ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

効く人には効く

2024-08-03 08:56:30 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「多様ということ」7月23日
 オピニオン編集部小国綾子氏が、『変われるよ』という表題でコラムを書かれていました。その中で小国氏は、「不登校生動画甲子園」昨年大会受賞者リセなさんについて取り上げています。
 リセなさんは、『不登校になったのは中学1年のとき』『登校できない罪悪感から、閉じこもりがちに』『オンラインゲームで知り合った友だちにも救われた。同世代の不登校の子らと親友になり、自分のアバターを思い切り好きな髪型や服装にして、何でも語り合った』などの経緯で今は通信制の高校に通い、『憧れていた「リアルな学校友だち」』もできたとそうです。
 セリなさんは、『今回は動画で何を伝えたい?』という小国氏の問いに、『「大丈夫、変われるよ」と伝えたい。学校に行かなくてもいっぱい選択肢はあるし、どこでも必ず友だちはできる。私はこの1年で変われたから、それを伝えたい』と答えています。
 このセリなさんの言葉、不登校に苦しんでいる子供たちはどのように受け止めるのだろう、そのことがとても気になりました。小国氏がこのコラムを書いたのは、セリなさんの言葉が、多くの不登校に苦しむ子供たちの救いになると考えたからだと思います。今は苦しくても、必ず変われる、苦しみのトンネルを抜け出すことができる、それをあなたたちと同じように不登校で苦しんでいたセリなさんが証明してくれているよ、そんなメッセージを伝えたいと考えたからでしょう。
 でも、……と考えてしまうのです。セリなさんのメッセージが届くためには、一つの条件があると思います。それは、セリなさんと自分は同じだ、と思えることです。多くの人は、大谷翔平氏の話を聞いて自分も大リーガーになる、とは考えないでしょう。イーロン・マスク氏の言葉に触れたからといって、自分も世界一の大金持ちになれるとは考えないでしょう。
 彼らは特別な存在、自分とは違う、そう受け止めるのが普通の発想です。同じことが、不登校でひきこもり、一日中ほとんど誰とも口を利かない中学生も言えるのではないでしょうか。セリなさんは自分とは違うと考える人が多いのではないかと思うのです。
 動画なんて撮ったことないし、センスがないから受賞なんて無理だし、俺なんて小3から不登校だし、オンラインゲームで知り合うって結構勇気いるし、ゲームの中でも嫌われたら立ち直れないし、私に好きな服装や髪形なんてあったっけ、ゲームなんかしていたら「学校サボってゲームか」と親に怒鳴られそう、などなど否定的なことばかり頭に浮かんできてしまう、という子供の方が多いような気がするのです。
 親や教員、教育問題の有識者といわれる偉い人、そんな人から上から目線で言われるより、同じ世代で同じ不登校に苦しんできた人の言葉の方が心に染み入ってくる、それは間違いないと思います。しかし、そのことを認めてもなお、「私とは違う」と感じてしまう子供が少なくないと思うのです。むしろ、近しく感じられるだけに、「偉人」と違うことは素直に受け入れられるし、傷付くこともないのに、近しい存在にさえ大きな隔たりを感じる、という経験の方が傷つくという子供のいるかもしれません。
 教員が、100%の善意で、セリなさんの話を伝え、不登校の教え子がより深く落ち込む、そんな悲劇がありそうだと感じてしまう私はひねくれているのでしょうか。多様性の尊重が言われる現代、セリなさんのような話も、効く人には効く、くらいの受け止めが良いのではないでしょうか。

 

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