・・」


と、ミウ。


「なあに、ミウ・・・」


と、サトル。


「サトルは・・・わたしの過去・・・気になる?」


と、ミウは聞く。


「ん・・・うーん、よくわからないな・・・」


と、サトルは答える。


「わからないって、どういうこと?」


と、ミウは聞く。


「うん。聞きたくもあるし・・・でも、嫉妬もしそうだし、でも、知っておくべきかなあとは、思うし・・・いろいろ思っちゃうよね」


とサトルは素直に話す。


「そっか・・・聞かないで済むのなら、それがいいってこと?」


と、ミウが聞く。


「なんて言うのかな。今の僕のココロの状態は、普通じゃないから・・・多分、ミウの人生をすべて受け止めるのは、まだ無理なのかなって、思ってるんだ」


と、サトルは素直に言葉にする。


「今、僕は壊れているし、こころへの負荷が一番、駄目らしいし・・・良くなったら、その話、聞かせて?駄目?それじゃあ」


と、サトルは言う。


「ううん。そうだったね。今、サトルは療養中だもんね。わかった。うん。すごくよくわかった」


と、ミウは言葉にする。


「ごめんね。僕も「鬱病」は初めての経験だから、どうなったら、治るのか・・・まだ、よくわからないんだ」


と、サトルは言葉にする。


「そうだよね・・・そんな状況の時に、変なこと聞いて、ごめんね」


と、ミウは言葉にする。


「ううん、いいんだ・・・でも、今わかったよ・・・僕がミウの・・・過去の話を受け止めようと決意出来た時が・・・僕の「鬱病」の治る時だって」


と、サトルは言葉にする。


「うん・・・そうだね・・・それを聞かせて貰っただけでも、今日は電話した意味があったわ・・・」


と、ミウも言葉にする。


「ねえ、今、「月夜野」は、どんな風景なの?」


と、サトルが聞く。


「うん。太陽がポカポカしていて・・・川の流れはキラキラしていて・・・風は無いかな・・・川の流れの音が気持ちいいの」


と、ミウは答える。


「気持ちよさそうだな・・・そんな場所で、ミウの作ってくれたお弁当でも食べながら、おしゃべり出来たら、楽しいだろうね」


と、サトルは答える。


「そうね。サトルだったら、お弁当のおかずは何がいい?」


と、ミウが質問する。


「そうだな・・・鶏の唐揚げとか、あとタコさんウインナーでしょ、玉子焼きと、ノリを巻いたお握りかな。あとお漬物」


と、サトルが答える。


「うん、なんか、男の子が好きなものばかりって感じね」


と、ミウは目を細めて嬉しそうな笑顔。


「最近、外に出られるようには、なったけど・・・正直まだ、ひとが怖い。外に出るのも少し恐怖感があるんだ」


と、サトルは正直に言う。


「絶対的に信頼出来るひとに会う場合は、決断出来るけど・・・まだ、正直怖いんだ。それ以外じゃ、近所のコンビニに行くのも怖いんだ」


と、サトルは言う。


「焦らないで、サトル・・・少しずつ治していけばいいんだから・・・」


と、ミウは言う。


「うん。わかってる・・・ミウにそう言われると元気が出るよ・・・」


と、サトルは言う。


「そろそろ切るよ・・・ミウの仕事の邪魔しちゃいけないし・・・」


と、サトルは言う。


「うん。気を使ってくれて、ありがと・・・わたしも、お仕事がんばるから・・・」


と、ミウが言うと、


「うん。じゃあ、また、電話待ってるから。じゃあね、ミウ」


と、サトルが言って、電話は切れた。


「サトル・・・もしかしたら・・・わたしと話すのも、辛いのかしら・・・」


と、ふと、そのことに気づくミウ。


「そうか、サトルは必死にリハビリしているんだ、あたしで・・・」


と、言葉にするミウ。


「がんばって、サトル・・・わたしで良ければ、全面的に協力するから」


と、言葉にしたミウ。


そこから見える川の流れは、穏やかだった。



その日の夜、


「・・・っていうことがあったの、今日の午前中・・・」


と、ミウはヨウコにサトルの顛末を詳しく話した。


二人は、いつものバー「Mirage」で飲んでいた。


「そっか・・・サトルって、随分がんばり屋なのか?」


と、ヨウコが聞く。


「自分のことを糞がつくくらい馬鹿真面目なところがあるって言ってたわ」


と、ミウが言う。


「多分、ミウの為に、必死でがんばってるんだよ、サトルの奴・・・」


と、ヨウコが言う。


「そうね・・・だから、わたしもサトルを信じて・・・それしか私に出来ることは、ないわ・・・」


と、ミウが言う。


「俺さ・・・実はちょっといろいろ考えてさ・・・ミウは「月夜野」の街が「母の懐」だって言ったろ?」


と、ヨウコが言葉にする。


「うん、言ったわ・・・」


と、ミウは言う。


「俺たち、二人とも目標を持った方がいいんじゃねえかって、思ったんだ」


と、ヨウコは言う。


「目標?」


と、ミウは言う。


「目標を持って・・・それを実現することで、この「月夜野」の街を卒業するんだよ」


と、ヨウコが言う。


「「月夜野」を卒業?」


と、ミウが言う。


「女にとって、夢ってのは、誰か恋しい相手と結婚するか・・・自分なりの仕事をやるかのどっちかだろ?」


と、ヨウコが言う。


「そのどちらかを実現させるんだよ・・・俺たち二人共・・・そこに照準を合わせて、これから生きていこうって、そう考えたのさ」


と、ヨウコが言葉にする。


「ミウはよー・・・サトルとの結婚をターゲットにすればいいじゃんか。サトルが鬱病から治る・・・まず、それが先決だけどな」


と、ヨウコが言葉にする。


「わたし、ずっと考えていたんだけど、サトル・・・鬱病から治っただけじゃ、駄目だと思うの」


と、ミウが言葉にする。


「どういうことだ?」


と、ヨウコ。


「だって、サトル会社に行きたがらないもん・・・元々サトルは脱サラ指向だったし・・・何か彼に・・・彼だけに出来る仕事を探さなきゃいけないと思うの」


と、ミウは言葉にする。


「サトルだけが出来る仕事ねー・・・」


と、ヨウコ。


「ヨウコはどうするの?何をターゲットにする気なの?」


と、ミウが聞く。


「難しいとは思うけどよ・・・やっぱ男かな」


と、ヨウコは言葉にする。


「俺に出来る仕事なんて、たかが知れているしよ・・・ソープには絶対に戻る気はねえし・・・となりゃあ、男でも捕まえる以外、手はねえよ」


と、ヨウコは言葉にする。


「でも、ヨウコには愛する男性がいるんじゃなかったっけ?」


と、ミウが言葉にする。


「田中か・・・あいつは俺から逃げた男だぜ・・・それに俺がここにいるなんて、わかるわけねーしさ」


と、ヨウコは言葉にする。


「今度はもっといい男を探すよ。全力でな」


と、ヨウコは言葉にする。


「そうね、それがいいかもね・・・」


と、ミウは言葉にする。


「それより、わたし、どうしようかな・・・」


と、ミウはため息と共に言葉にする。


「おまえ・・・フリーの編集者とか、そういうの出来ないのか?」


と、ヨウコが言葉にする。


「実績ゼロよ・・・それに・・・」


と、ミウは言葉に詰まっていた・・・。


「編集者に戻れない理由もあるのよ・・・」


と、ミウは悲しそうな表情で、言葉にしていた。


そんなミウを不思議そうに眺めるヨウコだった。


「へ・・・おまえにも、まだ、俺に言えてないネガティブがあったのか・・・」


と、苦笑するヨウコ。


「・・・おまえにも、ってことはヨウコにも、隠してるネガティブがあるの?」


と、ミウは聞く。


「俺がこの「月夜野」に逃げ込んだ最大の理由はよ・・・その道じゃ、有名な「女衒」の男から逃げたかったってのも、あるんだよ」


と、ヨウコは言葉にする。


「女衒・・・?」


と、ミウはよくわからない。


「人買いの男だよ。一度その男に見出されたら・・・骨までしゃぶりつくされる・・・伝説の男が俺に目えつけやがって、うっとおしいから、逃げてきたってわけよ」


と、ヨウコは言葉にする。


「その男の名前は?」


と、ミウは聞く。


「「女衒のテツ」・・・あいつにはもう一切関わりたくない・・・その名前すら口にしたくねーぜ・・・」


と、ヨウコは不快な表情をする。


「その男に見つかる前に、自分の人生に目鼻つけてえんだよな・・・」


と、ヨウコは言葉にした。


ヨウコは少し遠いところを見るような目つきをしていた。


ミウはそんなヨウコを少しやさしい目で見るのだった。



つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(21)

