DR徳田の英語論文書き方のツボ
筑波大学附属水戸地域医療教育センター水戸協同病院総合診療科教授
徳田安春
「症例報告の書き方」その1:症例報告のタイトルを書く
症例報告を書く
みなさん、こんにちは。本誌のおもな読者である多忙な内科医師は、珍しい疾患や症候群を呈した症例や、予期しなかった臨床経過の展開をしめした貴重な症例を、日常診療で経験することがしばしばあることだろう。そのような症例については、院内のカンファレンスや病院間でおこなわれるカンファレンスなどで発表することはよく行われている。しかしながら、英文症例報告として医学雑誌に掲載することまできちんとやるという医師は意外に少ない。
英文症例報告を書く
貴重な症例はぜひもと症例報告したいところである。できれば英文症例報告として発表し、臨床医学のグローバルな叡智に寄与し科学的な貢献をするとよい。そういうとここで、なぜ英語か?という質問が出てくることがある。その問いには、正式な医学学術論文は英語記載されるべきである、と答えよう。現代医学のScientific communityに加わりたいのなら英語で記載して情報を発信しなければならない。あたりまえのことであるが、論文も症例報告も英語で書かれてはじめて世界中の医師が読むことができるのだ。
症例報告は重要
症例報告を決して軽くみてはならない。日本人が最初に記載しそのまま日本人の氏名が病名として残っている疾病である橋本病や川崎病、菊池病の臨床研究も、症例報告から始まった。現在、世界中に蔓延しているエイズ(AIDS)もさかのぼると、米国CDCが報告者ではあるが、1981年にロサンゼルスから症例報告として記載されたものである(文献1)。
症例報告は原著扱い
臨床医学領域で最もインパクトファクター(あるジャーナルの被引用回数の多さを示す数値。IFと略されることが多い。毎年更新される。)の高い雑誌であるNew England Journal of Medicine (NEJM)でも(2013年時点でIF 51.658)、質の高い症例報告は原著(Original article)として扱われている。最近では、Annals of Internal Medicineにも、新たに病原体が発見された疾患の症例報告が掲載された(文献2)。症例報告もりっぱな原著論文なのである。
症例報告で明るみになる薬剤の副作用
臨床試験中では判明しなかったある薬剤の副作用情報は、認可後の症例報告から始まることも多い。かつてトログリタゾン(商品名ノスカール)という糖尿病のくすり(インスリン感受性改善薬)があった。まず、ランドマーク(ランドマークとは、ある薬の有効性を示す重要な臨床試験結果が掲載されているという意味)研究論文(文献3)がNEJM誌に掲載された。その4年後に致死的な薬剤性肝障害をきたすことが症例報告として出されて以降、同様な副作用報告が相次ぎ、最終的にこのクスリは製造販売中止に追い込まれた。
薬剤などの臨床的介入が有効かどうかを評価するためには臨床研究、すなわち無作為化対照試験(Randomized Controlled Trial: RCT)を必要とするが、そのような臨床研究の論文には副作用情報が意外になかなか出てこない(意図的に出していないこともあるようだが、もともと臨床試験実施者にはバイアスがあるため、副作用を過小評価している)。このように、トログリタゾンの有効性を示すランドマーク研究論文が出されたあとの副作用報告が出されたことによって、そのランドマーク研究が再度検討されることになった。そして副作用が明るみになり、またNEJM誌に掲載され、最終的にトログリタゾンはマーケットから消えることになった(文献4)。ちなみに現在では類似薬のピオグリタゾンがマーケットに出ているが、このクスリも心血管イベントや骨粗鬆症、膀胱がんなどにリスクとの関連が言い沙汰されており、似たような運命をたどる可能性が高いと筆者はみている。
症例報告のタイトルを書く
前置きが長くなった。この新連載ではこのような症例報告を英文で書くためのツボをまず公開していこうと思う。さて早速、次の項目から症例報告を英文で書くためのツボをみていこう。
今回は初回ですので、軽めのトピックでみてみよう。そう。やっぱり最初は「タイトル」だ。例として、筆者がこれまでに医学雑誌に、共著者として掲載した症例報告のタイトルを、時系列に古い順にならべてみていこう。
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症例報告タイトルの例:
1. Long-term enteral nutrition-associated copper deficiency anemia and leukopenia: A case report and review of the literature
(Journal of Okinawa Chubu Hospital, 1998)
2. Syndrome of Passive Hepatic Congestion Mimicking Acute Abdomen in a Patient with Hyperthyroidism: A Case Report and Review of the Literature
(Journal of Okinawa Chubu Hospital, 1998)
3. PyodermaGangrenosum Associated with Myelodysplastic Syndrome
(Journal of Okinawa Chubu Hospital, 1999)
4. A 22 year-old female with an unexplained bruising tendency: A case report and review of the literature
(Journal of Okinawa Chubu Hospital, 2000)
5. Polymyalgia rheumatica: Three cases with atypical presentation
(Journal of Okinawa Chubu Hospital, 2000)
6. Severe Hypoxemia associated with Neuroleptic Malignant Syndrome
(Journal of Okinawa Chubu Hospital, 2000)
