Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

遭遇

2013-08-26 01:00:00 | 雪3年1部(淳と秀紀遭遇~グルワ発表)


暗い路地裏を、千鳥足で歩く男が居た。

手には携帯電話を持ち、彼は恋人と通話していた。

「飲まないとやってらんないのよっ!

もどかしいのは、あんただけじゃないのよぉぉ??」




いつも部屋に引きこもって勉強していると、ストレスが溜まってしょうがないのだ。

彼は恋人にそう話すと、電話先の遠藤修は苛立った声で言った。

「おい!お前今外だろ?恥を知れ!じゃーな!」



それきり電話はプツリと切れた。

そんな彼の態度に、男は地団駄を踏む。



こんなになるまで飲んで、貧乏でみすぼらしくて‥。

今の自分の境遇に、愛情も冷めて見捨てられたんだと男は涙を流した。


お金が無いと、こんなにも心が荒むものなのか。

お金に傷つけられ、お金に心奪われ‥。


そんな歌を口付さみながら帰宅する彼の前方から、長身の男が歩いてくるのが見えた。



酔っ払った足元は覚束なく、すれ違う時に互いの肩が触れる。

彼は酒の勢いもあり、目の前の長身の男に大きな声で言いがかりをつけた。

「ちょっとぉ!気をつけなさいよね!イケメンなら許されると思って‥」



青田淳は彼の方を振り返ったが、反論はせず「すみません」と謝って、

そのまま歩いて行った。



金がなんだってんだ~と愚痴りながら男は歩いた。

胸を焦がす~と次のフレーズを歌い出そうとしたが、何かが心に引っ掛かっている。



先程ぶつかった長身のイケメン。

振り返って見たその男の後ろ姿。

彼はその後姿に、見覚えがあった。

  






「淳?」



いきなり背後から名前を呼ばれた青田淳は、思わず振り返った。

「君‥淳だよね?」



その口調と顔立ちをじっと見ると、

淳の脳裏にも浮かんでくる残像がある。




「秀紀兄さん?」




かくして二人は再会した。

何年ぶりに会うのかさえ、もう思い出せないくらいだった。

二人の脳裏には昔の思い出が浮かぶ。

あの時から、もう十数年の時が流れていた。








二人は久々の再会に祝杯を上げた。

秀紀はすでに出来上がっていたが、二次会だと言ってもう一度酒を煽る。



「この近所に何か用事でもあったのか?」と問う秀紀に、淳は「大学がこの近くなんだ」と答えた。

秀紀は名門のA大に通う淳を褒め、彼の近況を聞いた。

ひと通り喋り終えた後、淳は素朴な疑問を口に出す。

「それにしても‥」



「秀紀兄さん、どうしてこうなっちゃったの?」



秀紀はそう言われて、思わずぐっと言葉に詰まった。

返す言葉もなく項垂れる彼に、淳は続けて尋ねた。

「家、追い出されたって聞いたけど、何があったの?」



秀紀は覚悟を決めると、「付き合ってる人が居るんだけど、両親に反対されて‥」とモゴモゴ答えた。

でもしかし、”追い出された”わけではない。

俺は自らの足で家を出たんだと、拳を固め胸を張る。



淳はその答えに目を丸くした。「恋愛沙汰ってこと?」と。

素朴な疑問が、口を吐いて出た。

「たかがそんなことのために、秀紀兄さんは全財産捨てて出てきたってわけ?」



淳の言葉に、秀紀は一瞬顔を曇らせたが、すぐにフッと照れ笑いをした。

「フフ~ 俺も自分が実はピュア男だったとはビックリだよ~!」



秀紀は仕方ないんだと言った。

無条件に自分自身を好きになってくれた人は、その人が初めてだったのだと。

きっとこれから先も、二度とそんな人は現れない‥。



照れて頭を掻く秀紀は、幸せな気持ちになった。

しかし淳はそんな彼を見て、自分の意見を淡々と述べた。

「秀紀兄さん頭でも打ったの?

