淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

「ありふれた愛に関する2、3の断章」

2007年08月15日 | Weblog
 何気なくインターネットで芸能関係のニュースを読んでいたら、突然の熱愛報道から破局報道までそんなに時間が掛からなかった、タレントでグラビア・アイドル、佐藤江梨子のインタビュー記事が載っていた。
 当然、元彼の歌舞伎俳優、市川海老蔵についてのコメントである。

 佐藤江梨子って、未だに市川海老蔵との恋愛を引き摺っているんだなあ・・・。そんな感じのするインタビュー記事だった。
 彼のことを「宇宙人のような人」と評し、今になって恋愛手帳を紐解いても「彼との思い出でお腹がいっぱいになってしまう」んだとか。泣かせるコメントだ。

 恋愛なんて共同幻想に過ぎない。過激な妄想で頭の中を混乱させる幻覚剤と断言してもいい。
 でも人間は、「愛」を失くしてまで生きていけるほど、強靭で強固な精神を持ち合わせてはいない。恋人や愛する人が現在いるいないに関わらず、誰もが何某かの「愛」を密かに育み、心の片隅にそっと描いている。
 だから「恋愛」はいつも、残酷で、儚く、脆く、切なく、苦しいのである。

 釈迦は、人間が「執着」「妄想」へと向かうその最たるものの一つが「愛欲」であると説き、そこからの離脱こそが人間を執着から解き放つ方法だと語った。
 仏教では「渇愛」という言葉を使い、自己中心的な「愛欲」から「煩悩」が生まれてくるのだと、それらの感情を否定している。
 勿論、本来の「愛」と、「愛欲」とは全く違う種類のものだと思うけど・・・。

 しかし、今日も世界に「愛」は溢れている。
 「渇愛」も「情愛」も「恋愛」も「愛欲」も「自己愛」も「友情愛」も、ありとあらゆる愛の形態は世界中の至る所を飛び交い、それは絶対に尽きることがない。
 音楽も、文学も、哲学も、宗教も、アートも、突き詰めれば、ただ「愛」だけを表現しているに過ぎない。
 
 お盆の夜、NHKBSで放映した、1987年制作、市川崑監督、吉永小百合主演の映画「映画女優」を観た。この映画を観るのは2度目だ。1度目は封切られてすぐ、市内の映画館で観た。

 この映画は、女優、田中絹代の人生、それも溝口健二監督のヴェネチア国際映画祭で国際賞を受賞した「西鶴一代女」に主演するまでの半生を描いていて、日本映画の黎明期から戦後の混乱期までの日本映画史という側面をもまた語っている。

 当時、日本映画界の巨匠と呼ばれていた小津安二郎も溝口健二も黒澤明も、その全作を観終えていたわけではなく、それほど深い日本映画への思い入れもなかったので、わりとすんなりこの映画自体を遣り過ごしてしまっていた。
 
 その後、溝口健二の映画を意識的に観るよう努め、彼の映画にかなり没頭した。溝口健二という、日本映画界にその名を残す巨匠の断片を知ることとなり、益々深く彼の人生を探りたい衝動に駆られていった。
 なので今回の放映を聞きつけ、改めて市川崑監督の「映画女優」を観てみたくなったのである。
 
 溝口健二監督の「西鶴一代女」は、日本映画における傑作のひとつである。
 ここまで女の不幸や悲しみを描いていいのだろうかと思えるほど、凄まじく、そして悲惨な映画だ。その反面、深い「愛」に満ち溢れた映画でもある。
 この映画の田中絹代は、本当に鬼気迫っている!

 彼女は一生独身を通した。
 様々な日本映画に関する書物の中に、田中絹代は必ず現れる。恋多き女として。それから日本映画界にその名を刻むべき大女優として。
 彼女の晩年は孤独であったという。独り、豪邸の一室で酒を煽り、愛した男性が家に立ち寄ってくれることを願いながら、酔っぱらったまま眠りについたともいう。その孤独感、どれほどのものだったのだろうか。

 彼女は、監督である溝口健二と恋に落ちた。
 当時、溝口には妻がいた。しかし、その妻は深く精神を病み、入院生活を余儀なくされていた。溝口は、背中に、女に刃物で切られた痕があったともいわれている。
 溝口没後、田中絹代は、新藤兼人監督のドキュメンタリー映画「ある映画監督の生涯」の中でこう語っている。
 「もし先生が本当に心から私を妻にしてやろうというおぼしめしがあったとしたら、田中絹代ってのは、また、女優と違って、女としてですよ、そういうふうに先生がわたしをみこんでくださったと思うことは、女として、わたしは一生結婚しなくてもね、結婚した価値のある女だと思うんです・・・」

 溝口健二は白血病で死んだ。小津安二郎もまた生涯独身を通し、彼の墓石には「無」という一文字が刻まれている。小津は誰を愛し、そして誰のことを一生涯想い続けたのだろう。

 すべては愛である。無常に儚い愛である。無垢で移ろいやすい、霧のような愛である。



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