胸に不安の影が過る。
とんでもない災難の余波が、じわじわと近づいて来ているような‥。
不吉‥どうも不吉だわ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/1e/cc16e5b4eaf456ebb8fae2764d5198f3.jpg)
柳瀬健太と柳楓、そして佐藤広隆のトラブルがこんなにも近くで起こっている。
今までの経験上、巻き込まれずに済んだ試しが無い‥。
何かが水面下でジワジワ進行してるような‥そんな感じ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/b8/f9a50ffac7c2a7b9f63a73280c1fdf49.jpg)
そこまで考えたところで、見覚えのある人影が目に入った。
彼は一人でベンチに腰掛けている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/b1/9d5b58e35b13802efcb4d7c389d30767.jpg)
思わぬ人物との邂逅に、目を丸くする雪。
「河村氏?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/f1/266b5f00ad5e4ac561d8964baf10579a.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/32/7849b37ddf287ad9c744e9317470298f.jpg)
野外に座る亮の周りには、北風の音や車の走行音が響いている。
けれどそのどの音も耳に入っていないかのように、彼は深い沈黙の中に居た。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/52/fbb0ef96eb68e014c7dca21e94fbf098.jpg)
虚ろな、それでいて恐ろしいほどの激情を宿しているような、危ない眼差し。
瞬きもせぬまま、亮は何かを見据えている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/0a/de833e6f862d17ef10664b8277de7f4c.jpg)
まるで手負いの獣のような、張り詰めた空気を纏う彼。思わず雪は立ち止まった。
声を掛けることも出来ずに。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/85/a8411cc773b4c6dc759d596c929857c6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/4d/e68d1b427bc211ffcc68c72d62768959.jpg)
やがて立ち尽くす雪の存在に、亮は気づいた。
雪は多少気まずい気持ちになりながら、苦笑いを浮かべる。
「あ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/ec/44012d841a1c2ce31dfdadf7d3a21c1e.jpg)
頭を掻きながら、亮の方へと踏み出す雪。
「河村氏‥ここで何してるんですか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/95/f5004782da0b634c95e185f82a0a35e8.jpg)
すると亮は雪の方へ向き直り、笑みを湛えた。
「ダメージ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/ea/f3ce84183027230f2f05b9dac1b0f3f3.jpg)
先ほどの雰囲気とガラリと違ったその姿に、雪は妙な違和感を覚えた。
今の彼は彼らしくあるようで、彼らしくない‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/95/b6d00282293d639969f1900679488af9.jpg)
「‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/67/d27488bbe0463d61ce89e03710d08701.jpg)
胸の中に感じるそんなしこり。
けれど雪は感じた違和感をそのままぶつけるではなく、茶化すような口調で亮に話し掛けた。
「なにを悲愴ぶってんですか?」「あ?そう見えたか?」「何かあっ‥」「お前身体大丈夫なの?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/35/e56694e38e3c1b1214c725035af65ee6.jpg)
亮は雪が質問を繰り出す前に、逆に質問を返した。二人のいつもの言い合いが始まる。
「入院していくらも経たねぇうちから学校かよ!」「大丈夫ですよ。ただのストレスで‥」
「お前ってば頭はイイみてーだけどストレスには耐性ねーのな。ちっとは運動しろ!」
「元々胃炎持ちなんです
」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/75/e43fe6310e3d48c1d9383bbdcbaccf62.jpg)
雪は諦めずもう一度質問しようとするも、
「それより河村氏は‥」
「あ、そーだ!オレさっきよぉ、志村教授に会いに行ったんだけどー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/eb/ba7bceae333f15d07baea0c78ab1044e.jpg)
また話出す前に逸らされてしまった。
亮は先刻志村教授から聞いた話を雪に教える。
「約一月後に、規模は小さいがピアノコンクールが開かれるんだ。出てみないか?
そんなに権威あるコンクールではないが、こういうのも経験してみたらどうだ?
