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「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(31)

2013年12月24日 | 今の物語
それから一週間が瞬く間に過ぎ、12月24日クリスマスイブ当日の木曜日。

時刻は夕方5時を回っていた。


ミウはヨウコやテルコ達と待機所にいて、普通に仕事をしていた。

ミウとヨウコは少しドキドキしていた。テルコ達おばちゃん連中も少しドキドキしていた。


と、待機所に朝日ヘルパーの所長竹島大造(52)が現れる。

「ヨウコ・・・なんか、男が一人、お前を訪ねて受付に来てるぞ」

と、竹島が言う。

「まさか、テツが?・・・ミウ・・・」

と、ヨウコはミウの方を見る。

「わたしも一緒に行くわ。大丈夫って、サトルは、言ってたし・・・」

と、ヨウコはミウを連れて受付に恐る恐る顔を出してみる。


と、一人の178センチくらいの細マッチョな角刈りの男が立っていた。


それは、女衒のテツではなく・・・。


「タカシ・・・タカシじゃないか。田中タカシ・・・例のあいつ」


と、ヨウコがミウに言うと、ヨウコは声をあげながら、その人物に喜色満面で近づいていった。

ミウも後ろからその二人に近づいていった。


「いやあ、ある人がヨウコはこの場所で働いているって教えてくれて・・・それで勇気を出して来てみたんだ」


と、タカシは言葉にしている。

と、タカシはすぐに土下座し、

「ヨウコ許してくれ。俺はあの時必死だったんだ。お前に価値のある独立した男になれって言われて俺は考えぬいて・・・断念していた板前の修業をやり直したんだ」

と、タカシは言葉にする。

「2年間、ある店で修行させてもらって・・・俺は自分に自信が持てるようになった。親方も俺の腕を認めてくれて・・・将来的には暖簾分けすらしてくれるって事になった」

と、タカシは言葉にする。

「細くてへなへなだった身体も鍛えなおして、こうやってマッチョな身体にもなれた。すべてはお前に次に逢うための修行・・・そう思って努力を続けたんだ」

と、タカシは言葉にする。

「俺はヨウコを愛していた。だからこそ、ヨウコを切るくらいの覚悟を持たなきゃダメだと思って。お前の事を忘れるつもりで修行に没頭したんだ」

と、タカシは言葉にする。

「だけど、無駄だったよ・・・俺のお前への思いは消えるどころか、あとからあとから、燃え上がるばかりだった」

と、タカシは言葉にする。

「だから・・・俺の腕が親方に認められたら、なんとしてもお前を見つけ出して・・・かみさんになってもらおうと、ずっと思っていたんだ」

と、タカシは言葉にする。


そして、タカシはすっくと立ち上がると、

「ヨウコ、俺と結婚してくれ。俺のかみさんになってくれ。俺はもう自分に自信が無くて、お前にしがみついているだけの男じゃない。板前として自分に自信が出来たんだ」

「男として、自分の生き方に自信が出来たんだ。その今こそ、俺は言う。結婚してください。ヨウコ・・・」

と、タカシは言うと、小さな青いジュエリーボックスを出し・・・中から指輪を取り出した。

「エンゲージリングだ。受け取ってくれ、ヨウコ・・・」

と、タカシは言う。


ヨウコは・・・いつしか涙を流しながら、笑顔でタカシを見つめていた。

そして、エンゲージリングを見ると、大粒の涙を流しながら、


「タカシーーーー」


と泣き叫びながら、タカシの腕の中に飛び込んでいた。


何事か、と集まってきていた朝日ヘルパーの社員達も、所長の竹島も、いつの間にか笑顔になり、大拍手になった。


「よかった・・・ヨウコ」

と、ミウが涙ぐんだ瞬間だった。


「この湿気た、ご時世に珍しくいい話だねえ」


とそこへ入ってきたのは、ヤクザ風の男5人を従えた「女衒のテツ」こと、倉島鉄蔵だった。

「だが、わりいがヨウコは俺のもんなんだ。俺はヨウコと何度も寝てるからな」

と、テツはタカシに凄んでみせる。身体の大きさはタカシの方が圧倒的に大きかった。

「俺だってヨウコとは何度も寝てるわい」

と、タカシも負けずに言い返した。


「あのな・・・ヨウコは俺に1000万円の借金があるんだよ。あ、それとも何かその金額お前が払ってくれるのか?即金だぜ」

と、テツはタカシに凄んで見せる。身体の大きさはタカシの方が圧倒的に大きかった。

「おまえ、昨日は500万円とか言ってたじゃねーかよ」

と、ヨウコも凄む。それをタカシは制する。

「1000万円出せばいいのか?即金で。そしたら、ヨウコは綺麗な身体になるのか?」

と、タカシは言った。

「兄ちゃん辞めときな。そんだけお金があったら、あんた自分で店だせるだろ。その金を使っちまったら、元も子もないだろうが」

と、テツは言った。

「ヨウコが綺麗な身体になるなら、そんな、はした金。いくらでも出してやる。俺にはこいつが必要なんだ」

と、タカシは言う。

「こいつさえいてくれたら、1000万円なんて金すぐに働いて作ってみせるわ」

と、タカシは言い切った。

「タカシ!」

と、ヨウコは感激の涙にむせぶ。


「ったくめんどくせえなあ。妙に舌のまわりのいい野郎だ。まあ、いい。とにかく、そっちがその気なら、気は進まねえが、力ずくということにしようや」

と、テツは一歩下がると、

「おう。兵隊たち、ちっとあのデカイの、のしてこい」

と、テツが命令するが、兵隊達は、タカシのデカさに躊躇している。

「おめえら、何やってんだよ。速く仕事しろよ。そんなだから、おめえら、給料安いままなんだぞ」

と、テツが言った瞬間だった。


「そこまでよ。倉田鉄蔵、いや「女衒のテツ」さん・・・あなた達の方が先に確保される順番なの」

と、黒い戦闘服を着た髪の毛の長い美人捜査官が、公安警察の手帳を見せながら、近づいてきた。


その後ろを固めるのが15人の、こちらも黒い戦闘服を着た屈強な猛者達だった。


おまけにその15人は見たこともないようなスパルタンな銃火器をテツらに照準を合わせて構えている。


「「女衒のテツ」さん・・・あなた、貸金法すら知らないようね。その他数々の法令違反により、逮捕します。全員確保!」

と、その美人捜査官が命令すると、黒い戦闘服の男たちは、「女衒のテツ」を含む6人の男たちを即確保し、疾風のように、その場を離れた。


結果に満足した美人捜査官は・・・ヨウコとタカシ・・・そしてミウの方へ近づいてくる。


「わたしは、東堂リョウコ(32)といいます。公安警察でチームのキャップをやっています。えーと、あなたがヨウコさん?」

と、リョウコは色白で美人な笑顔で、ヨウコの前に立つ。

「あの男はもう金輪際あなたの周辺に出没することはありません。ま、きついお灸を据えておくし、その気になれば、向う50年は隔離施設行きだから」

と、リョウコは笑顔でヨウコに言う。

「あ、ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか・・・」

と、ヨウコは言葉にする。

「お礼を言うのなら・・・鈴木サトルくんのいとこ、鈴木タケルさんに言ってください。わたしは彼の差配で来たので・・・」

と、リョウコは笑顔で言う。

「で、でも、どこでお礼を言えば?」

と、ヨウコが当然の疑問を示す。

「ま、彼の事だから、今日中に会えるでしょう。彼、そういう男だから」

と、リョウコは笑顔になる。

「それからあなたがミウさん?サトルくんから話は聞いてるわ」

と、リョウコは今度はミウに話しかける。

「あなたのSOSを受けて、鈴木サトルくんと鈴木タケルさんが共同して、今度の事にあたったの。あなたの為に仕事が出来て、サトルくん喜んでたわ」

と、リョウコは言葉にする。

「そ、そうですか。サトル、そんなこと言ってましたか・・・」

と、ミウは感激気味。

「それでは、わたしはこれで・・・日本政府は常に日本国民の平和と安寧の日々を守っていることをお忘れなく。それでは失礼します」

と、リョウコは敬礼すると、かっこ良く去っていった。


「なあ、それより、ミウ、もうサトルが駅に着く時間じゃないのか?」

と、腕時計で時間を確かめたヨウコがミウにせっつく。

「しまった・・・そうだわ・・・え、でも、わたし32歳のおばんよ・・・ねえ、どうしよ・・・」

と、急にうろたえ始めるミウだった。

「何言ってんだよ、ここまで来て。俺はこんな風にしあわせになれたんだから、今度はミウの番だろ!」

と、ヨウコが言ってくれる。

「そんなこと言ったって・・・こんな事初めてなんだもん。32歳のおばんが28歳の細身のスポーツマンと、なんて絶対合わないわよ」

と、ミウのこころは乱れる。

「いくらメールで仲良くなったって・・・男性って、会った瞬間、女性の外見次第で、恋ゴコロが消えたりするって言うじゃない・・・わー、どうしよう」

と、激しく不安になるミウ。

「もう、いいから・・・所長、バン借りるよ。タカシ、ミウを連れてバンに乗れ、俺が運転する」

と、ヨウコはテキパキと対処していく。


「どうしよう・・・どうしよう」

バンが発車しても、ミウは不安を訴えていた。

「もう・・・なるようにしか、ならねーよ、ミウ」

と、ヨウコは言葉にして・・・ヨウコの運転するバンは、「月夜野」駅前に滑りこんでいく。

「ほら、行くぞ・・・」

と、ヨウコとタカシは不安がるミウを連れて駅の待ち合わせ場所に立つ。

「ほら・・・ミウ、もう電車来るから・・・俺とタカシは少し離れたところから見てるから、しっかりやれよ」

と、ヨウコはミウに言うと、タカシと二人、少し遠い場所に控えた。


「どうしよう・・・わたしなんて、ただのおばんよ・・・28歳のイケメンスポーツマンとバランス取れるわけないじゃない・・・」


と、不安を口にするミウだが・・・改札口から入ってくる人々へ視線は注がれていた。

「うわ・・・電車着いたんだ・・・」

と、ミウは口にすると、不安から、改札口に背中を向けてしまう。

「こわい・・・すっごい、こわい・・・口から心臓が飛び出そう」

と、ミウは言葉にする。


と、その時、

「ミウ・・・この背中、ミウでしょ?サトルです。鈴木サトル」

と、声が聞こえてきた・・・ドキドキは最高潮・・・ミウは・・・恐る恐る、後ろを向き、サトルの顔を確認しようとした。


そこには175センチ程のイケメンの細身のスポーツマンが満面の笑みで立っていた。


「やっと逢えたね、ミウ」

と、サトルが笑顔で言った時、ミウは思わずその腕の中に飛び込んでしまった。ミウは嬉しくて仕方がなかった。


ミウは、

「もう死んでもいい」

と本気で思った。


サトルの腕の中は暖かだった。ぬくもりが心地よかった。

「ミウって、柔らかいな」

と、サトルも笑顔になる。

「っていうか、ミウって、20代だっけ?僕とあまり変わらない感じがするけど・・・」

と、サトルが言ってくれる。

「それとも、童顔なのかな・・・かわいいね、ミウって」

と、サトルが言ってくれる。


ミウは本当に、心から嬉しかった。

心から笑顔になった。


「もう死んでもいい」


ミウは、そう本気で、思うくらい、こころから嬉しかった。


「ギュウって抱きしめちゃお」


と、サトルは言うと、頬をミウの頬にあてて、本当にミウをギュウっと抱きしめるのだった。


それが心から嬉しい、ミウだった。


「もう死んでもいい・・・」


ミウは心から笑顔だった。


・・・と永遠にも近い、長い時間が過ぎた。


「ごほん、ごほん」

と、咳声が聞こえ・・そこには30代前半のタクシーの運転手スタイルの細身の男性が立っていた。

「?」

とミウは思ったが、

「あれっ、タケルさん、来てたんですか?この「月夜野」に・・・」

と、サトルが言ったので、ミウはそれこそが、すべてを差配した、鈴木タケル(32)だと知った。

「そりゃあ、かわいい、いとこの様子が心配だったし・・・まあ、いろいろ予定もあったからなー」

と、タケルは言葉にした。


その様子を見ていた、ヨウコとタカシも合流する。

「ヨウコ・・・この方が鈴木タケルさんだって・・・」

と、ミウが言葉にする。

「す、鈴木タケルさんですか・・・今回は本当にお世話になってしまって・・・」

と、ヨウコは緊張気味にお礼を言う。

「君が咲田ヨウコさんか・・・タカシくんの・・・彼の料理は絶品だよ」

と、タケルはタカシの修行している店に直接顔を出したらしい。

「タケルさん・・・なんとお礼を言ったらいいか・・・プロポーズも成功しましたし、俺達、絶対にしあわせになりますから」

と、タカシも丁寧にタケルにお礼を言っている。

「いやいや、イブはこうでなくっちゃ」

と、タケルは言った。

「イブってのは、女性が好きな男性と一緒に熱く過ごす日だろ?それを実現する日だもんね」

と、タケルは笑った。


ミウは、そのタケルを嬉しそうに見るサトルの笑顔に夢中だった。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(30)