正気に戻ってさっさと実家に戻った方が身のためだと思うけど?」




秀紀はその言葉に、一瞬固まって目を見開く。

だが、すぐにこう言った。

「‥だよなぁ」



お前はこんな俺を軽蔑するんだろ、と溜息交じりに言う秀紀。

すると淳はキョトンとした顔で、「こう思うのは俺だけじゃないと思うけど?」と言った。

「俺に”現実的に生きろ”と教えてくれたのは、秀紀兄さんじゃないか」



秀紀兄さんは、今更何を言っているのだろう。

淳の脳裏に、幼い頃から今までの彼が思い浮かんだ。



フン!と強がった後、秀紀は少し得意げに息を吐いた。

年下の男の子に、説教するような心持ちで。

「お前はまだまだだな!人生ってのは、

ドラマよりもっとドラマチックなんだぞ!」




お前が経験してないことだって山ほどあるんだと、秀紀は昔を思い出して言った。



財産も将来も全てを捨てて、身一つで家を出た自分。

いかに今まで多くのものに守られ、その中でぬくぬく暮らしていたかを実感した。



何の肩書きもない自分を、彼は受け入れてくれるだろうか?

そう思ってベンチにうずくまる自分を、彼は迎えに来てくれた‥。






その時のことを思い出して、秀紀はノロケた。



結局それからは満足な暮らしとはいえないけど、あの人が居るから暮らしていけると思えたと。

後々年老いてから、ドキュメンタリーに出るのが自分の素朴な夢だと、秀紀は感慨深げに言った。

しかし淳はその話に全く心を打たれた素振りを見せず、淡々と言った。

「そう。まぁ本人が良ければ俺が口出すまでもないけど‥」



全然心に響いてない‥。

その態度に秀紀は青筋を立て、淳に向かってずいと身を乗り出す。

「おい‥お前にはそんな人が傍にいるか? 

一緒にドキュメンタリーに出演したい女がいるのかっつーの!」




秀紀は淳の歴代の元カノについて言及した。

ドキュメンタリーどころか、モデルハウスのCMに出てきそうなお堅い女達ばかりだったと言って、

彼はゲラゲラと笑う。



そんな秀紀に、淳は彼がそれほどノロケる相手について尋ねた。

「相当好きなんだね?何してる人?」  「えっ?」



秀紀は急に酔いが覚めていくのを感じた。

しまった‥!こいつもA大なんだった‥!



そう気付いてから、秀紀は相手のことになるとモゴモゴと口ごもった。

続けて聞いてこようとする淳の言葉を遮り、秀紀は幾分大きな声で言う。


お前もそんな人に出会い、心を揉まれ、そうすれば今自分が言っていることが分かるだろうと。

ああ、あの時秀紀兄ちゃんが言ってたのはこういうことだったのかと、気づくはずだ。

「いーな?!」



そう言って調子に乗った秀紀は、淳の身体をパシンと叩いた。

ハッと気がついた時には、目の前で淳は目を丸くしていた。





秀紀の脳裏に、幼い頃の記憶が蘇る。

ガキのくせにませた事を口にして、ゲンコツを食らわせた時のこと。



目を丸くした淳は、秀紀の顔をその大きな瞳で見つめた。



そうしてそのお返しというように、振り返って見せたあの仕草。



あの後秀紀は、大人たちから大目玉を食らったのだった‥。



「お前変なことするなよ?!変なことするなよ?!」



また何か仕返しをされるんじゃないかと、秀紀はその身を庇いながら言った。

そんな彼の姿を見て、淳は溜息を吐く。



そして淳は言った。

「なんでこんなことくらいで怒らないといけないんだ」と。

それを聞いて安心した秀紀は、取り繕うように笑う。

「うはは!だよな!もうガキじゃないんだもんな。

お前も変わっただろうに!」




淳は酒を手に取ると、それをゆっくりと口に運ぶ。

「まぁ‥そんなとこかな‥」



自分が変わったのか、相手が変わったのか。

二人はその後も、酒をちびりちびりと飲んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<遭遇>でした。

この話で、秀紀さんは淳の親戚のお兄さんであり、遠藤修の恋人であり、赤山雪の隣人である、という

関係性が全て明かされましたね。

彼が言及する「ドキュメンタリー」とは、韓国で放映されている「人間劇場」という番組らしいです。

日本で言う情熱大陸のような番組だそうです。

日本語版では「自分のエッセー」という風に言い換えられていましたが‥。



次回は<小さな秘密達>です。



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和解

2013-08-25 01:00:00 | 雪3年1部(合コン~和解)


