「な‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/b9/96e10414daf49962c50c92cf9249a968.jpg)
亮は、言葉を続けることが出来なかった。
先程、厳しい眼差しでこちらを見据えながら、会長に言われた言葉が蘇る。
「自分のすべきことを頑張っている淳と、殴り合わなきゃいけなかったのか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/5c/5589c09b9423f771e79bbdbadf64d012.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/cf/c86d9df421ff18ed523cfaa66a178b97.jpg)
いくら見つめても、その瞳の中に自分への温情を探すことは出来なかった。
心の奥底から漏れ出した気持ちが、行き場を失って胸を濡らす。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/75/adf8582c016b07e5f182a1a2464a40d0.jpg)
亮はぐっと拳を握り締めて、無意識に己を立て直した。
「な‥何のことっすか?あのヤロ‥いや、アイツが全部話したんすか?
ハッ!アイツ‥言わねえって言っといて何‥」
「敢えて聞かなくても分かるさ。お前達二人を見れば分かる」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/b7/0293147f7402e84f09d4cd1a782e6852.jpg)
微かに震える亮。けれど会長の説教は止まらなかった。
「一体何が問題なのかがな。私はお前達が自分の道を歩むことが出来るように、
最善のサポートを全て行って来たはずだ。違うか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/a8/4db37f3259fcfc68289d84184973bfbf.jpg)
「なのに静香もお前も、事あるごとに拒否して反発して、
いつも淳の周りをつきまとい、あの子を恨むばかりだ。私はー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/37/3f0bf09475334946f9f51c85a160a097.jpg)
会長は一呼吸置いた後、亮を見据えてこう言った。
「お前達が残念でならない。失望している」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/d5/b333a24bbf7ccf4576bb915b795627c8.jpg)
会長の瞳の中に浮かぶ侮蔑の色。亮には顔を上げなくても見える気がした。
昨日散々殴り合ったあの男と、おそらく同じ眼差しをしているからー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/a8/0fc8323b8b261050435d2646e5b45f9a.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/31/3c4c772215d54597ba746cf1a8d32cec.jpg)
ぐっと歯を食い縛る亮。怒りに震えながら口を開く。
「会長‥オレがどうして淳の野郎を嫌いなのか‥本当に分からなくて聞いてるんすか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/ec/8cae22a19b9e7481f3a69c81cfed2486.jpg)
亮からのその問いに、会長は「無論分かっているさ」と答えると、逆に亮に問い返した。
「けど本当に嫌いなだけか?
お前達は本当に一度も、」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/87/48f8042ebca9afe4f13bbddade611aa3.jpg)
「淳に対して感謝の気持ちを抱いたことはないのか?」
「‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/d2/fda225e91988e40f72cbd2a19a1aa935.jpg)
そう問われても、亮には何も言えなかった。
会長は言葉を続ける。
「兄弟でもないのにお前達を受け入れて、終始気を使っていたのは淳だ。
今回の件でも、殴られたことを訴えもせず我慢したのも」
「はぁ?!オレも同じくらい殴られましたけど?!」
「お前達は私にも、そして淳にも、少しも感謝の気持ちを示さない」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/73/d1f623429f4a816bbde9f254a64a5b93.jpg)
亮の抗議は、会長に届かなかった。
彼は彼の息子と同じように、どこか疲れた顔で最後にこう言った。
「もう疲れたよ。私も」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/90/6ad886178ab8a41c21df4c0ae4a635f3.jpg)
心の奥が、再び凍っていく。
それきり自分の方を見ようともしない会長を前に、亮は茫然自失し、ただその場に立ち尽くした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/6c/491a08cbbedfa42760eaa369ebc9d6c0.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/26/8311e529adc081d123b4502174cb3d5a.jpg)
いつか”本当の家族”になれるかもしれないと、そんな甘い夢を見ていた高校時代の自分。
あの頃の自分はもうとっくに、この家の通用門を通って外に飛び出してしまった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/96/621e9022b53978a5e3aed076daaae0bd.jpg)
残っているのは、正門から入って来た招かねざる客の自分。