色々悩みはあるかもしれんが、一旦切り替えてこっちに集中してみたらいい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/ff/2f7ddc8b88f7126dbea2018e5849ecb4.jpg)
その教授の話を聞いた時、亮の心の襞が、微かに震えた。
告げに来た別れの言葉を、その振動は喉元で押し留める。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/7a/de3c2dfe7b578f80ce67f56f822e69aa.jpg)
そして亮は頷いた。
その結論だけを、今雪に伝えている。
「えっ!コンクールに出るんですか?!」「ま、そんなとこ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/3d/f0820c0ca6634bc169a15f63f27619fb.jpg)
その吉報に、雪は拍子抜けしながらこう思った。
なんだ‥かなり良いニュースじゃん
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/83/0ef76a352aebdfe935c9a66921b0c403.jpg)
けれど先ほど確かに感じた、あの妙な感覚は捨て切れない。
じゃあさっきの違和感は何だったんだろう‥私の勘違い‥?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/34/0de5d1ff15b75f0db5f060f0de10b86b.jpg)
明らかに尋常でない様子だった。けれどそのことについて、亮は何も言わない‥。
未だ完全に胸の中の霧が晴れたわけではないが、とにかく吉報は吉報だ。
雪はニッコリと微笑んだ。
「良かったじゃん!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/4e/82eb3f42bd3d851bc84b5759697b5fe2.jpg)
まるで自分のことのように喜ぶ彼女。その笑顔を前にして、亮は感情を奥に隠した。
浮かべる笑顔のその裏に。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/67/7a969ac0984c6a0e5ea9d655bc3fa998.jpg)
亮は雪と視線を合わせずに、こんなことを語り出した。
「ここ何日かすげーグチャグチャ考えてたんだ。オレらしくもなくな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/59/de/a439e1e6a697f652ef4110ec411ad1d5.jpg)
色素の薄い前髪が目にかかって、雪はその眼を見ることが出来ない。
亮が語るその言葉の意味も、見えないままだ。
「それでずっと、らしくねぇことばっか味わったんだろうな。だからこれからは、もう何も考えねぇ」
「??」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/ea/dbcd4af0e1f83b1394b0aa22cde7f14c.jpg)
一向に話が見えない雪の前で、亮は溜息を吐くと、いつもの憎まれ口を叩いた。
「ま、今まで死にそうなお前見てたら、ウジウジ悩んでばっかだと身体壊すってこと学んだからな、オレ様は。
お前ってばもう、悩める国のプリンセスだな。言うならば悩み姫?」
「はぁ~?!違いますって!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/ed/c7e986c038027c9b82dddde10542a26c.jpg)
「とにかく、」と亮は口にし、雪に横顔を向けたままこう言った。
「考えんの終わりにしたら、確証が持てたんだよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/99/aec3f1c98e4eba62501f3d39dd613a3d.jpg)
秘められた感情の一片が、亮の口から漏れる。
雪はその匂いを嗅ぎ取り、質問する。
「‥何のですか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/d4/40376c4197a077eca60e8723dc3ebff7.jpg)
亮の眼は遠くを見つめていた。
まるで過去を辿るような、もう戻れない場所を眺めるような。
「オレがどうしてここに来たのか」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/84/9c15ef598cbf6c05a58ef1440cbeef67.jpg)
違和感は続いている。
亮の口からその断片が語られる程、違和感は強くなって行く。
「‥‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/63/831d2968f6838641b44ce98fc02819d2.jpg)
亮は雪の方へ向き直ると、さらりとビッグニュースを口にした。
「あ、それとオレ、お前んちの麺屋辞めっから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/ba/b7f978f2b293a594a08dc7e715318586.jpg)
「えっ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/be/598c46a39f26b1e55f6334a6e723b89a.jpg)
あんぐりと口を開ける雪に、亮は涼しい顔で言葉を続ける。
「あー他のアルバイト探すまでは働くから、そこは心配すんな。社長にはオレから言っとくから」
「突然どうしちゃったんですか?!河村氏?!何か問題でもー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/2b/105309c373b52004004093a9f74b7739.jpg)
アタフタと動揺する雪。その意図を聞こうとするも、やはり亮ははぐらかした。
「今はピアノに集中しなくちゃなんねーんだ。予選まで残り少ないからな」
「??」 「とにかく!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/95/0b4babf9da89f468bd9726110e03896a.jpg)
そう話を締めくくると、亮は最後にこう言った。
「今まで色々あんがとな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/6f/00f6a6df0dc420e3bcc457a1106fc4e8.jpg)
色々なものを笑顔の裏に隠し、彼は雪に背を向ける。
「じゃーな!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/03/e1630d97833dfa8205fd50f783f872b7.jpg)
突然やって来た嵐のように、彼は雪の心を掻き乱して去って行った。
まだ何も合点のいっていない雪は、目を丸くして首を捻る。
