Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

正門の先(1)

2015-07-06 01:00:00 | 雪3年3部(握った手~幕間)
河村亮は苦々しい気持ちを抱えながら、その門の前で佇んでいた。



久々の青田邸を前に、亮は歯を食い縛る。

マジで嫌だけど‥プライドズタズタだけど‥







嫌でも脳裏に蘇る。

剥がれた外壁、共にテーブルを囲んだ夕食、温かな昔の記憶。

ここは、思い出が多すぎる‥。



しかしここで逃げ出すわけにはいかない。

亮は気の進まぬまま、チャイムを鳴らした。

ピンポン



少し待った後、家政婦の声がした。

どちら様ですか?



記憶が急に浮かび上がった。

高校生だった自分が返事をする。

「オレっす!」



彼は無邪気な笑顔で通用門を抜け、青田邸に入って行く‥。

そんなイメージを振り払いながら、亮はインターホンに向かって口を開いた。

「あの‥河村亮です‥。その‥約束を‥してまして‥」



家政婦は「はい。お待ち下さい」と言うと、門を開いた。

ガシャン、と正門の鍵が開く。



亮は今客人として、青田邸を訪れようとしていた。

胸の中に、苦い思いが充満する。



そして亮は覚悟を決めると、その中へ足を踏み入れたのであった。







七年ぶりの青田家は、何も変わっていなかった。

亮が部屋の中央まで進むと、青田会長は振り返り、彼に声を掛ける。

「久しぶりだな」



亮は頭を下げた。

「あ‥ご無沙汰してます‥」「ああ。元気にしていたか?」「ハイ‥」



そう言って顔を上げた亮を見て、会長は目を見開いた。

傷だらけの顔を映す瞳の中に、怪訝の色が浮かぶ。



二人は互いに無言のまま、暫し見つめ合った。

「‥‥‥‥」



その内沈黙に耐え切れなくなった亮が、気まずい気持ちを押して口を開く。

「あ‥会長も‥お元気そうで‥その‥」



「だから‥」

「痛々しい顔だな」



突然顔の傷のことを指摘され、亮はヒッと息を飲んだ。

「え?あ‥これは‥大したことないっす‥。見た目よりは痛くねぇし‥」



亮が更に言葉を続けるより先に、会長は笑顔を浮かべてこう言った。

「こっちへ来なさい。挨拶をしていない」



会長は、亮に向かって手を伸ばした。

「何年ぶりだ?本当に久しぶりだな」



会長はそう言いながら、ぐっと亮の手を握った。

その手の温かさが、亮の心を揺らす。



今日自分はここに、金の無心をしに来たのだ。

昔、親のように慕っていたこの人に。

顔を上げると、昔と変わらぬ笑顔の会長が居る。



その温かな面影を前にすると、心の奥に押し込めて蓋をした感情が、ふと顔を出しそうになる。

切ない眼差しで過去をなぞる亮に、会長はこう言葉を掛けた。

「上京してすぐ挨拶に来ると思ったが、

今日になってやっとだな」




不意に飛ばされた、小さな棘。

亮はハッと我に返る。

「え?!あ、それは‥すんません、色々ありまして‥」

「残念だよ」



会長はその小さな棘を、亮の心に鋭く突き刺した。

「私はお前が、お前の姉よりは建設的な人間だと思っていたが、

大した違いは無いようだね」




ピタ、と亮の動きが止まる。

会長は躊躇することなく、淡々と言葉を続けた。

「相変らず安定した職にも就かず、淳のことを恨んでいるだけのようだな」



掠れた声で、亮はその意味を問う。

「今なんて‥」

「勿論お前が淳を恨むのは十分理解出来る。

けれどもう二人共良い大人だろう」




そして会長は、鋭い眼差しで亮を見据えた。

正門を通過して来た無礼な客人に、厳しい言葉を掛けながら。

「自分のすべきことを頑張っている淳と、殴り合わなきゃいけなかったのか?」



そこにはもう、昔の温かな面影は姿を消していた。

鋭い棘は深々と胸に刺さり、亮はただ目を開けて、会長を見つめている‥。





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<正門の先(1)>でした。

高校生の時は、家族のように通用門を通って青田家に出入りしていた河村姉弟。

七年経った今は、アポイントを取り付けての正門からの訪問。

二つの門が分けるのは、青田家と河村姉弟との関係性、ですね。。

そして正門の先には何があるのか‥次回へ続きます。

<正門の先(2)>です。


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