自分を見据える今の会長には、あの頃の温かな面影など、もう微塵も感じることは出来なかった‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/77/307480bfd3e01f4f2ea09960c6a78035.jpg)
やがて亮は、閉ざしていた重い口を開けた。その声は掠れている。
「‥分かってましたよ。結局アンタは、オレたちのこと哀れんで見下してただけってこと‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/6d/241242dd703f2d335887ffa32f1096ae.jpg)
人と人との関係は、与える者と与えられる者に分かれた時点で、対等ではなくなる。
言うまでもなく本当の家族ならば、そんな区別など存在しないのに。
「自分の子供のように思っているって?自分のことは親のように思ってくれって?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/ef/377375bf3472e85503397e01cc454f3f.jpg)
「違うだろ‥アンタがオレらに対してしてたことは、全部淳の為だったじゃねぇか。
いくら理性的なフリしてたって、結局は自分のガキだけ庇うー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/ee/ddb97ebba932b40a15d66a358eea6931.jpg)
「そんな親だよ、アンタは」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/d1/15f546b5df49322b27dfd2d1dd021083.jpg)
そんな区別など気づきもしなかった、無邪気だった自分が脳裏に浮かぶ。
「今となっちゃ恥ずかしいけど、あん時はバカ正直にそれをそのまま受け入れてた」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/23/635c512f23cf82317f8f0c85809ee816.jpg)
「救いようの無いバカみてぇに喜んで‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/ff/b5dfbfc41e7c9946b01084ef48c8734f.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/01/cfb48d534fef66ce4214dd5b06ab33f9.jpg)
言葉にすればするほど、心はささくれ、哀れな自分が浮き彫りになる。
思い出せば思い出す程、あの頃の無邪気な笑顔が滑稽に感じる。
亮は溜息とも諦めともつかぬ息を吐き出した。
「は‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f8/7a3f0b0b6ca8df87d0a0df7d66e86904.jpg)
俯くと、長い前髪が目のあたりを隠す影を作った。
亮は顔を上げぬまま、消え入りそうな声でポツリと呟く。
「初めから同じ立場の人間として扱われもしてなかったのに‥
オレ一人で‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/c0/483b1f976a50ee9828f05435d5d585a2.jpg)
感情が胸を塞ぎ、やりきれない気持ちで充満した。
亮は両手を上げると、自虐的な口調でこう口にする。
「本当~にありがとうございましたぁ。こんな底辺にお情けを掛けて頂きましてぇ。
しかもそんなヤツが大事なご子息の顔に傷つけちゃって、ほんっと~に申し訳ありませんでしたぁ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/7c/90bdd3b89cb65747d6c7b9f69adea3e7.jpg)
心の奥底から漏れ出した感情が、見る間に乾いて行く。
それは傷口の周りにこびりつき、固くなってそこを塞いで行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/21/8aa8298c3cf94bd13683adfa96bba5c3.jpg)
両手を膝に付きながら、亮は己の非を口に出した。
自分が褒められた存在じゃないことくらい、とっくに承知している。
「二度と上京しないって、静香まで押し付けて飛び出したクセに‥
こんな‥物乞いみてぇに‥金せびりに来たオレもオレだけど‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/17/faa2ce6f0fd36581c33b61ceee60d46a.jpg)
昔持っていたプライドなんて、とっくに折れていた。
けれどそのプライドに泥を塗るような真似だけは、今も出来なかった。
亮は目の前の会長を睨むと、最後にこう口にする。
「少なくともオレは、んなこと口に出すそちらさんに、金の無心をするつもりはねえよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/a2/d4a7b08a52329a3927f4bd467f6d837d.jpg)
「今日来たのは間違いでしたよ!どうぞお達者で!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/30/0a4c81e19e95617af142c63183d52827.jpg)
そう言い捨て、亮は部屋を出て行った。
会長は溜息を吐き、その背中を見送る‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/36/b9d8578b3c6ad84fd730b473a70c158a.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/45/402fd7fb25a98535fe4937510dc078e9.jpg)
青田邸の外壁の横を、亮は全速力で駆けた。
乾いた傷跡にこびりついた感情が、ジクジクと化膿する。
青田邸では会長が、靄のかかる心の内を一人呟いていた。
