この情報についていろいろ調べてみたが、論文として検索できたものは、ひとつだけでした。
すでにロッカーさんが「福島で暮らすということ~」のエントリでコメントして下さっています。
ロッカーさん、ありがとうございます。
さて、その論文に掲載されているグラフを解説している動画があります。
本当はわたしの記事には載せたくないのですが、必要上、出します。
http://www.ustream.tv/recorded/15540825
この解説をなさっておられるのは、元放射線医学総合研究所におられた方です。
原発・放射線被害に関心のある方でこの方をご存知ない方はいないでしょう。
このおおもとの論文を書いた方は、ゴメリ医科大学の学長をしていたバンダジェフスキーという方で、
この論文が原因で?(別の収賄容疑で)政府から逮捕収監されたとのこと。
こう書くと、まるでバンダジェフスキー氏は正義の味方で、この論文は政府に都合が悪かったからだという印象です。
(それについての見解は、下にあげるbuveryさんが、記事の最後の方に書かれています。わたしも同意見です。)
けれども。
上記の動画を拝見していて(18分過ぎから出てくるグラフ)、この論文についてかなりの疑問を感じました。
それは、このようなデータを論文として掲載する場合、統計処理は単なる棒グラフでは表さないのが常識だからです。
崎山氏ほどの方が、なぜこの点を疑問に思わず、このデータを信憑性のあるもののように取り上げたのか、
わかりません。
先にロッカーさんもコメントに提示して下さいましたが、そのことを解説しているブログがありました。
buveryさんという方の日記です。
わたしはこの方がどのような方かは存知あげないのですが、内容は十分に的を得ていて、説得力があります。
「セシウムは甲状腺に蓄積して、甲状腺癌を引き起こすのか?」
http://d.hatena.ne.jp/buvery/20110701
記事の最初に結論を書いておられます。(赤字はわたしが強調)
「結論から申し上げると、ある程度は集積するかもしれないが、極端に集積する訳ではない。
ただし、小児甲状腺癌は引き起こさない」
わたしも、この記事を読んで、同意見です。
補足:このサイトを開いて、崎山氏の動画で出てきたグラフの説明をお読みいただけると、わかりやすいかと思います
前後しますが、先の動画の崎山氏の解説について、疑問に思う点がもうひとつあります。
動画の約3分過ぎのグラフ、「セシウム137のよる環境汚染と人体汚染の関係」について。
これは、山下教授達がチェルノブイリで1991年から1996年にかけて調査したものです。
縦軸は、ホールボディカウンターで調べた体内のセシウムの平均値、
横軸は、各地域の環境放射線レベルです。
この方はこの横軸に、いわき、福島、飯舘村など、同等の環境放射線レベルの地域を書き加え、解説しています。
これを聞いていると、
飯舘、さらにグラフの圏外の高濃度の浪江町などはセシウムの内部被ばくは高度だ、という印象を受けますが、
これはかなり乱暴な意見だな、と思いました。
この山下教授のデータは1991年から5年間のものです。
それ以前、原発事故当時の1986年から1991年までのデータは、ロシア政府は公表していません。
従って、山下教授のデータのセシウム137の人体蓄積量平均値は、
調査以前の5年間の影響も含まれているのではないでしょうか。
ほとんどの方がご存知のように、チェルノブイリでの内部被ばくは、初期の対応のまずさのためです。
医学的には、チェルノブイリでの内部被ばくに比べ、福島原発事故後は、その程度はかなり低いはすです。
(今、福島県産の肉牛が問題になっていますが、これは「行政の杜撰さの問題」とすべきと考えます。)
しかも、現在ではまだ、福島県内各地域住民の内部被ばく調査は、ようやく行われ始めたところですから、
まだ各地域での内部被ばくの程度がどのぐらいかは、わかっていません。
ですから、ロシアの汚染地域に住む住民の内部ひばく量と、
福島での同じレベルの汚染地域の内部ひばく量が同等になるのではないか、
と印象付けるような解説をなさるのは、誤っていると思います。