7. Tubulointerstitial nephritis associated with Legionnaires' disease.
(Internal Medicine, 2000)
8. Neuroleptic Malignant Syndrome in the Patient with Parkinson's disease
(Journal of Okinawa Chubu Hospital, 2001)
9. Cocoa supplementation for copper deficiency associated with tube feeding nutrition
(Internal Medicine, 2006)
10. Severe Retinopathy in Fulminant Juvenile Dermatomyositis
(General Medicine, 2007)
11. Yubitsume (self-amputation)
(Emergency Medicine Journal, 2008)
12. Autoimmune hemolytic anemia associated with primary biliary cirrhosis
(General Medicine, 2008)
13. Chronic hepatitis with eosinophilic infiltration associated with asthma
(Internal Medicine, 2009)
14. A Key Film
(J Emerg Med, 2009)
15. Spinal duralarteriovenous fistula incidentally discovered
(J Emerg Trauma Shock, 2011)
16. Acute urinary retention
(Internal Medicine, 2011)
17. Eight-vessel disease mimicking takotsubo cardiomyopathy
(QJM, 2012)
18. Endoscopic capture of Anisakis larva (a video demonstration)
(BMJ Case Reports, 2012)
19. Severe Legionnaires' Disease with Pneumonia and Biopsy-Confirmed Myocarditis Most Likely Caused by Legionella pneumophilaSerogroup 6
(Internal Medicine, 2012)
20. Diphyllobothriumnihonkaiense infection linked to chilled salmon consumption
(BMJ Case Reports, 2012)
21. Exercise-induced anaphylaxis
(BMJ Case Reports, 2012)
22. Hairy tongue
(BMJ Case Reports, 2012)
23. Superior mesenteric artery dissection
(BMJ Case Reports, 2012)
24. Miller Fisher syndrome linked to Norovirus infection
(BMJ Case Reports, 2012)
25. Bilateral carotid arteries occlusion
(BMJ Case Reports, 2013)
26. Biliary tract compression caused by a giant abdominal aneurysm
(Internal Medicine, 2013)
27. Osler's node
(BMJ Case Reports, 2013)
28. Intravesical migration of intrauterine device
(BMJ Case Reports, 2013)
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タイトルは名詞句
このサンプル例を眺めてみると気づくことがある。原則、名詞句であるということだ。
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症例報告ルールその1
タイトルは名詞句で記載する
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確かにタイトルは文にはなってないので、最後にピリオド(.)も打たれていない。
例えば、サンプルタイトル(2)の、
Syndrome of Passive Hepatic Congestion Mimicking Acute Abdomen in a Patient with Hyperthyroidism
は長いタイトルではあるが、「主語+述語」という構造ではないので文ではなく、やはり名詞句である。ピリオド(.)もない。たとえばこれを下記のように文にしたらこうなる。
A Patient with Hyperthyroidism Had Syndrome of Passive Hepatic Congestion Mimicking Acute Abdomen.
