翌日早朝。

雪は財務学会に参加するため、大学院の一室に来ていた。
代表は皆にプリントを配り、その内容をざっと口にする。
「これは大企業に入社した学会の先輩の資料だ。
就活の内情、スペック、面接の質問リスト。毎週一枚ずつ渡すから」

そこには事細かく、どのようにして大企業に入社するに至ったかが記載されており、
学生達は皆それに目を通しながら「おお」と声を上げる。
「今回は化粧品で有名なQ企業に入社した先輩で、経済学科出身」

皆と同じく佐藤と雪も、熱心にそのプリントを読んだ。
そして財務学会が終わってからも、Q社についての議論を交わす。
「Qは有名だけど、これほど大きくなったとは」「ですよね」
「国内じゃ母親世代が使う中年ブランド?みたいに思ってたけど」
「やっぱり中国市場が大きいことは大きいですよね」
「うちの国でもQはちょっと高級ブランドのイメージがあるだろ?」「はい。高価ですよ」

「ふむ‥それが中国では低価格ブランドに様変わり‥すごいな」

佐藤はプリントを読み込みながら、ふむふむと深い考察をしている。
その顔は真剣そのもので、雪は彼の横顔をじっと見つめた。

微笑みながら、雪は佐藤について一人思う。
知れば知るほど、マジメで良い先輩だな。
無愛想だけど、打ち解ければ良くしてくれるタイプみたい

今まで同じ学科の先輩の一人として佐藤に接して来た雪も、ここ最近彼と共に過ごすことが多くなった今、
あらためて佐藤の勤勉さや努力家な面を尊敬するようになった。
そして佐藤といえば、先日見掛けた柳瀬健太と柳楓との一件が印象的だが‥。

ノートPCのことで‥機嫌悪かったぽいけど‥。よかった‥もう大丈夫みたい‥。
ま、敢えてその話題を出さない方が良いだろうな‥

雄弁は銀、沈黙は金。
雪はとりあえず口をつぐむ。

すると視線の先に、渦中の人物二人が同時に飛び込んで来た。
柳瀬健太と、柳楓だ。

雪から右手に健太、左手に柳。
ここは一本道で、どうしたって今雪と佐藤の居る辺りで彼らは出くわすことになる。

思わず雪は白目を剥いた。佐藤はプリントに目を落としているので気がついていない。
「ぎょえ‥」

健太も携帯を見ているので彼らの姿には気づいていない。
画面には、母親からの小言メールが表示されている。
<一体いつ就職するんだい?アンタは年齢が年齢なんだ。
ウチには金を稼いでくる人間が一人もいやしないじゃないか 母>
「あーまじ余裕ねー!死にそー!人適正の準備はいつすりゃいいんだよ!
英語だけでも大変すぎて死にそうだっつーの」

グチグチとこぼす健太。彼の口から出るのは不満ばかりだ。
「ノートPCどっかで借りれねぇかなぁ。必要なモン多すぎるくせに、
ゲットすんのが超大変っていう‥」

健太がそこまで口にした時、前から歩いてくる柳楓の存在に気づいた。
柳もまた、健太の姿を認識する。

すると柳はパッと笑顔を浮かべ、イヤホンを外して口を開いた。
「あ、チワッス先輩!」

返事をする健太。
「おお‥」

しかし柳は健太に目もくれず、違う先輩の元へと歩み寄った。
「一服しません?」

健太の顔がみるみる歪んでいく。
「あのヤロ‥」 「コーヒー飲みに行きません?!」「どうした?」

その場面を目にした雪は、咄嗟に佐藤の背を押して来た道を引き返そうとした。
しかし時既に遅し。あっという間に捕まってしまう。
「ハァ~イ!」

思わずビクッと固まる佐藤と雪。
健太は馴れ馴れしく、佐藤に擦り寄りこう言った。
「柳の野郎からPC弁償してもらったか?
アイツが壊したんだから当然弁償してもらったよなぁ?」

しかし佐藤は健太のことを完全無視し、プリントに目を落としたまま違う方向へと歩いて行く。
「どいつもこいつも‥」

去って行く佐藤を睨む健太であったが、偶然背中越しに佐藤が見ているプリントの文字が読めた。
財務学会()期 卒業生

「ンン?」

ピクリと反応する健太。
そしてその後ろで雪が、逃げるが勝ちと言わんばかりに全速力でその場を後にした‥。
教室へ入り着席した雪の元に、柳楓がやって来た。
「赤山ちゃん!ハァ~イ?」