もう日も沈みかけた頃、雪は一人校舎の前で佇んでいた。

青田先輩の授業が終わるのを待っているのだ。

先ほど”今日は先に帰ってて”と太一にメールも送った。

明日の空き時間は図書館に行って勉強しようか‥明日の朝ごはんは何食べようか‥



取り留めのない事を考えながら、音楽を聴いていた。

♪朝日が眩しい果てしない水平線 キラキラ輝く海に向かって、私は未来を問いかける‥♪



ふと、名前を呼ばれた気がして顔を上げると、青田先輩が目の前に立っていた。



雪はイヤホンを外し、「話したいことがあるんですけど」と遠慮がちに言う。

すると柳先輩がピンと来た顔をして、「んじゃ、俺お先~」と皆を連れて帰って行った。(GJ!)



二人は顔を見合わせた後、中庭のベンチへと移動する。






雪はベンチに座りながらも、ソワソワと落ち着かなかった。

勇気を出して呼び出したものの、なかなか話を切り出せない。



隣に座る先輩も何も言わず、二人の間には暫し沈黙が流れた。



初夏の夜は、虫の声も風の音も聞こえない。

押し黙った雪の横で、ふと先輩が口を開いた。

「さっき‥」 「はい?」



「さっきミーティングの時何かあった?」 「え?」

「いや、何か疲れて見えたから‥」 「ああ‥あれは」



「ただ皆の時間が合わなくて‥」  「ああ‥」

「そっか」



「‥‥‥‥」


会話は途切れ、また沈黙が続く。

ふりだしに戻ってしまった。



雪はしっかりしろ!と自分を鼓舞すると、



意を決して声を出した。

「あの、先輩!」

「すみませんでした」



「先輩の了承も得ずに、勝手に恵と話を進めてしまってごめんなさい」



「‥‥‥‥」




話を続ける雪の言葉を、先輩は静かに聞いていた。

雪は強引に紹介したことは謝るけれど、誤解はしないで欲しい、と続ける。

「恵のことがあるから、先輩と過ごしていたんじゃありません。

最近‥先輩と色々話すようになって、先輩のこと良い人だなって思い始めたんです」




だから恵に先輩のことを勧めたんだと雪は言った。

誤解しないでほしいのは、何か目的があって先輩に近づいたのではないということ。



誰もが始めから、何らかの目的のために対人関係を持つわけではない。

下心や野望、そんな邪なものを持っているなら話は別だが、バカ正直の自分では到底ムリだと雪は言った。

すると先輩は頷きながら、「そうだろうね」と納得していた。



きっと何もかもバレバレだろうね、と付け加えて。



居心地の悪くなった雪は、尚の事言いたいことを強調した。

「ですから私が言いたいのは、人間関係というものは何かを共にすることによって、

自然と親密になっていくということです!」




「何か特別な目的があって先輩に近付いたわけじゃ‥」

そんな雪を、先輩はいつの間にか優しい瞳で見つめていた。

「雪ちゃん」



「俺の方こそごめんな」



彼の予想外の謝罪に、雪は目を見開いた。



そんな雪の前で、先輩はフッと笑う。



「少し戸惑っちゃって‥気がついたらあんな態度取ってたんだ。

雪ちゃんが困ってるのも分かってた」




そう言って下を向く彼は、言葉を選びながらゆっくりと喋る。

彼のそんな姿を、雪は初めて見たような気がした。

「正直俺が‥あまりにも‥」



「ガキみたいで‥」



「情けないよ」と言って恥ずかしそうに頭を掻く彼。

自覚はあるんだな、と雪はその反応を見て思った。

子供っぽい無視や冷たい態度を取ったことを、先輩が認めているということ。

