男は、その女を「ルビーのような女」と思った。
しかも赤いルビー・・・
彼女には花があったし、
服装にもセンスがあった。
気の利いたことを言うし、
ユーモアセンスも抜群だった。
かと言って、女は、それほどの美人でもなかった。
ただ歌がうまくて、男は、たまに聞く女の歌が
大好きだった。
会社の宴会で、女が歌った時、
男は、女の歌を毎日聞きたいと思った。
男はプロポーズをし、
二人は結婚した。
高層マンションで、
夢のような毎日が過ぎた。
結婚してみると、女は意外に情熱的であった。
性的な関係もうまく行った。
いや、うまくいきすぎたというべきかもしれない。
ただ新婚旅行に行った時、
気になることが、ひとつあった。
男が、他の女性を見ると、
新妻は突然、異常に不機嫌になったこと、
これである。
男は真面目だったので、
仕事を一生懸命こなした。
毎日疲れて帰宅した。
芯から疲れた時は、
一人になって、ゆっくり休みたいと思った。
たが、こんなとき新妻は決まって話しかけてきた。
「今日、デパートに行ったら、気に入ったワンピースがあったの。
見て!どう?似合う?」
「・・・ああ、似合うよ」
男は妻を無邪気とは思ったが、
(こういうときは、話しかけないでほしい)と思った。
こんなことが毎日続き、
男はそのうち苛立ってきた。
「頼むから、ゆっくり寝かせてくれよ!」
「ごめんなさい」
とは言うものの、新妻は、
そのうち、2回に1度は、
「つまんないの」と言うようになった。
男はそのうち新妻のエゴイズムを思った。
男は妻をルビーだと思っていた。
ただ妻は眠ろうとする自分の眼をこじ開けて、
その宝石を無理やり見せようとする。
自分はそれが厭だ!
誰だって厭だろう!
目の近くで、ルビーを見せられたら、
眩しくてしようがない。
ルビーは、離れて見るから美しいのだ。
男はそのうち、
妻の自己顕示を
どうにかして屈服させられないかと思った。
男は妻に、自分の専門分野である科学の知識を披歴した。
また新妻をいろいろなところに旅行に連れてゆき、
見知らぬ土地で不安がる妻を見て、
女は可愛いもんだと思った。
そんなときは、二人はホテルで
性愛に耽り、女を屈服させえた男は満足であった。
だが旅行から戻り、
家に戻ると、
やはり男は状況が何も変わっていないことに気付いた。
妻は何かの拍子に、
男の目を無理やりこじ開けて、
宝石を見せようとした。
男はもはや疲労感から逃れることはできないと思った。
些細なことで何度もケンカをし、
男は体調を崩し、ある日実家に帰った。
母親の元では、癒しを感じられた。
2週間後、男は決意し、
妻に「離婚届」を送った。
「マンションはくれてやる」と書いた。
プライドの高い妻からは
すぐに印鑑が押された「離婚届」が戻ってきた・・・
別れて5年後、男は、
かつての妻を「光る女だ」と思った。
離れて光ってくれれば、
自分は一生をその女を大切にできたのに・・・
と思った。
遠くから見ると、彼女のいいところもはっきりと理解できた。
同情心もあるし、面白いことも言う。
彼女はいくばくかのボランティア活動もやっていた。
根は善人なのだと思った。
魂のレベルも存外高いのだと思った。
噂では、元妻は男たちに人気があるということであった。
そんなとき、男はいくばくかの嫉妬を感じた。
だが、もう彼女とは、やり直せないと思った。
また心の底では、
「光る女」の次の犠牲者は、誰であろうか?・・・・
とも思った。
男は再度、女との性愛を思った。
心と体が熱くなった。
だが、やはり、
どうしてもやり直せないと
最後の観念をするのであった。
(注:この小品は、あくまでもフィクションです。
私の現実生活とは一切、関係ありませんので、あしからず)