この方の立派な経歴から考えると、このようなご意見になるのが、不思議です。
補足:読み返して一部わかりにくい文章だったので、訂正しました。
また、このエントリから少しはずれますが、この方がいわき市で行った講演のYouTubeも拝見しました。
出されているスライドは、わたしどもが他の放射線専門医の方々の講演でお聴きした内容と、ほぼ同じです。
チェルノブイリのデータのほとんどは、山下教授の講演会でも拝見したものと同じです。
わたしのブックマークにある「放射線学入門」なども、放射線の基本的な解説は同じでした。
それなのに、なぜこうも、受ける印象が違うのだろう? という感想を持ちました。
そこで気付いたのが、人のからだへの影響を「どのように表現するか」ということでした。
科学者として(やや政治的な見解も含めて)伝えるか、
人を相手にする臨床医として伝えるか、の違いかな、という印象を持ちました。
ここでも気になったスライドがありました。
「放射性ヨウ素の被ばくによる甲状腺がん発症予測」
1Sv当たり:1万人に7.5人
子どものリスクはこれの倍
甲状腺がんの致死率は1/10
ここでわたしが ????? と思ったのは、
「甲状腺がんの致死率は1/10」とスライドに記載されていたことです。
甲状腺がんは小児には非常に少なく、だからこそ、チェルノブイリでは小児甲状腺がんが問題になりました。
くどいですが、この原因のほとんどは、放射線による汚染された食物を摂取したことによるものです。
そして、その摂取した食物の汚染レベルは、福島の比ではありません。
しかし、小児甲状腺がんは、がんの中では比較的性質がいい、つまり、生命予後が良いと言われています。
「致死率1/10」ということをそのまま受け取ると、
まるで、甲状腺がんになった方の10人に1人は死亡する、という印象を受けます。
ですが、そもそも、「がん」の重症度の評価で「致死率」という表現はあまりしません。
5年、又は10年生存率、とか、生存率○%、という表現をとるのが一般的です。
「チェルノブイリ後20年 放射線防護の立場から」
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/Chernobyl.pdf
のまとめによれば、
3.3 甲状腺がんの治療
甲状腺がんの経過は他のがんに比較して非常に良好である。特に分化型甲状腺がん(乳頭がん、ろほうがん)
では経過がよい。その他には診断時の年齢が経過に影響し、青少年では成人に比較して明らかに良い経過をとる。
チェルノブイリ事故後の白ロシアの1152 例の小児甲状腺がんのデータでは、1992 年から2002 年では生存率
99%であった。これらの白ロシアの甲状腺がんのかなりの症例(20%程度)は進行した段階で診断されたため、
これらの症例ではさらに十年以上経過を見なければ正確なことは言えない。
という記載があります。(赤字はわたしが強調したものです。)
また、講演の後の質疑応答では、このようなこともおっしゃっていました。
マスクについての質問で、
(苦笑しながら)「マスクは、わたくしはあまり意味がないと思っています。」
会場からは笑いがもれました。
これは山下教授もおっしゃっていたことですが、崎山氏は非難されませんね。
松本市長の菅谷氏や武田邦彦氏は、マスクをして、とおっしゃってます。
マスクについては、したい方はすればいいし、面倒な方はしなくてもいい、と個人的には思っています。
ここに住んでいても大丈夫か、との質問には、
「がんになるのが嫌な方は、避難なさった方がいいと思います。」
と答えておられました。
わたしなら、
「がんになるかもしれない確率はかなり低いですが、それでも不安な方は・・・」とお答えします。
何が言いたいのかというと、同じ情報を伝えるのにも、その情報を伝え手がどよのように解釈して、
それをどのような表現を用いるか、ということで、伝わり方がかなり異なってしまう、ということです。
「セシウムは甲状腺に蓄積する」という情報も、そのたぐいだと思います。
(わたしのような一介の開業医が、立派な経歴をお持ちのかたの言葉についてコメントするのは、