2013年12月17日 | 今の物語
月曜日の夜、

「っていう話だったの・・・」

と、ミウはヨウコにサトルの顛末を詳しく話した。


二人は、バー「Mirage」で飲んでいた。

最近、二人で飲む機会が増えていた。


ミウはヨウコに自分に似たモノがあることを感じていたし、似た境遇の二人は分かり合えることも多かった。


「そんな仕事じゃ、壊れるのも当たり前だよ。早く辞めた方がいい・・・そんなに死ぬほど仕事しなくても、やりがいのある仕事は絶対にあるはずだ」

と、ヨウコは我が事のように言ってくれる。

「なんだか、ミウに毎日のように、サトルって奴のことの相談受けてたから・・・俺まで心配になってきたよ・・・」

と、ヨウコは言い訳をする。

「でも、サトルって、悪い奴じゃねーみたいだな。それによ、そういう大きなネガティブにやられて・・・そっから戻ってきた奴は強くなるぜ」

と、ヨウコは言う。

「俺もさ・・・ソープの世界で、のしてきて・・・ドンドン人間的に強くなっちまったし、その分、やさしくもなっちまったよ・・・」

と、ヨウコは言う。

「この間話した・・・俺が好きになった男・・・田中って言うんだけど・・・あんなチンケな野郎を真剣に愛しちまうんだから、俺もやさしくなりすぎたぜ」

と、ヨウコは言う。

「マスター、ブラッディ・マリーくれや」

と、ヨウコはマスターに注文する。

「わたし、ホワイト・ロシアン」

と、ミウも注文する。

「ミウ、酒つええからなー」

と、ヨウコはミウの酒の強さにだけは舌を巻いている。

「カルーアを使ったカクテルってのは、アルコールつええから、カルーア使って、甘くして、女性を騙しているカクテルなんだぜ」

と、ヨウコは説明する。

「でも、わたしは、これくらいがちょうどいいかな」

と、ミウも言葉にする。

「まあ、いいや・・・でもよ、きついネガティブから復活してきた男は成長するぜ・・・サトル・・・大きな男に成長するぜ、きっと」

と、ヨウコは言葉にしている。

「うん、それは、なんとなくわかる気がする・・・わたしもここに居て・・・自分が、強くなっているような気もするから」

と、ミウは言葉にしている。

「わたし、最初は逃げ出して来たのよ。ヨウコと同じように・・・わたし実は出版社にいたの・・・東京の・・・」

と、ミウは少しずつ、触れたくない過去の説明を始める。

「なんて、出版社?」

と、ヨウコは聞く。

「清潮社・・・そこで、編集者をやっていたわ・・・」

と、ミウは答える。

「でっけー出版社じゃん、そこ・・・」

と、ヨウコも答える。

「馬鹿だったのよね。っていうか、完全に「学級委員脳」で・・・ある小説家に恋をして、自信家の男がわたしにだけ弱い面を見せてきたの・・・それで恋に落ちちゃって」

と、ミウは説明する。

「あれ・・・それちょっと前にテルさんが言ってた話に似てないか?自信家の男が真面目な女性を恋に落とすテクニックみたいな話・・・」

と、ヨウコが指摘する。

「テルさんの話聞いてて、実はビックリしてたの・・・まるで、わたしだわって・・・」

と、ミウは言う。

「「この男を助けられるのは自分しか居ない」・・・完全にそう思ってた・・・ある意味有頂天だったの・・・でも、その男には隠し妻がいて・・・」

と、ミウは説明する。

「この妻がすごいチカラを持っている女性だったの。結局、わたしは不倫してたことになって、それからなんやかんやあって出版社をクビ・・・」

と、ミウは説明する。

「どうにもならなくなって、実家に逃げ帰ったけど・・・不倫の噂は地元にまで届いていて・・・それから不幸も重なって、実家にもいられず・・・ここに逃げてきたの」

と、ミウは説明する。

「ここに逃げ込んできた時は、わたし、身も心もボロボロだったわ・・・多分、サトルも独身寮に逃げ帰った時、そういう状況だったんだと思う」

と、ミウは説明する。

「そっか・・・そっか、何かわかってきたわ・・・」

と、ミウはホワイトロシアンを口につけながら言葉にする。

「わたしもヨウコもサトルも・・・皆大きなネガティブから緊急避難的に脱出してきたのよ・・・そして、それぞれの安住できる場所で、療養してたんだわ」

と、ミウは言葉にする。

「へーってことは、「月夜野」は・・・逃げこむ場所じゃなくて、療養する場所か?」

と、ヨウコは言葉にする。

「多分、「母の懐」みたいな場所なのよ・・・サトルにとっては藤沢の独身寮が・・・わたしとヨウコにとっては、この「月夜野」こそ「母の懐」なのよ・・・」

と、ミウは説明する。

「だから、皆、元気になったら、この街から巣立っていく・・・そういうことなんだわ・・・素敵な街なのよ・・・だってわたしたちに勇気をくれるんだもん」

と、ミウは説明する。

「しかしよー、ミウ。俺もおまえが、「なにかしでかして、この街に逃げ込んできた人間だ」くらいの事はわかってたけど、お前、その小説家、愛してたんだろ?」

と、ヨウコはそっちの話に食いつく。

「うん、本気で、愛してた」

と、ミウは言葉にする。

「それに、その小説家は、結婚していることを、お前に、隠してたんだろ?だったら、お前の行動にやましい所なんて一切無いじゃねえか・・・」

と、ヨウコは言葉にする。

「まあ、そうかもしれないけど・・・人生経験豊富なヨウコならわかってもらえると思うけど・・・この話・・・サトルはどう思うかなって思って・・・」

と、ミウは少し憂鬱な顔をする。

「サトルって、童貞じゃねーよなー?あのルックスだし、スポーツマンだし、モテるタイプだろ、あれ」

と、ヨウコは言う。

「過去に恋人は、何人かいたみたい・・・詳しくは語ってくれないけど・・・わたしもあまり聞きたくないしね。やっぱり、当然嫉妬しちゃうし・・・」

と、ミウは言う。

「女性に抱かれるのは得意です・・・とか、なんとか、変な事言ってた事あるなあ、サトル・・・」

と、ミウは言う。

「俺、時たま思うんだけど、サトルって、アホじゃない?本格的な?」

と、ヨウコが言う。

「うん・・・同じアホなら、踊らにゃ損損ってタイプのアホよね」

と、笑うミウ。

「でも、男はアホが一番だぜ、きっとよ」

と、ヨウコも笑っている。

「要はおまえのネガティブを、サトルが受け止めきれるかって事だよな・・・」

と、ヨウコは真面目に言っている。

「うん、彼、まだ、そのあたり、幼いところがあるから・・・言わない方がいいかな・・・」

と、ミウは真剣に考えている。


「俺さ・・・最終的には、高級ソープって言われるところにいたんだよ。客から、一回10万とか、それくらい取るところ・・・」

と、ヨウコが話す。

「へー、すごいんだね。でも、ヨウコはすごく美しいし、スタイルバツグンだし、色も白いし、ハーフだし・・・それは当たり前なんだろうね」

と、ミウが言葉にする。

「ま、そんなにすごいもんじゃねーけどさ」

と、照れるヨウコ。

「でも、一回10万円って、すげー金じゃん。俺なんかにそんだけ払うなんて、最初信じられなくてよー・・・」

と、ヨウコが話す。

「でもよ、仕事って、麻薬みたいなもんでよ・・・感覚がおかしくなってくるんだよ・・・1日に5,6人客相手するんだけどな」

と、ヨウコが話す。

「やっぱり、それだけ払って、俺を抱きに来ているんだから、俺も楽しみたいし、相手にもすっごくハッピーになって欲しいんだよな」

と、ヨウコが話す。

「男っていろいろな人生があるじゃん。どう見たって、風采のあがらない、安月給の男が無理して俺を抱きに来てるのわかるんだよな」

と、ヨウコが話す。

「そういうの見ると、俺、たまらなくなってよ・・・つい、やさしくしちゃうし、本気で相手しちゃうし、本気で感じちゃったりして・・・サービスしすぎな俺だったよ」

と、ヨウコが話す。

「そんな俺だってよ・・・15歳くらいの頃は、好きな男に自分の操を捧げるんだって、本気で思ってたぜ」

と、ヨウコは話す。

「もう、その頃は俺はヤンキーだったけど、ヘッドの男を好きになって、ラブラブになって・・・16歳で、その操を捧げたけど・・・」

と、ヨウコは話す。

「浮気な奴でさ。モテるから浮気するし、身勝手な奴だったよ・・・結局、大喧嘩して別れて・・・でも、あいつすぐ別の女と出来てた・・・それが悔しくてさ」

と、ヨウコは話す。

「でも、ソープなんかやり始めちゃうと、操とか、関係なくなっちゃうんだよ。いつの間にか強くなっちまって、相手にやさしくしてやりたくなっちまってよ」

と、ヨウコは話す。

「多分、世の女性からすりゃあ・・・俺なんて、生き地獄にいた・・・そう思われていると思うよ。だけど、俺からすりゃあ、人生つらいばかりの男を救ってた感じだよ」

と、ヨウコは言う。

「俺を抱きに来る男は・・・人生屑みたいな男ばっかりだったよ・・・こいつ女性に一度もモテた事ねえんだろうなって、奴ばっかでさ・・・いっつも苦笑してたよ」

と、ヨウコは話す。

「まだ、安いソープにいる頃・・・もっと酷かったなー。だけど・・・だからこそ、気持ちよくなって帰って欲しくて、がんばってたんだぜ、俺」

と、ヨウコは話す。

「男性を歓ばすテクニックみたいなモノはあるの?」

と、ミウが聞く。

「腰を大きくグラインドさせてやるんだよ。上下左右によ・・・そうすっと、もう、悦楽の表情よ。そういう男は経験が乏しいから、それだけでイッちゃうぜ。普通に」

と、ヨウコは言う。

「まあ、舐めてあげただけで、イッちゃう奴もいたし、ちんちんなんて、小指の先程もねえ奴もいたぜ。そういう奴は口でイかせるしかねえけどよ」

と、ヨウコは言う。

「そう言う奴って、決まって俺に聞くのさ。「お姉さん、俺、小さいのかな?」って・・・だから、「いや、皆と変わらないよ」って言うと、嬉しがってさ」

と、ヨウコは言う。

「皆、いろいろなコンプレックスを抱えて生きてるよ。女性にモテない奴って、仕事も出来ねえ男が多いんだよ。人生つらくて・・・そんな奴が愛おしくてさ」

と、ヨウコは言う。

「そんな奴ばっかり見てたから・・・そういう男性が愛おしくなっちゃったんだろうな。俺が人生しあわせにしてやるって思っちまってさ」

と、ヨウコは言う。

「だってよ・・・好きな女とエッチ出来てりゃ、男はしあわせだろ?俺が稼いで男食わして、エッチも満足させて・・・それでしあわせじゃねーかって思ってたよ、長く」

と、ヨウコは言う。

「感覚が麻痺してたんだよ・・・それが好きな男が出来て、俺がソープ嬢やってることがそいつの不幸になった事を知って・・・落ち込んでさ・・・」

と、ヨウコが言う。

「なんだろう。そいつが俺の前から逃げ去って・・・その時俺は初めて・・・自分が間違っていることに気づいたんだ・・・感覚が麻痺していたことにも、気づいた」

と、ヨウコが言う。

「俺は落ち込んで・・・ソープの世界から足を完全に洗って・・・それでこの街に逃げてきた・・・そういうことさ・・・」

と、ヨウコは言う。

「そのヨウコの話・・・サトルが言っていた・・現場にいると、感覚が麻痺するって話と同じ感じがする・・・」

と、ミウが指摘する。

「システムエンジニアとソープ嬢の仕事は同じってことか?っていうかさ、仕事に真面目に徹しちゃうから、感覚が麻痺しちゃう・・・そういう話なんじゃね?」

と、ヨウコが指摘する。

「要は、俺も、ミウも、サトルも真面目な仕事人間の日本人だから・・・その弊害にあったってことなんじゃね?」

と、ヨウコが指摘する。

「ま、ソープ嬢やってた女なんて・・・まともな男は相手してくれない・・・そんな現実にも気づけたしな・・・やっと普通の感覚に戻れたんだよ。悲惨な現実もわかった」

と、ヨウコは言う。

「でもさー・・・そんなにいけない事なのかなあ?だって、お互い止むに止まれぬ事情があったんじゃない、わたしたち・・・」

と、ミウが言う。

「男性と情を交わすことがそんなにいけないこと?愛情豊かなひとなら、情を交わしたいって思うのは、必然のことじゃない?」

と、ミウが言う。

「それは、俺もそう思うけどさー・・・」

と、ヨウコが言う。

「もちろん、エッチは握手とは違うけど・・・女性は一瞬一瞬を真面目に生きているわ・・・その瞬間相手を好きになったら、情を交わしたいって普通に思うじゃない?」

と、ミウが言う。

「ヨウコだって、相手の人生を考えて、やさしくしてあげたいって思ったから、サービスしてあげたんでしょ?相手は絶対その瞬間しあわせを感じてたはずでしょ?」

と、ミウが言う。

「まあな・・・それはそうだと思う」

と、ヨウコが言う。

「わたし・・・ヨウコは天使に見えたと思うよ。そういう男性達からすれば・・・」

と、ミウが言う。

「「見返りを求めない無償の愛」で、笑顔でそういう男性達を相手にしてきたヨウコは、そういう男達からすれば、絶対の天使よ。素敵な女神様だわ」

と、ミウが言う。

「まあな・・・うん」

と、ヨウコが言う。

「大人になれば・・・誰だって、好きな異性と情を交わすわ。エッチだって、何度だって経験するわ。その本人が素敵なひとなら、なおさらじゃない」

と、ミウが言う。

「素敵な大人になれているからこそ、何度もエッチを体験するし、エッチの相手になれるのよ。つまり、エッチの相手に選ばれるってことは、その人の勲章でしょ?違う?」

と、ミウが言う。

「それはそうだと思うぜ」

と、ヨウコが言う。

「ヨウコみたに無償の愛を持っていて、それだけ美貌だったら、たくさんの男性に愛される、エッチもしたいって思われる、これは当然よ。素晴らしいことだと思うわ」

と、ミウが言う。

「わたしだって、自分の存在すべて賭けて、相手を愛した。求められれば何度でも情を交わしたわ・・・それは嘘偽りの無い、自分の気持ちに従ったからよ」

と、ミウが言う。

「素敵な大人になれているからこそ、異性に求められるの・・・その経験が多くなるの・・・それ、何かおかしい?恥ずかしがるモノ?」

と、ミウが言う。

「いや、恥ずかしがるモノなんかじゃない。むしろ、誇るべきものだ」

と、ヨウコが言う。

「そうよ、もちろん、わたしも、誇るべきだと思う。もちろん、相手がわかってくれる・・・そういう大人の人間であることが絶対条件だけど・・・」

と、ミウが言う。

「というか・・・わたし、その瞬間、瞬間に「純情」だったからこそ、恋が出来るんだと思う。それが本当の「純情」ってものじゃなあい?」

と、ミウが言う。

「ふ。そうだな・・・瞬間瞬間、俺も「純情」だった。「純情」だからこそ、相手を心から愛せたし、しあわせを感じさせることが出来たんだ。それこそ「純情」の正体だよ」

と、ヨウコが笑顔で言う。

「毎秒、「純情」だったからこそ、しあわせだったのよ・・・わたしたち・・・」

と、ミウが結論的に言う。

「その「純情」なわたし達が相手を愛するから・・・それが本当の「純愛」になるんだわ・・・「純情」だからこそ「純愛」になれるのよ・・・」

と、ミウは言葉にする。

「ヨウコもわたしも、一生懸命「純愛」をしてきたのよ・・・」

と、ミウは言葉にした。


「ミウの言うこと・・・俺にはよくわかる。わかりすぎるほど、わかるよ。お前は俺だ・・・今確信した・・・」

と、ヨウコは言うと、ミウに握手を求めた。

「ヨウコ・・・あなたこそ、わたしだわ」

と、ミウもヨウコと握手し、そして、ヨウコをハグしていた。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(20)