2013年12月23日 | 今の物語
月曜日の午前中、ミウは山田さんを病院に送った後、いつものように隣町まで、荷物を運ぶ仕事の途中、赤谷川の川沿いを走っていた。


12月だと言うのに、なんとなくポカポカした日で・・・川の流れも綺麗だった。

ミウは車を停め・・・川沿いに出て、川の流れを見つめた・・・せせらぎの音が心地よい・・・。


ミウはサトルの事を思っていた・・・ここで、よくサトルに電話した・・・。


ミウは車を脇に寄せて止め、車から降りる。


少し歩いて、川沿いにあるベンチに座る。


ミウは携帯を取り出し、サトルにメールを送る。


「今、電話いいですか?」


というミウのメールに、


「電話待ってます」


の言葉が届いた。


すぐさまミウはサトルに電話をかけ・・・楽しそうに話しだしていた。


「サトル・・・今、わたし、いつもの場所に来て、川のせせらぎの音を聞いているの」


と、ミウが言葉にすると、


「へー、それ、聞かせて・・・携帯で音拾えるかなあ」


と、サトルは元気そうにしゃべってくれる。


「うん、ちょっと待ってて、やってみるから」


と、ミウは言葉にしながら、携帯をせせらぎに近づける。


「聞こえる聞こえる・・・綺麗な音だ・・・やさしい音だね・・・いつか僕も「月夜野」に行きたいよ・・・」


と、笑っているサトルだった。


サトルは「鬱」病から完全に脱出していた。



月曜日の夜、ミウはヨウコとバー「Mirage」で飲んでいた。


「っていうことが昼間にあってね・・・とても嬉しいの・・・」


と、ヨウコ相手に、言葉にするミウだった。


「そうか・・・サトルはそこまで、治ってきたか・・・俺も嬉しいな・・・あいつデカイ男性だからな。そういう男性は頼もしいよ」


と、ヨウコも言葉にしている。


「それにしても、来週はクリスマスイブね・・・」


と、ミウは言葉にする。


「そうだな。もう、そんな季節か」


と、ヨウコは言葉にする。

「そういえば・・・ヨウコは男を作るって、目標を立ててたじゃない?それはどうなの?」

と、ミウは話題を変えている。

「男を作るってのは、そんな簡単じゃねーよ。つーか、田中の事、最近は妙に思い出してよ・・・あれが「本当の恋」だったかなーって、懐かしく感じられてよ」

と、ヨウコは言葉にしている。

「だったら・・・ヨウコの方が探せばいいんじゃない?田中さん」

と、ミウは献策する。

「だけどよ・・・逃げてった男だからな・・・」

と、ヨウコは言葉にする。

「それは、そうか・・・」

と、ミウも言葉にする。


と、その時、ガチャリと音がして、バー「Mirage」の扉が開いた。


そこに一人の男が立っていた。白の上下のスーツに白のハット・・・一見してヤクザ風の細身の男が気色の悪い笑顔をして、立っていた。


「ヨウコ・・・探したぜ・・・お前、こんなところに逃げ込んでいたんだなあ」

と、その男は、ヨウコの横に来ると、そう言った。

「お前は、「女衒のテツ」・・・」

と、ヨウコは息を飲みながら、言葉にする。

「ヨウコ、お前、俺に500万円の借金があるの・・・よもや忘れてはいないよな?」

と、女衒のテツは言葉にした。

「何を言ってるの?あなたへの借金、500万円は、綺麗さっぱり返したじゃない?」

と、ヨウコは言う。

「お前よー借金ってのは、借りっぱなしだと利子がついて、増えるってのを知らねえのか?」

と、テツは言う。

「俺のところの利子は高いからよ・・・まだ、おまえには、500万円の貸しがあるんだよ。それ、即刻、返してくれや」

と、テツは言う。

「そんなお金・・・今は無いよ」

と、ヨウコは言う。

「だったら、いつも通り、働いて返してくれや。ああ、大丈夫、俺、ソープには顔利くからよ。これまで通り、高級ソープで看板娘、やってくれりゃあ、いいから」

と、テツは言う。

「お前のファンが待ってるんだよ。俺もお前を管理してたマネージャーだからよ。各所で言われちゃってよ、お前、ニーズすげえあるんだよ。人気者だな」

と、テツは言う。

「冗談じゃねー。俺はもう、ソープから足は洗ったんだ。二度と行くか、そんなところ」

と、ヨウコは激昂する。

「おめえ、この日本って国は仕事の方が人を呼んでくれるんだよ。おまえはソープの仕事が一番似合ってる。ファンも多い。だからよ、悪いことは言わねえ、復帰してくれ」

と、テツは言う。

「いやだって言ってるだろ!俺は二度とあんな仕事はゴメンだ」

と、ヨウコは強く言う。

「そうか・・・こっちが下手に出てるうちが華だぜ・・・そういうことなら、仕方ねえ。兵隊揃えて力ずくで復帰の後押しと行くしかねえな。お前がそういう態度ならよ」

と、テツは言う。

「一週間やるよ。ちょうど来週の今日はクリスマスイブだ。いい贈り物を高級ソープにしてえからよ。イブに兵隊揃えて来るから、そのつもりでいろよ」

と、テツは言う。

「言っておくが逃げても無駄だ。俺のアダ名知ってるよな、ヨウコ。「すっぽんのテツ」とは俺の事。一度食いついたら絶対離れねえ・・・わかったな」

と、テツは言う。

「じゃ、イブの晩を楽しみにしてるぜ。それからヨウコ。ソープに送る前に一度お前を抱かせてくれ。ソープに出る前に予行演習が必要だろ。へ、楽しみだぜ、それがよ」

と、テツは言う。

「そーか。今年のクリスマスイブの贈り物は、お前と一発出来ることだな。お前の柔肌・・・気持ちいいからな。今から楽しみだぜ・・・じゃ、ヨウコ、あばよ」

と、テツは言い残し、店を出て行った。

「くそー・・・」

と、ヨウコは歯ぎしりをしている。


その様子にミウは・・・ある考えを思いついていた。


「ヨウコ!」

と、ミウはヨウコに声をかける。

「何だ?」

と、ヨウコは少し気分が荒れている。

「わたしに一つだけ考えがある・・・それをやらせてくれない?」

と、ミウはヨウコに言う。

「考えって、何だよ」

と、ヨウコはつっけんどんに言う。

「ヨウコのこの状況を・・・あの「女衒のテツ」って奴をなんとか出来るかもしれない・・・」

と、ミウは言う。

「マジか、それ・・・」

と、ヨウコは思わず、ミウの肩をつかむ。

「わからない・・・わからないけど、試す価値はあると思うの」

と、ミウは言う。

「わかった・・・どうせあいつは・・・逃げ隠れしても、絶対に俺を見つけに来る・・・それが嫌で逃げまわっていたんだけど・・・もう逃げまわるのは飽き飽きしたからな」

と、ヨウコは言う。

「それで決着をつけようじゃないか。ミウを信じてみるよ。俺はもう逃げねえ」

と、ヨウコは言葉にする。

「ヨウコ・・・わたしを信じて・・・」

と、ミウは言う。

「ああ・・・俺はおまえだけは、信じるよ。お前だけはな・・・」

と、ヨウコはミウの目を真正面から見て、そう言った。


ミウはすぐに自分のアパートに帰ると、頭を整理してから、サトルの携帯にメールした。

「ちょっと緊急事態があるの。電話していい?」

と、ミウがメールすると、すぐに、

「うん、いいよ。大丈夫」

と、メールが返ってきた。


ミウはすぐに携帯電話を取り、サトルに電話する。

「もしもし、サトル・・・ごめん、こんな夜遅くに」

と、ミウが言う。

「大丈夫。起きてたから」

と、サトルは答える。

「突然なんだけど・・・サトル、以前、何かあったら、何でも頼んでくれって言っていたわよね?」

と、ミウが言葉にする。

「ああ・・・確かに。大丈夫だよ、それ」

と、サトルは言葉にしてくれる。

「緊急事態なの。わたしの親友がソープランドに売られそうなの」

と、ミウは状況を手短に説明する。

「わたしは親友の為に、それをなんとか阻止したくて・・・でも、手が思いつかなくて、サトルに頼む以外手はないの」

と、ミウは言う。

「了解・・・まあ、この仕事をうまく出来れば・・・結果的にミウの為になるんでしょ?」

と、サトルは言う。

「うん。わたしの為に、この仕事、引き受けてくれる?」

と、ミウが言うと、

「もちろん。全然大丈夫。大船に乗ったつもりで、いて、ミウ・・・僕はこれからは、僕が大切にしている人達の為に仕事をする・・・そう決めたんで、全然オッケー!」

と、サトルは言う。

「だから、今、僕が一番大事だと考えている、ミウの為に、僕は仕事をするんだ。新たに生まれ変わった新しい僕としてね」

と、サトルは言う。

「大丈夫、全然心配しなくて、大丈夫だから・・・あなたの笑顔が見たいから」

と、サトルは言ってくれる。

「サトル・・・」

ミウは胸がいっぱいになって、言葉を出せなかった。

「ミウ・・・少し時間くれる?折り返し電話するから、ほんのちょっと待って・・・」

と、サトルは言ってくれる。

「ミウ・・・素敵な仕事を僕にくれて・・・ありがとう」

と、サトルは言って、電話は切れた。

「サトル・・・」

胸が一杯になった、ミウは、そのサトルの言葉に、涙を流していた。


数十分後、ミウの携帯にサトルから電話がかかってきた。

「ええと、細かい情報の確認させて・・・その女衒の男・・・「女衒のテツ」だけど・・・本名わかる?それと過去使っていた電話番号の情報とかあるかなあ?」

と、サトルはテキパキと情報を確認してくる。

「えーと、その情報・・・わたしの親友ヨウコって言うんだけど、そのヨウコに確認してみるから・・・折り返し電話するわね」

と、ミウもテキパキと対応し・・・すべての処理は終わりを迎えた。


「じゃ、そういうことで・・・必要な情報はこちらから流すから・・・安心していてくれ・・・ということだって。ま、大丈夫っしょ」

と、サトルは言葉にしていた。

「ミウ、もう、僕は大丈夫だ・・・それにこの仕事を完璧にこなせれば・・・それこそ本格的な復活の契機にすることが出来るしね」

と、サトルは言葉にしてくれる。

「この仕事をきっかけに、僕は完全に蘇る・・・もう「鬱病」なんて誰にも言わせることはないから」

と、サトルは言葉にしてくれる。

「ありがとう。ミウ・・・僕は素敵なパートナーに出会えたみたいだ・・・」

と、サトルは言い、

「じゃ、また、連絡するね・・・」

と言って、サトルからの電話は切れた。


ミウは泣いていた・・・。頼れる大人の男に復活したサトルに、涙が止まらくなっていたのだ。


嬉しい感情だけに、ミウはただただ泣くだけだった・・・。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(29)