これは文としては正しい記載であるが、タイトルとしては不自然さが残る。文とは、前後関係があって初めて存在理由があるのである。単独で存在理由をアピールしなくてはならないタイトルには文は不相応ということになる。ただし例外として、文を使用して奇抜さを狙ったタイトルが採用されることがある。下記は疑問文であるが、りっぱな文である(文献5)。
What is in? Pneumoperitoneum after sexual intercourse
タイトルにReview of the Literatureという文句は不要
また、賢い諸君は、時系列でサンプルをみると最近掲載した症例報告では、タイトルに、
A Case Report and Review of the Literature
という決まり文句が出なくなっていることに気付いたであろう。タイトルからこの文句が消えた理由は、雑誌のセクション名(あるいは、BMJ case reportsであればすべてcare reportsなのである)にcase reportと記載されているので、いちいちタイトルにcase reportと明示する必要性がなくなったのである。ただし、文献2のように、原著のセクションに掲載されている論文には、タイトルの最後にcase reportとつけてもよい。
それでは、Review of the Literatureはどうだろうか。これもよく考えると、明示するほどのことでもない。というのは、症例報告のdiscussionではかならず過去文献をレビューした内容も記載するからである(Clinical image caseなどは除くが)。Review of the Literatureはあたりまえにおこなわれるのであるからいちいちタイトルに過去文献のレビューをしましたと宣言する必要はない。ここでいうレビューは、ナラティブなレビューであり、メタ分析などを行ったシステマティックレビューではない。
確定診断は必須
症例報告での重要ルールには確定診断がなされていることというのがある。
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症例報告ルールその2
診断は確実についていること
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たとえば下記のタイトルはまずい。
A patient with possible diagnosis of fat embolism
上記症例は、大腿骨骨折で入院した患者が原因不明の呼吸不全を呈したが、CT画像上で大腿骨付近の静脈血管内に脂肪組織が存在していたということで脂肪塞栓の診断を下したということであった。やはり組織診断が無いと厳しい。肺、いや一歩ゆずってすくなくとも皮膚の生検組織像で脂肪塞栓を示す証拠がほしいところである。同様に、
A severe acute respiratory syndrome with unknown etiology
これもまずいということになる。上記は剖検例であるが、培養や剖検で確定しんだんがついてなくても、感染症疑いであれば可能性のある病原体の遺伝子検査や血清学的検査を行って診断を突き詰めていくことがたいせつである。これはどうか、
Culture negative endocarditis associated with massive hemolysis in a cook who required valve replacement surgery
培養陰性心内膜炎であっても、やはり可能性のある病原体の遺伝子検査や血清学的検査を行って診断を突き詰めていくことがたいせつである。この点は重要で、症例報告を記載する前にこのルールを思い出すとよい。記載したあとで、実は「未診断症例」であったことが判明したというと、記載にはある程度の苦労をしたのに、リジェクトのリスクも高い。悲しい結果となる可能性もあるのでよく注意すべきだ。
なるべくman (woman)を使う
欧米の医学雑誌の編集委員や査読委員には、患者について記述するときに、caseやmale (female)という表現を好まない人々がいるので、なるべくこのような表現は避けたほうがよい。ここで、もともとcase reportという論文なのになぜcaseと書いてはいけないの?という質問が出てくる。man (woman) reportとはさすがに書けないので、case reportはそのまま熟語(連語)として覚えておくようにすればよい。male (female)の使用がよくない理由は、動物を連想させるからだ。
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症例報告ルールその3
患者を記述するときはman (woman)、boy (girl)、child、newbornを使う
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査読者も人であり、人は最初の印象で結果を決める傾向がある(anchoring biasともいう)。たとえば下記のようなタイトルはまずいだろう。
Premature ovarian failure 3 years after menarche in a 16-year-old female following human papillomavirus vaccination
これはルールその3に従って、femaleをgirlと記載すればよい。
Premature ovarian failure 3 years after menarche in a 16-year-old girl following human papillomavirus vaccination
と書けば、最初の印象がよくなるので査読でアクセプトに近づくことになるのだ。次回もまた症例報告のルールを知って、アクセプトされる症例報告をバンバン書いていこう!
参考文献
1. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Pneumocystis pneumonia--Los Angeles. MMWRMorb Mortal Wkly Rep. 1981 Jun 5;30(21):250-2. PMID: 6265753.
2. Chowdri HR, Gugliotta JL, Berardi VP, Goethert HK, Molloy PJ, Sterling SL,Telford SR. Borreliamiyamotoi Infection Presenting as Human GranulocyticAnaplasmosis: A Case Report. Ann Intern Med. 2013 Jul 2;159(1):21-7. PMID: 23817701.
3. Nolan JJ, Ludvik B, Beerdsen P, Joyce M, Olefsky J. Improvement in glucose
tolerance and insulin resistance in obese subjects treated with troglitazone. N
Engl J Med. 1994 Nov 3;331(18):1188-93. PMID: 7935656.
4. Watkins PB, Whitcomb RW. Hepatic dysfunction associated with troglitazone. N
Engl J Med. 1998 Mar 26;338(13):916-7. PMID: 9518284.
5. Botelho P, Carvalho AF, Torrão H, Leão P. What is in? Pneumoperitoneum aftersexual intercourse. BMJ Case Rep. 2013 Jul 17;2013. PMID: 23867880.
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