作詞家・永六輔先生は、大変立派な人だったと思う。
彼は、坂本九さんに、自分の作った「上を向いて歩こう」を歌わせたとき、
「なんだ、こりゃ！」と、強い憤りを覚えたという。
何しろ、「上を向いて歩こう」という部分を、
坂本九は、「うへをむふいて、あーるこほほほ」と歌ったのだ。
「これじゃ、折角の作詞が台無しだ」
・・・強い怒りを覚え、
永六輔さんは、改めるように、強く諫めたが、
坂本九さんは、どうしても直さない。
しかし、結局、「うへをむふいて、あーるこほほほ」は大ヒットとなり、
アメリカでも、「スキヤキソング」として、ランキング一位を獲得した。
永さんにとって、坂本九という歌手は、
「認めたくない歌手」であったが、
しかし、坂本九の個性は認め、
その後、自分の作った「ともだち」や「見上げてごらん夜の星を」を歌わせている。
つまり原作者は、自分の作品が、自分の手を離れたとき、
「改造される覚悟」をしないといけない・・・ということだ。
もっとすごいのは、船村徹先生だ。
彼は、美空ひばりに、ある歌を提供した。
ところが美空が、音程を改造して歌った。
しかし船村先生は、あわてず、
「その音程の方が歌いやすいなら、その音程でいいです」と、
歌手に花を持たせた・・・という。
人間は、ときには、鈍感さも必要ということだろう。