柳は雪の右隣に座る。
「席無いわ~。一緒に座ろ?」「はいどうぞ」

普段なら四年の先輩同士で絡む柳だが、もうそれもなかなか出来ないのだろう。
雪はしんみりとした気持ちで柳を見る。
最近は四年生も少なくなったから、柳先輩も寂しいんだろうな‥。

「ノート一緒にとろ!」と陽気な柳だが、心の中では寂しさを感じているのだろう。
二人は二言三言会話を重ねた。
「体調はどう?淳、病院に見舞い来たん?」「はい、寝てる間にー‥」
「何を一日中ラインしてんの?」「別に大したことじゃありまセン」

そしてそんな雪の左隣では、聡美と太一が会話していた。
といっても、携帯を見てばかりの太一に一方的に聡美が話し掛けているわけだが。
「バイトすることにした件ですヨ」

つれない太一。おまけにどこか気に入らないバイトまで始めた。
聡美は太一をジトッとした視線で睨む。
「雪オハヨー」「あ、うん!オハヨ」「身体大丈夫ー?」

同期から話し掛けられ、笑顔で応える雪。皆はワイワイとお喋りに興じる。
「淳の上司ってマジヤバイらしいな?」「聡美、ちょっと質問~」「これ飲む?」
「そこ静かに!」

すると学科代表の直美から注意が飛んだ。
「もう先生来るよ?」 「あいよー」

雪が後方の席を振り返ると、柳瀬健太の姿を見つけた。
だるそうにアクビを噛み殺している。

雪は据わった目つきで彼を凝視しながら、どこか不吉な予感がした。
その災難がいつか自分の身に降り掛かってくるような、嫌な予感が‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<不吉な予感>でした。
健太‥
この期に及んでまだ佐藤先輩からPC奪おうとしてるとか‥
早く青田先輩の休学ノートに名前を書かれてしまって頂きたい‥!
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雪は財務学会に参加するため、大学院の一室に来ていた。
代表は皆にプリントを配り、その内容をざっと口にする。
「これは大企業に入社した学会の先輩の資料だ。
就活の内情、スペック、面接の質問リスト。毎週一枚ずつ渡すから」

そこには事細かく、どのようにして大企業に入社するに至ったかが記載されており、
学生達は皆それに目を通しながら「おお」と声を上げる。
「今回は化粧品で有名なQ企業に入社した先輩で、経済学科出身」

皆と同じく佐藤と雪も、熱心にそのプリントを読んだ。
そして財務学会が終わってからも、Q社についての議論を交わす。
「Qは有名だけど、これほど大きくなったとは」「ですよね」
「国内じゃ母親世代が使う中年ブランド?みたいに思ってたけど」
「やっぱり中国市場が大きいことは大きいですよね」
「うちの国でもQはちょっと高級ブランドのイメージがあるだろ?」「はい。高価ですよ」


「ふむ‥それが中国では低価格ブランドに様変わり‥すごいな」

佐藤はプリントを読み込みながら、ふむふむと深い考察をしている。
その顔は真剣そのもので、雪は彼の横顔をじっと見つめた。

微笑みながら、雪は佐藤について一人思う。
知れば知るほど、マジメで良い先輩だな。
無愛想だけど、打ち解ければ良くしてくれるタイプみたい

今まで同じ学科の先輩の一人として佐藤に接して来た雪も、ここ最近彼と共に過ごすことが多くなった今、
あらためて佐藤の勤勉さや努力家な面を尊敬するようになった。
そして佐藤といえば、先日見掛けた柳瀬健太と柳楓との一件が印象的だが‥。