2013年12月17日 | 今の物語
ミウへのサトルの電話が無くなって・・・長い時間が経っていた。


それはある天気のいい日曜日の午前中だった。10時少し前・・・ミウは自宅アパートで、なんとなくボーっとしていた。


ぷるるるる・・・と、ミウの携帯電話が鳴る。


相手表示に「鈴木サトル」の文字が表示された。


ミウは急いで携帯に出る。


「もしもし、サトルくんなの?」


と、ミウが言葉にすると、


「ええ、ミウさん、サトルです・・・」


という言葉が返ってくる。


「よかった・・・心配したのよ、サトルくん・・・」


と、ミウは心底ホッとしたように言葉を出す。


「自殺でもしたかと思いました?」


と、サトルは言葉にする。


「ええ・・・正直思ったわ・・・あまりの忙しさに、サトルくん、自殺しちゃったんじゃないかって・・・」


と、ミウは言葉にする。


「電話が無くなる、直前の頃のサトルくん・・・少しノイローゼ気味な感じがしていたから・・・」


と、ミウは言葉にする。


「そう感じてましたか・・・ご心配をおかけしましたね・・・でも、僕は自殺はしませんよ・・・ただ・・・それに近いことになってるかな・・・」


と、サトルは言葉にした。


「サトルくん・・・自殺に近い状況って、どういうことなの?」

と、ミウは戦慄しながら、言葉にする。

「有り体に言えば・・・バックレたんです。仕事を・・・」

と、サトルは言葉にする。

「気がついたら、仲間に「父が危篤だ」って嘘言って、名古屋から自分の独身寮に逃げ帰ってたんです」

と、サトルは言葉にする。

「サトルくん・・・」

と、ミウは言葉に出来ない。

「僕の仲間は僕が早くに母親を亡くしているのを知っていたので・・・父の危篤話は、僕が現場を離れるのに十分な言い訳になりました」

と、サトルは言葉にする。

「そして、すぐに課長に電話して・・・嘘をついた事を謝り・・・精神的にボロボロになっている事を話したら、次の日に、産業医に診察を受けるよう指示されて・・・」

と、サトルは言葉にする。

「産業医の見立てでは「鬱病」・・・数ヶ月以上の加療が必要・・・僕はそれ以来、近所の心療内科に通い・・・休職している・・・そういう状況です」

と、サトルは自分の状況を客観的にミウに報告した。

「システムエンジニアの現場を離れて・・・かれこれ、一ヶ月になりますが・・・やっと最近精神的にも安定してきて・・・やっと電話が出来るようになったんです」

と、サトルは過去、けっこうひどい状態だったこともミウに明かした。

「そうだったの・・・そんなことがあったの・・・」

と、ミウは相槌を打つので瀬一杯だった。


「ミウさんの住んでる場所の空って、今、何色ですか?」

と、サトルが突然聞いてきた・・・なんとなく、いつもより、のんびりした感じで、言葉が出てくる。

「僕、久しぶりに空を見たんです・・・僕の独身寮の部屋って・・・南向きで・・・窓から江ノ島が見えるんです。全景が・・・」

と、サトルは少しのんびりとした雰囲気でしゃべっている。



「その江ノ島を見ながら、いつもがんばってきた僕がいた・・・でも、今日は空が見えたんです・・・・湘南の空が・・・」

と、サトルはのんびりとしゃべっている。

「名古屋の空に比べて・・・随分と明るくて青いことに気がついて・・・そんな事にも気づけない程、僕は切羽詰まった生き方をしてきたんだなあって今気づきましたよ」

と、サトルは少し笑っているよう。

「ミウさんの住んでいる街は・・・月がきれいなんでしたよね?」

と、サトルは言う。

「うん、わたしの住んでいる街は「月夜野」って言う街なの・・・」

と、ミウは明かしていなかった、自分の住む街の名を明かした。

「へー、ロマンチックな地名ですね。「月夜野」・・・」

と、サトルは言う。

「そう思う?実際、月は綺麗に見える場所よ・・・少し離れたところに丘があって・・・そこから見える月が一番綺麗かなあ・・・」

と、ミウは言う。

「僕の住んでいる街は藤沢です。最寄り駅は藤沢本町・・・小田急線で藤沢から北へ一個の駅で・・・海からの、気持ちのいい風が吹き抜けていく街ですねー」

と、タケルは言う。

「仕事から一ヶ月も離れたことが無かったんで・・・なんだか変な感じがしますよ。というか、いろいろな束縛から少しずつ自由になっていく感じです」

と、タケルは言う。

「現場から逃げ出した直後は、罪悪感で一杯で・・・皆大変でもシステムエンジニアの仕事をやってるのに、僕だけバックレて・・・何やってんだって自分を責めて」

と、タケルは言う。

「サトルくん、それは仕方ないわよ・・・あの仕事量は尋常じゃなかったもの・・・私の友達も言ってたけど、普通逃げ出すわ・・・」

と、ミウが言う。

「そうですね・・・今の僕は自然にそう思えるようになりましたけど・・・一ヶ月くらい前の僕は自分を責めて責めて・・・結果、誰にも会えなくなりました」

と、サトルが言う。

「周囲すべてが僕を嫌っているように非難しているように感じて・・・怖くて怖くて独身寮のベッドの上で体育座りして、ブルブル震えていました」

と、サトルは言う。

「電話も怖くて出れない・・・外になんか行けるわけがない・・・他人はすべて僕を非難している・・・そう感じてしまって・・・典型的な「鬱病」の症状でした」

と、サトルは言う。

「それでも・・・時が経つに連れて、少しずつ呪縛が解けて・・・僕は悪いことをしたんじゃない・・・まともな人間だったから、ああいう反応になったんだって思えて」

と、サトルは言う。

「少しずつ、自分も変わってこれて・・・やっと人とまともに話せるようになった・・・そういうことなんです・・・」

と、サトルは言う。

「空をのんびりとした気持ちで見れて・・・風を感じられて・・・太陽の光の素晴らしさに感動出来るようにまで、回復しました・・・やっとです」

と、サトルは言う。

「おかえり・・・サトルくん・・・サトルくんは、システムエンジニア病だったのかな?」

と、ミウが言葉にする。

「そうですね。多分そうです・・・僕は毒されていた・・・正常な感覚では、無かったですよ・・・今考えてみれば・・・」

と、サトルはため息をつきながら、そんな言葉にする。

「僕・・・最後の方は、「なんでこんな思いまでして、こんなに日々働かなくてはいけないんだろう?」ってずーっと思っていました」

と、サトルは言う。

「でも、周囲は皆がんばってる人間ばっかりだったんです。そんな場所で、「俺だけやーめた」ってどうしても言えなかった・・・」

と、サトルは言う。

「それは駄目な人間のすることだ・・・僕の「学級委員脳」の頭がずーっとそう主張していて・・・でも、ある時、もうひとりの僕が言ったんです」」

と、サトルは言う。

「「お前、その場所にいたら、殺されるぞ・・・それでもいいのか?お前はその会社にいる限り、しわせになれないぞ・・・それでもいいのか?」って・・・」

と、サトルは言う。

「僕はその言葉を聞いた瞬間に、現場から離れる決心をしたんです。勇気のいる事だったけど、とにかく僕は自分が大事だった・・・緊急避難的行動です。今考えれば」

と、サトルは言う。

「結果オーライだったと僕は思っています。今は・・・ああするしか他はなかったし・・・ああして、良かったと思っていますねー」

と、サトルは言う。


「まあ、でも、当分休職ですから・・・ちょっと新たに自分のこれからの人生を考え直したいと思います。もう、あそこには帰りたくないんで・・・」

と、サトルは言葉にする。

「サトルくん、脱サラ志望だったのよね?」

と、ミウが言葉にする。

「そうです。だから、改めて脱サラの道を考えていこうって、そう考えて・・・ミウさんも手伝ってください・・・」

と、サトルは言葉にする。

「わたしでよければ喜んで・・・あなたがいない間ずっと心配で、ずっと寂しかったんだから・・・」

と、ミウは言葉にする。

「サトルくんの大切さをしみじみと味わったから・・・」

と、ミウも言葉にしている。

「そうですか・・・それは僕的にも、よかったことのように思えます・・・」

と、サトルも言葉にしている。


「でも、ミウさん・・・今の僕にも、出来ることはあるんですよ!」

と、サトルは言う。

「え、なあに?」

と、ミウは言う。

「もし、ミウさんが・・・ミウさんの友達の方でもいいですけど・・・何か困ることがあったら、僕に言ってください。どうにでも、できますから」

と、サトルは自慢気に言う。

「え、どういうこと?」

と、ミウは不審げに聞く。

「僕のいとこがちょっとオールマイティーで・・・政府の仕事すら、やってるみたいで・・・「何かあったら俺に言え」って言ってくれてるんです」

と、サトルは言う。

「へー、そんなすごい、いとこがいるんだ。サトルくん」

と、ミウは感心する。

「ま、僕がすごいんじゃなくて、いとこがすごいんですけどね」

と、サトルは笑った。

「うん。じゃあ、何か緊急に頼みたいことがあったら、言うね、その時に」

と、ミウが言う。

「はい。僕もミウさんの為に、常にチカラになりたいと思っているんで、いつでも、言ってください。それ、すごく嬉しいと思うし、僕自身」

と、サトルは言った。


「でも、「月夜野」の街かあ・・・いつかその場所へ行って・・・ミウさんと手をつないで、丘の上から月を見てみたいですね・・・」

と、サトルが何の気無しに言う。

「そ、それは・・・そ、そうね・・・それが出来たら、いいわね」

と、ミウは言葉にする。

「ミウさん、僕を助けてくださいね・・・ミウさんと会話を交わしながら、僕は自分を治していきたいと思っているので・・・」

と、サトルは言葉にした。

「そうね・・・休職してるってことは、電話出来る時間がたくさん増えたことになるし・・・今はゆっくり休んで一緒に治していこう・・・今のサトルくんを・・・」

と、ミウも笑顔になった。

「もう二度とあんな生き地獄に戻るつもりは、僕にはありません・・・」

と、サトルは素直な自分の気持ちを吐露するのだった。

「もう二度と・・・」

と、サトルはもう一度、強い気持ちで言い直した。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(19)