そして今こうして彼は謝ってくれた。



「今回のことはお互い無かったことにしよう」と言う彼の図らいに、雪は頷いた。

その横顔を見ながら、雪はなんだか拍子抜けする思いだ。

去年までは傲慢で堅苦しい人だとばかり思ってたけど‥こういう素直な面もあったんだ‥



二人を包む穏やかな空気に雪は安堵し、口元には自然に笑みが戻っていた‥。




気がつけば、時計は夜十時を指していた。既にとっぷりと日は暮れている。

「遅くなっちゃったね」



そう言って時計を仰ぎ見る先輩に、雪は自分が呼び止めたせいで遅くなってしまったと詫びた。

しかし先輩は「いや、そういう意味じゃなくて」と前置きしてから、雪にこう申し出る。

「行こう。送るよ」  「!」



当然のようにそうスマートに言う先輩に、雪は幾分戸惑った。

人に甘える癖のない雪は、そういう展開にあまり免疫が無いのだ。

「いや、あの先輩も忙しいでしょうし‥

私なら大学の近くに部屋借りてるんで、気を遣って頂かなくても‥」




けれど先輩は「自分のせいで長く待たせちゃったから」と譲らない。

「それに女の子が夜道を一人で歩いたら危ないだろ。行こう」



雪は女の子扱いされたことに照れながらも、まだ渋っていた。

先輩はそんな雪を見て、穏やかに言う。

「夕飯食べに行こうとか言わないから。心配しないで」



行こう、と言うと彼はそのまま歩いて行った。

そういう意味で拒んでいたんじゃなかったのだが‥。



雪は複雑な気分で、先輩の後に続いた。











家の前まで送ってもらうと、

先輩は「おやすみ」と言ってすぐに来た道を戻って行った。



雪は、そんな彼の後ろ姿に声を掛ける。

「あの、先輩!」

「期末テスト終わったら、ディナーご馳走させて下さい!」



もちろん高いやつで!と雪は言った。

そんな彼女に、淳は訝しげに返す。

「いくらくらい?」



雪は咄嗟のことで頭がついて行かなかったが、自分の思う”高いやつ”の値段を適当に口に出す。

「ひ、一人1500円くらい?2000円?2500円?‥3000円!!」



先輩が何も言わないので、どんどん値段が釣り上がって行く。

「どのくらいなら満足していただけるでしょうか?」とオロオロした雪に、

先輩は吹き出した。

「プハハハハ!」



先輩の笑いはなかなか止まらない。お腹まで抱えて笑う彼に、雪は困惑した。

「冗談言わないで下さいよ。太一じゃあるまいし‥」



ようやく笑いの治まった先輩は、「約束な」と微笑んだ。




二人は今度こそ別れ、雪は小さくなっていく先輩の後ろ姿を見送った。



そんなに一緒に御飯食べたいなら、食べてやろうじゃないの



雪は前回、家の前で淋しげに去って行った先輩の後ろ姿を思い出した。

君とご飯を一緒に食べることがこんなにも大変だなんて、と言った彼。



その願いを叶えてやろうじゃないのと、雪は一人ニヤリと笑った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<和解>でした。

雪が先輩を待っている間に聞いていた歌はこちらです↓


ドッジ弾平 韓国語版主題歌


まさかのアニソン‥!
しかしなかなか良い曲だそうで、大人でもカラオケで歌う人がわりといるそうです。


先輩と雪がようやく仲直りをしましたね!

拗ねたことを自覚している先輩は幾らか意外でしたが、

やっぱり雪は特別なんでしょうねぇ。


次回は<遭遇>です!