「何であんな男になってしまったんだ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/2d/18c18749f23d5141273cd0e65a093439.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/c5/40dee0e0bf2b322fe19155e5a459d061.jpg)
自分に向けられた冷たい言葉、厳しい眼差しー‥。
取り付く島も無いその態度に、亮の心はいつしか凍っていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/6f/579a0df5aaaf7170377c542df7a5fc7c.jpg)
心のどこかで、期待していた。
思い出の中で微笑んでいたあの人が、また自分に手を差し伸べてくれるんじゃないかって。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/74/f915ce49500551b3fd96f452576e4379.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/2a/80785fe2693ad8455208d5ef27a7c8b1.jpg)
けれど違った。
離れた年月は彼を完全な他人に変え、亮は再び、孤独の影に追われている。
「うわあああああああああ!!!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/8b/c93614093f0105446e6155d05bdd2a8c.jpg)
走っても走っても、影は後をついてくる。
振りきれないその重荷が、亮の背中に押し付けられる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<正門の先(2)>でした。
なんというか‥哀しい話ですね。
父親のように慕っていた人に裏切られた悲しみが、乾いた笑いを吐き出す亮の表情から、伝わってきますね。
しかし青田会長‥。淳の前では亮と静香の心配をして、亮の前では淳を庇って‥。
そんなんだからMr.裏目の称号を与えられるんだよ!と言いたくなります。
次回はようやく登場!
<萌菜の誘い>です。
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/b9/96e10414daf49962c50c92cf9249a968.jpg)
亮は、言葉を続けることが出来なかった。
先程、厳しい眼差しでこちらを見据えながら、会長に言われた言葉が蘇る。
「自分のすべきことを頑張っている淳と、殴り合わなきゃいけなかったのか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/5c/5589c09b9423f771e79bbdbadf64d012.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/73/54e1199440158be2e772782538b713fa.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/e9/f288022f1952d5a25d9bbf38b1a41b3b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/cf/c86d9df421ff18ed523cfaa66a178b97.jpg)
いくら見つめても、その瞳の中に自分への温情を探すことは出来なかった。
心の奥底から漏れ出した気持ちが、行き場を失って胸を濡らす。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/75/adf8582c016b07e5f182a1a2464a40d0.jpg)
亮はぐっと拳を握り締めて、無意識に己を立て直した。
「な‥何のことっすか?あのヤロ‥いや、アイツが全部話したんすか?
ハッ!アイツ‥言わねえって言っといて何‥」
「敢えて聞かなくても分かるさ。お前達二人を見れば分かる」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/b7/0293147f7402e84f09d4cd1a782e6852.jpg)
微かに震える亮。けれど会長の説教は止まらなかった。
「一体何が問題なのかがな。私はお前達が自分の道を歩むことが出来るように、
最善のサポートを全て行って来たはずだ。違うか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/a8/4db37f3259fcfc68289d84184973bfbf.jpg)
「なのに静香もお前も、事あるごとに拒否して反発して、
いつも淳の周りをつきまとい、あの子を恨むばかりだ。私はー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/37/3f0bf09475334946f9f51c85a160a097.jpg)
会長は一呼吸置いた後、亮を見据えてこう言った。
「お前達が残念でならない。失望している」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/d5/b333a24bbf7ccf4576bb915b795627c8.jpg)
会長の瞳の中に浮かぶ侮蔑の色。亮には顔を上げなくても見える気がした。
昨日散々殴り合ったあの男と、おそらく同じ眼差しをしているからー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/a8/0fc8323b8b261050435d2646e5b45f9a.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/31/3c4c772215d54597ba746cf1a8d32cec.jpg)
ぐっと歯を食い縛る亮。怒りに震えながら口を開く。
「会長‥オレがどうして淳の野郎を嫌いなのか‥本当に分からなくて聞いてるんすか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/ec/8cae22a19b9e7481f3a69c81cfed2486.jpg)
亮からのその問いに、会長は「無論分かっているさ」と答えると、逆に亮に問い返した。
「けど本当に嫌いなだけか?