2013年12月16日 | 今の物語
「俺、大学続けられなくなったって、話したろ?」

と、ヨウコは話を続けている。

ミウとテルコはコクリと頷いた。

「俺んちは・・・米兵だった父親が戦場で死んで・・・その恩給で食べてたんだ」

と、ヨウコは話す。

「それと俺のお袋が横須賀基地で働いていてよ・・・それで俺を大学に行かせてくれたんだが・・・お袋体調崩してよ・・・」

と、ヨウコは話す。

「それが元であっけなく亡くなっちまって・・・だから、親父の恩給も支給停止になるだろ・・・さらにお袋俺に内緒で、けっこうな額の借金していてよ・・・」

と、ヨウコは話す。

「とにかく、いきなり収入は無くなるは、借金はみつかるわで、もうどうにもならなくて・・・大学辞めてソープで働いたんだ」

と、ヨウコは話す。

「これでもナンバー1を何度も取ったんだぜ・・・ま、ひとに言える話じゃねーけどさ」

と、ヨウコは話す。

「東京の有名店は、けっこう回ったよ・・・引き抜き引き抜きでさ・・・だから、客もたくさんいて・・・ファンも多くてさ」

と、ヨウコは話す。

「その頃だよ・・・男に金持ち逃げされたのは・・・まあ、その時点で、残りは600万円以上あったけどな」

と、ヨウコは話す。

「まあ、でも・・・その時にホスト遊びを覚えちまって・・・金なんてすぐに無くなった・・・それでも、自分で稼げばいいって、派手に遊びまわったよ」

と、ヨウコは話す。

「そんな俺が変わったのは、あるサラリーマンに出会った時だ・・・」

と、ヨウコは話す。

「どこか影のある、気の弱いサラリーマンの男でさ・・・そいつが客で来たんだけど・・・そいつ二回目も俺を指名してくれて・・・こっちだって満更じゃなくてさ」

と、ヨウコは話す。

「そいつはひと月に一回、月給が出ると、来てくれるんだよ。そんなに裕福なサラリーマンじゃない・・・むしろ安月給のサラリーマンだよ。着てる服とか見りゃわかる」

と、ヨウコは話す。

「奴にすりゃあ、俺と寝るのは、贅沢な遊びなんだよ。ちまちました奴だけど・・・なんか、ほっこり暖かい奴で・・・来るようになって一年後、始めて客と外で会ったんだ」

と、ヨウコは話す。

「俺の方がそいつを好きになっちまってよ・・・それでつきあってたんだけど・・・エッチだって、してあげてんのに、そいつ義理堅く店に来てくれるんだよ、アホだろ」

と、ヨウコは話す。

「でも、そういう奴が気に入っちまってよ、俺・・・遊びは全部辞めて・・・そいつの為に貯金を始めたんだ・・・でも、そうなってからすぐだったな・・・」

と、ヨウコは話す。

「外で奴とデートしている時に、昔の客に声をかけられちまって・・・俺、こいつと寝たことあるぜって、目の前で堂々と言われて・・・奴もショックだったろうけど・・・」

と、ヨウコは話す。

「それでパーよ。何もかもすべて・・・奴はもちろん、客として来なくなったし、部屋も引き払われていた・・・よっぽどショックだったんだろう・・・」

と、ヨウコは話す。

「俺もそれをきっかけにして、ソープから足を洗ったってこと。で、この街に流れてきたんだ・・・この街なら、静かに隠れていられるかなって思ってな」

と、ヨウコは話す。

「今・・・話しながら、思ったけどよ・・・お前のサトルの今の状態・・・俺を振った男と同じ状態なんだな・・・」

と、ヨウコはミウを見て言葉にする。

「つまり、今の俺とおまえは境遇が一緒ってことだよ・・・ミウ・・・」

と、ヨウコは言葉にした。

「そうだね・・・同じ境遇だね・・・でも、ヨウコの彼は死んでは、いないでしょ?」

と、ミウも言葉にする。

「そうだな・・・ま、可能性がないわけじゃねーけどな・・・」

と、ヨウコも言葉にする。

「だから、ミウ・・・おまえも元気だせよ・・・俺だって空元気だけど、元気な風には見せているんだからよ・・・」

と、ヨウコは言葉にする。

「そうね。うん。元気な風に見せる・・・努力はするわ」

と、少し笑顔の戻るミウだった。

「そっか・・・ヨウコはヨウコなりにわたしを元気付ける為にこの話をしたのか・・・案外この子・・・根はやさしいひとなんじゃない・・・」

と、ミウは思っていた。


「ヨウコとテルさんがいるから・・・私も話しておこうかな・・・」

と、ミウは話しだす。

ヨウコとテルはミウを見る。

「わたし、実は、両親共に亡くしてるの・・・多分、全部わたしが原因・・・」

と、ミウは二人を見ながら話す。

「あれ、だって、姫ちゃん、お母さんが病気だって・・・」

と、テルコは言葉にする。

「あれは、実家でわたしが世話になっていたおばさんが・・・今、病気していて・・・その援助の為のお金で・・・母って言った方が通りがいいかと思って・・・」

と、ミウは言葉にする。

「両親が亡くなってから、そのおばさんに随分世話になって・・・今度はわたしが世話する番だって、思って・・・つい・・・」

と、ミウは言葉にする。

「そのおばさん、よっぽど悪いのか?」

と、ヨウコは言葉にする。

「一時期はかなり悪かったの・・・でも、今は峠は越えたって・・・快方に向かうだろうって、息子さんが連絡してきてくれて・・・」

と、ミウは言葉にする。

「そうか・・・それは・・・少しは朗報があるじゃねえか」

と、ヨウコは言葉にする。

「ええ・・・それだけが朗報かな・・・」

と、ミウは言葉にする。

「姫ちゃん、お父さんもお母さんも亡くなったのか・・・寂しかねえだが?」

と、テルコは言葉にする。

「テルさんとヨウコがいてくれるし・・・それにサトルはわたしの希望だから・・・大丈夫、がんばれます」

と、ミウは言葉にする。

「なんか、死んだ弟が帰ってきてくれたみたいで・・・もう一度、わたし、がんばってみようって思えて・・・だから、がんばれます。わたし」

と、ミウは言葉にする。

「姫ちゃんは強いだが・・・強くなっただが・・・」

と、テルコが言葉にする。


「皆、いろいろあるだが・・・ヨウコはもし、その元カレが・・・ここに訪ねてきたら、どうするだが?」

と、テルコが質問する。

「ふ。来るわけねえじゃん・・・だって、俺がいやで、捨てていったんだぜ、そいつ・・・」

と、ヨウコは一笑に付す。

「だから、もし、来た時の話よ・・・」

と、ミウも言葉にする。

「さあ、その時になってみないと、わからねーな」

と、ヨウコは遠くを見るような目で、そう言った。


同じ頃、八津菱電機鎌倉地区にあるコンピューター製作所の官公システム部第三課課長の飯島コウイチは、携帯電話をかけていた。

「いやあ、久しぶり、わたしだ・・・ちょっといつも忙しいところ、仕事を依頼したくてね・・・うん。まあ、割りと楽しい仕事と言ってもいいかな」

と、飯島コウイチは、久しぶりの相手に楽しそうに電話をしていた。

と、その電話を切った飯島コウイチの背中を叩くのは、官公システム部の部長の林だった。

「例の件、どうだ?」

と、短く聞く林。

「あ、それなら、たった今依頼したところで・・・林さんにも、よろしくとのことでした」

と、飯島コウイチは、笑顔になりながら、話す。

「そうか・・・奴なら、仕事は確実だからな・・・よし、いいだろう」

と、林は納得して、部長室に戻っていく。

「ま、あの一族はそのあたりは優秀だからな」

と、思わず笑顔になる飯島コウイチだった。


藤沢駅南口にある居酒屋「須藤」に鈴木サトルの姿があった・・・その前に座るのは、そのいとこの鈴木タケルだった。

「で、どうだ「鬱病」の方は・・・俺も経験者だから、だいたいわかっちゃいるが・・・ベッドの上での体育座りはもう終わったか?」

と、タケルはサトルに質問している。

「ええ・・・最悪からは随分脱出出来て・・・まあ、他人も怖くなくなりました・・・ただ、八津菱電機の人間だけは、まだ、怖いですね」

と、サトルはタケルに言葉にしている。

「まあ、そんなところだろうな・・・飯島さんから電話が来た時は、ちょっと驚いたけどね。八津菱にいる頃、俺も、ちょっとお世話になったしな」

と、タケルはサトルに言っている。

「タケルさんは、もう八津菱電機からは離れたんですよね?」

と、サトルはタケルに聞いている。

「ああ。今はフリーランスで働いている。まあ、でも、政府の仕事メインで、いろいろやらされているよ」

と、タケルは愚痴るように言う。

「僕、タケルさんにあこがれて、八津菱に入ったんですけどね・・・」

と、サトルは言う。

「だから、システムエンジニアは、人のやる仕事じゃないってあれほど言ったのに・・・」

と、タケルはサトルへ言う。

「でも、遠回りしてでも、コンピューターを学んでおいた方がいいって言ったのもタケルさんですよ」

と、サトルも負けじとタケルに言い返す。

「わかったよ・・・同じ一族なんだから、言い合いはなしにしようや」

と、タケルは言う。

「まあ、でも、せっかく休職させてもらっているんだから、人生について、深く考える時間が出来たじゃん・・・それはよかったんじゃね?」

と、タケルが言う。

「そうですね。それはほんとに、よかったと思います。というか、僕は限界でしたよ・・・あれが・・・」

と、サトルが言う。

「じゃあ、どうする?これから・・・」

と、タケルが聞く。

「わかったのは・・・僕的には主任システムエンジニアには、もうなる気はさらさらない・・・ということです。あれは人のする仕事じゃない」

と、サトルは明確に言う。

「だったら、どうするんだ、これから・・・?」

と、タケルが聞く。

「少しゆっくり考えてみたいと思います。人生について・・・これからの僕の人生について・・・」

と、サトルは言葉にする。

「そうだな。自分の人生なんだから、自分で決めろや・・・責任もってな」

と、タケルは言葉にする。

「そういえば・・・お前、女の方はどうなってる?電話で仲良く話している女性がいるって前回言ってただろ」

と、タケルは言葉にする。

「あ、そうでしたね、前回電話貰った時、話しましたね・・・タケルさん、結構僕の事、心配してくれてたんですね」

と、サトルは言葉にする。

「そりゃ、そうだ・・・主任システムエンジニアなんて、めちゃくちゃ大変だからな。お前がそれに就任したって聞いて、心配になってな」

と、タケルは言葉にする。

「ずっと電話出来ませんでした・・・例の女性」

と、サトルは言葉にする。

「心配しているぜー、そのおんな・・・近々電話してやるんだな・・・迷惑かけたことになるんだから」

と、タケルは言葉にする。

「ええ、それは考えていました・・・僕がある程度元気になったら、説明がてら電話しないとって」

と、サトルは言葉にする。

「ま、今のおまえなら、大丈夫だろうけどな」

と、タケルは言葉にする。


「まあ、サトル・・・言ってくれれば何でも支援するから。人探しから警察的なこと・・・探偵的なこと・・・ガードマン的なこと・・・何でもいいぞ」

と、タケルは言葉にする。

「その気になりゃ、ハッキングだってお手のモノだからな・・・ま、何かあったら、携帯に電話くれや・・・」

と、言っている傍から、タケルの携帯が鳴り出す。

「はい、もしもし・・・え?何それ?マジか・・・わあったわあった・・・それは俺しか出来ないわ・・・1時間くれ、すぐ行く」

と、タケルは携帯を切ると、

「呼ばれちった。また、どっかで、今度はゆっくり飲もう・・・お前が大丈夫そうだってことは、飯島さんに報告しておくから、おまえから報告する必要はないからな」

と、タケルは言いながらバックを担ぐと、

「じゃ、またな」

と、タケルは勘定を払って、店を出て行った。

「お客様・・・先程、お客様に、と・・・この二本のワインをプレゼントするようにと、お代を払っていかれた方が・・・」

と、高そうな白ワインと赤ワインを店員が持ってきてくれる。

「ありがとう」

と、それを受け取ると、

「せっかくだから、腰をすえて飲もう・・・久しぶりの酒だし・・・」

と、静かにワインを飲みだすサトルだった。

「タケルさんは、やっぱりいいな。経験が濃いから、人間がデカイ・・・話しているとこっちまで安心する」

と、サトルは言葉にしている。

「まあ、今日はゆっくり飲もう・・・」

と、サトルは言葉にしていた。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(18)

