「誤解を生じさせる?」2月27日
『多言語習得「音」から 東大チーム 働く脳領域特定』という見出しの記事が掲載されました。『複数の言語を習得する際に共通して活発に働く脳の領域を特定したと、東京大などのチームが英科学雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」に発表した』ことを報じる記事です。
記事によると、『これまで学んできた言語のリスニング能力が高い人ほど、新しい言語の音声を聞いている際にこの領域が活発化し、文法の理解が早かった。チームは「言語を学ぶ上では、まず音から入るのが基本だと裏付けられた」と指摘する』ということだそうです。
よく分からない点があります。リスニング能力を対象にした研究だということは分かります。しかし、言語の習得はリスニングで、「音」で行われるとは限りません。江戸時代、杉田玄白や前野良沢らの尽力によって作られた解体新書、彼らは文字言語だけから翻訳を進めていったと言われています。
現代でも、言語学習を、「有名なあの作家の著書を原文で読んでみたいから」というような動機で始める例はよく聞かれます。仕事上の必要で、身近なところにその言語を母語とする人がいない状況にもかかわらず、文献や書類を読解しなければならないこともあります。辞書を手に少しずつその言語への理解を深めていくことになります。
つまり、言語の習得には、音声情報と文字情報という2つの道があるのです。そうであるならば、言語の習得において、「音から入るのが基本」であるというためには、同じようにその言語について一切触れたことがない人を2つのグループに分け、一方は音声、もう一方は文字を入り口に学習させ、それぞれの理解度や活用度を比較するという桁委が必要になるはずです。
その比較においても、リスニング能力は音声グループが、スペリング能力は文字グループが高いのは当然ですから、それ以外の分野について比較することになります。そうした比較検討を経て言語習得にはリスニング、という結論が出されたのなら納得できるのですが、この記事ではそうではありません。
我が国に暮らす在日外国人の子供たちについて言えば、半年程度で学校における簡単な日常会話は何とかこなすことができるようになっても、教科書は全く理解できず、学校からのお知らせも読めず、提出する書類も書けない、ということで苦労している例がとても多いのです。
外国語の習得は、その目的によって重点を置くべきところも違ってきます。もう少し精緻な議論が必要な気がします。