2013年12月23日 | 今の物語
「サトルは、何とも思わないの?わたしのこのネガティブな経験について・・・」

と、ミウは多少驚きながら、サトルに質問する。

「え?っていうか、そんなに重い話とも思わないよ。僕は・・・」

と、サトルは言ってくれる。

「でも、わたし、不倫してたのよ。しかも、わざと相手の奥さんに復讐する意図を持って・・・いやな女だとは思わないの?サトル」

と、ミウは狐につままれたような表情をしながら、言葉にする。

「え?だって・・・そういうことって、女性だったら、よくあることなんじゃないの?」

と、サトルは言葉にする。

「だって、ミウはその男性を愛してたんでしょ?抱かれたかったんでしょ?で、抱かれてただけでしょ?」

と、サトルは言葉にする。

「何の問題も見つからないけど・・・僕的には・・・」

と、サトルは言葉にする。

「でも、不倫してたのよ、わたし・・・」

と、ミウは言葉にする。

「「不倫」なんて言葉は「英雄色を好む」という言葉で同じで、要は「恋愛遂行能力」がまるでない男性と女性が、異性に愛される男女に嫉妬して作った言葉でしょ?」

と、サトルは言葉にする。

「だって人間はそもそも動物なんだよ。それに女性は毎日の恋こそが優先順位第一位の仕事でしょ?」

と、サトルは言葉にする。

「だったら、普通に恋しい男を視界に入れておきたいし、恋しい男性に毎秒抱かれたいと考えるのは、女性とすれば、自然なことじゃない?」

と、サトルは言葉にする。

「特に女性は「子宮で考える」んだし、目の前の男性に恋に落ちたら、その男性に妻がいようがいまいが、関係ないじゃん」

と、サトルは言葉にする。

「むしろ、恋しい男性が、自分に妻がいるのに、自分を抱いてくれるのなら、その瞬間、その男性は妻よりも自分を取った、ということになるでしょ?」

と、サトルは言葉にする。

「それって女性である自分にとって、嬉しいことになるじゃん・・・僕はそう考えるけどな」

と、サトルは言葉にする。

「今の話にどこか問題あった?・・・なんか、僕間違えた事言ってる?ミウ」

と、サトルは言葉にする。

「ううん・・・間違えてはいないと思う。女性の立場で考えれば・・・」

と、ミウは言葉にする。

「そりゃあ、僕は理性の高い男性だし、「不倫」なんかする気はないよ。社会を生きる男性からすれば「不倫」なんて、社会的に自分のクビを締めるような行為だからね」

と、サトルは言葉にする。

「だから、僕は「不倫」しないでいいように、自分を賭ける相手には条件をつけてきたんだ」

と、サトルは言葉にする。

「「お前は俺か」的におしゃべりしていて、ヒーヒー笑えるような女・・・そしてもちろん、自分を美しくしている大人の女性という条件を、ね・・・」

と、サトルは言葉にする。

「そういう女性じゃないと、僕は恋に落ちない・・・そう決めて今までやってきた」

と、サトル。

「だってさ、人生修行の意味って、要は「人間性をデカくすること」と、「人間性を強くすること」なんだからさ」

と、サトルは言う。

「「人間性のデカイ」、そして、「人間性の強い」男女が恋するのが・・・究極の恋のカタチなんだよね」

と、サトルは言う。

「逆に言えば、人間性の小さい、人間性の弱い人間は、男女共に、皆から嫌われ、孤立することになるわけ・・・」

と、サトルは言う。

「だから、僕は「人間性はデカイ」し、「人間性も強く」してるから・・・まあ、サイクリストとしての数々の経験や、何と言ってもネガティブな過去の数々の経験が・・・」

と、サトルは言う。

「まあ、僕の人間性をさらにデカくし、人間性を強くした・・・だから、今こそ「お前は俺か」的な女性と恋に落ちればいい・・・そう判断しているんだよね」

と、サトルは言う。

「さらに言えば・・・僕の「人間性のデカさ」は・・・鈴木一族の血でもあるから・・・一族、みんな似たように「人間性がデカイ」」

と、サトルは言う。

「まあ、女性に求められて寝た経験はいろいろあるよ・・・それは「一夜の恋」的な経験は、たくさんあるけどね」

と、サトルは言う。

「だから、僕が明確に恋したのは・・・大人になって、サイクリストになってから、2人だけなんだ・・・実際には・・・」

と、サトルは言葉にする。

「僕が殺してしまった大人の女性、ミクと・・・ミウだけだ」

と、サトルは言葉にする。

「ミウは僕と感性も似ている・・・同じモノを好きな人間は・・・つまり、お互い「月」が大好きっていう共通点があるよね?」

と、サトル。

「うん。そうね・・・というか、確かにもうひとりの自分と話しているように感じることはあるわ」

と、ミウ。

「多分感性が似ているってことは、人間の作りもほぼ一緒なんだと僕は思うんだ。だから、ミウとしゃべっててヒーヒー笑えるし、楽しい」

と、サトル。

「・・・それは以前僕が恋に落ちたミクと全く同じ状況だから・・・そう言える事を僕は知っているんだ」

と、サトルは言葉にする。

「ミクも、「お前は俺か」的な人間性のデカイ、人間性の強い女性だったよ・・・その彼女が強い理由も彼女の口から聞いたことがあるんだ・・・」

と、サトルは遠くを見るような目つきをした・・・。


ミクとサトルは同じベットに裸で寝ていた・・・朝起きてエッチをした後・・・ミクがサトルに語りだした話だった・・・。

「わたし、大学時代からつきあっていた彼がいたの。自信家で、やさしくて、包容力のあった男性で、大学もいい大学に行ってたの」

と、ミクはサトルをやさしく見ながら話している。

「でも、その男・・・有名な商社に入って働きはじめたんだけど・・・1年で自殺してしまったの・・・悲しかった、わたしは本当に・・・」

と、ミクは言葉にする。

「自信家だったからこそ、自分の現実対応力の無さに絶望したみたい・・・発作的に飛び降り自殺・・・アメリカの現地法人の屋上から飛び降り自殺したの」

と、ミクは言葉にする。

「わたし、彼の部屋に大量の睡眠薬がキープされているの、知ってたの・・・その話を聞いたわたしは発作的に彼の部屋に行って・・・合鍵もらってたから・・・」

と、ミクは言葉にする。

「大量の焼酎と共に、大量の睡眠薬を飲んで、自殺を図ったの・・・本当に死ぬ気だった・・・彼のいなくなったこの世に未練は無かったから・・・」

と、ミクは言葉にする。

「でも・・・その頃、わたしは下戸に近かったから・・・睡眠薬ごと、ゲーゲー吐いちゃって、ほとんど戻しちゃったの・・・だから、死ねなかった」

と、ミクは言葉にする。

「変な副作用も残らなかったから・・・その時、わたし、思ったの・・・「そんな弱いことでどうする?もっと強く生きろ」って彼が言ってくれたんだって」

と、ミクは言葉にする。

「それで人生変わったわ・・・お酒にも強くなったし、「人間性のデカイ、人間性の強い大人の女性になろう。そして、人間性のデカイ男を愛そう」って思うようになった」

と、ミクは言葉にする。

「そして、あなたに出会ったの・・・サトルは人間性のデカイ、素敵な男性だもの・・・これくらいのネガティブ、背負えるわよね?」

と、ミクは言葉にしてから、笑顔になった・・・。


「僕はそういうネガティブも過去、背負ってきたんだ・・・そのミクも僕が殺した・・・そういうネガティブを越えてきたんだ僕は・・・」

と、サトルはミウに向けて言葉にする。

「その僕からすれば、ミウの話なんて・・・愛する女性なら、当然辿る道だって、僕には理解出来るし、ネガティブのうちに入らないよ。それくらいは・・・」

と、サトルは笑った。

「ミウはその男性を愛した・・・それだけの話なんじゃないの?」

と、サトルは笑う。

「「英雄色を好む」という言葉・・・あれは実際は「英雄は人間性がデカくて強いから、多くの素敵な女性に愛される」という言葉さ」

と、サトルは笑う。

「さらに言えば「けつの穴の小さい、人間性のちっちゃい、弱い男性は、女性から嫌われ、一切相手にされないから、孤立し、不幸スパイラル一直線」ってことさ」

と、サトルは笑う。

「それこそが、この世の真理・・・それを大事に生きていかなければ、人間はいけないんだ」

と、サトルは笑った。


「サトルって、余程、人間性がデカイ男性なのね。それに強い・・・わたしが見てきた中でもダントツで、人間性がデカくて、強いわ・・・」

と、ミウは言葉にする。

「そりゃそうだよ。そうなるべく、修行をしてきたんだから・・・なって当然なの」

と、サトルは笑う。

「っていうか・・・サトルは、そういう経験を活かして・・・女性をしあわせな気分にさせる仕事をしたら?」

と、ミウが言葉にする。

「え?どういう仕事?」

と、サトルはミウに聞く。

「例えば、不幸な女性が結果的には、しあわせな道を歩める・・・そんなラブストーリーを書いて、読んだ女性をしあわせにする、とか・・・」

と、ミウはサトルに提案する。

「もし、サトルが恋愛小説家になるのなら、わたしはフリーの編集者として、あなたを全面的にバックアップ出来るもの・・・」

と、ミウはサトルに言う。

「そっか・・・僕らが体験してきたことを、素直に言葉にすればいいってことでしょ?それ・・・」

と、サトルはミウに言う。

「うん・・・であれば・・・二人には、しあわせな未来が約束されるような気がするんだけど・・・」

と、ミウはサトルに言う。

「なんか、それって・・・二人がしあわせになる道そのもの・・・じゃないの?よくわからないけど・・・」

と、サトルはミウに言う。

「いずれにしても・・・あれ、やる気が出てきた・・・そういう仕事なら、僕、存分にやれる気がしてきたよ、ミウ」

と、サトルは笑顔でミウに言う。

「サトル・・・やる気が出てきたって・・・それ「鬱」状態から、抜け出せたってことじゃない?サトル!」

と、ミウは言葉にする。

「ほんとだ・・・そうだ、きっと・・・僕は「鬱」から脱したんだ。僕は大きなネガティブに勝ったんだ!」

と、サトルが言葉にする。

「それって、あなたが以前、自分で言葉にしていたじゃない・・・」

と、ミウは言葉にする。

「え?なんか言ったっけ、僕・・・」

と、サトル。

「わたしのネガティブな話を受け止められた時にこそ、あなたが「鬱」病から抜け出せる時だって・・・」

と、ミウが言う。

「ああ、そっか、そんな事も言ったっけ」

と、サトル。

「だから・・・わたしはあなたのその言葉に賭けたのよ」

と、ミウ。

「あなたは、わたしのネガティブなんて、鼻にもひっかけないくらい人間のデカイ男だった・・・あなたは賭けに勝ったのよ」

と、ミウは言葉にする。

「あなたの人生は、これから、いつでも勝利だけになるの・・・その瞬間を今、あなたは迎えたのよ・・・」

と、ミウは言葉にした。と、涙がつーっとミウの頬をつたう。

「やったわ、サトル・・・おめでとう、サトル・・・」

と、涙しながら、言葉にするミウでした。


ミウは大粒の涙を流しながら、いつまでもいつまでも、サトルの為に喜んでいました。

その傍らでヨウコも大粒の涙を流しながら、いつまでも、二人の会話を聞いていました。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(28)

2013年12月23日 | 今の物語
「ミウ、サトルは死んだお前の弟と同い年たろ・・・死んだ弟への思いも乗せて、言葉にするんだ。そうすりゃ、きっと気持ちは伝わる」

と、ヨウコは言葉にしてくれる。

「本当の大人の女の・・・大きなネガティブを超えてきた本当の大人のおんなの、見返りを求めない無償の大きな愛で、サトルを包んでやるんだ、ミウ!」

と、ヨウコは言ってくれた。


ルルルル、ガチャという音がして、携帯電話にサトルが出る気配・・・。

「もしもし、ミウ・・・今、ちょうど空の月を見ながら、ミウのことを思っていたんだ・・・いつか、君が美しいと言ってくれた、江ノ島の上に登る月を・・・」

と、サトルはいつもよりは、いい状態のようだ。


「サトル・・・少しいいかな、今・・・」

と、ミウは聞いてみる。

「うん、いいよ・・・ちょうど君の言葉が聞きたい時間だったんだ・・・夜の月を見ていると、いつも君を思い出すから・・・」

と、サトルは少し甘えるようにミウに言葉を出している。

「あなたが今必死に戦っているのは、わたしにもわかる。あなたは頑張り屋さんだものね・・・いつも頑張りすぎるくらい頑張って・・・」

と、ミウは言葉にする。

「みんなそんな頑張り屋さんのあなたが好きなのよ。だから、あなたは皆に慕われるし、きっとあなたを早い年齢で主任エンジニアなんて要職につけたのも、周囲の親心ね」

と、ミウは言葉にする。

「あなたは誰からも愛される。だからこそ、その期待に答えようとしてがんばる。それで張り切り過ぎて、ちょっと疲れちゃったのよ。誰にでもあることだわ・・・」

と、ミウは言葉にする。

「でも、あなたはそのおかげでいろいろな経験をしてきた・・・普通の若い子が経験しないような事も、違う?サトル」

と、ミウは言葉にする。

「そうだね。大抵の悲惨な経験はしたんじゃないかな。母親も若い頃に亡くしているし、年上の恋人は僕のせいで死んだ。他にもいろいろ経験したよ」

と、サトルは言葉にする。

「なんで、こんなに僕は不幸なんだろうって、たまに思う。年上の彼女を殺しちゃったんだもん・・・そんな経験してる奴なんて、そんなにいないしね・・・」

と、サトルは言葉にする。

「そんな彼女がいたんだ・・・年上っていくつくらい年上だったの?」

と、ミウは聞く。

「4歳年上・・・そうか、ミウと同い年だよ。そうか、ミウと話しているとなんだか、たまに懐かしく感じるのは、昔の彼女としゃべっている気になっていたのかもしれない」

と、サトルは言葉にする。

「ごめんね・・・そんな気はなかったんだけど・・・気がついてなかったよ、そんな大事なことに・・・」

と、サトルは言葉にする。

「ううん、いいのよ・・・サトルがそれで笑顔になれるのなら、わたしの気持ちなんてどうだっていいの・・・わたしにとって、大事なのは、あなたの笑顔なんだから」

と、ミウは言葉にする。

「その話にも興味があるけど・・・まずはわたしの話を聞いて欲しいの・・・出来る?サトル」

と、ミウは聞く。

「いいよ・・・僕もミウの過去には興味がある・・・ミウの過去も含めてミウだもん・・・それをすべて愛せなくっちゃ、本当の大人の男と言えないよ」

と、サトルは言葉にする。

「じゃあ、話すわね・・・わたしが背中に背負っている重い十字架のすべてを・・・」

と、ミウは口にする・・・。


「始まりは、4歳年下の弟が、高校2年生の時に交通事故に巻き込まれて亡くなった事・・・相手は酒酔い運転をしていた大学一年生・・・その彼は直後に自殺したわ」

と、ミウは静かにしゃべり始める。

「その彼の両親も・・・私たち被害者の前に土下座して謝ったけど、その後程なくして自殺・・・ひとがいっぱい死んだの。理不尽な死は突然やってくるって私は知ったわ」

と、ミウは言葉にする。

「その頃から、家族から笑顔が無くなったわ。皆、弟のユウを愛していたもの・・・その笑顔が突然もぎとられて・・・喪失感が大きかったの。あまりに大きかった・・・」

と、ミウは言葉にする。

「ここからは私の恋の話になるけど・・・やっぱり聞きたくないよね?恋人の昔の恋の話なんて・・・」

と、ミウは少し躊躇する。

「いや、ミウが話すべきだって結論づけて、話すんでしょ?だったら、僕はそれを聞くよ・・・」

と、サトルは言葉にしてくれる。

「それを聞くことで、僕は今もがいている、このネガティブな状況から、少しでも抜けれれば・・・と思っている。それが出来なきゃ、僕は成長出来ないよ」

と、サトルは言葉にしてくれる。

「それにミウは4歳も上だし・・・きっといろいろな事があったんだと思う。でも、僕は思うんだ。あなたは強い女性だって」

と、サトルは言葉にしてくれる。

「強い大人の女性だからこそ、いろいろなネガティブな状況を超える必要があった・・・だからこそ、ミウは強くなれたんだろって、僕は思ってるんだ」

と、サトルは言葉にしてくれる。

「僕も強くなりたい。ミウみたいに・・・だから、その話を僕に聞かせてよ・・・僕も今陥っている、この大きなネガティブを越えたいんだ・・・」

と、サトルは強い口調で、言葉にした。

「わかったわ・・・サトル・・・わたしが背負っている十字架のすべてを話すわ・・・」

と、ミウは腹を据えて話し始める。

「わたし、不倫になることを知りながら、ある大人の男性に抱かれていたの。その頃、その男性を本気で愛していたから・・・」

と、ミウは言葉にする。

「わたし、出版社にいたの。若い頃は、ね。でも、その時にいろいろな男性を知って・・・「男って、何でこんなに弱いの」って思ったの」

と、ミウ。

「いろいろな男が社会にいるわ。でも、本当に強い、わたしの恋愛対象になる男はほんの一握りだった・・・皆繊細という言葉に逃げ込んで、弱いままの男ばかりだった」

と、ミウ。

「サラリーマンの男なんて、論外。収入も少ないし、男ばかりで集まって会社の悪口言いながらお酒を飲むくらいのものでしょ・・・そんな男たちに魅力なんてないわ」

と、ミウ。

「本当に魅力のある男達は、真に独立している強い男達よ。大人の女性を自然と笑顔に出来る、気の使える、それこそ繊細に気を使える、知恵のあるやさしい男達だわ」

と、ミウは言う。

「私はそういう男達に出会って、わたしが出会うべき男は、こういう男だって、わかったの。理解したの・・・」

と、ミウは言う。

「わたしはそういう男を愛したの・・・結果、知らなかったけど、その男に隠し妻がいたの・・・その妻がチカラのある人間で、私は出版社を追われたの」

と、ミウは言う。

「それで・・・わたしも一時期、藤沢にいたのよ。ミニコミ誌の編集してたの。「Le Windy City」知らない?」

と、ミウはサトルに聞く。

「ああ・・・知ってる。たまに読むよ。ふーん、あの雑誌の編集してたんだ、ミウ」

と、サトルは嬉しそうに言う。

「でも、一年でそこも追われた・・・自分のせいだけどね」

と、ミウ。

「その時に、浮気相手から誘われたの。「関係を復活させないか?」って」

と、ミウ。

「わたし、今から考えれば、わたしを出版界から追いやった、その男の妻に復讐してやりたかったんだと思う。その妻を出し抜いてやれって、そう思ってたんだわ、きっと」

と、ミウは言う。

「わたしは背徳の香りを感じながら、何度もその男に抱かれた・・・でも、出し抜かれていたのは、わたしの方だったの。馬鹿なおんなよね・・・」

と、ミウ。

「その男はわたしとのセックスを逐一奥さんに報告することで、奥さんを熱くたぎらせて、その上でのセックスを奥さんと楽しんでいたのよ」

と、ミウ。

「わたしの方が出し抜かれていたってわけ。ざまはないわ・・・」

と、ミウ。

「で、結局、その奥さんの手が回って、ミニコミ誌の仕事も無くなって・・・男性不信になったわたしは実家のある茨城県古河市に逃げ込んだの」

と、ミウ。

「でも・・・私の不倫の噂はすぐに街に広がり、教師をしていた父は自殺・・・母はわたしをなじって・・・わたしは居場所を失って、実家の街を捨てたの」

と、ミウ。

「そして、今いる、この「月夜野」の街に逃げ込んだの。でも、それで済まなかった。わたしの不幸は」

と、ミウ。

「わたしが「月夜野」に逃げ込んで一ヶ月もしないうちに、今度は実家が焼けて、和解出来なかった母は焼死・・・就寝中に焼死しただろうって言われたの」

と、ミウ。

「これが私の背負っている十字架のすべて・・・だから、わたし、結構な十字架を背負っているのよ・・・」

と、ミウ。

「どう思う、サトル・・・」

と、ミウは少しドキドキしながら、静かに聞いていたサトルに聞いてみる。

「うーん、そうだなあ・・・」

と、サトルは言葉にする。

「なんだろう。よくわからないのは、何故、ミウの父さんが自殺する必要があるのってことかな」

と、サトルは言葉にする。

「娘が不倫したくらいで、自殺する男親がいる?世の中知らない、それこそ繊細なハートの娘さんなわけでもないし、普通、逆じゃない?」

と、サトルは言葉にする。

「え?どういうこと?」

と、ミウはサトルに尋ねる。

「普通、やさしい父親だったら、娘を守る方向に動くんじゃないの?だって娘の人生最大のピンチでしょ?違う?」

と、サトルはミウに尋ねる。

「まあ、そうだけど・・・」

と、ミウは言う。

「だとすれば、それは事故だよ。たまたまタイミングが悪くて、ミウには自殺に見えちゃったかもしれないけどさ・・・それ絶対事故だと思うけどな」

と、サトルは言う。

「それにさ、お母さんが亡くなったのだって、たまたまじゃん・・・だから、別にミウが悪いわけ・・・ひとつも無いじゃん」

と、サトルは冷静に言葉にした。

「つまり、ミウは別に何の重い十字架も背負っていないってことだよ。何も気にすることなんて、一つもないよ」

と、サトルは当然のように言葉にした。

ミウはサトルの言葉に驚いてしまった。

「じゃさー、次、僕の話も聞いてよ・・・」

と、サトルは自ら話を開始しようとしていた。


つづく


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「ラブ・クリスマス!」(ボクとワタシのイブまでの一週間戦争!)(22)