2013年12月16日 | 今の物語
サトルとミウがメールで繋がってから数週間が経っていた。


サトルは中部国際空港の新システムの主任システムエンジニアとしての仕事が始まっていた。


月曜日の朝4時・・・サトルはベッドから起き上がると、シャワーを浴び、スーツに着替え、着替えその他を入れたバックと仕事用のバックを持ち、

部屋を出て行く。


途中コンビニで、お握りを2つとペットボトルのお茶を買い、最寄り駅から電車に乗って出て行く。

藤沢駅から、小田原駅まで、東海道線に乗り、小田原で新幹線に乗り換えると、1時間50分程で、名古屋駅に着く。

そこから歩いて・・・八津菱電機名古屋支社に出社すれば・・・そこに中部国際空港プロジェクトのプロジェクトルームが整備されていた。


朝9時・・・プロジェクトルームには、主任であるサトルに、ハードウェア部隊のチーフ剣崎シロウ(52)、ソフトウェア部隊のチーフ小田島トオル(43)が揃う。

客先説明チームはこの3名で構成され・・・その時、その時で、サポート部隊が鎌倉からやってくる予定になっていた。


「ま、頼むぞサトル・・・客先の対面はおまえなんだからな」

と、剣崎が話しかける・・・八津菱電機で最もハードウェアに精通している剣崎とは、何度も組んで仕事をした仲だ。

「ま、サトルくん、がんばりましょう」

と、小田島はサトルにやさしく声をかける。

小田島とも長く一緒に仕事をしてきた気心知れた仲だった。


「まあ、とにかく俺たちが絶対的にバックアップするから、まず、客先との信頼関係を築くことから始めることだな」

と、剣崎がサトルにアドバイスする。

「まあ、でも、主任システムエンジニアはとにかく忙しいから、身体を壊さないように、気をつけた方がいい。客先向けだったら、すべての会議に出なきゃいけないしね」

と、小田島も、アドバイスしてくれる。

「すべての会議に同業他社勢が出てくる。F通、NBC、T芝、パナソニー・・・まあ、空港には複数のシステムがあるからな。そいつらと社益をかけて毎日戦争だ」

と、剣崎が言葉にする。

「とにかく皆手強いから、ま、歴戦の猛者達ばかりだから、こちらも最初から勝ちに行く。一歩も引くなよ」

と、剣崎はそのあたり厳しい男だった。

「もちろん、客先との交渉も我が社が有利になるよう・・・そういう言質を取るようにうまく誘導すること・・・サトルが選ばれたのは、そのあたり実に上手いからだ」

と、剣崎はサトル起用の意味を誰よりも知っている。


「まあ、帰りは朝5時なんてのは、ざらだし・・・毎週1日2日は、完徹なんてのも、ざらだからなあ」

と、剣崎が言葉にする。

「やっぱり、そういうことなんですねー」

と、サトルが青くなって言うと、

「ま、慣れるしかないなー」

と、笑う剣崎だった。


その日から怒涛のような毎日が始まった。


月曜日から金曜日まで、会議会議の連続・・・客先での説明は、深夜12時を回ることもざらだった。

さらに次の日の資料を作ったりするのは、その会議の後になるから・・・毎朝4時5時帰りが当たり前。

・・・それでも、朝は8時半に起床し、会社には9時には出なければいけない。

金曜日には、定時で名古屋を出れるが、その足で鎌倉の事務所に戻り、その週で客先と取り決めた設計をシステム設計チームに指示し、そこから完徹し、

土曜日の午後10時過ぎまでが次の週の説明資料作りだった。


土曜日の夜10時に一旦独身寮に帰れるものの・・・日曜日も9時には出社し、夕方5時まで資料作りが続く・・・やっと身体が空くのが日曜日の午後5時以降・・・。


サトルは会社帰りにコンビニで酒の肴を買い・・・日曜日の夜、ささやかな宴を開き、酒を飲むことだけが、ストレス解消法だった。


もちろん、月曜日は午前4時起きだった。


この生活が何ヶ月・・・いや、一年以上続くのだった。


「主任システムエンジニアになったら・・・それは女性と新たに出会うなんて、物理的に無理・・・」

サトルはそんな風に実感していた。


「相変わらず、こんな時間にしかメールを返せなくてすみません。今日も名古屋で、客先説明をしています・・・」

と、サトルはミウにメールをしていた。


お互い親しくなり・・・名前も本名を名乗り・・・本名でメールのやりとりをするようになっていた。


「ミウさんと出会っておいて、よかったです。それが無かったら・・・僕の精神はズタズタになっていたでしょう。あなたの言葉を貰えるだけで随分楽ですから」

と、サトルはメールした。

「そうですか。ほんとに忙しそうであなたの身体が心配になります。でも、ほんとに主任システムエンジニアというお仕事は大変ですね」

と、ミウはメールを返してくれる。

「マジ、そうっす。っていうか・・・俺ちょっと疑問をもっています。こんな生活・・・人間の生活じゃありませんよ・・・こんな仕事がこれからも続くかと思うと」

「なんだか、俺・・・」

と、サトルはメールする。

「大丈夫ですか?精神的に不安になっていませんか?こころをしっかり持ってくださいね。わたしが、あなたを見つめているから、どうかがんばって」

と、ミウからメールが来る。


そんな中でも、サトルとミウのメールのやりとりは続いた。サトルは朝の5時にメールを書く以外時間を取れなかったが、

・・・それでも、ミウと精神的につながっていることはサトルにとって、とても大きかった。


そんなある日・・・ミウの元にサトルからのこんなメールが届いた。


「ミウさん・・・僕、正直限界に来ています。だから、じゃないけど、僕、正直、ミウさん、あなたの声が聞きたいです。携帯番号、教えてくれませんか?」

「それと、電話していい時間を教えてくれませんか?僕、少しあなたに甘えているのかもしれないけれど・・・」


ミウは、サトルの身体を心配していた・・・そこにこのメール・・・ミウは躊躇なく、携帯番号をメールで送り、夜9時から12時までなら、問題ない旨を教えた。


その日の夜9時・・・自分のアパートにいるミウの携帯に電話がかかってきた。

「もしもし、姫島ミウですけど・・・」

と、ミウが出ると、

「もしもし、鈴木サトルです・・・今、ちょっとだけ会議を抜け出して来て・・・中部国際空港会社のトイレの中からかけてるんですけどね」

と、サトルの声が聞こえた。


若い声だった・・・でも、はっきりとした通る声だった。会議で始終話しているだろうから、喉が鍛えられているのかもしれない。


「サトルくん、そういう声だったのね。どう、私の声は・・・おばあさんの声に聞こえる?」


と、ミウはわざとおどけて言葉にする。


「ミウさん、綺麗な声なんですね。想像した以上にやさしい声です。嬉しいな・・・明日も電話していいですか?明日は10時くらい」


と、サトルは言葉にする。


「ええ、いいわよ。9時から12時の間なら、いつでも・・・仕事入っちゃったら駄目だけどね・・・」


と、ミウも答える。


「わかりました。じゃあ、そろそろ・・・ミウさん、おやすみなさい」


と、サトルが言葉にする。


「おやすみなさい・・・サトルくん」


と、ミウが言葉にすると、電話は切れた。


「思ったより、いい声じゃない・・・」


と、ミウは暖かい気持ちになった・・・。


それから毎日のように、ほんの数分の電話を楽しんでいたミウだったが・・・それも長くは続かなかった。


サトルとミウのメールのやりとりが始まって、2ヶ月後・・・電話でしゃべり始めて、2週間後、それは突然やってきた。


サトルからの反応が全く無くなってしまったのだ。


メールを出しても帰ってこない。電話しても、常に留守電状態・・・ミウはある可能性を感じ取り・・・その事実に触れることを怯えた・・・。


そんな金曜日だった・・・仕事帰りにミウとヨウコとテルコが居酒屋「松野」に寄り、いつものようにお酒を飲んでいた。


「で、例のサトルって男からの電話・・・まだ、無いままなのか?」

と、ヨウコは気さくに聞いてくる。

「うん・・・メールも帰ってこないし・・・電話しても携帯はすぐに留守電になっちゃうし・・・」

と、ミウは憂鬱な表情で言葉にする。

「自殺ってことはないだが?」

と、テルコはその事実に触れる。

「その可能性は・・・結構高いかもしれません・・・」

と、ミウも言葉にする。

「システムエンジニアだったっけ・・・その男の仕事・・・」

と、ヨウコ。

「うん・・・中部国際空港の主任システムエンジニア・・・」

と、ミウ。

「しかし、よー。システムエンジニアの仕事って、そんなに忙しいものなのか・・・っていうか、俺には考えられねえな、そんな仕事。3日と持たねえよ」

と、ヨウコは言う。

「世間にはいろいろな職種の仕事があるだが・・・大変な仕事も多いだが」

と、テルコは言う。

「でも・・・大変過ぎますよ・・・サトル、最後の方、かなりノイローゼ気味だったし・・・。でも、それって生き地獄みたいなもんじゃないですか?」

と、ミウは言う。

「そうだな・・・生き地獄だな・・・もっとも、この月夜野の街に閉じこもっている俺とおまえだって・・・随分と生き地獄だぜ」

と、ヨウコは言う。

「もっともおまえには、サトルって風穴が出来たけどな・・・おまえは頑張ったよ」

と、ヨウコは言ってくれる。

「俺は相変わらずだ・・・」

と、ビールを飲むヨウコ・・・。

「ヨウコ・・・ヨウコがこの月夜野の街に流れてきた理由はなんだが?」

と、テルコが聞く。

「ま、おまえらだったら、話してもいいだろう・・・」

と、ヨウコが言う。

「俺・・・水商売で稼いでたって話したろ?」

と、ヨウコが言う。

「言ってたね・・・500万円稼いだけど、男に持ち逃げされたって」

と、ミウは言葉にする。

「ソープランドにいたんだ・・・俺」

と、ヨウコは唐突に言葉にした。

ミウとテルコは黙っていた。


つづく)、


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(17)

2013年12月13日 | 今の物語
火曜日の朝、6時過ぎ・・・ミウは起きると、シャワーを浴び、朝食を済ませた。


「朝は気持ちいいわ・・・朝食も美味しいし・・・なんとなく、気分が朗らかになるわ」


と、ミウはつぶやいている。


「さ、パソコン立ち上げて・・・ニコラにコメントを書かなければ・・・」


と、ミウは言葉にしている。


「そう言えば、エマさんは、月の美しく見える街に住んでいるんですよね?どんな街なんですか?興味があります//ニコラ」


昨日、ニコラに貰ったコメントに、何を返すか考えるミウだった。


「私の住んでいる街は、どこよりも月が美しく見える街・・・そう言われています。でも、恋人がいないので、一人で見る月は少し寂しく感じます//エマ」


と書き込んだミウだった。


「これ、意味、わかるかしら?ニコラくん・・・」


と、笑顔になったミウは、パソコンを立ち下げ、朝日ヘルパーの制服に着替えて、部屋を出て行った。



その日の夕方、午後6時頃・・・サトルは朝早く会社に出た事もあって、夕方5時に会社を出る、定時帰りをしていた。


「たまには、こういうのも、ね・・・」


と、サトルはつぶやきながら、独身寮の自分の部屋に帰ってきていた。


サトルの部屋は13階建ての独身寮の13階にあり、しかも方角は南向き・・・夕日に浮かぶ江ノ島が見えていた。


「いい風景だよねー。ザ・湘南って感じだよねー」


と、サトルはその風景を見ながら、言葉にしていた。


サトルはパソコンを立ち上げると・・・自分のブログを覗く・・・と、エマからのコメントを見つけた。


「私の住んでいる街は、どこよりも月が美しく見える街・・・そう言われています。でも、恋人がいないので、一人で見る月は少し寂しく感じます//エマ」


というエマからのコメントを見たサトルは、


「ん・・・わたし、彼氏がいません、アピール・・・ってことかな、これ・・・」


と、サトルは理解していた。


「・・・となると、僕もそのあたり、明らかにしないといけないってことかな?」


と、素直なサトルは思っていた。


「いいや、思ったこと書いちゃえ・・・というか・・・エマさんのやることを真似していけばいいのかな?」


と、単純なサトルは思っていた。


「エマさんに彼氏はいないのですか?奇遇ですね、僕も彼女がいないので・・・そのネタで話が弾むかもしれませんね//ニコラ」


と書き込んだサトルだった。


「えーと・・・とりあえず、こんな感じかな・・・よくわからないや」


と、サトルは言葉にしていた。


なんにしても・・・会話が続くのはいいことだと、サトルは思っていた。


「うーん、まあ、いいや・・・とにかく今は出来ることをやっていこう・・・少しずつ・・・それしか僕には出来ないし・・・」


と、サトルは思っていた。


「あとは、サークルの連中にメールを書いて・・・それからのんびりしよう・・・」


と、サトルは言葉にした。相変わらず、サトルはメールをさくさく書き、サークルの友人達に送る。


「で・・・あとはのんびりしよう・・・」


と、サトルはのんびりとテレビを見ていた。



同じ時刻・・・アパートに帰ってきたミウはパソコンを立ち上げ、ニコラのブログをチェックする。


「エマさんに彼氏はいないのですか?奇遇ですね、僕も彼女がいないので・・・そのネタで話が弾むかもしれませんね//ニコラ」


というニコラの書き込みに微笑むミウ・・・。


「ニコラくんは、素敵なスポーツマンなのに、彼女がいないなんて、なかなか信じられません//エマ」


と、すぐに書き込むミウ。


同じ時刻・・・「メールが届きました」とパソコンから告げられ・・・メールチェックするサトル・・・。


「ああ・・・ブログにコメントが届いたのか・・・っと、見よ」


と、サトルはブログを見る・・・。


「ニコラくんは、素敵なスポーツマンなのに、彼女がいないなんて、なかなか信じられません//エマ」


というエマのコメントを見つけるサトル・・・。


「なんか・・・おしゃべりしているみたいで、おもしろい・・・」


と、サトルもすぐにコメントを返す。


「もう彼女いない歴2年です。出来れば、年上のお姉さんタイプの彼女が欲しいんですけどね//ニコラ」


と書き込むサトル。


同じ時刻・・・ニコラのブログを15分おきにチェックしていたミウはニコラのブログに新たなコメントが乗ったことに気づく。


「もう彼女いない歴2年です。出来れば、年上のお姉さんタイプの彼女が欲しいんですけどね//ニコラ」


・・・そのコメントを見て、微笑むミウ・・・ミウもまた、すぐにコメントを書く。


「写真から、想像すると、ニコラくんは、20代中盤ですか?となると、わたしは少しお姉さんになります//エマ」


と、書き込むミウ・・・。


「今、パソコンの前にいるんだ、ニコラくん・・・今日はチャンスだわ・・・ニコラくんと仲良くなれる・・・」


と、ミウは言葉にした。確信だった。


同じ時刻・・・コメントの更新を知ったサトルは・・・ブログを覗く。


「写真から、想像すると、ニコラくんは、20代中盤ですか?となると、わたしは少しお姉さんになります//エマ」


・・・そのコメントを見て、笑顔になるサトル・・・。


「そうか・・・彼女は年上か。だから、話し易いんだ。そして、今、彼女はパソコンの前にいる・・・」


と、サトルは確信していた。


「そうか。だから話し易いんですね。僕は20代中盤の男子です。エマさんは、とても話し易いです//ニコラ」


と、サトルは書き込んだ。


同じ頃・・・ニコラの新たなコメントが載ったのを見た、ミウは笑顔になり、また、コメントを書く。


「ニコラくんは、とても率直な男の子なんですね。わたしもそういう方が話しやすいです。まるで今日は直接おしゃべりしているみたい。とても楽しい//エマ」


と、ミウはコメントを書いた。


同じ時刻・・・そのコメントを見たサトルは・・・。


「楽しいって言うのなら・・・これがチャンスなんじゃないのかな・・・」


と、考えていた。


「メールでやりあうようにしよう・・・多分、エマさんも・・・それには、同意するはずだ・・・」


と考えたサトルはイチかバチか・・・コメントにメアドを乗せることにした。


「エマさん、僕も楽しいです。よければ・・・メールでやりとりしませんか?XXXXの方にメールを送って頂ければ・・・メールでやりとりしましょう//ニコラ」


と、サトルはコメントに書き込んだ。


同じ頃・・・ミウはニコラのブログに新たなコメントが載った事に気がついた。


「メアドが載ってる・・・ここにメールすればいいのね?・・・彼も乗り気だってことね。このつながり・・・素敵な時間を作れるかも」


と、ミウは早速パソコンのメールから、ニコラのメアドにメールする。


「はじめまして。ニコラくん・・・わたしはエマです。ニコラくんとしゃべっていると、とても楽しいです。こうやってメール出来るのも、嬉しい事ですね」


と、ミウはメールに書いていた。


すると、すぐにメールが帰ってきた。


「はじめまして、エマさん。ニコラです。エマさんと話していると、とても癒やされます。メール出来るようになって、とても嬉しいです」


「あ、それからメアドをさらしたコメントは消しますので、そこは誤解しないでください。変なメールをもらいたくないので」


と、書いてあった。


「確かにそうね・・・というか、用意周到な男性って感じ・・・若いのに、頭のくるくる回る感じね」


と、ミウは嬉しく感じた。


「ニコラくんは、どんなお仕事をしているの?わたしは、介護士をやっています。老人の介護の仕事だから、結構肉体労働だけど・・・笑顔を貰える仕事です」


と、ミウはすぐにメールした。


「そうなんですか、大変な仕事ですね。僕はシステムエンジニアの仕事をしていて・・・来月からとても忙しくなりそうです。それが少し憂鬱ですね」


と、ニコラからメールが帰ってきた。


そのメールの文面を笑顔で見ていたミウの携帯電話が鳴る。


「はい、もしもし、姫島ですが・・・」


と、ミウが出ると、


「姫ちゃん申し訳ないけど、勝田さんのところへ、至急行って欲しいんだ。頼めるかな?」


と、所長の竹島からの電話だった。


「えーと、はい、わかりました。すぐ出ます」


と、ミウは言葉にし、電話を切った。


「ニコラくん、ごめん。急な仕事が入って、出なくちゃいけないので、今日はここまでにしましょう。おしゃべり楽しかったわ」


と、ミウはメールに書くと、それを送信し、すぐに制服に着替えて、部屋を出て行った。


同じ時刻・・・サトルはメールの文面を見ながら、言葉にしていた。


「年上の介護士の女性か・・・話しやすい大人の女性・・・とりあえず、メールをやりあう仲になれたのだから・・・そこはよかったのかな」


と、サトルは言葉にする。


「なんか、今日、急に進んだような・・・そんな感じがする・・・ひとと出会うって、こういうことなのかな・・・」


と、サトルはつぶやいている。


「とにかく、初めての事だから・・・よくわからないけど・・・エマさんのリードで、僕は動かされている感じがするな・・・」


と、サトルは言葉にする。


「でも、そのリードが気持ちいい・・・そのリードに僕は乗ればいい・・・そういうことかもしれないな・・・」


と、サトルは言葉にする。


「なんだか、素敵な未来がやってきそうな気がする・・・」


単純なサトルは、そう言葉にして、笑顔になっていた。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(16)