ノートPCのことで‥機嫌悪かったぽいけど‥。よかった‥もう大丈夫みたい‥。
ま、敢えてその話題を出さない方が良いだろうな‥

雄弁は銀、沈黙は金。
雪はとりあえず口をつぐむ。

すると視線の先に、渦中の人物二人が同時に飛び込んで来た。
柳瀬健太と、柳楓だ。


雪から右手に健太、左手に柳。
ここは一本道で、どうしたって今雪と佐藤の居る辺りで彼らは出くわすことになる。

思わず雪は白目を剥いた。佐藤はプリントに目を落としているので気がついていない。
「ぎょえ‥」

健太も携帯を見ているので彼らの姿には気づいていない。
画面には、母親からの小言メールが表示されている。
<一体いつ就職するんだい?アンタは年齢が年齢なんだ。
ウチには金を稼いでくる人間が一人もいやしないじゃないか 母>
「あーまじ余裕ねー!死にそー!人適正の準備はいつすりゃいいんだよ!
英語だけでも大変すぎて死にそうだっつーの」

グチグチとこぼす健太。彼の口から出るのは不満ばかりだ。
「ノートPCどっかで借りれねぇかなぁ。必要なモン多すぎるくせに、
ゲットすんのが超大変っていう‥」

健太がそこまで口にした時、前から歩いてくる柳楓の存在に気づいた。
柳もまた、健太の姿を認識する。

すると柳はパッと笑顔を浮かべ、イヤホンを外して口を開いた。
「あ、チワッス先輩!」

返事をする健太。
「おお‥」

しかし柳は健太に目もくれず、違う先輩の元へと歩み寄った。
「一服しません?」

健太の顔がみるみる歪んでいく。
「あのヤロ‥」 「コーヒー飲みに行きません?!」「どうした?」

その場面を目にした雪は、咄嗟に佐藤の背を押して来た道を引き返そうとした。
しかし時既に遅し。あっという間に捕まってしまう。
「ハァ~イ!」

思わずビクッと固まる佐藤と雪。
健太は馴れ馴れしく、佐藤に擦り寄りこう言った。
「柳の野郎からPC弁償してもらったか?
アイツが壊したんだから当然弁償してもらったよなぁ?」

しかし佐藤は健太のことを完全無視し、プリントに目を落としたまま違う方向へと歩いて行く。
「どいつもこいつも‥」

去って行く佐藤を睨む健太であったが、偶然背中越しに佐藤が見ているプリントの文字が読めた。
財務学会()期 卒業生

「ンン?」

ピクリと反応する健太。
そしてその後ろで雪が、逃げるが勝ちと言わんばかりに全速力でその場を後にした‥。
教室へ入り着席した雪の元に、柳楓がやって来た。
「赤山ちゃん!ハァ~イ?」

柳は雪の右隣に座る。
「席無いわ~。一緒に座ろ?」「はいどうぞ」

普段なら四年の先輩同士で絡む柳だが、もうそれもなかなか出来ないのだろう。
雪はしんみりとした気持ちで柳を見る。
最近は四年生も少なくなったから、柳先輩も寂しいんだろうな‥。

「ノート一緒にとろ!」と陽気な柳だが、心の中では寂しさを感じているのだろう。
二人は二言三言会話を重ねた。
「体調はどう?淳、病院に見舞い来たん?」「はい、寝てる間にー‥」
「何を一日中ラインしてんの?」「別に大したことじゃありまセン」

そしてそんな雪の左隣では、聡美と太一が会話していた。
といっても、携帯を見てばかりの太一に一方的に聡美が話し掛けているわけだが。
「バイトすることにした件ですヨ」

つれない太一。おまけにどこか気に入らないバイトまで始めた。
聡美は太一をジトッとした視線で睨む。
「雪オハヨー」「あ、うん!オハヨ」「身体大丈夫ー?」

同期から話し掛けられ、笑顔で応える雪。皆はワイワイとお喋りに興じる。
「淳の上司ってマジヤバイらしいな?」「聡美、ちょっと質問~」「これ飲む?」
「そこ静かに!」

すると学科代表の直美から注意が飛んだ。
「もう先生来るよ?」 「あいよー」

雪が後方の席を振り返ると、柳瀬健太の姿を見つけた。
だるそうにアクビを噛み殺している。

雪は据わった目つきで彼を凝視しながら、どこか不吉な予感がした。
その災難がいつか自分の身に降り掛かってくるような、嫌な予感が‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<不吉な予感>でした。
健太‥


早く青田先輩の休学ノートに名前を書かれてしまって頂きたい‥!
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