2013年12月23日 | 今の物語
クリスマスイブ当日、午後6時。湘南ベイヒルトンホテルの最上階、ロイヤルスイートルームにリサはチェックインしていた。


既にシャワーを浴びたリサは、白いバスローブを羽織り、湘南の夜景を楽しめる大きな窓を見渡せる場所にある、ゴージャスな椅子に座ってシャンパンを楽しんでいた。

スピーカーからは、ソフトな音量で、クリスマスソングが流れていた。


音楽は山下達郎の「クリスマスイブ」に変わっていた。


リサは静かな表情でシャンパンを飲んでいたが、シャンパンのグラスを置くと、右手の中指でヴァギナを触り始めた。

「今日こそ・・・待ち望んだ日が、とうとう来るのね・・・長かった・・・」

リサは目を閉じて・・・軽い陶酔を覚えていた。


「キンコン」

と、呼び鈴がなる。

「来たわね・・・」

と、リサは口にすると、スィートルームの玄関に出る。


ガオだった。


ガオは、黒いトレンチコートを来て、黒いおしゃれ帽を被っていた。

「これ・・・美しい女性には、赤いバラがよく似合う」

と、20本ほどの赤いバラの花束を、リサに差し出した。

「ありがとう・・・うれしいわ。わたし、赤いバラが大好きなの・・・」

と、リサは、やさしい笑顔になった。

「それから・・・これ、エルメスの真赤なスカーフ。あなたには、これが似合う」

と、ガオは、細身の箱を渡した。

リサは、箱の中から、真赤なスカーフを取り出し、確認すると、

「センスいいわね、ガオくん。ありがとう」

と、お礼を言った。


リサは、ガオを伴ってスイートルームを横切ると、窓の前のゴージャスな椅子に陣取り、ガオも横に座らせた。

「わたし、このバスローブの下は、もちろん、全裸よ・・・どう、いきなり、わたしの全裸姿、楽しんでみる?」

と、リサは、バスローブを脱ぎ、全裸になった姿で、ガオの前に立った。


白い美しい肌に、うっすら赤みがかかり、ツンと上を向いたバストはCカップ。細身の身体は完璧なボディラインを誇っていた。


「どう?花火大会の前に味わってみる?この身体」

と、リサはガオに聞く。


そのリサの全裸姿を見ても、ぴくりとも表情を動かさず、厳しい顔で、リサを見返すガオは、いつもとは、違っていた。


「今日は、伝説のイブの江の島花火大会の日なんでしょう?ガオくんに聞かされて、ロマンチックな気持ちになったわ」

と、リサは、言う。

「・・・僕もあなたと、その花火大会を楽しむつもりで、いたんですが・・・少し事情が変わりました・・・」

と、ガオは立ち上がりながら言う。


「?」

と、リサは少し怪訝な表情でガオを見る。


「少し話をするので・・・バスローブを羽織って、静かに聞いていてください」

と、ガオはリサにバスローブを羽織らせ、椅子に座らせた。


ガオは大人な表情で、リサに背を見せながら、話し始める。


「リサさん、いや、リサ・・・実は、あなたの目的を知ってしまったんですよ。この僕が」

と、ガオは言うと、くるりと振り返り、リサの目を見つめる。

「あなたが好きなのは、この俺じゃない。俺に似ている、あんたの兄さんだ!」

と、ガオは言い切った。


リサは何も言わずにガオの目を見つめている。


ガオは、このホテルに来る前に出会ったタケルとリョウコの言葉を思い出しながら、言葉にしていた。


鈴木タケルは、真面目な顔で話していた。

「ガオ、よく聞け。リサは結婚などしていない。フランスに単身赴任の旦那がいるなんてのは、真っ赤な嘘だ。お前はもうそんな情報に惑わされる必要はないんだ」

と、タケルは言った。

「そうなのか!」

と、ガオは驚く。

「抱きたいか、ガオ。リサを」

と、タケルが聞く。

「抱きたい気持ちが、正直ある・・・いや、抱きたい!」

と、ガオは正直に言う。

「お前、抱きたいから抱くのか?リサを」

と、タケルが聞く。

「いや、彼女から求められているから、抱くんだ。彼女を笑顔にしたいから、抱くんだ」

と、ガオがタケルの目を真剣に見ながら言う。

「そうか・・・成長したな、ガオ」

と、タケルは言う。

「だが、もうひとつ、教えてやろう。リサは、ガオに恋しているんじゃない。リサが恋しているのは、小学3年の時に好きになった義理の兄なんだ。お前じゃないんだ」

と、タケルは冷徹な目で言う。

「どういうことだ?リサさんは、俺を求めている」

と、ガオが言う。

「その理由は、ガオが、リサの兄にそっくりだからだ。それがリサがお前を求める、すべての理由なんだ・・」

と、冷徹な目のタケルの声が響く。


ガオはその風景を思い出しながら、話している。


「リサ。あんたは、いくつもの諜報機関を渡り歩いてきたプロ中のプロだ。だが、あんたが、日本の公安に移籍してきた目的は、ただひとつ」

と、ガオはリサをゆっくり見つめなおすと、

「公安は、あんたの兄さんが、かつて働いていた機関だからだ。あんたは生涯をかけて、兄さんを追ってる。それは、あんたが、本当の意味で、兄さんを愛しているからだ」

と、言い切った。

「公安に入り込んだ時にあんたは、自分で作ったニセの情報で、自分を武装した。フランスに単身赴任している旦那がいるなんて、真っ赤な偽モノだったんだ」

と、ガオは言う。

「すべてを自分のいいように作り替えた。あんたは俺に奔放な女の姿を見せ続けてきたが、それも嘘だ。すべて作り物だったんだ」

と、ガオは言う。

「あんたは、真面目で誠実な自分を隠すために、奔放な自分を装い続けた。そして俺を翻弄させ続けてきたんだ」

と、ガオは言う。

「だいたい、あんたは、奔放な様子を俺に見せ続けてきたが、それだって、俺に対する愛情ではなく、あんたの兄に対する代償行為に過ぎない」

と、ガオは断じる。

「今日オレとセックスをしようとしていたのも、それだ。すべて、あんたの兄が見つからないから、俺をその代わりにしようとしていたに過ぎない」

と、ガオは断じる。

「あんたは、今日オレとセックスすることを心待ちにしていたはずだ。なぜなら、あんたは、兄を愛するあまり、他の誰とも寝ていないからだ」

と、ガオは断じる。

「あんたは、今日に至るまで、誰とも寝ていない。処女だ。正真正銘の処女だ。それは兄のために、いつか大好きな兄に捧げるために、大事に守ってきた、あんたの宝だ」

と、ガオは断じる。


あの時、鈴木タケルは、冷徹な目でガオを見ていた。

「ガオ、リサをそれでも、抱きたいか?お前でなく、兄の代わりとしてのお前を求めているリサを」

と、タケルは言う。

「それでも・・・彼女が俺を求めているのなら、彼女に旦那がいなければ、これは、「本当の恋」じゃないか。彼女を抱いても、なんの問題もないじゃないか!」

と、ガオは言った。

「リサが処女でもか?リサが兄の為に、これまで、守り通してきた処女を、お前はリサから奪いたいのか?」

と、タケルは冷徹な目で言った。

「処女・・・だって?彼女は俺の手を、濡れたヴァギナにすら、くっつけて来たんだぜ」

と、ガオが言う。

「彼女も本気だってことだ・・・だが、お前は、リサに本当にしあわせになって欲しいと思わないのか?お前もリサも傷つかずにしあわせになれる方法を俺は知ってる」

と、タケルが言う。

「そんな方法があるのか?」

と、ガオ。

「俺を信じろ。リサだって、わかってくれるさ」

と、タケルはガオの背中を叩いた。


ガオの決意は固まった。


「わかった。俺はお前を信じる。俺とリサ、両方をしあわせにしてくれ」

と、ガオが言うと、

「あと、リョウコちゃんも、同時にしあわせにする。がんばってこい。きっちりと、大人の男に成長してくるんだ!」

と、タケルは送り出してくれた。


「鈴木、ひとつだけ教えてくれ」

と、行きかけたガオが聞く。

「なんだ?」

と、タケル。

「なぜ、彼女は今日オレと寝ようとしているんだ?」

と、ガオ。

「今日がイブだからだ」

と、タケルは言った。


ガオはその風景を思い出しながら、言葉を出していた。


「だが、あんたは方針を変えた。いくら探しても見つからないあんたの兄に、あんたは、自分が愛されていないんじゃないかと疑念を持った」

と、ガオは断じる。

「当たり前だ。情報のプロのあんたが、これだけ探しても出てこないということは、ただひとつ考えられるのは、兄があんたを嫌っていて、隠れている、それだけだ」

と、ガオは断じる。

「それを理解したあんたは、あんたの兄そっくりな俺を、兄の代わりに愛そうと決めた。そして、今日、イブの晩に、処女を捧げようと考えたんだ」

と、ガオは断じる。

「あんたは、マリアになろうとしたんだ。聖なるイブの晩に愛する男に処女を捧げる。女性として最高の夢じゃないか・・・その夢を果たそうと、俺を誘ったんだ」

と、ガオは断じる。

「違うかい?え、リサさんよう」

と、ガオが聞く。


リサは・・・リサは、いままでとは、全く違った、成長して大人の男になったガオに、何も言えないでいた。


「あんたは、妖しいおんななんかじゃない・・・あんたは、いつまでも、義理の兄貴に恋してしまった、小学3年生の女の子だ。違うかい?え、リサさんよう」

と、ガオが言っても、リサは何も答えない。

「あんたは、大好きな兄の為に、すっと、処女を守り続けてきた、こころも身体も美しい、小学3年生の少女のままなんだ!」

と、ガオが断じた時、リサの目から、涙がスーッと流れた。


「お兄ちゃん・・・わたし、今でも、お兄ちゃんが大好き・・・お兄ちゃん、なんでわたしの前に出てきてくれないの・・・?」

ガオの言葉が、リサの素直なこころを呼び覚まし、リサが、これまで、ずっと我慢してきた言葉を、封印してきた言葉を、露わにしてしまった。


その言葉が、リサの心に響いた瞬間・・・。

リサの心に溜まりに溜まった、哀しい思い、悔しい思い、せつない思い、愛しい思いがすべてない混ぜになって、感情が爆発した。


リサは、いきなり立ち上がり、ガオの胸に飛び込むと、泣いた。少女のように、ベーベー泣いた。

これが、あの妖艶なリサかと思うくらい、リサは、幼い少女のように、べーべー、泣き続けた。


リサは、すべての仮面を脱いで・・・小学3年生の少女リサに戻っていた。


リサは、ガオに兄の面影を重ねたのだった。

リサは、兄の胸で泣いているように、錯覚したのだ。


少しだけ長い時間が過ぎた。


「私絶望していたの・・・兄は私から逃げようとしている。隠れようとしているんじゃないかって・・・これだけ探しても見つからないんですもの」

と、リサはやっと口を開いた。

「私は情報のプロよ。ほんの少しでも兄の情報を見つけたら、すぐにその場所に行ったわ。でも・・・痕跡が見つからないの」

と、リサは言う。


「それは当たり前だわ!」


と、女性の言葉が響く。


そこには、ひとりの美しい女性が立っていた。


「リョウコ!」


と、リサは言葉にする。

「リサさんのお兄さんは、リサさんも知ってる通り、元公安・・・痕跡を消すのは、基本だもの」

と、リョウコは口にする。


「リサさんに通告します。コード3E0Bが出ました。至急、国外退去願います。日本国政府の人間として、私が通告にあがりました」


と、リョウコは冷たく言い放つ。


「そう。意外と早かったわね・・・私の計算では、あと2時間程は、時間があったはずだったんだけどな・・・」

と、リサは舌を出す。


「でも、最後の通告者が、リョウコ、あなたで良かった・・・私は、この日本で、いろいろな人間に出会ってきたけれど、あなたと一緒にいる時だけが、ホッと出来たから」

と、リサはやさしく言う。

「あなたが公安に移籍してきた理由は、お兄さんだったんですね。破壊者でも、敵でもなかった」

と、リョウコが言うと、

「当たり前よ。わたし、あなたのこと、それは裏では、何度も守ったのよ・・・知らないでしょうけど・・・」

と、リサ。

「でも、いいわ・・・ガオくんにも、本当のこと、知られちゃったし・・・そういえば、リョウコとガオくんがつながってたの、すっかり忘れてた」

と、リサは言う。


「ガオくん・・・ガオくんにわたしの真実を明らかにされて・・・わたし、思い切り泣くことが出来てよかった・・・」

と、リサはガオの右手を握りながら言う。

「私の中に溜まっていた、あらゆる醜いものが流れ出ていった・・・今は、そんな気持ちよ」

と、リサは、やわらかな表情で言う。

「ガオくん、カッコ良かったわ。あなたは、この一週間で、すごく成長したわ。さっきの演説、しびれちゃった」

と、また、舌を出すリサ。


リサは、黒のトレンチコート姿、に着替えると、

「ガオくん、リョウコ・・・大人になるのよ・・・いい大人に・・・人から愛される、いい大人に・・・あなた達なら、きっと、なれるわ」

と、リサは、言うと、二人の頬にそれぞれキスしてから、スイートルームを出ていった。


リサの表情は、晴れがましかった。



同じ頃。江ノ島海岸西浜の確保した場所に鈴木タケルが帰ってきていた。

「あれ、リョウコちゃんは?」

と、アイリ。

「彼女は今日本政府の人間として、使命遂行中だ。一番の見せ場だな」

と、ニヤニヤしながらタケル。

「彼女はアイリの前だと、デレデレの妹キャラになっちゃうけどさ」

と、タケル。

「だって、わたしの妹だもん」

と、アイリ。

「仕事中は、それは頼りになるスパルタンなお仕事出来るひと、になるんだぜ」

と、タケル。

「当たり前じゃない・・・だって、私の妹だもん」

と、笑顔になるアイリ。

「そうだったな」

と、タケルも笑顔になっていた。


クリスマスイブ当日の土曜日。午後6時10分頃。湘南ベイヒルトンのロイヤルスイートルームを後にしたリサの前に、ひとりのアメリカ人女性が立っていた。

CIAのエージェントにして、リサの同期、マリー・スイフト(30)だった。

「リサ、遅いじゃない・・・」

と、しれっとした顔をして、マリーは言葉を出している。

「マリー・・・なぜ、CIAのエージェントのあなたが、ここにいるの?」

と、リサはびっくりしている。

「あなたに、クリスマスプレゼントを持ってきたの・・・こっちよ・・・」

と、マリー・スイフトは、リサを別の階にある、ある部屋に連れて行く。

「このドアの向こうに、あなたへのクリスマスプレゼントが置いてあるから・・・」

と、リサに先に行かせる。


リサは、ドアを開け、怪訝な表情で、部屋に入っていく。


ベッドに、向こう側を向いて座っている男性がいる。

リサは、その男性の顔が見えるように、回りこんでいく。


「お、お兄ちゃん!」

と、リサは、両手で口を押さえて思わず叫んでいた。


次の瞬間、二人は抱き合い・・・。ひしと二人共抱き合っていた。


「あなたのお兄さんは、CIAの外郭団体の地下組織で働いていたの・・・痕跡をすべて消してね。だから、あなたに見つかるはずがなかったのよ・・・」

と、いつの間にか部屋に入ってきていたマリーが説明する。

「それを見つけ出したひとがいてね・・・」

と、マリーは説明する。

「あなたのお兄さんがガオくんそっくりのはずだって指摘して、ニューヨークの夜中の2時に、このお兄さんを確保した時、顔を確認してもらったわ」

と、マリーは説明する。

「その男性・・・なぜガオくんの顔を知っていたの?写真で確認したの?」

と、リサが当然のように疑問を持つ。

「だって、その男性・・・ガオくんの元ルームメイトだったのよ」

と、マリーは種明かしをした。

「そう・・・そうだったの・・・ルームメイト・・・」

と、リサは応じる。

「あなたの目的も、あなたの考えていることもすべて読みきったのは、その男性・・・あなたがこうしてお兄さんと再会出来たのも、その男性のおかげなの」

と、マリーは説明する。

「そうだったの・・・」

と、リサは応じる。

「その男性に・・・礼を・・・ありがとうって、言ってくれる。一生、恩に着るって・・・知っているんでしょ、それが誰か」

と、リサは、そう言葉にする。

「うん。でも、大丈夫。その彼、その程度のお礼で、満足する男だから」

と、マリーは言うと、

「それから、これが航空券・・・あなたは、明日成田を発って、これからアメリカで暮らすの。少々の司法取引があるけど・・・あなたをCIAに復帰させることにしたから」

と、マリーはしれっと言った。

「でも、さっき、日本政府の人間から、国外退去を命令されたのよ・・・」

と、リサは不安そうに言う。

「あ、それ、発行を明日以降にしておいた・・・日本政府だって、クリスマスホリデーに国外退去なんて野暮な事、言わないわ」

と、マリーは、しれっと言う。

「あ、それから、お兄さんには言ってあるけど、お母さんも助けだしてあるから、これから、家族3人水入らずで、暮らすといいわ」

と、マリーは、言う。

「それと・・・この部屋から、伝説のイブの江の島花火大会は、見れるから・・・大好きなお兄さんと楽しむといいわ。彼、もちろん、独身よ。あなたをずっと想ってたから」

と、マリ-は、舌を出しながら、言うと、

「お兄ちゃん!」「リサ」

と、それを聞いた二人は、さらに固く抱き合っていた。


「イブは、女性が大好きな男と過ごす日だもんね」

と、笑うマリー。

「おっと、わたしもイブの江の島花火大会を見に行かなくちゃ・・・」

と、マリー。

「一緒に見たい男でも、いるの?」

と、リサが聞くと、

「いるの!」

と、言って部屋を出ていくマリーだった。


クリスマスイブ当日の土曜日、午後6時15分頃。リョウコとガオが、タケル達と合流していた。

「鈴木・・・すべてシナリオ通りやったよ・・・すべてが終わった・・・」

と、ガオがタケルに言っている。

「タケルさん・・・リサさんは、国外退去命令を受諾し、帰って行きました・・・」

と、リョウコがタケルに報告している。

「あ、それねー。発行を明日以降に遅らせてもらったから・・・日本政府もクリスマスホリデーに国外退去なんて野暮な事はしないだろ、さすがに」

と、タケルが言っている。

「それに・・・リサには、素敵なクリスマスプレゼントを今日贈っておいたから・・・と、来た来た、あのアメリカおんなだよ。俺を夜の2時に連れまわしたのは!」

と、タケルが指差す方向から、CIAのエージェント、マリー・スイフトが走ってくる。

「タケル、言われた通り実行、完了したわ。二人はCIAで引き受けることにしたから」

と、マリーはタケルに報告している。

「リサが、あなたに、ありがとうって。一生恩に着るって、言ってたわ」

と、マリーが言うと、

「うん。これで、一件落着って感じだな」

と、タケルが言う。

「タケルさん、リサさんに贈ったクリスマス・プレゼントって、一体、何だったんですか?」

と、リョウコが質問する。

「あなたが、リョウコね?いつぞやは、ごめんね。あなたの名前を全世界の諜報機関に飛ばしたのは、あたしの細工だったの」

と、マリー・スイフトが言う。

「え?」

と、驚愕の表情のリョウコ。

「彼女はコンピューターの天才だ。ハッキングなんてお手の物だから。だけど、まさか、リョウコちゃんが引っかかるとは、思ってなかったんだけど」

と、タケルもしれっと言っている。

「で、リョウコ。よく考えて。リサが今一番欲しがっているモノはなあに?」

と、マリー。

「兄さんだ」

と、ガオ。

「おー、あなたが、ガオね。確かに、そっくりだわ・・・ねえ、タケル」

と、マリー。

「ああ・・・驚く程そっくりだ。俺もニューヨークで、リサのお兄さん・・・まあ、ケンっていうんだけど、彼を見た時は、ガオかと思ったよ」

と、タケル。

「それじゃあ、リサの本物のお兄さんを、ニューヨークで見つけ出して、リサに届けた・・・そこまでやったのか、鈴木は!」

と、驚愕の表情のガオ。

「そういうこと・・・一件落着ってのは、そういうことさ。そこまで、やるのが、本物の男だよ。女性を笑顔に出来る、本物の大人の男さ」

と、タケルはしれっと言って笑っている。

「俺の言った通り、リサもガオも、リョウコちゃんも、同時にしあわせにできたろ?」

と、タケルは涼しい顔して笑っている。


マリーも、一緒になって笑っている。

ガオは、リョウコと顔を見合わせ・・・少ししてから、笑った。


「ガーオくん!」

ガオに声をかけたのは、アミだった。

「あ、アミさん・・・アミさんの言った通り、今回の恋を通して、俺、少しは成長することが出来たみたいです」

と、アミに言うガオ。

「ふうん・・・確かに、少しは大人になったようね・・・」

と、アミ。

「でも、タケルくんに届くには、まだまだまだまだ、だからねー。がんばるのよ、ガオくん」

と、笑顔のアミ。

「はい。それは、俺も感じました・・・あいつ、デカイっす・・・それに、ここにいる女性は、みーんな、あいつ目当てだし」

と、ガオが言うと、

「それがわかるようになっただけでも、成長したってことじゃない、ガオくんも」

と、アミが言う。

「イブは、大好きな男性と過ごしたいのが、女性の本音だもん。そういう日よ、全世界的に、ね」

と、アミは言う。

「それに・・・タケルくんって、周囲の大人の男女を本能から笑顔にさせる真の大人の男だもん・・・その笑顔を貰って、自分のパワーにしちゃう素晴らしい男性だもん」

と、アミは少し眩しそうにタケルを見ながら、言葉にする。

「それに・・・タケルくん、今度の事で、新しいアメリカ人の女性も引き寄せちゃったみたいだし・・・」

と、アミはそっちが気になりだしている。


「おー、あなたがアイリねー。綺麗な女性・・・」

と、マリー・スイフトは、アイリに挨拶している。

「あ、どうも・・・」

と、アイリは少し押され気味。

「この女だよ。俺をニューヨークでこき使ったのは。夜中の2時、しかも、マイナス3度Cの中、ニューヨーク中を、引っ張り回したんだから」

と、タケルが言うと、

「タケルはいくら私が口説いても、鼻にもかけてくれなくて・・・わたし、これでも、美人で通っているのに、自信なくしそうだったの・・・」

と、アイリの前でしれっと言うマリー。

「おい、お前なんてことを・・・」

と、タケルが言うと、

「でも、アイリを見てわかったわ。これだけ、美しい女性をフィアンセにしてちゃ、わたしも負けるわ」

と、しれっと言うマリー。

「なんか、似たようなことを考えている女性がたくさんいるみたいね」

と、アミがアイリに言う。

「ふふ。そうみたいね」

と、アイリ。

「鈴木はすげー・・・それだけです」

と、ガオがアミに言う。

「そうね・・・でも、彼はいろいろわかっている、本当の大人の男よ・・・」

と、アミはマリーと言い合っているタケルを見て、そう言葉にした。

「だから、大好きなの」

と、アミは、ガオを相手に、いい表情で笑った。


つづく

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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(27)