かなり気がひけたのですが・・・・・。)
すでにロッカーさんが「福島で暮らすということ~」のエントリでコメントして下さっています。
ロッカーさん、ありがとうございます。
さて、その論文に掲載されているグラフを解説している動画があります。
本当はわたしの記事には載せたくないのですが、必要上、出します。
http://www.ustream.tv/recorded/15540825
この解説をなさっておられるのは、元放射線医学総合研究所におられた方です。
原発・放射線被害に関心のある方でこの方をご存知ない方はいないでしょう。
このおおもとの論文を書いた方は、ゴメリ医科大学の学長をしていたバンダジェフスキーという方で、
この論文が原因で?(別の収賄容疑で)政府から逮捕収監されたとのこと。
こう書くと、まるでバンダジェフスキー氏は正義の味方で、この論文は政府に都合が悪かったからだという印象です。
(それについての見解は、下にあげるbuveryさんが、記事の最後の方に書かれています。わたしも同意見です。)
けれども。
上記の動画を拝見していて(18分過ぎから出てくるグラフ)、この論文についてかなりの疑問を感じました。
それは、このようなデータを論文として掲載する場合、統計処理は単なる棒グラフでは表さないのが常識だからです。
崎山氏ほどの方が、なぜこの点を疑問に思わず、このデータを信憑性のあるもののように取り上げたのか、
わかりません。
先にロッカーさんもコメントに提示して下さいましたが、そのことを解説しているブログがありました。
buveryさんという方の日記です。
わたしはこの方がどのような方かは存知あげないのですが、内容は十分に的を得ていて、説得力があります。
「セシウムは甲状腺に蓄積して、甲状腺癌を引き起こすのか?」
http://d.hatena.ne.jp/buvery/20110701
記事の最初に結論を書いておられます。(赤字はわたしが強調)
「結論から申し上げると、ある程度は集積するかもしれないが、極端に集積する訳ではない。
ただし、小児甲状腺癌は引き起こさない」
わたしも、この記事を読んで、同意見です。
補足:このサイトを開いて、崎山氏の動画で出てきたグラフの説明をお読みいただけると、わかりやすいかと思います
前後しますが、先の動画の崎山氏の解説について、疑問に思う点がもうひとつあります。
動画の約3分過ぎのグラフ、「セシウム137のよる環境汚染と人体汚染の関係」について。
これは、山下教授達がチェルノブイリで1991年から1996年にかけて調査したものです。
縦軸は、ホールボディカウンターで調べた体内のセシウムの平均値、
横軸は、各地域の環境放射線レベルです。
この方はこの横軸に、いわき、福島、飯舘村など、同等の環境放射線レベルの地域を書き加え、解説しています。
これを聞いていると、
飯舘、さらにグラフの圏外の高濃度の浪江町などはセシウムの内部被ばくは高度だ、という印象を受けますが、
これはかなり乱暴な意見だな、と思いました。
この山下教授のデータは1991年から5年間のものです。
それ以前、原発事故当時の1986年から1991年までのデータは、ロシア政府は公表していません。
従って、山下教授のデータのセシウム137の人体蓄積量平均値は、
調査以前の5年間の影響も含まれているのではないでしょうか。
ほとんどの方がご存知のように、チェルノブイリでの内部被ばくは、初期の対応のまずさのためです。
医学的には、チェルノブイリでの内部被ばくに比べ、福島原発事故後は、その程度はかなり低いはすです。
(今、福島県産の肉牛が問題になっていますが、これは「行政の杜撰さの問題」とすべきと考えます。)
しかも、現在ではまだ、福島県内各地域住民の内部被ばく調査は、ようやく行われ始めたところですから、
まだ各地域での内部被ばくの程度がどのぐらいかは、わかっていません。
ですから、ロシアの汚染地域に住む住民の内部ひばく量と、
福島での同じレベルの汚染地域の内部ひばく量が同等になるのではないか、
と印象付けるような解説をなさるのは、誤っていると思います。
この方の立派な経歴から考えると、このようなご意見になるのが、不思議です。