お前達は本当に一度も、」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/87/48f8042ebca9afe4f13bbddade611aa3.jpg)
「淳に対して感謝の気持ちを抱いたことはないのか?」
「‥‥‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/d2/fda225e91988e40f72cbd2a19a1aa935.jpg)
そう問われても、亮には何も言えなかった。
会長は言葉を続ける。
「兄弟でもないのにお前達を受け入れて、終始気を使っていたのは淳だ。
今回の件でも、殴られたことを訴えもせず我慢したのも」
「はぁ?!オレも同じくらい殴られましたけど?!」
「お前達は私にも、そして淳にも、少しも感謝の気持ちを示さない」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/73/d1f623429f4a816bbde9f254a64a5b93.jpg)
亮の抗議は、会長に届かなかった。
彼は彼の息子と同じように、どこか疲れた顔で最後にこう言った。
「もう疲れたよ。私も」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/16/3b3119c7a7388a28cd5c5b54c3cbcfb9.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/90/6ad886178ab8a41c21df4c0ae4a635f3.jpg)
心の奥が、再び凍っていく。
それきり自分の方を見ようともしない会長を前に、亮は茫然自失し、ただその場に立ち尽くした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/6c/491a08cbbedfa42760eaa369ebc9d6c0.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/26/8311e529adc081d123b4502174cb3d5a.jpg)
いつか”本当の家族”になれるかもしれないと、そんな甘い夢を見ていた高校時代の自分。
あの頃の自分はもうとっくに、この家の通用門を通って外に飛び出してしまった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/96/621e9022b53978a5e3aed076daaae0bd.jpg)
残っているのは、正門から入って来た招かねざる客の自分。
自分を見据える今の会長には、あの頃の温かな面影など、もう微塵も感じることは出来なかった‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/77/307480bfd3e01f4f2ea09960c6a78035.jpg)
やがて亮は、閉ざしていた重い口を開けた。その声は掠れている。
「‥分かってましたよ。結局アンタは、オレたちのこと哀れんで見下してただけってこと‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/6d/241242dd703f2d335887ffa32f1096ae.jpg)
人と人との関係は、与える者と与えられる者に分かれた時点で、対等ではなくなる。
言うまでもなく本当の家族ならば、そんな区別など存在しないのに。
「自分の子供のように思っているって?自分のことは親のように思ってくれって?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/ef/377375bf3472e85503397e01cc454f3f.jpg)
「違うだろ‥アンタがオレらに対してしてたことは、全部淳の為だったじゃねぇか。
いくら理性的なフリしてたって、結局は自分のガキだけ庇うー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/ee/ddb97ebba932b40a15d66a358eea6931.jpg)
「そんな親だよ、アンタは」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/d1/15f546b5df49322b27dfd2d1dd021083.jpg)
そんな区別など気づきもしなかった、無邪気だった自分が脳裏に浮かぶ。
「今となっちゃ恥ずかしいけど、あん時はバカ正直にそれをそのまま受け入れてた」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/23/635c512f23cf82317f8f0c85809ee816.jpg)
「救いようの無いバカみてぇに喜んで‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/ff/b5dfbfc41e7c9946b01084ef48c8734f.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/01/cfb48d534fef66ce4214dd5b06ab33f9.jpg)
言葉にすればするほど、心はささくれ、哀れな自分が浮き彫りになる。
思い出せば思い出す程、あの頃の無邪気な笑顔が滑稽に感じる。
亮は溜息とも諦めともつかぬ息を吐き出した。
「は‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/f8/7a3f0b0b6ca8df87d0a0df7d66e86904.jpg)