2013年12月22日 | 今の物語
木曜日の夜・・・ミウはヨウコとバー「Mirage」で飲んでいた。

「ミウ・・・サトルの病状は病状としてよ・・・おまえ、サトルに言わなければいけないことがあるんじゃないか?」

と、ヨウコは心配顔で言う。

「わたしの過去の事?」

と、ミウは恐る恐るヨウコに尋ねる。

「ミウは結構なネガティブを抱え込んでるだろ・・・そのミウのネガティブごと・・・サトルは背負えると思うか?」

と、ヨウコは言葉にする。

「いや、当初は黙っているってのも、ひとつの手だけどよ・・・うまくいってから、ネガティブな話がポロポロ出てくるのって、やっぱまずいだろ」

と、ヨウコは言葉にする。

「それはそうだけど・・・今、サトルの心の負担にはなりたくない・・・ただでさえ、壊れそうなガラスのハートのようになっているのに・・・これ以上の負担は・・・」

と、ミウは言葉にする。

「わかっているか?俺たちは、よ・・・十字架背負っているんだよ、俺も、おまえも・・・」

と、ヨウコは真面目な表情で言葉にする。

「俺はソープ嬢だったっていうネガティブな過去を、お前は、不倫認定されたあとも男に抱かれてた・・・その事実が父親を自殺させ、母親もその後を追った・・・」

と、ヨウコは言葉にする。

「さらに言えば、弟も亡くしてたっけな、ミウ・・・お前の十字架は、俺よりさらに重い・・・」

と、ヨウコは言葉にする。

「だからこそ、サトルに言えるわけないじゃない。今そんな話したら、彼の心は、ガラスのように砕け散ってしまうわ・・・わたしとサトルとの絆すら、断ち切れちゃう」

と、ミウは言葉にする。

「それだけは、嫌・・・皆わたしの傍から離れていったわ。弟も、父も母も、大好きだったあの人さえも・・・皆、わたしを嫌うの。離れたがるの・・・」

と、ミウは涙をポロポロ流しながら、言葉にする。

「わたしの立場に立ってみてよ。けっこうつらいわよ。わたしは32歳の強いオンナだけど、愛する人は皆わたしから離れていったわ。泣きたくもなるじゃない・・・」

と、ミウは言葉にする。

「わたしの廻りには、もう、誰もいない・・・唯一残されたのは、サトルとの大事な絆だけ・・・そのサトルとの絆まで断たれたら・・・わたし生きていけない」

と、ミウは言葉にする。

「哀しい事言うなよ・・・お前の傍には俺がいるじゃねーか。お前のしあわせをこころから祈っている俺はお前の傍にいちゃいけないのかよ」

と、ヨウコは涙を流しながら、ミウに言う。

「あ、それは・・・ごめん。ヨウコは親友だから、絶対に一緒に戦ってくれる・・・それが当然と思ってたから、言葉に出来なかった」

と、ミウはヨウコの目を見つめながら、そう言う。

「なら、いいけどよ・・・ただ、ひとつだけ言えることがある・・・おまえが今のサトルにしてやれることは・・・大きな愛でサトルを包むことだ」

と、ヨウコは言う。

「おまえは、どこかでサトルを信用出来てないんじゃないか?」

と、ヨウコがミウに言う。

「そんなことないわ。わたしは、サトルを信頼してるもの・・・」

と、ミウは口を尖らせる。

「だったら、その信頼をカタチにしろよ。カタチにして、サトルを大きな愛で包んでやれ。それが出来たら、サトルの病状は持ち直すかもしれねえ」

と、ヨウコは言う。

「どういうこと?それ、具体的に詳しく言って」

と、ミウは言う。

「俺どっかで聞いたことがあるんだ。「鬱病」ってのは、自分に価値がないって思い込む病気だってよ・・・」

と、ヨウコは言う。

「だから、お前がサトルを完璧に信じてるって行動を取れば・・・サトルの病状もあるいは、よくなるかもわからねえ・・・そういうことさ」

と、ヨウコは言う。

「わたし、サトルを完璧に信じてるわ・・・」

と、ミウは言う。

「だったら、お前はサトルを信じて・・・すべてのネガティブを洗いざらいサトルにぶちまけるんだ・・・それしか手はねえ」

と、ヨウコは言う。


「今のサトルを救ってやれるのは、おまえしかいねーんだよ。ミウ。おまえの経験のある大人の女性の大きな愛で包んでやるしか、サトル再生の道はねえんだ」

と、ヨウコが強く言う。

「おまえにしか出来ないんだ。サトルを救えるのは・・・本当の大人になったお前という女性にしか、サトルは救えねえんだよ!」

と、ヨウコは強い言葉にする。

「出来るよな・・・ミウ」

と、ヨウコは強い目でミウを見る。


「それにだ・・・俺たちはこの重い十字架を相手が軽く背負ってくれるような強い奴じゃねえと、所詮、受け入れてもらえねえ運命にあるんだよ」

と、ヨウコは言う。

「そういう人間性のデカイ野郎じゃねーと、俺達の運命すら、変えてくれるようなそういう人間性のデカイ野郎じゃねーと、駄目なんだよ」

と、ヨウコは言う。

「おまえは、それをどこかで、サトルに試さねえと、どの道、先はねえ・・・だからこそ、あいつが苦しんでいる今こそ、お前の本当の愛を見せてやるんだよ」

と、ヨウコは言う。


「俺達、おんなはよ、弱い生き物だよ。恋しい男がいねえと生きられねえ弱い生き物だ」

と、ヨウコは言う。

「だけどよ・・・綺麗な道ばかり歩けたおんななんて、少ねえはずだろ。俺なんか泥沼みてえなところを泥水すすりながら、歩いてきたよ」

と、ヨウコは言う。

「ソープ嬢になってよ。好きでもねえ男に抱かれて来たよ。だがよ、あいつら、嬉しそうに笑顔になるんだよ」

と、ヨウコは言う。

「俺の裸見て、うれしがって、さらに嬉しがって俺の身体抱いて・・・恍惚とした表情をするんだよ」

と、ヨウコは言う。

「最初はなんだか、いやだったけれど、こいつら、俺を称えてくれてんだって、わかった時、気持ちが変わったよ」

と、ヨウコは言う。

「俺はいうも笑顔で抱かれたよ。だって、あいつら称えてくれるんだから、そうなるのが道理だろ」

と、ヨウコは言う。

「そんな中で、俺は、あいつを見つけたんだ。田中は、そんな中でダントツ一番の男だった。やさしかったし、俺にいつも筋を通してくれた」

と、ヨウコは言う。

「おんなってのは、人生賭けて、たったひとりの男を探すんだよ。それが俺にもわかったんだよ」

と、ヨウコは言う。

「俺の旦那は唯一あいつだけだ。それがわかったから、もう、あとは、何もいらなかった・・・あいつが消えても、俺はあいつの手を離したくなかったんだ」

と、ヨウコは言う。

「今でも離しちゃいねえ・・・田中は俺のもんだ・・・だけど、いなくなっちまったもんは、しょうがねえ・・・俺はこのまま、独り身のまま死んでもいいのさ」

と、ヨウコは言う。

「それこそが、俺が見つけた「本当の愛」よ・・・これを見つける為に、オンナは毎日恋をして、「本当の愛」を探しているのさ」

と、ヨウコは言う。

「それだけ、俺の思いは強いってことよ・・・だってよ、一生賭けて探したんだぜ、で、自分が全力で愛せる男を探せたら、それが女冥利に尽きるってもんだろうがよ」

と、ヨウコは言う。

「俺はいつまで経ったって、その男の手を離しゃあしねーぜ。これだけは言えるよ。それで、独り身のまま、死んでも満足だ。俺はそういう男を探せたんだからな」

と、ヨウコは言う。

「俺にとって、田中がそうであるように、ミウにとって、サトルこそ、そういう人生を賭けて見つけ出した、たったひとりの男なんじゃねーのか?」

と、ヨウコは言う。

「それこそが、ミウにとっても、「本当の愛」なんじゃねーのか?」

と、ヨウコは言う。

「お前は、人生賭けて、サトルという人生でたった一人の男を探したんじゃねーのかよ。違うのかよ」

と、ヨウコは言う。

「ううん。違わないわ・・・サトルこそ、わたしにとって、人生たったひとりの男だわ・・・サトルへの私の思いこそ「本当の愛」そのものだもの」

と、ミウは言う。

「だったら、もうその手は離すな・・・その手をしっかり握ってろ。そして、自分から動くんだ。待ってるばかりの女になるな。女は自ら動いてなんぼだ」

と、ヨウコは言う。

「人生たったひとりの男をゲットするために、女が自ら動いて・・・しっかりとその男を確保するんだ。それが本当の大人のおんなだよ!違うか、ミウ!」

と、ヨウコは言う。

「違わないわ・・・ヨウコ、ありがとう。本当の大人のおんなは、自ら動いてなんぼね。一生にひとりの男を自ら確保して、なんぼね」

と、ミウは笑顔で言う。

「「本当の愛」を確保して、なんぼね」

と、ミウは笑顔で言う。



「だいたいよ・・・俺もお前も、あのサトルって奴に感謝しなけりゃいけねーだろ」

と、ヨウコは言葉にする。

「おまえだって、サトルに出会えたから・・・明るくなれたんだろ?違うか?」

と、ヨウコは言葉にする。

「うん。そう。そうなのよ・・・サトルに出会えたら、ここまで、強くなれたの」

と、ミウは言葉にする。

「俺もサトルには感謝してんだ・・・サトルのおかげで誤解していたミウとも和解出来たし「お前は俺か」と思えるまでの仲になれた・・・ほんと、サトルに感謝だよ」

と、ヨウコは言う。

「だからこそ、俺もミウと同じように、サトルを助けてーんだ」

と、ヨウコは言葉にした。


「お前はサトルのマリア様になるんだよ。あるいは、お釈迦様だ・・・カンダタって野郎に慈悲の糸を垂らしてあげた、尊いお釈迦様になるんだよ、ミウ」

と、ヨウコは言う。

「わたしは、ああいうお釈迦様にはなりたくはないわ」

と、ミウ。

「ミウ?お前・・・」

と、ヨウコは少しびっくりする。

「あのお釈迦様は「俺偉い病」だわ。だって、ああいうことをすれば、カンダタがまた、地獄に落ちるのは、あらかじめ、わかっていたはずじゃない」

と、ミウは言う。

「人間ってなんて駄目なんだろう。お釈迦様である俺ってやっぱり偉いなって・・・慢心しているのが、あのお釈迦様じゃない。わたしはそういう存在にはならないってこと」

と、ミウは言う。

「わたしが垂らすなら、しっかりとした救助梯子を降ろしてやるわ。彼にだけ見える、救助梯子を・・・そして、彼をしっかり救助してあげるの・・・」

と、ミウは言う。


その目は決意に燃えていた。


「わたし、やる・・・この結果がどんなに怖いモノになろうと、サトルの為になるんだったら、わたしは怖くない。ううん、どんな結果も受け止めてみせる」

と、ミウは言葉にしていた。

「彼のためなら、わたし、地獄にだって落ちれるんだから」

と、ミウは言うと、早速携帯電話を出し、サトルに電話していた・・・。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(26)

2013年12月22日 | 今の物語
木曜日の夜・・・ミウはヨウコとバー「Mirage」で飲んでいた。

「どうした・・・ミウ、元気ないみたいだぞ」

と、ヨウコがミウに声をかける。

「最近、サトルがドンドン元気を無くしていて・・・自分でもどうしたら、いいか、わからないの」

と、ミウは言葉にする。

「「鬱病」って、奴か・・・自分に自信を無くしたら・・・そりゃ、自分を追い込んじゃうよな・・・」

と、ヨウコは言葉にする。

「彼は誠実に一生懸命やった・・・それでも、現実にはねかえされて・・・サトルは、その自分を、常に自分で責めているような気がするの」

と、ミウ。

「多分、サトルは、いっつも、考えている・・・自分の不甲斐なさや、途中で逃げ出した自分を、毎秒責めているんだと思う・・・それでドンドン悪くなってる」

と、ミウ。

「サトルのせいじゃないわ・・・悪いのは、会社でしょ?そんな無理な仕事・・・人間の仕事じゃないわよ。仕事だったら、何を押し付けても許されるの?この日本では!」

と、ミウ。

「仕事という事にすれば、何を押し付けても許されるの?朝から晩まで仕事仕事仕事仕事・・・人間はしあわせになるために生まれてくるのよ。そうよ。そうなのよ」

と、ミウ。

「その権利を剥奪する権利は、いくら会社の上司でも、あるはずないじゃない・・・違う?ねえ、ヨウコ・・・」

と、ミウはヨウコに言う。

「そんな権利はねえよ。いくら、会社の上司でも、お偉いさんでもなー」

と、ヨウコは言葉にする。

「でしょ?まるで、奴隷じゃない・・・そんな仕事して、ダメになって・・・その自分を毎秒責めてる・・・そんな必要ないのに・・・サトル・・・もういいのよ」

と、ミウは言葉にする。


「ミウ、少し冷静になれ・・・サトルの事で感情的になるのは、わかるけど・・・」

と、ヨウコは言う。

「ごめん・・・サトルがあまりにかわいそうで・・・」

と、ミウは言う。

「ま、その気持ちは俺にだって、痛い程わかるけどな・・・」

と、ヨウコは言う。

「でも、おまえまで、感情的になっちまったら・・・誰がサトルを導くんだ?」

と、ヨウコは言う。

「うん、ごめん、ヨウコ」

と、ミウは言葉にする。


「サトルは真面目過ぎるんじゃないか・・・だって、あの仕事ぶりは尋常じゃないぜ?」

と、ヨウコは言葉にする。

「わたしも、そう思うわ・・・でも彼の周囲の人間にすれば、それが当たり前・・・そういう世界にサトルは生きてるの・・・」

と、ミウはため息混じりに言う。

「その世界は間違っているよ。なんだったら、俺がミウに変わってサトルに言ってやろうか?それくらい、俺にだって、出来るぜ」

と、ヨウコは言う。

「ううん。大丈夫。それはわたしの仕事だから」

と、ミウは決然とした表情で言葉にする。

「そうか・・・それなら・・・いいけどよ」

と、ヨウコは言葉にする。


金曜日の午前中。ミウは山田さんを病院に送った後、隣町まで、荷物を運ぶ仕事をリクエストされ、いつものように赤谷川沿いの道を走っていた。

いつもの場所に来ると、車を停め、川沿いに出ると・・・ミウはサトルにメールした。

「今、電話いいですか?」

とメールすると、即座に、

「お願いします」

と、メールが帰ってきた。


「サトル、元気?」

と、ミウは電話に出たサトルに声をかける。

「ああ、元気」

と、サトルは答える。なんとなく、いつもより、言葉が少ない。

「いつもの・・・川沿いに来たから・・・サトルに電話してみたのよ・・・」

と、ミウは言葉にする。

「そう・・・川か・・・」

と、サトルは言葉にする。

「天気もいいし、川のせせらぎはキラキラ光っているし、気持ちのいい場所よ、ここは」

と、ミウが言うと、

「いい場所なんだね」

と、サトルは言葉にするだけで精一杯のようだった。

「ごめん・・・ちょっと今日は調子が悪い・・・切らせて」

と、サトルは言い・・・電話は切れた・・・。


サトルの病状は、明らかに悪くなっていた・・・。

その事を感じたミウは少し泣いた。

川のせせらぎを聞きながら、それでも泣いた。


あのやさしかった・・・サトルはどこかに行ってしまった。


自分の事をいつも気にかけてくれて・・・誠実で真面目なサトルは・・・自分に誠実なゆえに・・・自分をスポイルして・・・どこかに行ってしまった。


「どういうことなの?どういうことなのよ!真面目なサトルを自分達の会社の為に、こき使って・・・サトルは壊れてしまった。どうして?どうしてなの!」


と、ミウは涙を流した。


「サトル・・・」


ミウはいつまでも涙を流していた。


川辺に咲いた、たんぽぽの花が静かに揺れていた・・・。



ミウは仕事に没頭した。



忙しければ、忙しいほど、サトルの事を忘れることが出来る。

今のサトルを・・・感じることは、ミウには、辛かった。

電話をしようとするけれど・・・電話をすれば、サトルを苦しめることをわかっていたミウは・・・電話すら出来なくなっていた。


「サトル・・・わたし、何をすればいいの?あなたの為に・・・何が出来るの?サトル・・・」


ミウは仕事に没頭するしかなかった。


「そういう状況か・・・」

次の木曜日の夜に、ミウは、ヨウコとバー「Mirage」で飲んだ。

ミウは今のサトルの状況をヨウコに説明した。

それしか、ミウに出来ることはなかった。


「電話したくても、それがサトルを苦しめる。サトルは苦しんでる。それがわかる。わかるけど、何も出来ないの。わたしに出来ることなんて、何にもないの」


と、ミウは泣いた。ヨウコの前で、泣くのは、初めてだったかもしれない。


「サトルはがんばっているんだよ。でも、病状は・・・。つらいな、ミウ・・・」


と、ヨウコも言葉を出せない。


「あんなに、やさしくて、楽しい人だった、サトルを・・・こんなにして・・・こんなにまで、苦しめて・・・なんなの?なんなのよ?誰にそんな権利があるのよ!」


と、ミウは叫ぶ。


「あんなにやさしくて、楽しくて、嬉しそうに生きてたサトルなのに、誰が何の権利があって、その笑顔を壊したの?人生を破壊したの?もう、よくわからない!」


と、ミウは叫ぶ。


「人が信じられないわ。誰も信じられない!何よ、どうなってるの、この国は!仕事の為だったら、どんなことを強制しても許されるの、この国は?ねえ?」


と、ミウは叫ぶ。


「ヨウコだって、わかるでしょ?ひとの弱い部分を引っ張りだして、あげつらう。職業に貴賎なしでしょ?違う?いいじゃない、ソープ嬢だって」


と、ミウは叫ぶ。


「ソープ嬢って、誰にでも出来る仕事じゃないわ。ヨウコみたいに美しい強い女性じゃないと出来ない仕事よ。選ばられた人間にしか出来ない仕事なのよ!」


と、ミウは叫ぶ。


「それが何よ。身体を売る仕事だとか、そういうネガティブな側面だけ見てあげつらう男達は何なの?冗談じゃないわ。あんたらに出来るのって、言ってやりたいわよ」


と、ミウは叫ぶ。


「わたしだって、そうだわ。不倫、不倫、不倫・・・それが何よ。それを言うのは、決まって、ダサいサラリーマンのオヤジ達・・・口の臭い加齢臭のオヤジ達よ・・・」


と、ミウは叫ぶ。



「自分たちだって、サラリーマンの世界に逃げ込んで、ださいおばさんを奥さんにするだけしか能のないオヤジ達じゃない」


と、ミウは叫ぶ。


「嫌い、嫌い、大嫌い・・・わたしは、「本当の愛」に生きたいわ。ヨウコだって、そうでしょう?「本当の愛」を見つけたんでしょう?ね、違う、ヨウコ?そうでしょ?」


と、ミウは叫ぶ。


「ああ。お前の言うとおりだ。俺は、「本当の愛」を見つけたぜ。たくさんの男を抱いてあげて、そのあげくにな。俺だけの金鉱を探し当てたぜ。立派にな」


と、ヨウコは微笑をたたえて、ミウに言う。


「そうでしょ?そうでしょ。そうでしょ・・・・わたしだって・・・「本当の愛」を見つけて、愛して愛して・・・そのあげくに、皆から嫌われて・・・ひどい扱いを受けて」


と、ミウは慟哭する。


「でも、いいの。わたしは成長したの。弟も亡くした、父も亡くした、母とは和解出来ないまま、その母も亡くした。それでもいい。それでもいいのよ・・・」


と、ミウは慟哭する。


「戦ってきたの。わたしだって、毎日毎秒、戦ってきた。「本当の愛」を、本当に「本当の愛」を探すために・・・今までずっと戦ってきたの・・・」


と、ミウは慟哭する。


「そのあげくに、川辺に静かに咲いている、たんぽぽの花を見つけたのよ。やさしく、私だけに笑ってくれる。ちっちゃい、ちっちゃい、たんぽぽの花を・・・」


と、ミウは慟哭する。


「それなのに・・・それなのに・・・その花を・・・またも、オヤジ達が・・・誰からも愛されない、センスの無いオヤジ達が・・・散らしてしまったの・・・」


と、ミウは慟哭する。


「なぜなの・・・なぜ・・・わたしの大事なモノは、皆、遠くへ行ってしまうの・・・返して、返してよ。私の大事なサトルを・・・優しかったサトルを・・・」


と、ミウは泣き崩れる。


「返してよ・・・」


と、ミウはいつまでも泣いていた・・・。


ヨウコは何も言えず・・・涙しながら、ミウの傍らに立つだけだった。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(25)