補足:読み返して一部わかりにくい文章だったので、訂正しました。
また、このエントリから少しはずれますが、この方がいわき市で行った講演のYouTubeも拝見しました。
出されているスライドは、わたしどもが他の放射線専門医の方々の講演でお聴きした内容と、ほぼ同じです。
チェルノブイリのデータのほとんどは、山下教授の講演会でも拝見したものと同じです。
わたしのブックマークにある「放射線学入門」なども、放射線の基本的な解説は同じでした。
それなのに、なぜこうも、受ける印象が違うのだろう? という感想を持ちました。
そこで気付いたのが、人のからだへの影響を「どのように表現するか」ということでした。
科学者として(やや政治的な見解も含めて)伝えるか、
人を相手にする臨床医として伝えるか、の違いかな、という印象を持ちました。
ここでも気になったスライドがありました。
「放射性ヨウ素の被ばくによる甲状腺がん発症予測」
1Sv当たり:1万人に7.5人
子どものリスクはこれの倍
甲状腺がんの致死率は1/10
ここでわたしが ????? と思ったのは、
「甲状腺がんの致死率は1/10」とスライドに記載されていたことです。
甲状腺がんは小児には非常に少なく、だからこそ、チェルノブイリでは小児甲状腺がんが問題になりました。
くどいですが、この原因のほとんどは、放射線による汚染された食物を摂取したことによるものです。
そして、その摂取した食物の汚染レベルは、福島の比ではありません。
しかし、小児甲状腺がんは、がんの中では比較的性質がいい、つまり、生命予後が良いと言われています。
「致死率1/10」ということをそのまま受け取ると、
まるで、甲状腺がんになった方の10人に1人は死亡する、という印象を受けます。
ですが、そもそも、「がん」の重症度の評価で「致死率」という表現はあまりしません。
5年、又は10年生存率、とか、生存率○%、という表現をとるのが一般的です。
「チェルノブイリ後20年 放射線防護の立場から」
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/Chernobyl.pdf
のまとめによれば、
3.3 甲状腺がんの治療
甲状腺がんの経過は他のがんに比較して非常に良好である。特に分化型甲状腺がん(乳頭がん、ろほうがん)
では経過がよい。その他には診断時の年齢が経過に影響し、青少年では成人に比較して明らかに良い経過をとる。
チェルノブイリ事故後の白ロシアの1152 例の小児甲状腺がんのデータでは、1992 年から2002 年では生存率
99%であった。これらの白ロシアの甲状腺がんのかなりの症例(20%程度)は進行した段階で診断されたため、
これらの症例ではさらに十年以上経過を見なければ正確なことは言えない。
という記載があります。(赤字はわたしが強調したものです。)
また、講演の後の質疑応答では、このようなこともおっしゃっていました。
マスクについての質問で、
(苦笑しながら)「マスクは、わたくしはあまり意味がないと思っています。」
会場からは笑いがもれました。
これは山下教授もおっしゃっていたことですが、崎山氏は非難されませんね。
松本市長の菅谷氏や武田邦彦氏は、マスクをして、とおっしゃってます。
マスクについては、したい方はすればいいし、面倒な方はしなくてもいい、と個人的には思っています。
ここに住んでいても大丈夫か、との質問には、
「がんになるのが嫌な方は、避難なさった方がいいと思います。」
と答えておられました。
わたしなら、
「がんになるかもしれない確率はかなり低いですが、それでも不安な方は・・・」とお答えします。
何が言いたいのかというと、同じ情報を伝えるのにも、その情報を伝え手がどよのように解釈して、
それをどのような表現を用いるか、ということで、伝わり方がかなり異なってしまう、ということです。
「セシウムは甲状腺に蓄積する」という情報も、そのたぐいだと思います。
(わたしのような一介の開業医が、立派な経歴をお持ちのかたの言葉についてコメントするのは、
かなり気がひけたのですが・・・・・。)