Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

正門の先(2)

2015-07-08 01:00:00 | 雪3年3部(握った手~幕間)
「な‥」

 

亮は、言葉を続けることが出来なかった。

先程、厳しい眼差しでこちらを見据えながら、会長に言われた言葉が蘇る。

「自分のすべきことを頑張っている淳と、殴り合わなきゃいけなかったのか?」





  

いくら見つめても、その瞳の中に自分への温情を探すことは出来なかった。

心の奥底から漏れ出した気持ちが、行き場を失って胸を濡らす。



亮はぐっと拳を握り締めて、無意識に己を立て直した。

「な‥何のことっすか?あのヤロ‥いや、アイツが全部話したんすか?

ハッ!アイツ‥言わねえって言っといて何‥」


「敢えて聞かなくても分かるさ。お前達二人を見れば分かる」



微かに震える亮。けれど会長の説教は止まらなかった。

「一体何が問題なのかがな。私はお前達が自分の道を歩むことが出来るように、

最善のサポートを全て行って来たはずだ。違うか?」




「なのに静香もお前も、事あるごとに拒否して反発して、

いつも淳の周りをつきまとい、あの子を恨むばかりだ。私はー‥」




会長は一呼吸置いた後、亮を見据えてこう言った。

「お前達が残念でならない。失望している」



会長の瞳の中に浮かぶ侮蔑の色。亮には顔を上げなくても見える気がした。

昨日散々殴り合ったあの男と、おそらく同じ眼差しをしているからー‥。








ぐっと歯を食い縛る亮。怒りに震えながら口を開く。

「会長‥オレがどうして淳の野郎を嫌いなのか‥本当に分からなくて聞いてるんすか?」



亮からのその問いに、会長は「無論分かっているさ」と答えると、逆に亮に問い返した。

「けど本当に嫌いなだけか?

お前達は本当に一度も、」




「淳に対して感謝の気持ちを抱いたことはないのか?」

「‥‥‥」



そう問われても、亮には何も言えなかった。

会長は言葉を続ける。

「兄弟でもないのにお前達を受け入れて、終始気を使っていたのは淳だ。

今回の件でも、殴られたことを訴えもせず我慢したのも」


「はぁ?!オレも同じくらい殴られましたけど?!」

「お前達は私にも、そして淳にも、少しも感謝の気持ちを示さない」



亮の抗議は、会長に届かなかった。

彼は彼の息子と同じように、どこか疲れた顔で最後にこう言った。

「もう疲れたよ。私も」

 

心の奥が、再び凍っていく。

それきり自分の方を見ようともしない会長を前に、亮は茫然自失し、ただその場に立ち尽くした。









いつか”本当の家族”になれるかもしれないと、そんな甘い夢を見ていた高校時代の自分。

あの頃の自分はもうとっくに、この家の通用門を通って外に飛び出してしまった。



残っているのは、正門から入って来た招かねざる客の自分。

自分を見据える今の会長には、あの頃の温かな面影など、もう微塵も感じることは出来なかった‥。






やがて亮は、閉ざしていた重い口を開けた。その声は掠れている。

「‥分かってましたよ。結局アンタは、オレたちのこと哀れんで見下してただけってこと‥」



人と人との関係は、与える者と与えられる者に分かれた時点で、対等ではなくなる。

言うまでもなく本当の家族ならば、そんな区別など存在しないのに。

「自分の子供のように思っているって?自分のことは親のように思ってくれって?」



「違うだろ‥アンタがオレらに対してしてたことは、全部淳の為だったじゃねぇか。

いくら理性的なフリしてたって、結局は自分のガキだけ庇うー‥」




「そんな親だよ、アンタは」



そんな区別など気づきもしなかった、無邪気だった自分が脳裏に浮かぶ。

「今となっちゃ恥ずかしいけど、あん時はバカ正直にそれをそのまま受け入れてた」



「救いようの無いバカみてぇに喜んで‥」







言葉にすればするほど、心はささくれ、哀れな自分が浮き彫りになる。

思い出せば思い出す程、あの頃の無邪気な笑顔が滑稽に感じる。

亮は溜息とも諦めともつかぬ息を吐き出した。

「は‥」



俯くと、長い前髪が目のあたりを隠す影を作った。

亮は顔を上げぬまま、消え入りそうな声でポツリと呟く。

「初めから同じ立場の人間として扱われもしてなかったのに‥

オレ一人で‥」




感情が胸を塞ぎ、やりきれない気持ちで充満した。

亮は両手を上げると、自虐的な口調でこう口にする。

「本当~にありがとうございましたぁ。こんな底辺にお情けを掛けて頂きましてぇ。

しかもそんなヤツが大事なご子息の顔に傷つけちゃって、ほんっと~に申し訳ありませんでしたぁ」




心の奥底から漏れ出した感情が、見る間に乾いて行く。

それは傷口の周りにこびりつき、固くなってそこを塞いで行く。



両手を膝に付きながら、亮は己の非を口に出した。

自分が褒められた存在じゃないことくらい、とっくに承知している。

「二度と上京しないって、静香まで押し付けて飛び出したクセに‥

こんな‥物乞いみてぇに‥金せびりに来たオレもオレだけど‥」




昔持っていたプライドなんて、とっくに折れていた。

けれどそのプライドに泥を塗るような真似だけは、今も出来なかった。

亮は目の前の会長を睨むと、最後にこう口にする。

「少なくともオレは、んなこと口に出すそちらさんに、金の無心をするつもりはねえよ」



「今日来たのは間違いでしたよ!どうぞお達者で!」



そう言い捨て、亮は部屋を出て行った。

会長は溜息を吐き、その背中を見送る‥。












青田邸の外壁の横を、亮は全速力で駆けた。

乾いた傷跡にこびりついた感情が、ジクジクと化膿する。

青田邸では会長が、靄のかかる心の内を一人呟いていた。

「何であんな男になってしまったんだ‥」








自分に向けられた冷たい言葉、厳しい眼差しー‥。

取り付く島も無いその態度に、亮の心はいつしか凍っていた。



心のどこかで、期待していた。

思い出の中で微笑んでいたあの人が、また自分に手を差し伸べてくれるんじゃないかって。







けれど違った。

離れた年月は彼を完全な他人に変え、亮は再び、孤独の影に追われている。

「うわあああああああああ!!!!」



走っても走っても、影は後をついてくる。

振りきれないその重荷が、亮の背中に押し付けられる‥。


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<正門の先(2)>でした。

なんというか‥哀しい話ですね。

父親のように慕っていた人に裏切られた悲しみが、乾いた笑いを吐き出す亮の表情から、伝わってきますね。


しかし青田会長‥。淳の前では亮と静香の心配をして、亮の前では淳を庇って‥。

そんなんだからMr.裏目の称号を与えられるんだよ!と言いたくなります。


次回はようやく登場!

<萌菜の誘い>です。


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