2013年12月21日 | 今の物語
一週間後の水曜日。いつものように軽トラで隣町に荷物を運ぶミウの姿があった。

老人達の病院通いの手伝いは、病院の始まる午前9時前後に集中するので、それが終わると昼間は比較的に時間に余裕があるので、

荷物の運搬も気軽に頼まれているミウだった。


いつものように赤谷川沿いを軽トラで走るミウだった。晴天に恵まれポカポカしていたので、ミウは軽トラを脇に寄せて停めて、携帯電話でサトルに電話した。

「最近、出てくれない日も多いし・・・病状がさらに悪くなっているみたいだし・・・不安だわ・・」

と、ミウは思っていた。


6回目のコールで、サトルは電話に出た。


「サトル・・・わたし、ミウだけど・・・どう?今、電話して、大丈夫?」

と、ミウは心配そうに言葉にする。

「ごめん・・・」

という言葉が出てくるまで、10秒近くかかった、サトルだった。

「今、かなりキツイ?」

と、ミウが言葉にすると、

「大丈夫だよ。昼間から焼酎飲んでるから、今は大丈夫」

と、サトルは少し酩酊気味に言った。

「え、飲んでるの、お酒?」

と、ミウはびっくりした。今まで、そんなことは一度もなかったからだ。

「だって、飲まないと怖いんだもん。そう、怖いの・・・」

と、サトルは言う。

「っていうか・・・まとも何かを考えられる状態じゃ、ないわけ」

と、サトルは言う。

「周囲すべてが僕を嫌ってる。皆、僕を不快がってる。責任から逃げたからね。僕は・・・」

と、サトルは言う。

「皆、がんばってるんだよ。一週間一回常に完徹状況でも、愚痴も言わずにがんばる。それがシステムエンジニアってもんなんだよ」

と、サトルは言う。

「皆、それがわかっていながら、愚痴も言わずがんばっているんだよ」

と、サトルが言う。

「それが何?主任任されて、ほどなく壊れて、責任放棄して、鎌倉に逃げ帰って挙句の果てに休職?ちゃんちゃら、おかしいよ」

と、サトルは言う。

「もう、僕の生きる目は無くなった。あの場所にはもう、僕の居場所なんて、一切ないんだ。誰も待っていてはくれないのさ」

と、サトルは言うと、電話の向こうで、嗚咽していた・・・。


ミウは何の言葉もサトルにかけることが出来なかった。


「今まで一生懸命やってきた結果がこれだよ。水の泡・・・すべての信頼はパー。終りなんだ、僕は・・・」


と、言いながら、サトルは泣いていた。


それから少しサトルの口調が変わる。


「怖いんだ。皆が・・・」

と、サトルは言葉にする。

「怖くて、近くのコンビニにも、いけない。だから、食堂で食事を取るくらいしかできないんだ」

と、サトルは言葉にする。

「でも・・・同僚や後輩に会うのが、怖い・・・」

と、サトルは言葉にする。

「だから、朝6時に朝食が始まるから、その時間に必ず食べるんだ。その時間に起きてる先輩も後輩もいないから」

と、サトルは言葉にする。

「知り合いに会いたくないんだ。ううん、誰かに話しかけて欲しくないんだ。怖いから・・」

と、サトルは言葉にする。


「それが・・今朝・・・6時にさ・・・食堂が開いたから、すぐに朝食食べちゃおうと思って、行ったら、職場の後輩に会っちゃってさ・・・」

と、サトルは言葉にする。

「「大丈夫ですか、サトルさん・・・」って言われたんだけど、怖くて相手の目が見れなくてさ・・・朝食食べずに部屋に逃げ帰ってさ・・・」

と、サトルは言葉にする。

「怖くてしょうがないんだ。いつも俺を慕ってくれた奴だったけど、非難されているように感じてさ・・・身体に震えが来て、止まらなくて」

と、サトルは言葉にする。

「仕方ないから、1階の共用スペースでビール買って、エレベーター待ってたら、寮長に見咎められて・・・逃げるようにエレベーターに乗って」

と、サトルは言葉にする。

「皆が僕を邪魔にするんだよ・・・ビールでも飲まないとやってられない・・・怖くて怖くて・・・皆が僕に怒るんだ。怒ってるんだよ・・・」

と、サトルは言う。

「ビール飲んで寝ても、3時間も眠れやしない。吐き気で一杯になる。起きているのがつらい・・・いや、正直何かを考えるのが嫌なんだ」

と、サトルは言う。

「今も焼酎を飲んでる。飲まなきゃやってられない。ううん、起きてるのが嫌なんだ。寝ている時だけが僕はしあわせでいられる・・・そうなんだ。すべてが地獄なんだ」

と、サトルは言う。

「サトル・・・」

と言いながら、ミウは言葉も出せずに涙がポロポロ流れた。


「もういやなんだ、こんな人生・・・何も出来なかった、皆に迷惑かけてばかりだ・・・せっかく僕を信じて主任に起用してくれた課長や部長や・・・」

「慕ってくれた後輩達の期待を全部裏切って・・・皆がんばって仕事しているのに、僕だけ・・・こんな場所で飲んだくれても、気分は一切晴れない・・・」

と、サトルは言葉にする。

「もう、いやなんだ、こんな思いをしながら、生きるの・・・」

と、サトルは言葉にした。

「いやなんだよーーーーーーー」

と、絶叫して、サトルの電話は切れた・・・。


ミウは涙していた・・・かつて、遠い昔、日々生き地獄だった、自分を思い出して、サトルの胸の痛みが容易にわかったミウだった。


「あの頃の・・・毎日、もがき苦しんでいた、あの頃のわたしと同じ・・・酒に逃げるしか出来なくて・・・眠ってもすぐに起きてしまう・・・あの頃のわたしがそこにいる」


と、ミウは泣きながら思っていた・・・。


ミウはもう一回だけ、電話をかけた・・・。


今度は一回で、サトルは出てくれた。


「ミウ・・・?」

と、少しだけ平静になったサトルだった。

「ねえ、サトル、ひとつだけ約束して、ね、ひとつだけ・・・」

と、ミウは言葉にする。

「うん、なんだい約束って・・・」

と、サトルは少し無邪気に聞いてくる。

「自殺だけは・・・自殺だけはしないでね。わたしの希望が無くなっちゃうから」

と、ミウは言葉にしている。

「ミウの希望?この僕が?」

と、サトルは少し戸惑っている。

「そうよ。サトルはわたしの唯一の希望なの。わたしに残された最後の希望なのよ・・・だから、自殺だけはしないで・・・お願い」

と、ミウは言葉にしている。

「そう・・・僕を必要としてくれるひとが・・・まだ、いたんだ・・・」

と、サトルは少しだけ平静を取り戻していた。

「わかった。それだけはやめておくよ・・・」

と、サトルは言葉にする。

「でも、ダメだ・・・怖いことに変わりはない・・・多分、皆・・・敵なんだ。僕を嘲笑っているんだ・・・僕なんか、いらない人間なんだ!」

と、サトルは言葉にする。

「だから、怖いの嫌なんだよーーー」

と、言ってサトルの電話は切れた。


ミウはそれから、何回か電話をかけたが・・・それ以後、留守電に直接つながるようになってしまった。

携帯電話の電源が切られたのだ。サトル自身によって・・・。


ミウは長い間、自分の携帯を眺めていたけれど、軽トラのドアを開けて、外に出た。


太陽が気持ちよくミウを照らした。

まるで、春のような日和だった。

赤谷川の水が光り、せせらぎがキラキラしていた。


「気持ちよさそうだな・・・そんな場所で、ミウの作ってくれたお弁当でも食べながら、おしゃべり出来たら、楽しいだろうね」


かつて、サトルの言った言葉をミウは思い出していた。


「あの頃より、さらに悪くなってる・・・」


とミウは思った。涙が出た。


「言ってる事がよくわかるわ・・・毎日が地獄で・・・わたしも酒に逃げ込んでたっけ・・・あの頃のわたしとなにもかも一緒」


とミウは思った。


「本当に辛いのね・・・っていうか、後輩の目も見れなかったって、サトル、わたしの何倍も苦しんでいる・・・」


と、ミウは思った。


「わたしは吐き気は感じなかったし、怖いとは一度も思わなかったもの・・・あの頃のわたしより、もっとひどい状況なの、サトル・・・」


と、ミウは思った。


「サトル・・・サトル・・・」


と、サトルの事がかわいそうで、かわいそうで、仕方なくなったミウはいつしか泣いていた。


「サトル、精一杯やったのに・・・そんな自分を責めて責めて責め続けて・・・後輩に会うのも怖いなんて・・・サトルがかわいそうすぎるわ」


と、ミウは泣いている。ポロポロあとからあとから、涙がこぼれた。


「あの、いつでも、日なたにいて機嫌よさそうな声を出していたサトルが・・・さっきの声は何?消え入りそうで、自信が無くて・・・」


と、ミウはサトルの声にもショックを受けていた。


「いつも元気なスポーツマンのような自信に満ちた声だったのに・・・消え入りそうな、自分に自信を無くした人のように、か細い声だった」


と、ミウは泣いた。とにかく泣いた。


「人生に自信を無くしたのね・・・だから、周囲の目が怖い・・・いや、外に出るのさえ、怖いって、言ってた・・・サトル・・・」


と、ミウは言葉にしていた。


「どうしよう・・・このままじゃ、サトル・・・ひどくなるばかりだわ・・・」


と、ミウは言葉にしていた。


「本当に、かわいそう・・・サトル・・・」


と、ミウはその場に泣き崩れた。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(24)