2013年12月13日 | 今の物語
「サトルです。多岐川さん、会社に到着しました。今、そちらのシステムに接続したところです。状況確認中」

と、サトルは多岐川に電話しながら、会社の自席のパソコンを専用回線で、関空のシステムにつなぎ、メインフレームの状況を確認していた。

「なるほど、確かにCPUの使用率が200%を上回っていますね・・・うん、これは・・・」

と、パソコンを操りながら、サトルは状況を確認していく。

「運転ログによると、これ・・・エアラインのJNAさんからのデータ送信が・・・明らかにおかしいですね」

と、サトルは冷静に状況を確認する。

「毎分10個以上のスケジュール情報が送られてきています。これだ・・・処理がおっつかないのも無理はない」

と、サトルは一発で、問題の原因を探り当てる。

「最も負荷のかかる、スケジュール情報の展開処理・・・そこに毎分10個以上のスケジュール情報が投げ込まれれば、こうなるのも当然です」

と、多岐川への電話に怒鳴るサトル。

「なるほど・・・そういうことか・・・JNAさんのシステム障害・・・そう見ていいようだな」

と、多岐川は言葉にする。

「僕、今から電話します。JNAのシステム室でしょう?水田さんか、今川さんあたりが今日の担当でしょうから・・・」

と、サトルは言葉にする。

「そうだな。そうしてくれると有り難い。マシン屋同士の方が、話は通り易いだろうからな」

と、多岐川は言葉にする。

「了解しました。ちょっとやりあいます・・・追って連絡しますから」

と、サトルはテキパキと処理を進める。

「あ、もしもし、JNAさんですか。こちら八津菱電機の鈴木と申しますが、関空のシステムでトラブルが起こってまして・・・はい・・・原因を調査したところ・・・」

と、サトルはシステムエンジニアらしく連絡を取りながら、自分の望む方向に事態を沈静化させつつあった。


「多岐川さん、オーケーです。JNAさん、今日、新システムのモジュールアップの日だったようで・・・バグ出ちゃったみたいで・・・」

と、サトルは涼しい顔で、多岐川に連絡を入れる。


なんだかんだあって、JNAのコンピューターシステムの障害復旧に3時間近くを要し・・・午前7時半近くになって、ようやく事態は沈静化していた。


外はとっくに明るくなり・・・それでも誰もいない会社で、サトルはひとり電話をしていた。

「ええ。いちおう、ねじ込んで置きました。関空さんの方は多岐川さんから報告するでしょ?一応、状況報告書は多岐川さんのところにメールしておきましたから。はい」

と、サトルはさくさくと仕事をこなしている。

「A4一枚にまとめておきましたから・・・手をいれなくても、関空さんに出せるように配慮はしておきました。ま、あとはお任せします」

と、サトルが言うと、

「相変わらず、頼りになるな・・・詳細な報告書を朝イチ、関空さんに出せれば・・・関空さんもご機嫌だからな。というか、JNAに借しも出来たことだし」

と、多岐川は言う。

「細かい事はわかりませんけど、JNAさんらしからぬ不手際ですね。ま、この件、うまく使ってください。それでこそ、本望ですからね、早起きさせられた僕の」

と、サトルは言葉にする。

「ありがとう、サトル・・・ま、中部国際空港の仕事の件、話を聞いたよ・・・おまえも主任だってな。今のおまえなら、大丈夫だ」

と、多岐川は口にする。

「僕、その話、正式に聞いてませんよ・・・ったく、どうなってんだか」

と、愚痴るサトル。

「ま、出来る人間は引き上げられていく・・・世の中ってのは、そういうもんだ」

と、多岐川が言う。

「僕は出来ない人間なんですけどね・・・まあ、いいや。一応、9時まで、状況の注視を続行して、問題なければ、注視作業は終了させます。それでいいですね?」

と、サトルが言うと、

「ああ、それでいい。朝早くに、ありがとな」

と、多岐川が言うと、

「いえ・・・いい感じで、目が覚めましたよ」

と、笑うサトルだった。


「なるほど・・・JNAらしからぬ不手際だな」

と、朝の9時に、状況報告書をサトルから手渡された課長の飯島コウイチ(38)は、そんな感想を漏らした。

「で、課長・・・僕に言うこと・・・あるんじゃないですか?」

と、サトルは言った。

「ああ、それな・・・ちょっと会議室行くか」

と、コウイチは立ち上がり、サトルに促した。

「ノートと筆記具、持っていきます」

と、サトルは自席からノートと筆記具を持ち、フロアの中央にある会議スペースに入っていく。


4人用の会議スペースに陣取ったコウイチは、サトルが目の前に座ると、すぐに話しだした。


「今回の中部国際空港の仕事は、かなり厳しい仕事だ。工期も、この規模のシステムなら3年取るところを、2年と短いし、なんと言っても名古屋は独特の文化がある場所だ」

と、コウイチは話しだす。

「ま、簡単に言うと、「人間力」の無い人間に厳しい場所だ・・・だから、技術屋的な能力より「人間力」が問われる仕事なんだ・・・この仕事は・・・」

と、コウイチは話す。

「技術力だけだったら、おまえより上の人間はたくさんいる・・・が、俺は、大阪での営業を成功させたおまえの「人間力」を買った・・・それでこの仕事をお前に決めた」

と、コウイチは説明する。

「「人間力」ですか・・・」

と、サトルは言う。

「お前は何の地盤も無い、大阪に飛ばされ、たった3ヶ月で、3000万円の仕事を取った男だ。お前は大阪の営業一課の連中にも好かれたんだろう」

と、コウイチは言う。

「大阪の営業部長が言ってたぞ・・・もし、おまえにその気があるなら、俺が一から育ててもいいって・・・那須さんがそれ程言う人間は、そうそういない・・・」

と、コウイチは言う。

「おまえには、類稀な、周囲の人間を笑顔にする「人間力」がある・・・それを持っている人間は・・・特に理系には、なかなかいないもんだ」

と、コウイチは言う。

「そのチカラを使って・・・この難儀な「中部国際空港」の新システム展開事業・・・主任システムエンジニアとして、担当してくれないか?」

と、コウイチは説得する。

「しかし、僕、他人を率いるとか、そういうの向いていないですよ。さらに言えば技術力だって・・・主任を務めるほどまでは・・・全体をまとめる構想力だって」

と、サトルは反撃を試みる。

「それはわかっている。そこはお前の下に一流の技術力を持った人間をつけることでサポートする。お前は空港側と技術屋側の橋渡しになれればいいんだ」

と、コウイチは説得する。

「しかし・・・僕にそれが務められるとは・・・到底、僕には思えませんが・・・客観的に見ても・・・」

と、サトルは反撃を試みるが・・・。

「おまえしかいないんだ。これが出来るのは・・・」

と、コウイチは言う。

「やってくれるよな?おまえなら、出来る・・・そして、これをやりきれば・・・おまえには、素晴らしい将来が保証されることになるんだから」

と、コウイチは言う。

「ま・・・ここで、僕がどれだけ抗戦しても、この話は・・・決定事項でしょうしね・・・」

と、サトルはすぐに白旗をあげる・・・。

「ま、出来るだけ、がんばってみますよ。この会社で飯食わしてもらっていますからね」

と、サトルはそんな風に言う。

「頼むぞ・・・おまえなら、出来るから」

と、コウイチは笑顔で言うのだった。

「はあ・・・モノがよく見えるってのは、不利なことでも、あるんだなー」

と、サトルはそんな愚痴をこぼしていた。


「はあ・・・」

と、紙コップでコーヒーを飲みながら、サトルはため息をついていた。

八津菱電機鎌倉地区からは、大きな富士山がよく見えていた。

サトルは休憩コーナーで、スツールに座りながら、富士山を眺めている。

「僕的には、困難が目に見えているけどな・・・」

と溜息をついているサトルの横に沢島カズキがやってくる。

「どうしたサトル・・・ため息なんかついて・・・」

と、同じフロアにいる沢島は、やさしい笑顔でサトルの横に座る。

「例の件、正式に言い渡されましてね・・・」

と、サトルは話す。

「中部国際空港の新システム導入の件か・・・」

と、カズキは言う。

「ええ。おまえの「人間力」が必要だって言われちゃって・・・何も言い返せませんでしたよ」

と、サトル。

「ほう、さすが飯島さん・・・いい説得をするな」

と、カズキはホット・ココアを飲みながら笑顔になる。

「おまえが言い返せない・・・抜群の説得だな」

と、カズキは笑う。

「ああ、言われちゃあ・・・言い返せませんよ」

と、サトルは言う。

「説得ってのは、相手を褒めるのが基本だからな」

と、カズキは言う。

「さらに言えば、相手が自信を持っていることを褒めながら説得するのが基本だ」

と、カズキは言葉にする。

「サトルは主任としての「構想力」や「技術力」、「指導力」には自信がないけど、自分の「人間力」には、自信があるんだろ」

と、カズキは言葉にする。

「それを飯島さんは見抜いているんだよ。そこを褒めれば、おまえが言い返せないことも見抜いている。さすが東大出だ」

と、カズキは言葉にする。

「まあ、おまえは単身いきなり大阪に派遣されて・・・たった3ヶ月で、大阪の営業全員をおまえの虜にして、3000万円の結果を残した男だからな」

と、カズキは言葉にする。

「しかも、1月から3月の決算期だ・・・普通、営業の人間はひとに手柄を譲らないもんだ。そんな時期に」

と、カズキは言う。

「それを譲ったということは、それだけお前は大阪の営業の人間達に深く愛された・・・そういうことだ」

と、カズキは言う。

「そのおまえの「人間力」・・・飯島さんは、それを高く買ったんだろう」

と、カズキは言葉にする。

「ま、そういう話でした・・・それを言われちゃあ・・・この仕事受けるしかありませんよ・・・でも・・・」

と、サトルは言葉にする。

「不安か?」

と、カズキ。

「ええ・・・不安です。普通に・・・」

と、サトルは言葉にする。

「お前は真面目すぎる程、まじめなところがあるから・・・気を抜く所は抜けよ・・・それが俺の言える言葉だ」

と、カズキは言った。

「はあ・・・せいぜい、がんばります・・・」

と言ったサトルは・・・そのまま、ふらふらと歩いて、その場を離れた。

「あいつ・・・何か、見えているのかもしれないな」

と、カズキは不審そうに、言葉にした。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(15)