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その男、福井太一

2013-08-24 01:00:00 | 雪3年1部(合コン~和解)
一限目が始まる頃、聡美と太一は揃って登校して来た。



歩きながら何度も食べ物を口に運ぶ太一は、登校中に朝ごはんを消化してしまうらしい。

ったく、と聡美は呆れながらも鏡を取り出して前髪をチェックした。

「とにかく今日は授業終わったら先帰っていいから」



太一はその様子に、まさかと思って聞いてみた。

「また合コンでも行くつもりっスか?」



あら大正解、と聡美はおどけた。

その答えに、太一は多少嫌味を込めて言葉を返す。

「ちょっとフラフラしすぎなんじゃないっすか?もうそろそろ落ち着いてもいい歳なのに」

「はぁ?あたしの人生あたしの自由に楽しもうってのに、誰が誰に落ち着くっての?」



更に返された聡美の言葉に、太一は意を込めて再び言い返した。

「まぁ、その‥もう少し身近なところも見ていいんじゃないっスかね。

ひょっとしたらすぐそこに、いい男が居るかも知れないじゃないっスか」




太一はそう言って口笛を吹いた。



その様子に、聡美は太一の言わんとしていることを全て悟る。

悟った上で、聡美はハッキリと答えを出した。

「あー、ない。」



太一が、「何でですか?」と聞くと、聡美は言った。

「そうなったら、雪が一人になっちゃうじゃん!」



聡美は、こうして3人でつるんでいるのが良いんだと言った。

もし聡美と太一がくっつけば、間違いなく雪は気を遣ってだんだん離れていくに違いない。

「そんなの絶対にイヤ」



そう言ったきり、聡美は授業だからと教室へ向かって歩いて行った。

太一はその後姿を見ながら、一人呟いた。



「女ってホントよくわかんねー‥」






思いがけず失恋してしまった太一は、

その後ベンチに座りながら、手で顔を覆いながら突っ伏していた‥。



‥のはダブルチーズバーガーにかぶりついていたからであったが、

空腹を満たすと幾らか気分も落ち着いた。

「ダブルチーズバーガー最高!」



授業も空講だったので、その足で美容室に向かう。

「髪切りに行くぞ~」



太一は案外、打たれ強い子なのだ。




美容室でも、太一のこだわりは遺憾なく発揮された。

「この角度を維持しながら揃えて下サイ」



そう言ってオーダーする前髪は、もう既にピシっと揃っている。

実は美容室には一週間前に来たばかりだが、少しでも伸びると我慢出来ないおしゃれさんなのだ。



カットは一瞬で終わり、もう一度美容師さんに角度を確認してもらっている時だった。

「ん?」



離れた席に、見慣れた後ろ姿があった。



「あれ?雪さん?」



しかしこっちを向いた彼女は、赤山雪とは別人だ。



彼女は美容師から、ナチュラルパーマが良くお似合いですと声を掛けられ、照れ笑いしていた。

その横顔に、太一はなんとなく見覚えがあるような気がした。



美容師から「知り合いの方ですか?」と聞かれたが、「人違いでした」と答える太一。

学科の先輩だったような気がしたが、名前が曖昧にしか思い出せない。




太一はそのまま、現代女性の髪型論に話を広げた。

近頃の女性たちは皆髪型が似たり寄ったりで、個性が無くてつまらんと。

「俺のこの鋭い角度を見習い給へよ!」



サッと前髪を鋭角に揃えた太一の後ろで、美容師は「ナイスです!」と合いの手を入れた。


太一は打たれ強く、自分の芯を持ち、そして一途に一人の女を想う、又と無いナイスガイなのだ。









(参照)またとないナイスガイ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<その男、福井太一>でした。

切り取ると本編とは離れた、まるでショートストーリーのような内容になってしまいました‥。

太一と聡美の記事は、書いていてとても楽しいです。

二人共凄く心根が優しいですよね。聡美の、「雪が一人にならないように」という言葉はすごく愛を感じました。

寂しがりやの聡美が気遣い屋の雪を、最大限気遣っている姿はなんだか切なくなります。

友情って良いですね~。



次回は<和解>です。

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ミーティング

2013-08-23 01:00:00 | 雪3年1部(合コン~和解)
翌朝、雪はグループワークミーティングのため朝早くから大学に来ていた。

昨夜遅くまでレポートに取り組んでいたので、睡眠不足のあくびが出る。



すると教室の中から声が聞こえた。こんな時間から、もう誰か居るらしい。

雪が寝ぼけ眼で顔を上げると、青田先輩と出くわした。



雪と目が合った先輩は、「あ」と声を出して固まった。



雪も彼を見上げたまま、どうしてこんな朝早くから大学にいるんだと固まった。

しかし彼もまたミーティングの為に来たのだと思い至ると、たじろぎながらも彼に挨拶した。

「お‥おはようございます!」



彼は少し間を置いて、「あ‥うん」と返した。



その反応は、昨日よりも幾らか和らいだように思えた。

すると、青田先輩の後ろから柳先輩がひょっこりと顔を出した。

「よぉ~!赤山ちゃんらもここでミーティング?