2013年12月20日 | 今の物語
ミウとヨウコの二人は、まだ「Mirage」で飲んでいた。


「女の・・・しかも、もう30歳の俺だったら、ミウの気持ちはわかるよ。好きな男を前にしたら、たとえ不倫と分かっていても、抱きたいと言われれば抱かせるからな」

と、ヨウコは言葉にする。

「好きな男のあれが、自分のヴァギナに入ってきて、力強く動いてくれた時の快感は何にも代え難いからな。好きな男のモノを舐めるのも俺は好きだ」

と、ヨウコは言葉にする。

「サオとか、タマとか、舐めてあげると、男はたまらなく嬉しそうな顔をするからな。そういう恍惚とした表情をされると俺はたまらなく嬉しかった」

と、ヨウコは言葉にする。

「ああいう時の男って、本当にかわいいからな。愛おしくてせつなくて・・・つい俺が上に乗って、激しく動いて、相手を気持ちよくイカセてあげたくなるんだ」

と、ヨウコは言葉にする。

「おんなは、子宮で考える・・・俺は好きな男は自分のチカラで全員イカセてきたよ。皆気持ちよさそうに果てた・・・ちゃんとその後のサオもタマも綺麗に舐めてあげた」

と、ヨウコは言葉にする。

「不倫はよくない・・・ってのは、恋愛弱者が恋愛強者の女に旦那を取られないように考えた、言わば社会のお約束だろ?」

と、ヨウコは言葉にする。

「社会のお約束ってのは、理性で普段生きている男のもんなんだよ。男が守るもんだよ。だがな、女は本能で生きてる、だから、毎日恋が出来る」

と、ヨウコは言葉にする。

「だから、恋愛強者のおんなからすりゃあ・・・恋ってのは本能だからよ、目の前の男に、子宮がうずいて、ヴァギナが濡れるのを感じれば、取りにいくしか手はねえんだよ」

と、ヨウコは言葉にする。

「それが女って動物じゃねえか?」

と、ヨウコは言葉にする。

「ミウはそれを知ってたんだろ?」

と、ヨウコはミウに向けて言葉にした。


「そうね。恋は本能の中の本能・・・それは確かよね・・・」

と、ミウは言葉にする。


「わたしは・・・10代の頃、何度も学級委員をしてきた、いわゆる「学級委員脳」のおんなだったの。校則は守りましょう。エッチには不用意に手を出してはいけません」

「自分の身体を大事にしましょう。不倫は文化です・・・いや、違う違う、不倫は人倫にもとる行為です。絶対に辞めましょう・・・そんなことを大事にしてた馬鹿女だった」


と、ミウは言葉にする。

「だから、高校時代、好きな男がいても・・・告白出来なかった・・・いや、大学時代も・・・わたしはハキハキとした明るい少女を演じてたわ・・・いやな女よ」

と、ミウは言葉にする。

「だから、弟が死んで・・・一家が崩壊した時・・・もうそういう自分を演じるのが嫌になったの。それまで、わたしは家でも学校でも、いわゆるいい子を演じていたのよ」

と、ミウは言葉にする。

「いやな女そのものよね・・・だから、それから、私は自分の思いに素直に生きるようになった。不快なことがあれば、不快だって言葉にしたし」

「いやなことを言われれば感情的に言い返すようにもなった・・・それが母親には特に許せなかったみたい・・・それ以来母とはうまくいかなくなったの」

と、ミウは言葉にする。

「母はわたしをいわゆる「いい子」に育てたかったのよ。弟が死ぬまでは、わたしは「いい子」を演じてた。でも、それを境に辞めたわ・・・だってくだらない人生だもの」

「そんな人生。わたしは作り物でない、血の通った自分になったの。素直な感情を持った、素直な自分・・・それになっただけなの」

と、ミウは言葉にする。

「そういう素の自分を出す、わたしを母は嫌ったの。おんなであることをそのまま出す、感情的にもなれば、思ったことをそのまま口にする素直な私を母は嫌ったの」

と、ミウは言葉にする。

「大人じゃないって・・・大人ってのは、どんな時でも感情を抑えて理性で行動するもんだって・・・それが大人ってもんだって」

「母に言わせると、わたしは子供化したんだって・・・でも、わたしは違うって思ってた」

と、ミウは言葉にする。

「それなんとなくわかるぜ・・・俺も同じこと思ってた。ヤンキーの頃、俺は荒れてたけど、思ったことを口にしたし、感情なんてこれっぽっちも抑えなかったよ」

「そうすることが生きることだって、俺は思ってたよ。おまえの母ちゃんの言う大人の生き方ってのは、弱っちいサラリーマンの生き方だよ」

「自分に価値が見つけられずにサラリーマンの世界に逃げこんで、「出る杭は打たれる」を合言葉にひたすら、影に隠れて生きる生き方さ」

「目立たないように理性で感情を抑えつけて、ただひたすら自分の本当の気持ちを抑えつけて生きるなんてまっぴらゴメンだよ」

「それは弱い人間の生き方だ」

と、ヨウコが言葉にする。


「そうよね・・・完全におまえは俺か状態だわ、ヨウコ」

と、ミウはヨウコに向けて微笑む。


「それから、わたしは社会に出て、何人かの男を知るうち・・・なんでこんなに男って弱いのかしらって思ったわ。繊細だとかデリケートだとか、いいように言うけど」

「実際は弱いだけじゃないって・・・そういう経験を積んでいく中で、私は「本当の愛」を求めた・・・強くて頭の回転の速い本物の大人の男性・・・それを求めたの」


と、ミウは言葉にした。


「それが・・・えーと、作家の池澤ユウマだったんだな。俺でも知ってる、その名前。テレビでしゃべってるの見たことあるけど、本当の大人の男だな、あれは」

と、ヨウコが言葉にする。

「そう。本当の大人の男・・・自信家で、頭の回転が速くて、女性を自然と笑顔に出来る男・・・相手の気持ちを第一に考えて、やさしくしてくれる本当の大人の男だったわ」

と、ミウが言葉にする。

「編集者として彼の担当になって・・・すぐに恋に落ちたわ。彼は私が彼に恋に落ちたことを瞬時に見抜いて・・・それからわたしは彼に何度も抱かれたの」

と、ミウが言葉にする。


ミウの頭の中に、池澤ユウマの笑顔が広がる・・・めぢからの強い、人間性のデカイ自信家・・・それでいて、繊細な程にやさしく、

ミウに少しも嫌な思いをさせない・・・そういう繊細な心使いの出来る男だった。


「ミウ、クリトリスをやさしく舐めてやるよ・・・指はヴァギナの中に・・・ほら、子宮口のあたりをいじるとすごく気持ちいいだろう?ほら、ここ・・・」

と、ユウマがしてくれたエッチの瞬間を思い出す。

「ほら、ミウのクリって、すぐに勃起するのな・・・ほらぺろぺろ舐めると気持ちいいだろう。ヴァギナがグチュグチュ言ってるぜ。気持ちいいんだな、ミウ」

と、ユウマが楽しそうにミウを抱いてくれる。

「ほら、ミウってクリを舐めると、ヴァギナがひくひくするのな・・・ほら、指で子宮口をトントンしてやるよ。ほら、どうだ気持ちいいだろう」

と、ユウマの声がする。ミウはあまりの気持ちよさに目をつぶったままだった。ヴァギナから広がる甘い官能が身体中を突き抜けていく。

「おー、ヴァギナがグチュグチュになってきたぞ、ほら、指を静かに出し入れしてやるよ・・・さらにぐちょぐちょだ。もう、大洪水だぞ、ミウ」

と、ユウマの声が聞こえる。

「ほう、ミウも自分で腰を動かし始めたか・・・それだけ指の出し入れが気持ちいいんだろう。ほら、クリももっと舐めてあげるから・・・・ぺろぺろ・・・どうだ?」

と、ユウマの声が聴こえるが、ヴァギナの官能が激しすぎて声があげられないミウだった。

「ふ、じゃ、そろそろイッとくか。ほら、最高潮に出し入れしてやる・・・ほーら、指の出し入れスピードアップ!」

と、ユウマが口にした瞬間、ヴァギナの官能は最高潮に達し、一気にイッたミウだった・・・ヴァギナはひくひく痙攣し、腰が下に落ちていた・・・。


「ほら、次、俺のモノ舐めてくれよ。いつものようにエッチな笑顔でさー。ミウ」

と、頼まれると、エッチな表情で、ユウマのモノを舐めまわした。

ユウマが気持ちよくなるように、指でユウマのモノをこすりながら、ミウは欲しい物を口にいれ・・・満足そうな笑顔を見せる。

「ふ、おまえ、ほんと、おちんちん食べるの大好きなんだな」

と、笑顔になるユウマ・・・ミウはその少年のようなユウマの笑顔を見るのが好きだった・・・。


そんなことを思い出していた・・・ユウマのセックスはいつも激しく、ミウは何度もイかされて、最後は眠りに落ちるのが、常だった。


「あのひと、すごかった・・・オスとして、すごかったのよね・・・」

と、ミウはなんとなく、ユウマのモノを思い出していた。


「彼は他の誰とも違った・・・彼は私だけを愛してくれているとずっと思ってた。そう思わせてくれるくらい繊細な心遣いの出来る男だった」

と、ミウが言葉にする。

「あれ程の男は他にはいないわ・・・」

と、ミウは言葉にする。

「確かにあれは、いい男だ。女性全員の気持ちを蕩かすくらい、わけねーぜ、あいつなら、よ」

と、ヨウコは言う。


ある時、そのユウマは一回だけ、ミウにキツイ言葉を発した。


「だから、俺はあの時言ったんだ。それを・・・」

と、ユウマはミウに言った。

「まあ、いい・・・」

と、ユウマが言ったのは・・・ミウが少しわがままを言って、時間の無い中、ユウマの仕事場を直接尋ねた時だった。


ユウマは兼ねてから、サプライズで仕事場を尋ねるような事は絶対にするな、と伝えてきていた。


それをその時初めて破ったミウだった。


でも、それはミウが、どうしても、その日ユウマに会いたくてした行為・・・女性なら、よくある普通の感情だった・・・。


しかし、後から考えれば・・・それがユウマの隠し妻、葉山クミコ(38)にミウの存在を知らしめるきっかけになったミウの行為だった・・・。


結果、葉山クミコにミウの存在が知れ、清潮社を辞めるはめになり・・・流れ流れて、藤沢でミニコミ誌作りの手伝いをしている頃、

池澤ユウマがまた、ミウに誘いをかけてきた。


二人は横浜のホテルで、密会を重ねた。

完全なる不倫・・・ミウは不倫を承知で、ユウマの愛に身体を委ねたのだった。


ミウは砂漠で水を欲するように、ユウマを求めた。


人生でうまくいかない不満を消すように、ユウマとのセックスに毎回燃えていたミウだった。

彼のセックスはいつもより、さらに激しく・・・ミウはその行為に毎回、満足していた。

「あの頃は、本当に好きだったな・・・彼が・・・」

と、ミウは思った。


不倫と知りながらするセックスに・・・その背徳の甘い蜜の味に・・・大いに燃えたミウだった。


「不倫と知っているからこそ、する背徳の香り・・・それがいい興奮剤になってたわ・・・正直言えば・・・」

と、ミウは葉山クミコを出し抜けていることにも大いに満足していた。


しかし、実際に、出し抜かれていたのは、ミウの方だった。


ミウとユウマのセックスは、ユウマが葉山クミコとのセックスに大きく燃える為に・・・あえてしていた行為だった。


ユウマはミウの身体がいかに良かったかを毎回、クミコに伝え・・・激怒し、さらに自分を強く求めてくるクミコを抱くことに興味を覚えていたユウマだったのだ。


ユウマはミウを自分の官能の為に、利用したに過ぎなかったのだ。


ユウマのこころは、もう、ミウには無く、ミウはただの興奮剤のような扱われ方をしたのだった。


当然、ミウはクミコに手を回され・・・職を失った。


その本当の理由を知ったミウはユウマを深く恨み、男性不信に陥ったのだった・・・。

「最低な男・・・あいつ、最低な男に成り下がった・・・最低な男になったんだ、もう」

と、ミウはその時そう思った。そう結論づけて、怒りながら、実家に逃げ帰ったミウだった。


「お前、もう、池澤ユウマには・・・」

と、ヨウコが聞いてくる。

「もう、懲り懲りよ。あんな最低男・・・もう懲り懲り、本気で」

と、ミウは言葉にしている。

「だったら・・・あとは、サトルの復活待ちってことになるな、ミウ」

