8年前の2012年09月18日のブログ「中国ウォッチャーの米大学教授の講演『中国の台頭』」は、ペンシルバニア大学の歴史学部国際関係のアーサー・ウォルドロン教授の講演を紹介している。この講演は中国に非常に厳しい内容で、当時はこういう強硬論は異端で少数派だった。しかし、一部の内容は現在に合わない部分もあるが、ほとんどは現在のアメリカ国民の一般的な認識のように思える。
このブログでは、ウォルドロン教授の講演のいくつかの主張を挙げて、それについて見直してみる。
①「中国共産党政権は中国の未来像を持っていない」
ウォルドロン教授の指摘です。この指摘は後で何回も出て来る。習近平は「中国の夢」として「中華民族の偉大なる復興」を挙げているが、ウォルドロン教授の指摘はこういう事ではない。最も矛盾をはらんだ共産主義国家の中の資本主義について何も言っていないのは、現体制が未来像を持っていないからと教授は指摘している。私は中国の共産主義は独裁のための方便にすぎないと思っている。
②ニクソン大統領の時代から、米国は日本を軽視している
ウォルドロン教授の指摘です。米国にとって中国は敵であったことは無いし、巨大な市場として日本よりも魅力的なので、伝統的に米国は日本より中国を重要視してきた。だからニクソン大統領は中国と国交を結んだ。しかし、現在は中国への警戒感から、日本重視の方向になっている。中国の台頭に対抗するには、米国は日本を重視せざるを得ない。韓国から駐留米軍が撤退する可能性は0%ではないし、中国が台湾を攻撃してくるかもしれない。そうであっても、米国は市場としての中国を無視できない。
③(中国の)「平和的台頭」は幻
彼の主張は正しかった。当時、中国は平和的に世界に登場してくると考えていた人が多かったが、それは間違っていた。現在では、いずれ中国は米国に対抗するようになると世界の一般の人まで認識していると思う。
④米中ソの三角関係
教授がこの文で何を言いたかったのか疑問があるので、私の理解で書く。
「米ソ」冷戦時代は、米国は中国を米国側に引き入れようとした。ソ連が崩壊しその後継のロシアは昔ほどの力は無い。代わりに中国が台頭してきたが、中国は「米中」冷戦を避けたいし、中国だけが米国の矢面に立ちたくない。したがって中国はロシアを味方に引きずり込んで米国に対抗しようとしている。米中ソの三角関係は変質している。
⑤包容政策と包容政策の終焉
「中国の長期的目標が先島諸島や沖縄諸島から日本を追い出し、自国の支配権下に収めることにある」というウォルドロン教授の指摘はその通りだと思う。このことが、米軍が沖縄から撤退しない理由。しかし、米国は日本を守りたいのではなく、中国の進出を防ぎたいだけ。
⑥中国共産党政権への幻想
「過去全ての中国政権がそうであったように、どちらの政権も国民から完全に隔離されていると言う点では類似する」
「現在の共産党一党独裁政権は、これから何をしようとしているのか、どこへ向かおうとしているのか、具体的な計画を持ち合わせていない。敢えて言えば、自らの独裁を維持しつつ、中国を「偉大」な大国にしたい、という極めて曖昧なビジョンしか持ち合わせていない」
とウォルドロン教授が指摘はその通りです。2012年の時点でこれをちゃんと認識していたのはエライ。
⑦中国共産党政権の暴力的崩壊
これはどうだろうか。軍を握っている限り、国家を崩壊させるほどの暴動は起こりえないと思うが・・・
⑧日本の攻撃力強化の必然性
教授は、日本の攻撃力を強化する必要性を言っていた。日本の核武装まで言及していたが、将来そうなるか?
結論
こうしてみて来ると、約10年前の対中強硬派の意見は、今では普通の人も受け入れられているように見える。
「中華民族の偉大なる復興」なんて、遅れてきた帝国主義、あるいは遅れてきた植民地主義のようで、時代錯誤も甚だしい。それに一番重要な国家体制について明確な将来像が描かれていないのは事実です。中国は、共産主義国家の中の資本主義という冗談をこのままズルズルと続けるだろうし、それしか選択肢が無いと思う。
2020.07.06