東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

西丸震哉,『さらば文明人 ニューギニア食人種紀行』,講談社,1969

2008-12-28 19:19:59 | フィールド・ワーカーたちの物語
文庫は角川文庫,1982
『41歳寿命説』,情報センター,1990なんて本を出し、本書も食人種なんて放送禁止用語満載、トンデモ系に扱われるような人。

わたしは、この人好きだったな。
今でも41歳寿命説は基本的に正しいと思っている。41歳平均寿命というのは、まったくハズれたが、動物として生きる能力をうしない、医療制度とエネルギー高消費にがんじがらめになって生かされているだけの現代人では、寿命をまっとうしているとはいえないだろう。

本書の内容も好きだ。

まじめな調査記録ではなく、著者の行程と見聞に加え、すきかってな感想と自省をまぜこぜに書きなぐったものだが、おもしろい!
だいたい何の目的でどこの経費で行ったのかきちんと書いていないのだが、ニューギニア山地の住民の栄養状態調査が主目的であったようだ。まさか全部自費ではないだろう。
旅行期間が1968年から1年ほど、著者44歳から45歳の話である。
目的地は独立前のパプア・ニューギニアのニューギニア島高地。ここでヨーロッパ人や外来文明と接触していない食人種を探すのが目的というか著者の希望である。

ここで、用語の問題。

著者は食人種という言葉をなんのためらいもなく使っている。たんに、食生活、食文化を表すものとして、食人種という言葉を使っているようだ。
さらに、首狩と食人は別である、という認識もある。
儀礼や部族間闘争や復讐ではなく、たんに食物として人を食べるという部族がいるらしいのである。この点、本書の中で正確に述べられているわけではない。
ともかく、著者は、食人の習慣が残っている地域を探す。

桁ハズレの人物である。まず足慣らしのため、ポートモレスビーからブナまでの山脈越えを単独でやる。日本軍が横断し多数の餓死者を出したところである。ここを、通訳もポーターもなしで、当然徒歩で横断。これは研究目的ではなく、単に気候と地形に慣れるための準備である。

ほんとの目的地は大パプア高原地帯。4000メートル前後の山があり、ところどころに滑走路と役所の施設がある。そこいらで、地図の空白地域から、文明と未接触の食人種をみつけようというわけである。
旅行の中でヨーロッパ人のミッション、政府関係者、医療関係者、それに多くの住民と遭う。そこで著者が筆のおもむくままに観察したことがらを書くのであるが、痛快。放送禁止用語なんてまるで頓着せず、好きなことを書いている。
ヨーロッパ人に反発しつつも、ついつい自分もヨーロッパ人と同じような感情を持ち、同じような目で現地人をみてしまいがちなことなど、何度も書いている。現代日本(といっても40年前だが)への憤懣も書きまくる。

ハイライトは、ビアミ族の調査。
カリウス山脈南麓、一日18時間も雨が降る湿地帯で、ブタもイヌも持たない(伝播していない)部族。サツマイモとサゴヤシが主な栄養源。

排便とセックスをどうやっているか?という謎?が解明?されているのだが、著者が実見したわけではない。あくまで、行動と臭いから判断したものだが、著者の推理は歩きながらやる、というものである。少なくとも、排便に関しては間違いないだろう。

あと、しばしば誤って引用される、人肉は化学調味料(味の素)の味がする、という話。これは、西丸震哉自身が調査して本書に書いてある。それによれば、被験者が「人肉の味がする」と言ったのは、味を表現する単語が少ないため、そして家畜や野生哺乳類の味を知らないからである。だから、過去に食べた中でもっとも近い味を伝えただけである。なにも味をつけない試験紙を舐めて「かぼちゃの味」だと答えるのも同じことである、そうだ。

*****

純学術的なことはほとんどないが、気になることは、サツマイモとタバコについて。
これは、この地域の住民がヨーロッパ人と接触する以前から伝播していた。(ほぼ確実)
商品あるいは作物の伝播はあったのだ。
それにもかかわらず、鉄器など他の文化はまったく伝わっていない。
著者は文化人類学者ではないので、儀礼についての記述は大雑把だが、儀礼・娯楽が乏しいという著者の判断は正しいようだ。認めざるを得ない。

著者は、四分割音を採譜できるほど音楽の素養があるのだが、その歌にしても、やはり乏しいという判断は否定できないように思う。つまり、娯楽も食文化も、ひじょうに単調な生活なのである。

この単調な生活が、数千年前から続いている、という判断が正しいかどうか、現在では評価が分かれるところではないだろうか。食生活の面でも、この栄養的に貧しい状態は、ひょっとして数百年前、あるいは数十年前に生じたことかもしれない。

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関係ないが、いや著者の性格や考えに深く関係しているかもしれないが、この西丸震哉の奥さんてのはすごい若くみえる美少女タイプなんですよ。(実際に若いのか?)
別の本で、夫婦そろい、他の客といっしょにレストランで食事した話題があった。他の客は、おいしいおいしいと言っていたが、自分は普段食べているものに比べ、さしてうまいと思わなかった、というエピソードがあった。
なんかすごい奥様なんですね。
この紀行の最後1か月半、奥さんもニューギニアに来ていっしょに住んだそうだ。


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