やっぱ皆似たような時間にやるんだな~」




柳先輩はいつものペースで雪に声を掛けると、青田先輩と連れ立って行ってしまった。

雪はその後姿を見ながら、少しマシになった先輩の態度を感じていた。







教室に入って集合時間になっても、雪のグループは清水香織しか来ていなかった。

健太先輩に電話を掛けるも、音声案内に繋がるだけで電話に出ない。

雪はそのありえなさに声を荒げた。



続けて直美さんに電話するも、彼女も電車が遅れているとかで三十分程遅刻すると言った。

あと三十分したら、雪は一限目が始まるのに‥。



雪は呆然とした。期末の課題だというのに、奨学金が貰えるか否かの大事なところだというのに、

早くもお先真っ暗である。

項垂れる雪を前に、清水香織はオロオロと何も言えず困惑していた。

「‥とりあえず私達だけでも先に始めとこうか」



ようやく気分を切り替えた雪に、清水香織は安心したように頷いた。

たまたま‥今日だけだよね?



手で顔を覆い、溜息を吐く。

すると清水香織が「あたし昨日結構やってきたんだ」と鞄からプリントを出した。

どれどれ‥と覗き込む雪のことを、遠くの席から青田淳は見つめていた。



彼もまた、すぐ課題の為に呼び戻されてしまったけれど。









淳のグループでは、佐藤広隆が課題の進め方について提案しているところだった。

「まず国際協商の関連記事を五十件くらい集めて、

一人十二件くらい読んで分析してくることにしよう」




来週までにやってこよう、と続けた佐藤に、柳が露骨に嫌な顔をした。

しかし佐藤は譲らない。グループワークなんだから、これくらいは最低ノルマだと。



が、そこに淳が別の提案をしてきた。

それは佐藤の意見とは全く違ったアプローチ方法だった。

「それよりも、まずは二つの理論を十分に整理して理解した後に、

代表的実例を決めて協商目的とレベル1,2に進んだほうが良いと思うな」




「事例で量を埋めるよりは、理論を正確に理解してからそれを反映した方が説得力があるだろう?」

その意見に、佐藤は真っ向から噛み付いた。

国際協商の実例は星の数ほどある。他のグループだって多くの実例を用いてレポートを作成してくるだろうに、

自分たちのグループだけ実例一つ二つに絞るなんて有り得ないと。

良い人ぶるとこ間違えてるだろ、と佐藤は舌打ちした。



しかし淳の言い分も揺るがない。

どの道レポートの本論一を理論で埋め、その次に適用することになるのだ。

実例だけで量を埋めるよりは、少数の実例を協商論に当てはめてじっくり分析し、結論を導き出した方が賢明だと思うと、

佐藤の意見を柔らかくも否定した。



佐藤は苛立った。

何を言っているんだと言わんばかりに、淳の意見を嘲笑った。

「ハッ!まさか知らないとは言わないよな?

