Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

始動

2013-07-25 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)


青い青い空の下。

ここは都心から遠く離れた田舎町。


”氷屋”



一人の男が、近頃急に暑くなったと頭を掻きながら歩いていた。



汗だくの彼が首にかけたタオルで額を拭いていると、

ふと建物の影に一人の青年が座っているのに気がつく。



彼は帽子の上にフードを被り、何やら携帯電話をいじっていた。



その手に握られている携帯は、最新の機種だ。

「何その携帯!新しいやつ?買ったの?」



男がそれを見ようと身を乗り出すと、青年は汚れるからヤダとさっさと仕舞った。

男は青年が携帯を持っているのを初めて見たので、

これで”公衆電話代”としていつも金をむしっていくことは無くなるかと青年に尋ねた。

その他にも色々な理由を付けられて、男は青年から度々金をせびられていたのだ。



青年は金は借りてるだけだと言った。返すよ、返せばいいんだろうと若干苛つきながら。

「上京する前に全部返してやるよ。全部でいくらだ?」



その言葉に男は驚いた。上京するなんて、初めて聞いたからだ。

「いつ行くの?」という男の問いに、青年は「もうすぐ」と答え、

「どうして?」という男の問いに、青年は「なんでもいいだろ」と答えた。

「オレがいつまでもこんな田舎に大人しく居ると思うか?」



そう言った青年の横顔は、瞳こそ帽子とフードで見えないが、とても端正な顔立ちをしていた。

その異質な佇まいといい、雰囲気といい、青年の言葉通りこの荒廃した田舎町にはどこか不似合いに思える。



「行ってどうするの」と男が青年に尋ねると、

青年はそのしつこさに辟易したが、やがて言った。

「ここよりは暇しないだろ」



その台詞は、青年がここに来た当初にも男は聞いたことがある。

あっちよりは暇しないだろと、同じ台詞を言っていた。

「‥‥‥‥」



青年はしばし黙っていたが、やがて「気が変わったんだよ」と言って立ち上がった。

「死んでも故郷で死ぬべきだろ。それに、一人で死んでたまるかよ」



キャップのツバを手にして佇む彼の後ろ姿は、逆光を背負ってどこか暗かった。

力の入らない左拳を握り締めたまま、青年はそのまま歩き出す。

「どこへ行くの?」



男は青年の背中を見ながら涙ぐんだ。それに気付いた彼は足を止める。

「オレがいねぇからってピーピー弱音ばっか吐いてねぇで、しっかりやれよ。分かったな」



あんまり電話してくんなよな、と言い残して、彼は今度こそ男に背を向けて歩き出した。

さよならを言う代わりに、手のひらを上に上げながら。



青年はもう帰ってこないと言った。


上京して様子を見に行きたい人物が二名いる。

一人はたった一人の肉親である姉。


もう一人は‥



彼の脳裏に、あの疎ましい後ろ姿が浮かんだ。


暗澹たるあの事件の記憶。

肩を掴んで追及したあの時。



あいつは言った。

「俺じゃない」




河村亮はバスに長時間揺られながら、一人都心を目指した。


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<始動>でした。

過去編以来、初めて亮が出てきた回です。これから物語が大きく動いていきます。

次回は<その意義(1)>です。

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