「‥はぁ‥?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/1f/0638df245311db4a5a2bd1e2c8fe3ed5.jpg)
まるで青天の霹靂。
突然の出来事に気を取られ、雪は亮が笑顔の裏に隠したものを見過ごしてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<笑顔の裏に>でした。
亮さん‥いなくなってしまうんでしょうか‥
切なすぎる‥(T T)
ピアノコンクールが何か大きな意味を持ちそうな、そんな予感がします。
次回は<健太の指摘>です。まだ出るか‥健太‥orz
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とんでもない災難の余波が、じわじわと近づいて来ているような‥。
不吉‥どうも不吉だわ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/1e/cc16e5b4eaf456ebb8fae2764d5198f3.jpg)
柳瀬健太と柳楓、そして佐藤広隆のトラブルがこんなにも近くで起こっている。
今までの経験上、巻き込まれずに済んだ試しが無い‥。
何かが水面下でジワジワ進行してるような‥そんな感じ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/fb/56a6d1b5b270916fecbc19c6f40868d6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/b8/f9a50ffac7c2a7b9f63a73280c1fdf49.jpg)
そこまで考えたところで、見覚えのある人影が目に入った。
彼は一人でベンチに腰掛けている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/b1/9d5b58e35b13802efcb4d7c389d30767.jpg)
思わぬ人物との邂逅に、目を丸くする雪。
「河村氏?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/f1/266b5f00ad5e4ac561d8964baf10579a.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/32/7849b37ddf287ad9c744e9317470298f.jpg)
野外に座る亮の周りには、北風の音や車の走行音が響いている。
けれどそのどの音も耳に入っていないかのように、彼は深い沈黙の中に居た。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/52/fbb0ef96eb68e014c7dca21e94fbf098.jpg)
虚ろな、それでいて恐ろしいほどの激情を宿しているような、危ない眼差し。
瞬きもせぬまま、亮は何かを見据えている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/0a/de833e6f862d17ef10664b8277de7f4c.jpg)
まるで手負いの獣のような、張り詰めた空気を纏う彼。思わず雪は立ち止まった。
声を掛けることも出来ずに。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/85/a8411cc773b4c6dc759d596c929857c6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/4d/e68d1b427bc211ffcc68c72d62768959.jpg)
やがて立ち尽くす雪の存在に、亮は気づいた。
雪は多少気まずい気持ちになりながら、苦笑いを浮かべる。
「あ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/ec/44012d841a1c2ce31dfdadf7d3a21c1e.jpg)
頭を掻きながら、亮の方へと踏み出す雪。
「河村氏‥ここで何してるんですか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/95/f5004782da0b634c95e185f82a0a35e8.jpg)
すると亮は雪の方へ向き直り、笑みを湛えた。
「ダメージ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/ea/f3ce84183027230f2f05b9dac1b0f3f3.jpg)
先ほどの雰囲気とガラリと違ったその姿に、雪は妙な違和感を覚えた。
今の彼は彼らしくあるようで、彼らしくない‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/95/b6d00282293d639969f1900679488af9.jpg)
「‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/67/d27488bbe0463d61ce89e03710d08701.jpg)
胸の中に感じるそんなしこり。
けれど雪は感じた違和感をそのままぶつけるではなく、茶化すような口調で亮に話し掛けた。
「なにを悲愴ぶってんですか?」「あ?そう見えたか?」「何かあっ‥」「お前身体大丈夫なの?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/fd/37091b096b49bcb62d4566326b33d286.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/35/e56694e38e3c1b1214c725035af65ee6.jpg)
亮は雪が質問を繰り出す前に、逆に質問を返した。二人のいつもの言い合いが始まる。
「入院していくらも経たねぇうちから学校かよ!」「大丈夫ですよ。ただのストレスで‥」
「お前ってば頭はイイみてーだけどストレスには耐性ねーのな。ちっとは運動しろ!」
「元々胃炎持ちなんです
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0152.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/75/e43fe6310e3d48c1d9383bbdcbaccf62.jpg)
雪は諦めずもう一度質問しようとするも、
「それより河村氏は‥」
「あ、そーだ!オレさっきよぉ、志村教授に会いに行ったんだけどー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/a8/80bfaa3f11587483589e9fa54f456049.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/eb/ba7bceae333f15d07baea0c78ab1044e.jpg)
また話出す前に逸らされてしまった。
亮は先刻志村教授から聞いた話を雪に教える。
「約一月後に、規模は小さいがピアノコンクールが開かれるんだ。出てみないか?
そんなに権威あるコンクールではないが、こういうのも経験してみたらどうだ?
