Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

My Little Town

2010-07-25 09:30:43 | 日記

ぼくの小さな町では
神を信じて育った
神はぼくたちをみつめていて
壁に向かって信仰を誓うとき
ぼくにいつものしかかってきた
主よぼくは思い出す
ぼくの小さな町を

学校がひけて家に帰るときは
工場の門の前を自転車で飛ぶよう走り抜けた
母さんは洗濯の最中で
ぼくたちのシャツを汚れた風に干していた

雨があがると
虹がでた
でもそれは真っ黒だった
その虹に色がなかったからじゃなく
その町のみんなにイマジネーションが欠けていたから
すべてが同じものだった
ぼくの小さな町では

ぼくの小さな町では
ぼくは何者でもなかった
父さんの子である以外は
カネをためて
栄光を夢見ていた
引き金にかけた指みたいにひきつって
死者と死んでいく人しかいない町を離れる
ぼくの生まれた小さな町を

死者と死んでいく人しかいない
ぼくの小さな町
死者と死んでいく人しかいない
ぼくの小さな町を

<Paul Simon:“My Little Town”>



“ここから抜け出す道があるはずだ”
ペテン師が泥棒に言った
“あんまりこんがらがっているんで息もつけない、ビジネスマンは俺のワインを飲んじまうし百姓は俺の土地を耕す、そいつらの誰一人その値段を知らない“

“そんなに興奮しなさんな”
泥棒がやさしく言った
“俺たちの仲間の大部分だって生きることはジョークだと思ってる、でもあんたと俺はそんなことは卒業したしそいつは俺たちの運命じゃない、だからアホな話はよそう、夜も更けてきた”

見張り塔からずっと、王子たちは見張っていた
その間、女たちはやって来て去っていった、裸足の召使たちも

遠くの方で山猫がうなった
二人の馬に乗った男が近づいてくる、風が吠え始めた

<BOB DYLAN:All Along The Watchtower>



世界はまるいから
ぼくはうっとりする
世界はまるいから

風は高いところにある
ぼくの心のなかを吹く
風は高いところを吹く

愛、それは古い、愛、それは新しい
愛、すべて、愛、それはあなた

空が青いから
泣ける
空がいつも青いから

<BEATLES:Because>



あなたの息はあまく
あなたの瞳は空に輝く二つの宝石のよう
あなたの背中はまっすぐで、あなたの髪はなめらかに
あなたが横たわる枕にひろがる
だけどあなたの愛情が感じられない
敬意も愛も感じられない
あなたの忠誠はぼくに対してではない
あなたの頭上の星々に対してだ

コーヒーをもう一杯道を行くために
コーヒーをもう一杯ここから出て行くために
あの下の谷に向かって

あなたの父さんは無法者
根っからの放浪者
彼はあなたに教えるコソ泥の仕方
ナイフの投げ方を
彼は王国の支配者
よそ者は閉め出す
彼の声は震える
おかわりを求めるときに

コーヒーをもう一杯道を行くために
コーヒーをもう一杯ここから出て行くために
あの下の谷に向かって

あなたの姉さんは未来を見る
あなたのママやあなた自身のように
あなたたちは決して読み書きを学ばない
あなたたちの棚には本がない
そしてあなたたちの快楽には底がない
あなたたちの声は草原のヒバリのよう
しかし、あなたたちの心は大海のよう
神秘的で暗い

コーヒーをもう一杯道を行くために
コーヒーをもう一杯ここから出て行くために
あの下の谷に向かって

<BOB DYLAN;ONE MORE CUP OF COFFEE>






*かつて、ある旋律とともに歌われる詩が、意味を持っていたことがあった。





スカボローの市へ行くのかい
パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム
そこに住むひとに、ぼくを思い出させてくれ
彼女はかつてぼくの真実の恋人だった

彼女に告げてくれ、ぼくに綿のシャツをつくるように
(深い森の緑の丘の斜面で)
パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム
(雪の上に残る小鳥の茶色い羽飾りの跡をおいかけて)
縫い目も針のあともないように
(山の子の毛布と寝具)
そうすれば彼女はぼくの真実の恋人になる
(喇叭の響きにも気づかず眠る)

彼女に告げてくれ、ぼくに1エーカーの土地を見つけるように
(丘の斜面には木の葉が散らばる)
パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム
(銀色の涙で墓石を洗い)
塩水と渚のあいだに
(ひとりの兵士が銃を磨く)
そうすれば彼女はぼくの真実の恋人になる
(喇叭の響きにも気づかず眠る)

彼女に告げてくれ、皮の鎌で刈り取るように
(戦争が真っ赤な軍勢で咆え狂うとき)
パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム
(将軍は彼の兵士に殺せと命令する)
そしてそれらすべてをヒースの束にまとめてくれ
(彼らはとっくの昔に忘れた理由で戦う)
そうすれば彼女はぼくの真実の恋人になる

<S&G “スカボロー・フェア/詠唱”>





火星年代記

2010-07-25 03:01:22 | 日記


★ その水晶の柱の家は、火星の空虚な海のほとりにあり、毎朝、K夫人は、水晶の壁に実る果物をたべ、磁力砂で家の掃除をする。その様がよくみえた。磁力砂は埃をすっかり吸い取り、熱風に乗って吹き散ってしまうのである。午後になると、化石の海はあたたまり、ひっそり静止し、庭の葡萄酒の木はかたくなに突っ立ち、遠くの小さな火星人の骨の町はとざされ、だれ一人戸外に出ようとするものはいない。そんなときK氏は自分の部屋にとじこもり、金属製の本をひらいて、まるでハープでも弾くように、浮き出た象形文字を片手で撫でるのだった。指に撫でられると、本のなかから声が、やさしい古代の声が語り始めた。まだ海が赤い流れとなって岸をめぐり、古代の人々が無数の金属製の昆虫や電気蜘蛛をたずさえて戦いに出掛けた頃の物語を。

<レイ・ブラッドベリ“1999年2月 イラ”-『火星年代記』(ハヤカワ文庫1976)>