2013年12月12日 | 今の物語
「ま、主任就任は来月になるだろう・・・それまでに、エマちゃんとは、メールをやりあえる間柄になっておけ」

と、カズキに言われた・・・その言葉が耳元にまだ残っていたサトルだった。


月曜日の夜、独身寮に帰ると、サトルはシャワーを浴び、缶ビールを買って部屋に戻った。

パソコンを立ち上げ・・・今後どうするか、考えていた。


「エマさんと、メールをやりあえる間柄か・・・どういう理由をつけて・・・それを相手に納得させるか・・・だよな・・・」


と、サトルは難しい難題を与えられたサルのように考えていた。


「こういうの・・・苦手なんだよな・・・だいたい、僕は相手に考えてもらう方が得意だし・・・」


と、サトルは、頭を抱えていた・・・。


「うーん・・・要は相手が僕とメールしたいって、思わせることが先決ってことかな・・・」


と、とりあえず考えてみる、サトルだった。


「で、それって、どうしたらいいの?・・・わっからないよ・・・」


と、頭を抱えるサトルだった。


「えーと、とりあえず、わかってることを整理するか・・・とりあえず、わかってることは・・・」


と、ビールを飲みながら、ノートを開いたサトルは・・・ノートにボールペンで文字を書いていく。


「エマさんが、僕のブログの写真に食いついた事・・・これだけは確かだな」


と、サトルは言葉にし、ノートに書いてみる。


「そうか・・・食いついたのは、エマさんの方なんだ・・・」


と、サトルは改めて言葉にする。


「うーん、ということは・・・弱みはエマさんの方にあって、強みは、僕の方にあるってこと?」


と、サトルはノートにボールペンで言葉を書きながら、自問自答している。


「その強みを活かして交渉していけば・・・いいってことなのかなー」


と、サトルは頭の中を????にしながら、言葉にしている。


「こういうの・・・苦手なんだよなー。シンプルに言葉にする方が楽だし・・・」


と、サトルは言葉にしている。


「にしても・・・何事も経験かー・・・ミクが言ってたな」


と、サトルはミクの言葉を思い出す。


「サトルは・・・相手の気持ちを考えて行動するのが、苦手なようね・・・でも、それが出来るようになると、相手の笑顔も増えるわよ」


と、ミクは言ってくれた。あれは逗子海岸で、二人で海を見ていた時だった。


「僕はまだ、子供だ・・・ミクに比べれば、全然なんの経験もしていないし・・・」


と、サトルが言うと、


「それは素敵な事でもあるのよ・・・わたしは・・・いろいろな事があった・・・サトルに今は言えないような事も経験してるの。でも、時期が来たら、もちろん、言うわ」


と、ミクはそんな風に話した。


「僕に、今は言えない事・・・そんな経験したの?ミク」


と、サトルが言う。


「順番よ。私もいろいろ考えて行動しているの・・・わたしが考えて・・・サトルに言っていいい日が来たら、ちゃんと言うから・・・それまで待ってて」


と、ミクは笑顔で言った。


「うん・・・まあ、ミクがその・・・僕の成長を見ていてくれて・・・いろいろ考えてくれてるのは、わかってるから・・・その時を待つよ」


と、サトルは言葉にする。


「ごめんね。ありがとう・・・サトルは、そういう素直なところが、本当の宝物だわ」


と、ミクは笑顔で言った。


「そんなこともあったな・・・」


と、サトルは遠い思い出に・・・なんとなく納得していた。


「そうか・・・カズキさんが言ってたっけ・・・エマさんは、僕の肩甲骨の写真に食いついた・・・ミカさんの意見だけど」


と、サトルは考える。


「となれば・・・要は同じモノが好き同士って、ことかな・・・」


と、サトルは考える。


「美しい肩甲骨や、プリっとした筋肉が光るお尻や、綺麗なラインの出ている、腰からヒップへのボディライン・・・そういうのが好きってこと、だよね?」


と、サトルは考える。


「そこに食いついたのなら・・・食いついたのなら?・・・あれ、そっからどう考えればいいんだろ?」


と、サトルは少しよくわからない。


「ま、今日のところは、エマさんに向けて、とりあえず、もうひとつコメントを出しておこう・・・」


と、サトルはどう書こうか悩む・・・。


「そう言えば、エマさんは、月の美しく見える街に住んでいるんですよね?どんな街なんですか?興味があります//ニコラ」


と、コメントを書いたサトルは、

「ま、僕がエマさんに興味を持った・・・ということを伝えれば・・・どうにか、なるだろう・・・」

と、あまり女性を口説いたことの無いサトルだった。


「どっちかって言うと、ただストレートなだけだもんな。僕って・・・」


と、サトルは言葉にする。


高校時代に初めて女の子と、つきあって・・・その子とはキス止まりだったけれど、大学時代、同じテニスサークルの女子と恋人同士となって、

初めてエッチも経験したけど・・・就職してすぐに別れていた。


「だから、女性の事、あんまり理解していないんだよな、僕・・・」


そして、次につきあったのが、4歳年上のミクだった・・・。


「確かに、僕・・・年上の方が圧倒的に楽かもしれない・・・大学時代、年下の女の子リードするの・・・結構大変だったし」


と、その頃を思い出す、サトルだった。


「なんで、おんなごころがわからないのよ!」


といきなりキレられて、物を投げつけられたこともあった。


「確かに・・・そういうところ、僕は、鈍感なのかもしれないな・・・」


と、サトルは思っていた。


「エマさんとメールでやりとり・・・主任になったら、平日だって時間取れるか、わからないぜ・・・人生のピンチだ、確実に・・・」


と、サトルは言葉にしていた。


「まあいい・・・今日出来ることは、これだけだ・・・えーと、あとは・・・サークル仲間にメールでもしておくか」


と、サトルはメールをさらさらと書くと、推敲して、送信した。ものの5分とかからなかった。


「しかし、メールだけは、俺早いんだよな・・・文章書くの得意だし、大好きだし・・・これが俺の仕事になったら、どんなに良いことか・・・」


と、思いながら、サトルはパソコンを立ち下げ、ビールを飲んで寝てしまった。



同じ頃、ミウは「カーペンターズ」を聞きながら、白ワインを飲んでいた・・・月夜野の街の真実を知り、自分がどういう目で見られていたかも知ったミウは、


少しショックだった。


「皆、考えることは同じ・・・・そういうことね・・・」


と、ミウは思った・・・自分の黒い闇・・・それは・・・決して語りたくない闇だった。


「でも、考えてみたら・・・皆わたしを白い目で見てるって現実があるってことじゃない・・・言っても言わなくても、どうせ同じってことじゃない・・・」


と、ミウは愚痴った。


誰かに話を聞いてもらいたかった。


「ユカに電話かける?愚痴を聞いてもらう・・・ううん。この時間は編集者にとっては仕事のメインの時間だもの・・・かけるわけにはいかないわ・・・」


と、ミウは思い留まった。


「こんな時に彼氏がいてくれたら・・・愚痴を聞いてもらうくらい・・・でも、無理だわ・・・だってあの話、彼氏になるような人に言えないもの・・・」


と、ミウは言った。


「人生って、こういうものだった?いつもそう・・・夢を持って歩き出そうとすると・・・壁にぶち当たる・・・もう何回そういう壁にぶつかってきたのかしら、わたし」


と、ミウは言葉にする。


「ふふ・・・いいわ。ニコラくん・・・あの肩甲骨の美しい年下のスポーツマン・・・彼と電話でしゃべれる間柄になりたいわ・・・」


と、ミウは思う。


「できれば・・・ねー・・・」


と、ミウは言葉にする。


「そうなれないかしら・・・わたしの愚痴聞いてくれるだけでもいい・・・それだけでも・・・日々が潤うわ」


と、ミウは言葉にする。


と、ミウは思い出したようにパソコンを立ち上げる・・・今日はまだニコラのブログを見ていなかった事に気づいた。


ミウはニコラのブログを見る・・・コメントが・・・ニコラのコメントが珍しいことに2つもあった。


「やっと今、その月の写真をアップしました。その月を見ながら缶ビールを飲んでいたら、酔っ払ってしまって、だから、アップが今日になったんです(笑)//ニコラ」


「そう言えば、エマさんは、月の美しく見える街に住んでいるんですよね?どんな街なんですか?興味があります//ニコラ」


ミウは、ニコラのくれた2つのコメントに、つい、嬉しくなっていた。


白ワインをグラスに注ぎ、ぐっと飲み干す。いっぱいの笑顔になる。しあわせな瞬間だった。


「この男性・・・すごく繊細で、やさしい・・・」


と、ミウは感じていた。


「多分・・・最初のコメントは、土曜日にコメントを返せなかった事を謝っている・・・そういう風に見えるわ」


と、ミウは思った。


「それに・・・わたしが月の写真を楽しみにしてるって言葉・・・彼は覚えていたんだ・・・わたしの言葉が彼の胸にあった・・・それって嬉しい事よね」


と、ミウは感じる。


自分の言葉が誰かの胸に残っていて・・・その言葉の為に男性が行動してくれる・・・そのことがすごく嬉しいミウだった。


「この男性は・・・信用出来る・・・信頼出来る男性だわ・・・」


と、ミウは感じていた。


「わたしの言葉を大切にしてくれる・・・そういう男性だわ・・・そういう男性こそ・・・」


と、ミウは笑顔になりながら、その言葉を反芻した。


「2つ目のコメントは・・・わたしに興味を持ったって、ことでしょう?わたしに食いついたって事?わかりやすい・・・シンプルな男性なのかも」


と、ミウは笑顔でそのコメントを読む。


「まだ、幼い感じがあるわね・・・年下の幼いところがある男性・・・思ったことをシンプルに言える・・・正直な男性・・・それがニコラくんね」


と、ミウは笑顔でそのコメントを楽しんでいる。


「そっか・・・いろいろな事がわかったわ・・・大事なことは・・・ニコラは、私に興味を持った・・・シンプルな言葉で、わたしに向かってきている・・・そういうこと」


と、ミウは理解した。


「だったら・・・ニコラと電話で話せる仲に・・・なる事も不可能じゃ、ないわね」


と、ミウは結論づけた。


「明日の朝、コメントを書こう・・・今日は酔ってるし・・・相手が求めている時は、少し引く・・・そうすれば、もう少し、相手の本音が引き出せるかも、よね」


と、ミウは年上の女性らしく、恋のかけひきに、少しだけ賢いところを見せる。


ミウはグラスいっぱいに白ワインを注いだ・・・それを笑顔で飲み干し、もう一度、ニコラの書いたコメント読み返す。


「私の為に、男が出した言葉・・・いつ見ても嬉しい・・・わたしに興味がある・・・そういう男性が好き・・・」


と、ミウは言葉にして・・・思い切りの笑顔になる・・・。


「これが、恋の始まり、かも・・・」


ミウは言葉にした・・・。


ミウはいい気分のまま、パソコンを立ち下げ、眠りに落ちる。


笑顔のミウは、気持ちよく眠りについていた。


ミウは今、しあわせだった。



火曜日の朝方、午前4時を過ぎたあたり・・・。


サトルの携帯に電話がかかってきた。


「はい・・・もしもし・・・」


とサトルが半分眠りながら、電話に出ると、


「鈴木、メインフレームの調子がおかしい。CPUの負荷が200%に上がったままなんだ。他の処理にも影響が出始めている・・・対応してくれないか?」


と、関空現地の主任システムエンジニア、多岐川からのエマージェンシーコールだった。


「わかりました。会社には10分でいきますから、すぐ折り返し、連絡いれます」


と、サトルはしゃっきりしながら、服を着替え、しゃっきりして、部屋を出て行った。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(14)