と、ヨウコは言葉にしてくれる。

「つーか、そのミウのネガティブ・・・今のサトルじゃ、受け切れないだろ」

と、ヨウコ。

「30歳になった経験の濃い俺だから、やっと理解出来るようなもんだぜ・・・それに男ってのは、処女性みたいなアホなもん、未だに大事に考えていやがるからな」

と、ヨウコ。

「俺から言わせれば、たくさんの男に抱かれても、エッチがうまくなるだけで、別にヴァギナのカタチも変わらねえし、むしろ締まりはよくなるし、良いことずくめだけどな」

と、ヨウコ。

「ヨウコは強いのよ。というか、一見ネガティブに見える経験を自分の為のポジティブな経験にしたのよ・・・ソープ嬢が皆ヨウコみたいに強いわけじゃないでしょ?」

と、ミウ。

「そうだな。ソープ嬢になったことを悔やんで日陰者のような意識になりやがって、ドンドン弱くなっていったり、おかしくなっちまう奴もいたよ」

と、ミウ。

「結局、人生をどうとらえるか、なんだよ。すべての経験を自分の磨き砂として捉えられるか、それとも単なるネガティブとして捉えるか・・・」

と、ヨウコ。

「大きなネガティブだって、磨き砂として捉えることが出来れば、自分は成長出来るし、強くもなれるからな。そんなの当たり前のことだけどな」

と、ヨウコ。

「筋を通して生きてさえいれば・・・人はいつか大きな価値を持ち、社会の閾値を越えて光輝き始める・・・そういうもんだぜ、人生は」

と、ヨウコは言う。

「そうだね・・・それ、なんとなく、わかるわ。ヨウコの言ってる事、すごくわかる」

と、ミウも言う。


「サトル待ちかな・・・あとは」

と、ブラッディ・マリーを飲みながら、ヨウコが言葉にする。

「今、サトルは恐怖と戦ってる。ただ待つしか・・・わたしには出来ないわ・・・」

と、ホワイトロシアンを飲みながら、ミウも言葉にした。


「っていうか、ミウよ・・・おまえ、「月夜野」に来た初めの頃、いい子を演じる「学級委員脳」に戻ってなかったか?」

とヨウコが言葉にする。

「えーと・・・あー、そうかもしれない。自分に自信無くしてたから、つい、「学級委員脳」に戻ってたかも・・・」

と、ミウは言葉にする。

「だから、俺、最初、嫌なやつが来たって思ったんだよ。学級委員はヤンキーだった俺の長い敵だったからな」

と、ヨウコは言葉にする。

「だけど、今じゃ、お前は俺か状態だからな・・・いろいろな意味で、お前、「学級委員脳」から抜けたよ」

と、ヨウコは言葉にする。

「だって、女性は本音で生きなきゃ、どこまでも、いつまでも」

と、笑顔で、ミウは言葉にする。

「ちげえねえ、ちげえねえ」

と、笑顔でヨウコも言葉にした。


「月夜野」の夜は静かに更けていった。


つづく


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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(23)

2013年12月19日 | 今の物語
ミウとヨウコの二人は、まだ「Mirage」で飲んでいた。


「あれは忘れもしない・・・2年前・・・実家に逃げ帰った時の事だったわ・・・」

と、ミウはヨウコを相手に、自分の過去を詳細に語りだす・・・。


茨城県古河市の実家に逃げ戻ったミウに、中学校の社会の教師である父親が静かに質問していた。

「ミウ・・・お前、不倫していた、というのは、本当なのか?」

と、その時ミウの父親は静かに言った。母親は外出していてその場には、いなかった。

「はい・・・」

ミウは唇を噛み締めながら、正座していた。父親の目を見ることは出来なかった。ミウは、顔をあげられなかった。

「相手に妻がいることは、最初から知っていたのか?」

と、ミウの父親は静かな声で言った。

「知りませんでした。その事実は完全に伏せられていて・・・」

と、ミウは顔を上げて、父の目を見ながら、訴える。

「でも、途中で知ったんだな?」

と、父親はそのミウの目を見ながら、言葉をかける。

「会社に・・・その相手の女性が押しかけてきて・・・その時初めて・・・」

と、ミウはそのショッキングな光景を思い出していた。


「その女が私の男をたぶらかしている泥棒猫なのね」

と、その女性は会社の応接室に座りながら、怖い目で睨んできた。

「で、あなたの会社はどうするの?このおんなへのペナルティはどれくらいの事を考えているの!」

と、その30代後半と思われる、気の強そうな、それでいて美しい大人の女性は言った。

「ね、あなた方だって、わたしのチカラがどれ程のものか、わかっているわよね?わたしが、一言いろいろな方に声をかければ、この会社が火の車になることも・・・」

と、その女性はミウの出版社の経営のトップ連中を相手に、恐怖の言葉を並べていた。

「だから、どうするのって、聞いているのよ。即座に具体的に、話をしなさいよ」

と、その女性は怒り狂い・・・ミウの会社のトップ連中は顔を見合わせるばかりだった。

「まあ、いいでしょう・・・あなた方は賢いはずよね。わたしは今日の所は帰ってあげるわ。夕方5時までにどういう対応をするか、秘書まで連絡をちょうだい」

と、その女性は言葉にし、

「泥棒猫は、暗闇に消えるのが相場なの・・・わかるわよね?」

と、その女性はミウの目の前に立つと、ミウを強く睨みながら、その言葉を残し、応接室を出て行った。


ミウは突然の呼び出しを受け・・・会ったことも無い出版社の上層部と同席し、この挙に出会ったのだった。


「なんて事をしてくれたんだ!」

と、ミウの直接の上司、高峰ショウイチ(52)はミウにカミナリを落とした。

「作家と編集者が泥沼の不倫なんて・・・だからあれほど口を酸っぱくして、池澤ユウマ(43)は女癖が悪いので有名だから気をつけろって言ったのに・・・」

と、言葉を荒らげる。

「確かに・・・こちらも池澤が密かに結婚していた事実は今知ったんだが・・・それにしても相手が悪すぎる・・・」

と、ショウイチは言葉を無くす。

「あの・・・あの女性は・・・」

と、ミウは恐る恐るショウイチに聞いてみる・・・。

「日生自動車のオーナー一族の娘、葉山クミコ(38)・・・経営者としても優秀で、財界に太いパイプを持っている。彼女の影響力は計り知れんよ」

と、ショウイチはうなる。

「ところで・・・ミウくんと言ったかな・・・わたしが社長の遠藤だ。君は本当に今の今まで、作家の池澤ユウマが結婚していることを知らなかったんだね」

と、50代のスリムな紳士が聞いてくる。

「はい・・・今の今まで・・・」

と、ミウは消え入りそうな声で、そう話す。

「彼女を入社させる決断をしたのは、わたしです。わたしは彼女を子供の頃から知っているが、彼女は学級委員を何度もやるような理性の高い信頼のある女性でした」

と、常務取締役の今井田ゴウ(55)は冷静に話す。

「い、今井田さん・・・今井田常務・・・」

と、ミウは子供の頃から知っている父親の大学の友人でもある今井田がその場にいるのに、たった今気がついた。

「社長・・・彼女はもう、この場から離れても・・・」

と、今井田は社長の目を見ながら提案する。

「そうだな・・・編集室に戻りなさい・・・追って指示を出す」

と、社長の遠藤は、ミウの目を見つめながら、静かに言った。

「は・・・はい・・・」

と、狼狽しながら、応接室を退室したミウは・・・あとの記憶は正確に残っていなかった。


ミウはその後、営業へ左遷され・・・1年後に退職を勧告され・・・というより、有志の勧めで自主退職したのだった。

ミウの編集者としての腕を買っていた友人達の勧めだった・・・ミウはその後、編集者としての再就職活動をしたが・・・上手くいきそうになると、かならず話はポシャった。


裏で葉山クミコが動いていると言う噂が流れていた・・・。


一時、ミウは、神奈川は藤沢のミニコミ誌の仕事に就くが・・・そこで一年近く働けたものの・・・ミウの仕事の話を聞きつけた葉山クミコに邪魔をされ、

またも退職を余儀なくされ・・・結局、実家に逃げ帰るしか逃げ場はなかった。


「なるほどな・・・お前とすれば、純粋にその作家とやらを愛していて・・・正しい恋愛をしていた・・・そう思いこんでいた・・・そういうことか」

と、ミウの父親、姫島ショウゾウ(55)は言葉にする。

「はい・・・」

と、ミウは白い顔になりながら、言葉にする。

「その男とは、どうなったんだ・・・その後・・・」

と、ショウゾウは言葉にする。

「特に連絡も無いまま・・・会ってません」

と、ミウは言う。

「本当か?・・・男は愛してくれた女をそんなに簡単に諦めるような人間じゃないはずだぞ。特に、作家のような自分に自信のある強い男は、な・・・」

と、ショウゾウは厳しい目でミウを見た。

その時のショウゾウの目は今まで見たことがなかったくらいの、冷たい目だった。

「ごめんなさい・・・藤沢時代に・・・一度横浜に呼び出されて・・・彼に、抱かれました」

と、ミウが言うと、ショウゾウは目をつぶり・・・涙を流した。

「一度だけじゃないだろう?藤沢時代に何度も抱かれただろう、ミウ・・・」

と、ショウゾウは目から涙を流しながら、ミウに静かに言った。


ミウは何も言えず手で顔を覆って激しく泣いた。


「あなた、いつから、そんな駄目な女になったの?平気で不倫を繰り返すような駄目なおんなに・・・」

と、いつの間にか母が帰ってきていて・・・部屋へ入ってきて、激しくミウをなじった。


パシン。


母親は、ミウの頬を叩いた。

「わたしは、そんなふしだらな女を育てた覚えはありません。あなたは、わたしたちの娘では、もうないわ・・・出て行きなさい。顔も見たくない」

と、母親の姫島ナツコ(55)は激しい調子で言った。

「今、すぐにこの家を出て行きなさい、さあ、早く!」

と、涙を流しているミウの手をとろうとした時、

「ナツコ!辞めなさい・・・おまえの方こそ、少し冷静になりなさい!」

と、ショウゾウの一喝が大きく響いた・・・。

「は・・・はい・・・」

と、ナツコはすぐに鎮まり、すぐ横に静かに座った。


外では、雨が激しく降り出していた。


「わたしは車で出てくる・・・ナツコ、後を頼む」

とショウゾウは言うと、上着を着て、外へ出て行った。


それがミウが父親の姿を見た最後になった。


ミウの父はその夜、交通事故死した。


警察の話では、

「あり得ないところで、急ハンドルを切っている。意図的に事故死した確率が高いですね」

ということだった・・・。


父の葬式後・・・母は完全にひとりの女に戻り・・・ミウを詰り続けた・・・。


「あなたが不倫が元で会社を辞めさせられた事・・・皆知ってるわ・・・わたしも死んだお父さんも教育者なのよ。わたしは教師として、今の中学校で針のむしろよ」

「どうしてくれるの?あなたはわたしやお父さんの顔に泥を塗ったのよ」


中学校の数学の教師をしていたミウの母は、そうやって毎日ミウを詰り続けた。

街で会う、かつての友人達も・・・ミウを「不倫の果てに会社をクビになった人間」として冷たく扱った。


ミウはそれらの仕打ちに耐え切れず、半年程で家を出て、群馬県は月夜野でのヘルパーの仕事についたのだった。


そして、ミウが実家を出て一ヶ月後・・・ミウの母ナツコは・・・実家の火事に巻き込まれ、あっけなく死んでしまった。


それがミウの背負う、重い重い十字架だった。


「ごめんね、重い話しちゃって」

と、ミウはヨウコに言った。

「なるほどなー・・・サトルそれ・・・納得出来ないかもな、ミウ」

と、ヨウコはミウに言った。


つづく


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