東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

若竹七海・加門七海・高野宣李,『マレー半島すちゃらか紀行』,新潮社,1995

2007-06-01 19:41:18 | 旅行記100冊レヴュー(予定)
(わかたけ・ななみ)(かもん・ななみ)(たかの・せんり)三人の女性の分担執筆。
文庫は新潮文庫1998。

本書はまっとうな旅行記である。
まっとうだ、旅行記だ、という点を強調すると、ギャグをとろうとする筆者たちの商売妨害になりそうだが、これは、ほんとの旅行記だ。
ほんとの旅行記とはどういうことか?
まず、著者たち三人が実際に旅行している。
旅行計画から出発・帰国まで、自分たちの計画・交渉・臨機応変で対応している。
本書の出版があったといえども、旅行の目的はあくまで旅行自体であり、旅行記を出版するためではないし、取材ではない。
著者たち三人は、どこを旅して、どう移動しているかわかっている。

以上、あったりまえのことみたいだが、旅行自体を旅行会社、コーディネーターまかせにしている自称旅行記がいっぱいある中で、本書は例外的にホントの旅行記だ。

もちろん、『旅行人』の執筆者や、めこん(出版社)から本を出すような人ではなく、ある意味ふつうの旅行者であるが、それだからこそ、ふつうの人の自由旅行として参考になる。
マイナーなトラブル(本書の用語でネコブルという)を乗り越えて、マレー半島をいかに楽しく旅するか、という問題の解決法でもある。

当然ながら、本書の筆者たちは、作家など文章の専門家で、読みやすい。(ここが、しろうととは決定的に違うところだな……。)
ボケとツッコミもみごとだが、そういう点よりも、ほんとに旅行記として参考になる。
筆者たち三人は、知性も教養もある、美貌の女性であるが、そうではない、一般人にも参考になるはずだ。

〈旅行には三種類あると思う。金を浪費する旅と、体力を浪費する旅と、時間を浪費する旅だ。湯水のように金を使う豪勢な旅も、ぱあっと体力・時間を使い尽くす旅も、どちらも同じくらいかっこいいなあとは思うけれど、あいにく我々にはどれもそこそこの持ちあわせしかない。あちらで体力、こちらで財力をちょびちょび使いわけるという、まことにびんぼったらしい選択しか残されていないわけだ。〉(p24)

どうです?リアルな旅行記でしょう。
もちろん、ボケとツッコミのギャグ本としても楽しめます。

ええと、三人組みの旅行経路は、

成田―香港―クアラルンプル―タマンヌガラ―ジュラントゥット―ジャングルトレイン―バトパハ―マラッカ―ティオマン島―クアンタン―クアラルンプル―香港―成田

16日間の旅程です。(ホテルの予約なし。)

斉藤政喜・内澤旬子,『東方見便録』,小学館,1998

2007-06-01 09:07:47 | 旅行記100冊レヴュー(予定)
初出は『週刊ヤングサンデー』連載。
文庫は文春文庫2001、椎名誠さんの解説入り。

最初に本書をみたとき、内澤旬子というイラストレーターはしらなかった。
当然、有名なバックパッカー斉藤が主導権を握るライターで、内澤さんのほうは、たんに後ろをついていって絵を描いた人、と思った。
しかし、内容を読めば、この女イラストレーターがあってこその取材であり、ライター以上に内容に貢献している。と、いうことがわかるはずだが、後の仕事を見るまでは、やっぱりバックパッカー斉藤の著作として読んでいた。

内容はすばらしい。
ことわっておくが、旅行記の中のトイレ・便所に関する記述はおおむねつまらない。
何十人、何百人もおんなじようなことを書いているのに、さも、自分がはじめて体験したように書いている。
うんざりする。

本書はそのような、ちょっとシモネタを書いておこう、といったような平凡な内容ではない。
中国(上海や北京など都市部)・サハリン・インドネシアのジャカルタとスンダ地方・ネパールのカトマンドゥとトレッキングルート・インドのガンガー流域と北部、タイのバンコクと北部・イラン・韓国
場所の選定がすばらしい。(というより、コミック誌連載だから、予算が潤沢なのか?)
湿潤な地域と乾燥した地域、人口過密な地域とまばらな地域、寒い地域と暑苦しい地域の対比がよおくわかる。
そして、男女のペアなので、男用も女用もよおくわかる。
トイレ便所の話ばかりでなく、旅行にまつわる話もおもしろい(つまり、ワンパターンの旅行記録ではない。)

アジア旅行本としてベスト10にはいる傑作。