誰がそんな書き方をするって言うんだ!」




「皆スプリング嵌めるくらい分厚いレポートを提出するんだぞ。

近頃じゃ一年生だって徹底してやってるんだ。お前のやり方じゃ、俺らのレポートだけ薄っぺらくなってしまうんだよ!」


口調の強くなっていく彼を、淳は「佐藤、」と名前を呼んで落ち着かせた。

「‥教授が提示した分量は十ページ前後だ。

量が多いからって全て良いレポートになるとは限らない」




この授業の教授は、量が多くても分析内容が不十分だったら良い点数をくれない人だ、と淳は言った。

他のチームどうこうより、俺らは俺らなりに一生懸命やればいいと。

「だから敢えてこんな非効率的なやり方をする必要はないってこと」



淳は佐藤の意見をはっきり否定した。”非効率的”だと。




淳の言い分に、柳が全面的に賛成した。

もう一人の後輩女子も、淳の方についた。



佐藤の意見はそこでキレイに水に流され、

彼以外は何事も無かったかのように、淳の方針を元に計画を進め出した。



呆気に取られ、次第に曇って行く、佐藤の表情‥。





淳のグループが計画を進めている間、雪の方では清水香織の資料分析を読み解く作業中だった。



真剣に読む雪の横で、清水香織は一方的に話し掛けてくる。



持っている鞄の話をしてきたかと思えば、今度は雪にどこの美容院へ行ってるのかと聞いてきて、

挙句パーマとれてきちゃったからかけに行こうかと思ってると、

全くレポートとは関係ない話を清水香織はダラダラと喋り続けた。



当然雪は困り顔だ。しかも彼女の資料分析は抜けてるところが多く、雪はその欠点を指摘した。

「‥それはそうと、ここなんだけど協商目的は何かな?

小題目が”中国との協商”ってなってるけど、

中国と何を協商しようとしてるのか具体的に示すべきじゃないかな?」




それに加えて、レベル2の内容が圧倒的に足りなかった。

「もっと組み入れるべき要素があるはずなのに」と雪が指摘すると、

清水香織はみるみる項垂れていった。

自分なりに頑張って実例を集めてみたが時間が足りず、分析出来なかったんだと‥。



雪はただ、レポートの足りない部分を指摘しただけだったのだが、清水香織は暗く大仰に落ち込んだ。

雪が見かねて声を掛けようとすると、いきなり彼女は顔を上げた。

「雪ちゃん!ごめんね!次は絶対ちゃんとやって来るから!」



許してねと縋り付いてくる彼女に、雪は訳が分からぬままフォローした。

まだ時間はあるし、私こそ一生懸命調べて来てくれたのにとやかく言ってごめんねと、謝りまでした。



ガッツポーツで次こそはと意気込む彼女に、雪は「頑張ろうね」と言いつつ苦笑いだった。

いい子なんだが、どこかピントがズレている‥。




携帯が鳴り、メールを開くと直美さんからだった。

プラス20分遅れます



勿論健太先輩からも連絡が無く、もう一度掛けたがやはり音声案内だった‥。

だんだんと、心に暗雲が立ち込めて行く。

このグループ‥大丈夫‥だよね?期末なのに‥



積み重なっていく不安に、青ざめて行く雪。

「はぁ‥‥」



溜息を吐いた雪を、再び淳は見つめていた。

もう二回目の彼女の溜息。

淳は彼女の、その憂鬱を感じ取る。









雪が時計を見ると、もう一限目の始まる時刻が迫っていた。

清水香織に別れを告げると、鞄を背負って立ち上がる。

視線の先に、グループワークに励む青田先輩の姿があった。



雪はしばし彼を見つめ佇んだが、彼が彼女の方を向くことは無かった。



とにかく授業が終わってから、そしたらちゃんと面と向かって謝ろうと雪は心に決める。

そして一限の教室へと向かった。




あくびをしながら教室を出る彼女の後ろ姿に青田淳は気付き、

視線でその背中を追う。



「あ、あの‥」



淳は咄嗟に声を掛けたが、雪は気が付かずそのまま行ってしまった。

彼のそんな様子に、柳と後輩女子は課題に向かっていて気付かない。



淳の向いに座った佐藤だけはその様子を見ていたが、



当然なぜ淳がそんな行動を取ったのかは、知る由もなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<ミーティング>でした。

考えてみたら、なぜ3年の雪がグループ班長なんでしょう‥。成績が良いからという理由でしょうか‥。

クセのあるグループはまとめるのが大変そうですね。

青田先輩と佐藤先輩の因縁っぷりも目を見張るものがあります。

佐藤先輩は英会話自主ゼミの時もそうでしたが、単語も数をやりたがるしレポートも量重視の人ですね。

成績も良いみたいですが、雪の方が次席‥ってあれ?佐藤先輩は何番なんだろう??頑張れ佐藤!


次回は<その男、福井太一>です。

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結論

2013-08-22 01:00:00 | 雪3年1部(合コン~和解)
家に帰ってからも、雪は河村亮のアドバイスが気に掛かっていた。

ひつこくすがりついて、愛嬌を振りまきまくれ!