2013年12月12日 | 今の物語
月曜日の午後4時頃、ミウは、仕事を終え、朝日ヘルパーの事務所に帰ってきた。

「おお、姫ちゃん・・・今上がりだが?」

と、待機所には、テルコの姿があった。

「テルさん・・・昨日は楽しかったです」

と、ミウはテルコの隣に座り込む。

「なんだか、土曜日と日曜日で・・・いろいろな事をしゃべったなあ」

と、テルコも言葉にする。

「そうですね。まあ、話せてよかったです。皆、いろいろな事があるんですね」

と、ミウも言葉にする。

「あのー・・・それで、今日さっき車に乗ってて気がついたんですが・・・」

と、ミウは言葉にする。

「なんだ、姫ちゃん」

と、テルコは答える。

「以前、テルさん、言ってなかったでしたっけ・・・ヨウコに過去がある・・・みたいなこと」

と、ミウは言葉にする。

「ヨウコの過去かあ・・・いや、詳しくは知らねえだが・・・何かあって、逃げてきたようなもんだって、ヨウコが言ったのを聞いただけだが・・・」

と、テルコは答える。

「そうですか・・・なんとなく、それが気になって・・・」

と、ミウが言う。

「そうだが・・・今度、ヨウコが捕まったら・・・また、3人して飲むだが?」

と、テルコが聞いてくれる。

「そうですね。・・・でも、立ち入った事聞いていいのかな?ヨウコの・・・」

と、ミウは言う。

「しゃべるのも、しゃべらないのも・・・ヨウコが決めることだが・・・別にただ馬鹿話してもいいだが」

と、テルコは答える。

「そう・・・そうですね。しゃべるかどうかを決めるのは、ヨウコ自身・・・そうでしたね」

と、ミウは少しホッとした様子でしゃべる。

「誰にだって、闇があるだが・・・そういう闇を乗り越えるから、成長があるんだが・・・」

と、テルコは言葉にする。

「特におんなは・・・男によって、闇をつくられちまう・・・簡単に闇をつくられちまうがら・・・それだけ厄介な存在なんだが」

と、テルコは言葉にする。

「その闇から逃げきれなくて・・・自殺したおんなもいる・・・この月夜野じゃ、珍しくねえだが」

と、テルコは言葉にする。

「え?そうなんですか?自殺者、多いんですか、この街・・・」

と、ミウが聞く。

「月夜野という名前がいけねえのかもしれねえだが・・・東京さで夢破れて、この街さ流れてきて・・・絶望して、命を断つ若いおんなが多いんだ」

と、テルコが言う。

「だいたい20代後半から、30代前半・・・33歳くらいがピーク・・・女性の厄年の前くらいが一番危ないだが・・・」

と、テルコは言う。

「姫ちゃんが来る前に、ここで働いてたアキちゃんって子がいたんだが・・・真面目そうでやさしい子だったけれど、一年で自殺しちゃっただが・・・」

と、テルコは言う。

「ちゃんと大学を出て、一流の会社にも入って、さあ、これからって時に・・・出会っちゃいけない男に出会っちまったんだと」

と、テルコは言う。

「そういう女っ子は自信家なのに弱い一面のある男にまあ弱いんだ。「わたしにしかこの人は助けられない」そんな風に思い込んで、その気持ちをうまく利用されて」

と、テルコは言う。

「気が付くとボロボロになって捨てられて・・・周りから忌避されて会社に居場所が無くなって・・・そういう人生に絶望した女っ子が逃げてくるのが、この月夜野だが」

と、テルコは言う。

「アキちゃんも男に捨てられて・・・この月夜野に逃げてきた口だっつー話だったが・・・結局、人生に絶望して、自殺しちまっただが」

と、テルコは言う。

「だから、おら達年寄りは・・・若い子が絶望しないように、話を聞いてあげるくらいしか、手はねえだが・・・」

と、テルコは言う。

「月夜野は、そういう街だが・・・年寄り達は皆知ってる。若いおなごが流れてくると・・・そういう過去を背負った女じゃねーかって、そういう目で見てる、皆」

と、テルコは言う。

「でも、それでもいいんだ。若いおんなっこは、皆、綺麗な顔したがんばり屋さんばかりだからな・・・」

と、テルコは言う。

「じゃあ、皆、わたしとヨウコはそういう女だと・・・」

と、ようやく理解したミウだった。

「悪いが・・・最初からそういう目で見てた・・・所長さんも、おらたちも・・・」

と、テルコは言う。

「だから、皆、やけに、やさしかったのね・・・」

と、合点が行く、ミウだった。

「だが、姫ちゃんは違う・・・弟さんの闇を断ち切って、立ち上がろうとしているだが。夢に向かおうとしているだが。恋をゲットしようとしているだが」

と、テルコは言う。

「心配なのは、ヨウコの方だ・・・」

と、テルコは静かに言うと、

「おっと、こんな時間だべ・・・今日は爺ちゃんの手伝いしねーといけねえだが・・・土、日と飲ましてもらったがら、手伝わねえと」

と、テルコは立ち上がり、片付けを始める。

「まあ、ヨウコは強がりを言っている間は、大丈夫だが・・・」

と、テルコはポツリと言い、

「じゃ、姫ちゃん、また、ガールズトークするべや」

と、言って帰っていった。

「そっか。どうりで皆やけにやさしいと思ったんだ・・・そういうことだったのね・・・」

と、ミウはつぶやく。

「まあ、でも、いいか。皆がそう思っているなら、何も気にする必要はなくなったってことだもん」

と、ミウはつぶやく。

「少し気が楽になったわ。うん」

と、ミウつぶやくと、腕時計を見る。

「5時を過ぎたわ・・・今日はもう仕事はないから、私もかーえろっと」

と、ミウはつぶやくと、自宅アパートに帰っていった。


月曜日の午後6時半頃・・・サトルは藤沢駅南口の居酒屋「須藤」に来ていた。

「えーっと・・・あ、カズキさん、そこでしたか」

と、サトルは沢島カズキの居場所を見つける。

「おー、先にやらしてもらってたよ」

と、カズキはジョッキを煽っている。

「あ、えーと、僕もとりあえず生ください。それと、焼き鳥盛り合わせね」

と、サトルは手慣れた様子でメニューを頼む。

「でも、カズキさん、なんです、急に?月曜日に飲みなんて、珍しいですよ」

と、サトルは言っている。

「ん、まあ、お前に言って置かなければいけないことがいくつかあって・・・それでさ」

と、カズキは答えている。

「まずさ、今日のおまえのエマちゃんへのコメント、あれ何?」

と、カズキはわかりやすい駄目だしをしている。

「え、何かまずかったすかね?」

と、サトルはよくわかっていない。

「おまえさー。女性と話す時ってのは、まず、相手がしゃべりたいことをしゃべらせてあげるのが鉄則だろ」

と、カズキは女性心理に詳しいところを見せる。

「って言うと?」

と、サトルは素直に聞いている。

「あのエマって、女性・・・自分が月の綺麗な街に住んでるって二度も続けてアピールしたんだぞ。そしたら、「どういう街に住んでいるんですか?」くらいは聞けよ」

と、カズキは言う。

「ああ。そういえば、そうでしたね。いやあ、僕が土曜日にコメ返ししなければいけないところを・・・月曜日の朝まで返せなかったんで、その理由をまず言いたくて」

と、サトルはサトルなりの理由を持っていた。

「まあ、確かに、そういう理由が言えれば、「あ、このひとは私にコメ返しが遅れたことを謝っているのね」ってお前のやさしさを理解してくれるだろうけどさ」

と、カズキもカズキなりに分析している。

「まあ、とりあえず、今日はそういうコメしておいた方が無難だぜ。実際」

と、カズキはジョッキを空けながら、そう話す。

「わかりました。今日中にやっておきます。それ・・・」

と、サトルは納得の早いところを見せる。

「あとネタは2つある・・・ひとつは、これは・・・ミカとも話したんだが・・・サトル、そろそろ女作れ・・・ミクを忘れろ・・・その為にもエマちゃん逃すなよ」

と、カズキは言う。

「はあ・・・それはわかりますけど・・・どんな女性かもわかりませんよ、エマさん・・・」

と、サトルは不承不承言う。

「お前の写真ブログをミカが見ていて言ってたんだけど・・・お前の身体の写真、結構アップされてるだろ、あの写真ブログ・・・」

と、カズキは言う。

「そうですね。まあ、サイクリストですから、身体のパーツのデザインのセンスを見せたいってのも、ありますからねー」

と、サトルはつくねを食べながら、ビールを飲む。

「ミカが言ってたけど、お前の肩甲骨の美しさは、女性を虜にするそうだ。それにヒップのラインとか、女性泣かせらしいぜ。セクシーダイナマイトだそうだ」

と、カズキもボンジリを食べながら、ビールで流す。

「そう言われると、身体のパーツのデザインにこだわるサイクリストとしては、嬉しいですけどね」

と、サトルものんびり笑顔で話す。

「つまり、そのエマちゃんってのは・・・お前の身体のデザインにやられた年上の女性じゃないかって、言ってた・・・ミカがね」

と、カズキは言う。

「まあ、お前も知ってる通り、ミカのそういう洞察力のすごさは・・・ちょっと並大抵じゃないからな」

と、カズキが言う。

「そうですね。あのひとにかかったら、大抵のひとはノックアウトでしょうね。もちろん、僕も・・・」

と、サトルはのんびり言う。

「だから、まあ・・・信用していいんじゃないか?エマちゃん」

と、サトルは言う。

「へーへ。ま、ミカさんの御墨付きがあるのなら・・・僕もその気になってみますよ」

と、サトルは言う。

「よし、それなら、いい。実は最後に重大な話がある・・・お前が本気になってエマちゃんを確保しなきゃならない事態って奴さ」

と、カズキは真面目な顔して言う。

「は、なんでしょう?」

と、サトル。

「お前の課さ・・・中部国際空港の新システムの話、取っただろ?」

と、カズキ。

「はあ・・・取りましたね・・・」

と、のほほん、とサトル。

「あれの主任システムエンジニア・・・誰か知ってるか?」

と、カズキ。

「え?さあ・・・聞いてないすけど・・・田所さんか篠井さんか・・・そんなところじゃないですか?」

と、サトルは、のほほんと答える。

「バーカ、お前に決まったんだよ。中部の新システムの主任システムエンジニアは、お前に決まったの」

と、カズキは真面目に答える。

「え?マジっすか?いやいやいやいやいや・・・そんなの聞いてませんよ・・・それにおかしくないですか、その人事・・・いろんな人飛び越えて、いきなり僕って、そんな」

と、サトルはびっくりしている。

「これはすでに決定事項だ。お前は課内人事のメインストリームに乗っちゃったってことだ。お前の課長はお前の教育にもう乗り出したって事だ・・・」

と、カズキは言葉にしている。

「いや、それはマズイっすよ。僕は脱サラする気満々でこの会社に入って来ているんですから・・・一生懸命毎日脱サラのネタを考えているというのに・・・」

と、サトルは驚きを隠せない。

「だから、あれほど頑張りすぎるなと言ってきたのに・・・周りの目をうまく騙せって言っただろ・・・お前は技術者としてはあれかもしれないけど、人間力が半端ないから」

と、カズキは言う。

「だから、課長がお前を見込んじゃって、自分で教育するって動き出しちゃったんだよ・・・俺があれほど、注意しろって、言ってたのに・・・」

と、カズキは言う。

「それにお前・・・部長に気にいられてるだろ・・・それも大きいよな・・・つーか、お前普通に年上の男性を落としちゃうからな・・・」

と、カズキは言う。

「まあ、俺もお前の本心は知っているから、主任を任される前に、早く脱サラのネタ見つけて、修行して、脱サラしろってあれ程・・・」

と、カズキは言ってくれる。

「いや・・・それ、マジやばいっす・・・僕の人生の計画がめちゃくちゃですよ、それじゃあ・・・」

と、サトルは少し震えるくらい、ビビっている。

「まあいい・・・とにかく、決まった以上、なるようにしか、ならん・・・どうにかして対処しろ・・・」

と、カズキは言う。

「だって、週末全部消えるんですよ。自転車だって、続けられない・・・くそー、脱サラネタ・・・早く決めなければ・・・」

と、サトルは少し震えている。

「だからこそ・・・・エマちゃんは絶対に確保の方向に持って行けよ」

と、カズキは動転しているサトルに言う。

「それはわかっていますけど・・・どうしよう・・・ちょっと手が考え付かない・・・」

と、サトルは明らかに動転していた。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(13)

2013年12月11日 | 今の物語
月曜日の朝、ミウは6時過ぎに自然と目が覚めた。

昨日は、テルコとヨウコとの飲み会が盛り上がり・・・それでも8時前には自宅アパートに帰ってきたミウだった。

ニコラのブログを見たが・・・日曜日の分は更新されていなかったので、ミウはそのまま寝たのだった。


「エマさんは、夜の月が綺麗な街に住んでいるんですか?その月も見てみたいものですね。また、今度機会があったら、湘南の美しい月を撮ることにします//ニコラ」


金曜日に貰ったニコラのコメントに対して、土曜日の夜、ミウはコメントを返していた。


「湘南の美しい月ですか・・・楽しみにしていますね。わたし、夜の月を見るのが好きだから、今住んでる街に引っ越したんです//エマ」


ミウは思ったことをそのまま言葉にしていた。ミウが月夜野の街に引っ越し来たのも・・・月夜野から見る月はとてもきれいだと噂を聞いたからだった。


「ま、実際、綺麗だけどね・・・月の綺麗な街・・・月夜野・・・それはひとつ、良いことよね」


と、つぶやきながら、ミウはパソコンを立ち上げ、ニコラのブログを見に行く。


「うーん、更新はなしか・・・きっと忙しい人なんだろうな・・・ニコラ・・・」


と、少し寂しく感じながら、ミウはシャワーを浴び、朝食を済ませ、朝日ヘルパーの制服に着替え、部屋を出て行く。



同じ月曜日の朝・・・サトルは8時頃、起床した。


「今日は午前半休・・・会社も鎌倉の工場に出ればいいし・・・ま、たまにはこういうのんびりとした朝もいいよ」


と、サトルは朝食を済ませるために二階にある、食堂へ急いだ。


「そうだ・・・昨日は飲んで帰ってきて、そのまま寝ちゃったんだっけ・・・ブログの更新もしなくっちゃ・・・飯済ませたら、それやろう」


と、食堂で朝食を摂りながらサトルはボーっとそんなことを考えていた。


「よし、こんなもんでいいかな」


と、朝食を済ませ部屋に戻ったサトルは昨日撮った月の写真をブログにアップした。


「ん?ああ・・・エマさんから、コメントが届いていたのか・・・」


と、エマのコメントに見入るサトル・・・。


「湘南の美しい月ですか・・・楽しみにしていますね。わたし、夜の月を見るのが好きだから、今住んでる街に引っ越したんです//エマ」


サトルは早速、エマのコメントにコメントを返した。


「やっと今、その月の写真をアップしました。その月を見ながら缶ビールを飲んでいたら、酔っ払ってしまって、だから、アップが今日になったんです(笑)//ニコラ」


サトルはコメントを書き終えると、音楽をかける・・・スムース・ジャズのコンピレーションアルバムだ。


「どんな女性なんだろう。エマさんって・・・」


と、サトルはふと思う。


「なんとなくだけど、年上の女性のような気がする・・・」


と、サトルは言葉にした。


「ま、ミクの代わりになれる女性なんて、早々いないか」


と、サトルは言葉にした。


「さて、少し早いけど・・・江ノ電に乗って海でも眺めて・・・それから出社しよ」


と、サトルは普段着に着替えると、白いデッキシューズを履いて、バックを背負って部屋を出ていく。


サトルは笑顔だった。



月曜日の午前10時・・・朝日ヘルパーの軽トラに乗るミウは所長に頼まれて、ある所まで荷物を届ける仕事をしていた。


「荷物は口を聞かないから、この仕事は楽だわ・・・」


とミウはつぶやきながら、昨日のテルコとヨウコの事を思い出していた・・・。


「ミウ、おまえ、最近、笑顔で会社に来てるみてえだけど、なにか良いことあったのかよ」


と、ヨウコはミウに聞いてきた。少し酔っ払っているヨウコだった。


「ある写真ブログを見つけて・・・素敵だなあって思ったから、そこにコメントをするようになったの・・・」


とミウは正直に話す。


「へー、写真ブログって、こう写真がたくさん載ってる奴だが?」


と、テルコも興味深そうに聞いてくる。


「そうです。そのひと自転車をやっている人みたいなんですけど、肩甲骨のカタチが美しくて・・・」


と、ミウは言葉にする。


「へー、その写真、携帯で見れねえのかよ」


と、ヨウコも乗り気。


「あ、出来ます出来ます」


と、ミウは自分の携帯を出すと、ニコラのブログに飛ぶ・・・。


「ここです・・・ここの・・・・ちょっと待って下さいね・・・」


と、ミウは携帯を操りながら・・・ニコラの背中を撮った写真を探す。


「これ・・・このショット・・・セクシーじゃないですか?この肩甲骨のカタチ・・・」


と、ミウは携帯電話を二人の方に差し出す。


「うん綺麗だ」「綺麗だが・・・」


と、ヨウコもテルコも納得する。


「この男とよろしくやろうってか・・・こいつ、相当年下なんじゃね?」


と、ヨウコは言葉にする。


「わかっただ・・・姫ちゃん、この男で、死んだ弟さんの事忘れようとしてるべ?違うか?」


と、テルコが言葉にする。


その言葉に「はっ」となるミウ。


「考えてなかっただか?」


と、テルコは言葉にする。


「考えてなかったけど・・・言葉にはしてなかったけど・・・無意識にそうしようとしているのかもしれません」


と、ミウは言う。


「だったら、ゲットしろよ」


と、ヨウコが静かに言ってくれる。


「悲しい過去がそれで消せるのなら、それで消しちまえ」


と、ヨウコは言葉にする。


「それで消せるのならな」


と、ヨウコは言葉にする。


と、ミウは少し悲しそうな表情になる。


「どうした、姫ちゃん?」


と、テルコが聞く。


「いえ、なんでもないんです・・・なんでも・・・」


その言葉にテルコは不思議そうな顔になったが・・・ヨウコは真面目な顔で、ミウを見ていた。


そんな昨日の出来事を思い出していたミウだった。


「ヨウコは・・・ヨウコは何かを見抜いている・・・わたしの事・・・消せやしない過去の過ちを・・・」


と、車を走らせながら、ミウは言葉にする。


「こんな若い男が全然居ないような、こんな街に流れてくるような女が・・・希望を語れるのかよ」


ヨウコがかつて口にした言葉を思い出すミウだった。


「好きな男の前で、本気で、希望なんか語れるのかよ」


ヨウコの言葉はミウの胸に重くのしかかった。と、その時、ミウはある思いに辿り着き、ブレーキを踏んだ。


「でも、それって・・・ヨウコもわたしと同じ境遇だから?」


と、ミウはある確信に辿り着いていた。



サトルは会社に出社し、自席のパソコンを立ち上げた。


と、コーヒーサーバーを持って、給湯室に向かう・・・昼休みの給湯室では、知り合いの女性達が仕事をしていた。


「こんにちわ」


と、サトルが笑顔で挨拶すると、


「鈴木さん、こんにちわ」「こんにちわ、鈴木さん」「こんにちわー」「こんにちわー」


と、皆笑顔で返してくれる。


「サトルくん、このところ、ずーっと出張がちね」


と、同じ課に派遣で来ている梅林さん(32)がしゃべりかけてくれる。


「まあ、主任システムエンジニアのサポートですからね。週末は取れているんで、まあ、なんとか、って感じですよ」


と、サトルはしゃべる。


「主任なんかになったら、大変ですよ・・・「主任になる前に女性を捕まえておけ、でないと結婚出来なくなる」あの法則は絶対ですからね」


と、サトルはしゃべる。


「関空の主任は、多岐川さんよね?多岐川さんは結婚しているからいいけど・・・サトルくんも早く女性を捕まえておかないと、すぐに主任になっちゃうわよ」


と、梅林さんが言ってくれる。


「僕はまだまだ・・・会社入って6年目ですよ。10年位は修行しないと・・・それに僕は課の中でも上から3,4番手ですから、まだまだですよ」


と、サトルは平和な顔している。


「それでも・・・女性を早めに確保しておいても・・・楽しいんじゃない?週末遊べるうちに、彼女作っておいた方が何かと得なんじゃない?」


と、梅林さんは言ってくれる。


「ま、それはそうなんですけどね・・・でも、梅林さんみたいな美貌の人を知ってると・・・普通の女性じゃ、二の足を踏んじゃうんですよ。この責任どうとってくれます?」


と、笑うサトル。


「いいわよ、週末、どっかでデートつきあおうか?飲みでもいいわよ?」


と、梅林さんは言葉にする。


「いいですよ。梅林さんのかっこいい旦那さんに僕が殺されちゃいますよ。いいです、いいです、責任とってくれなくて」


と、サトルは言いながら、コーヒーサーバーにお湯を満たし、笑顔で、給湯室を出て行く。


サトルは自席に戻り・・・メールをチェックすると、沢島カズキからメールが来ている。


「今晩飲みたし、急用あり。連絡乞う」


と、書いてあった。


「ん、何だろう。ま、いいか。今日は早く帰れるし」


と、サトルは返信のメールを書いて沢島に送った。


「なんだろう、沢島さん・・・女性でも紹介してくれるのかな」


と、笑顔になるサトルは、平和そのものの風情だった。


つづく


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