東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

『東南アジアを知る事典』,平凡社,1986 その2

2009-07-12 18:23:43 | 実用ガイド・虚用ガイド
これは旧版についてのコメントです。内容を一新した新版が2008年に出ています。誤解なきように!
敬称は省く。

読んでいくと、執筆者の数が少ないなあと感じる。計148名の執筆者であるが、一個ないし数個の項目執筆者が大半で、大量の項目を担当している少数の執筆者で全体の7~8割を占めている。

多い方は

大野徹  ビルマ、古代から現代政治まで
石井米雄 タイ全般、仏教
石沢良昭 カンボジア、古代から現代まで
桜井由躬雄 ベトナム、古代から現代まで
池端雪浦 フィリピン、なんでも
生田滋  ヨーロッパ関係広く
永積昭  インドネシア全般、オランダ関係
土屋健治 インドネシア思想・文化
前田成文 社会、民俗
高谷好一 生態・風土・生業
別枝篤彦 自然地理、人文地理

川本邦衛 ベトナム文学・思想
田辺繁治 タイ
滝川勉   フィリピン現代
関本照夫 イスラム、ジャワ文化
伊東照司 宗教建築・美術
田村史子 音楽、古典芸能
渡辺弘之 森林物産
冨田竹二郎 タイ古典文学
重松和男 先史時代・考古学
吉田集而 食文化

取りこぼしがあると思うが、以上の方で7~8割ぐらいカバーしている。
つまり、現在(2009)活躍している若い方々は、まだ執筆依頼がくるほど偉くなかったということですね。

全体として、東南アジアらしさを強調したためか、それとも他の分野との重複を避けたためか、単なるページ数の関係か、外来文化・外来勢力・移民の記述が少ないように感じる。

中村光男 〈イスラム〉
重松伸司 〈印僑〉
蔡史君   〈華僑〉

といった個性的な記述もあるが、ポルトガル人・イエズス会・アメリカ合衆国・福建人など索引項目にもない。
濱下武志・斯波義信など中国史方面の研究者とのつながりがないし、秋田茂・水島司など、南アジア~ブリティッシュ方面の研究者ともつながりが欠けている。

いや、非難しているわけではない。
あまりにも中国の付録、ブリティッシュ帝国の一部、オランダの侵略、冷戦下の低開発国といった方面からの見方が大きかったので、ネガティヴではない東南アジア固有の世界をしらせようという使命感に燃えた結果だと思う。
これはこれで、1980年代という時代を代表する成果として記念すべきだろう。

吉田集而 〈方位〉
松本亮  〈ワヤン〉
坪内良博 〈村〉

など魅力的な項目もあるし、故・冨田竹二郎のタイ古典文学の項目など楽しい。

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なお、この旧版『東南アジアを知る事典』項目と『大百科事典』項目はほぼ同一内容だが、その後全三十数巻の『世界大百科事典』にも流用されている。
それから、ここだけのないしょの話だが、2007年に刊行された『改訂新版世界大百科事典』も東南アジア関係については、最近の事情は加えられているものの、過去の記載への加筆も訂正もほとんどない。図書館に行って、ざっと見ただけなので、どっかに大幅な改訂があるのかもしれないが。

また、現在(2009年)日立システムアンドサービスのサイト「ネットで百科」で検索できる内容も、有料サイトなので詳しくチェックしたわけではないが、東南アジア関係は旧版とほぼ同じ記事が数多く受け継がれていると思われる。

さらに蛇足だが、「ネットで百科」の項目をそのまま wiki にコピペしているやつがいるぞ。うるさいことを言うわけではないが、ちゃんと典拠を書けよ。

2009年8月30日追記
上記の指摘がウィキペディア内で問題になったようだ。
ここ数日、新しい記事を書いてないのにアクセス数が上がったのは、このためだろうか??
それにしても、ウィキのボランティアの方は、わたしのブログのようなものさえチェックしているんですね。


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