俯くと、長い前髪が目のあたりを隠す影を作った。
亮は顔を上げぬまま、消え入りそうな声でポツリと呟く。
「初めから同じ立場の人間として扱われもしてなかったのに‥
オレ一人で‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/c0/483b1f976a50ee9828f05435d5d585a2.jpg)
感情が胸を塞ぎ、やりきれない気持ちで充満した。
亮は両手を上げると、自虐的な口調でこう口にする。
「本当~にありがとうございましたぁ。こんな底辺にお情けを掛けて頂きましてぇ。
しかもそんなヤツが大事なご子息の顔に傷つけちゃって、ほんっと~に申し訳ありませんでしたぁ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/7c/90bdd3b89cb65747d6c7b9f69adea3e7.jpg)
心の奥底から漏れ出した感情が、見る間に乾いて行く。
それは傷口の周りにこびりつき、固くなってそこを塞いで行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/21/8aa8298c3cf94bd13683adfa96bba5c3.jpg)
両手を膝に付きながら、亮は己の非を口に出した。
自分が褒められた存在じゃないことくらい、とっくに承知している。
「二度と上京しないって、静香まで押し付けて飛び出したクセに‥
こんな‥物乞いみてぇに‥金せびりに来たオレもオレだけど‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/17/faa2ce6f0fd36581c33b61ceee60d46a.jpg)
昔持っていたプライドなんて、とっくに折れていた。
けれどそのプライドに泥を塗るような真似だけは、今も出来なかった。
亮は目の前の会長を睨むと、最後にこう口にする。
「少なくともオレは、んなこと口に出すそちらさんに、金の無心をするつもりはねえよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/a2/d4a7b08a52329a3927f4bd467f6d837d.jpg)
「今日来たのは間違いでしたよ!どうぞお達者で!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/30/0a4c81e19e95617af142c63183d52827.jpg)
そう言い捨て、亮は部屋を出て行った。
会長は溜息を吐き、その背中を見送る‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/36/b9d8578b3c6ad84fd730b473a70c158a.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/45/402fd7fb25a98535fe4937510dc078e9.jpg)
青田邸の外壁の横を、亮は全速力で駆けた。
乾いた傷跡にこびりついた感情が、ジクジクと化膿する。
青田邸では会長が、靄のかかる心の内を一人呟いていた。
「何であんな男になってしまったんだ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/2d/18c18749f23d5141273cd0e65a093439.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/c5/40dee0e0bf2b322fe19155e5a459d061.jpg)
自分に向けられた冷たい言葉、厳しい眼差しー‥。
取り付く島も無いその態度に、亮の心はいつしか凍っていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/6f/579a0df5aaaf7170377c542df7a5fc7c.jpg)
心のどこかで、期待していた。
思い出の中で微笑んでいたあの人が、また自分に手を差し伸べてくれるんじゃないかって。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/74/f915ce49500551b3fd96f452576e4379.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/2a/80785fe2693ad8455208d5ef27a7c8b1.jpg)
けれど違った。
離れた年月は彼を完全な他人に変え、亮は再び、孤独の影に追われている。
「うわあああああああああ!!!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/8b/c93614093f0105446e6155d05bdd2a8c.jpg)
走っても走っても、影は後をついてくる。
振りきれないその重荷が、亮の背中に押し付けられる‥。
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<正門の先(2)>でした。
なんというか‥哀しい話ですね。
父親のように慕っていた人に裏切られた悲しみが、乾いた笑いを吐き出す亮の表情から、伝わってきますね。
しかし青田会長‥。淳の前では亮と静香の心配をして、亮の前では淳を庇って‥。
そんなんだからMr.裏目の称号を与えられるんだよ!と言いたくなります。
次回はようやく登場!
<萌菜の誘い>です。
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