色々悩みはあるかもしれんが、一旦切り替えてこっちに集中してみたらいい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/ff/2f7ddc8b88f7126dbea2018e5849ecb4.jpg)
その教授の話を聞いた時、亮の心の襞が、微かに震えた。
告げに来た別れの言葉を、その振動は喉元で押し留める。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/7a/de3c2dfe7b578f80ce67f56f822e69aa.jpg)
そして亮は頷いた。
その結論だけを、今雪に伝えている。
「えっ!コンクールに出るんですか?!」「ま、そんなとこ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/3d/f0820c0ca6634bc169a15f63f27619fb.jpg)
その吉報に、雪は拍子抜けしながらこう思った。
なんだ‥かなり良いニュースじゃん
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/83/0ef76a352aebdfe935c9a66921b0c403.jpg)
けれど先ほど確かに感じた、あの妙な感覚は捨て切れない。
じゃあさっきの違和感は何だったんだろう‥私の勘違い‥?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/34/0de5d1ff15b75f0db5f060f0de10b86b.jpg)
明らかに尋常でない様子だった。けれどそのことについて、亮は何も言わない‥。
未だ完全に胸の中の霧が晴れたわけではないが、とにかく吉報は吉報だ。
雪はニッコリと微笑んだ。
「良かったじゃん!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/4e/82eb3f42bd3d851bc84b5759697b5fe2.jpg)
まるで自分のことのように喜ぶ彼女。その笑顔を前にして、亮は感情を奥に隠した。
浮かべる笑顔のその裏に。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/67/7a969ac0984c6a0e5ea9d655bc3fa998.jpg)
亮は雪と視線を合わせずに、こんなことを語り出した。
「ここ何日かすげーグチャグチャ考えてたんだ。オレらしくもなくな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/59/de/a439e1e6a697f652ef4110ec411ad1d5.jpg)
色素の薄い前髪が目にかかって、雪はその眼を見ることが出来ない。
亮が語るその言葉の意味も、見えないままだ。
「それでずっと、らしくねぇことばっか味わったんだろうな。だからこれからは、もう何も考えねぇ」
「??」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/d0/199cc27048f9de1feec550c55142f869.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/ea/dbcd4af0e1f83b1394b0aa22cde7f14c.jpg)
一向に話が見えない雪の前で、亮は溜息を吐くと、いつもの憎まれ口を叩いた。
「ま、今まで死にそうなお前見てたら、ウジウジ悩んでばっかだと身体壊すってこと学んだからな、オレ様は。
お前ってばもう、悩める国のプリンセスだな。言うならば悩み姫?」
「はぁ~?!違いますって!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/ed/c7e986c038027c9b82dddde10542a26c.jpg)
「とにかく、」と亮は口にし、雪に横顔を向けたままこう言った。
「考えんの終わりにしたら、確証が持てたんだよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/99/aec3f1c98e4eba62501f3d39dd613a3d.jpg)
秘められた感情の一片が、亮の口から漏れる。
雪はその匂いを嗅ぎ取り、質問する。
「‥何のですか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/d4/40376c4197a077eca60e8723dc3ebff7.jpg)
亮の眼は遠くを見つめていた。
まるで過去を辿るような、もう戻れない場所を眺めるような。
「オレがどうしてここに来たのか」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/84/9c15ef598cbf6c05a58ef1440cbeef67.jpg)
違和感は続いている。
亮の口からその断片が語られる程、違和感は強くなって行く。
「‥‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/63/831d2968f6838641b44ce98fc02819d2.jpg)
亮は雪の方へ向き直ると、さらりとビッグニュースを口にした。
「あ、それとオレ、お前んちの麺屋辞めっから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/ba/b7f978f2b293a594a08dc7e715318586.jpg)
「えっ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/be/598c46a39f26b1e55f6334a6e723b89a.jpg)
あんぐりと口を開ける雪に、亮は涼しい顔で言葉を続ける。
「あー他のアルバイト探すまでは働くから、そこは心配すんな。社長にはオレから言っとくから」
「突然どうしちゃったんですか?!河村氏?!何か問題でもー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/2b/105309c373b52004004093a9f74b7739.jpg)
アタフタと動揺する雪。その意図を聞こうとするも、やはり亮ははぐらかした。
「今はピアノに集中しなくちゃなんねーんだ。予選まで残り少ないからな」
「??」 「とにかく!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/95/0b4babf9da89f468bd9726110e03896a.jpg)
そう話を締めくくると、亮は最後にこう言った。
「今まで色々あんがとな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/6f/00f6a6df0dc420e3bcc457a1106fc4e8.jpg)
色々なものを笑顔の裏に隠し、彼は雪に背を向ける。
「じゃーな!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/d1/8d8df5f23e319d1b269ffe83247a20b6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/03/e1630d97833dfa8205fd50f783f872b7.jpg)
突然やって来た嵐のように、彼は雪の心を掻き乱して去って行った。
まだ何も合点のいっていない雪は、目を丸くして首を捻る。
「‥はぁ‥?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/1f/0638df245311db4a5a2bd1e2c8fe3ed5.jpg)
まるで青天の霹靂。
突然の出来事に気を取られ、雪は亮が笑顔の裏に隠したものを見過ごしてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<笑顔の裏に>でした。
亮さん‥いなくなってしまうんでしょうか‥
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ピアノコンクールが何か大きな意味を持ちそうな、そんな予感がします。
次回は<健太の指摘>です。まだ出るか‥健太‥orz
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