課題の為に向かっているPCだが、ふと検索サイトを開いて単語を打ち込んだ。

”愛嬌の振りまき方”



出てきた検索結果を見て、雪は愕然とした。



先輩、私少し熱っぽいみたいって言ったら、俺も熱っぽくてブチ切れそうだって
wwwwwwwwwwwwww

浜辺でおんぶしてって言ったら溺死寸前

会話の度に自分の下の名前連呼してぶりっ子してたら病院送りにされそうになった

あたしはほっぺた膨らましたら、突き破られそうになりました。←ローラか!

てめーら歯へし折ったろか?

とにかくキム・テヒ以外にはこーゆーの認めない



「‥‥‥‥」



散々な結果である。

すると雪の脳内で、とある想像が浮かび上がった。


~妄想劇場 ぶりっ子ゆっきーとじゅんパイセン~

「せんぱ~いスネちゃったんでちゅか~?ゆるしてぴょ~~ん




「雪ちゃん」




シュッ 





ハッ‥



妄想の中とはいえ、思わずファイティングポーズを取ってしまった‥。



雪は、課題の途中で脱線しまくりの自分を戒めた。



それでもPCに向かう手は止まり、つい色々なことを考えてしまう。

あの河村亮ってヤツ‥結構嘘吐いてるような気がしたんだよね‥。

それとも大袈裟過ぎるだけ? あまりにも堂々と話すもんだから惑わされはしたものの‥




雪の脳裏に、友達or not な二人の姿が浮かんでくる。

理由はともあれ、先輩が河村亮に対して拗ねたというのが本当だとしても、

最初から先輩はあの人に関わるなと言っていた。




信頼の置けない人だから、そう言ったのかもしれない。

そして例え”愛嬌に弱い”というのが事実だったとしても、怒ってる相手にそういう態度を取るのは、

バカにしてると思われて逆効果じゃないか?




雪は課題をこなしながら、理論的に物事を判断していった。

すると、自ずと答えが導き出される。

むしろ面と向かってちゃんと謝ったほうがいい。

私の推測が当たってるなら、恵を紹介したことと、

もしくは私に何か期待してたけどガッカリさせちゃった、この二つしかないな‥




雪の脳裏に、色んな人の色んな意見が思い出された。

「あんたのこと気になってるんじゃないの?」と言う萌菜。

「あんたに気があるんだって」と笑う聡美。



「誰か特定の人にだけメシ奢ったりとか見たことないッスけど」と太一。

「最近青田先輩と仲良いね~」と学科の同期達。

そして、雪を見て微笑む彼。

「雪ちゃん」



「‥‥‥‥」



雪は、数々の証言から結論を導き出そうとした。

しかし心の奥に残ったわだかまりが、その結論にストップをかける。

去年を思い出せ!私に気があるわけがない!



ただ少し、彼が雪と仲良くなりたそうだったことは、

雪もなんとなく感じてはいたのだが‥。



雪の考えるこの先の身の振り方。

それにどうにか結論が出た。

いずれにせよ、今度ダメだったらキレイさっぱり諦めよう



これ以上必死に謝るほど悪いことをしたわけでもないし、

ぶっちゃけると今でも少し納得いかない部分もある。

塾のことも、惜しくないと言ったら嘘になるが、そこまで縋り付きたくはない。



萌菜の言う通り、雪と先輩がこれからもずっと関係を続ける必要は無いのだ。

あと半年もすれば先輩は卒業で、そうなればもう会うこともないだろう‥。



雪は時計を見て慌てた。

脱線に継ぐ脱線で、もう短針は十一時を指していた。

課題にレポート資料調査と、やることは山積みだ。


雪はその日夜遅くまで、PCと向き合っていた。




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<結論>でした。

”愛嬌の振りまき方”の検索結果の一番最後は、本家版は「とにかくキム・テヒ以外はこーゆーの認めない」ですが、

日本語版は「人に迷惑かける前に、自分の顔を鏡で見てから言え!」と大きく違ってました。

そんなキム・テヒさん。韓国の天然美人として有名です。



彼女がやるなら許せるけど‥ということなのでしょうね。

イケメン無罪ならぬ美女無罪‥。うーん現実はキビシイ!


次回は<ミーティング>です。

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