考えるための道具箱

Thinking tool box

「口コミ」は「起こせる」ものなのか。

2005-06-04 18:02:52 | ◎業
いつもの年通り、1月は行って、2月は逃げて、3月は去ったんだけれど、それだけではすまず4月は死んで、5月はご愁傷さまという状態になってしまったので、6月は碌なことにならないよう祈るばかりです。歳も歳なので、明るくなってから寝るっていうのはご勘弁願いたいところだなあ。

今週は、東京に出張中に名古屋に出張というメタ出張もあったりして、それはそれで長期キャンプ中に長距離ハイキングに行くくらいの疲労困憊感はあったわけですが、せっかくの新幹線なんで(というか毎週乗ってるけど)、車内を愉しもうと創刊以来2度目となる『Fuji sankei Business i.』なんかを買っちゃいました。文字が大きく読みやすすぎて、それが逆に読みにくいってのはあいかわらずなんですが、きっともろにDTPなレイアウトなんかも影響しているだろうなあ。それにともなう見出しのアテンション度合いの低さ、さらにそれにひっぱられてかのテクストじたいのアテンション度合いの低さ(つまり見出しが下手)も加担しているに違いない。

と、まあそんなことはどうでもよくって、紙面で見かけた不気味な広告について。まあ、こういう新聞だからそもそも不気味な広告が多いんだけど、今回見つけたのは群を抜いていた。

広告主はどこだっけ、えーっと……ちゅうかそもそもクレジットはいってないじゃん。まず、これが不気味だわ。ヘッドラインは「黒い食べ物に注目!」。メインビジュアルは……これもよくわかんないなあ。デーモン小暮閣下が表紙に登場するフリーペーパーのような雑誌が、店頭のマガジンラックのようなものに配架されたところを抑えたというきわめてメタ的な写真。で、「今巷では、黒ごま、黒豆、黒酢、ブルーベリー、ナスなど、黒い食べ物に注目」とひとしきり「黒い食べ物パワーの源泉がアントシアニン」であるといったようなことを語るボディコピー。その後本題らしきものが始まる。

「京都に黒いおたべが新登場」
さて、そんな健康にとってもよさそうな黒い食べ物だが、この春新しい食べ物が誕生した。
ニッポン放送をキーステーションに全国25局ネットで毎週月曜日から金曜日まで、夜10時から12時までオンエア中のラジオ番組「デーモン小暮ニッポン全国ラジベカズ」。その月曜日で紹介している「黒いおたべ」である。
生八ツ橋の皮には黒ごまのペーストと竹炭が練りこまれ、中身は黒ごまの食感を残した黒ごまあんを包み込んでいる。
……(中略)……
今は京都の一部の店舗とインターネットでしか購入することができないが、見た目にもインパクトがあり……(中略)……いずれ京都の人気のおみやげラインナップに上昇してくるのは間違いないだろう。
月曜日の「デーモン小暮ニッポン全国ラジベカズ」では、リスナーの意見をもとにこの「黒いおたべ」のラジオCMを製作し、オンエアした。
……(中略)……
日本最大の参加型番組「デーモン小暮ニッポン全国ラジベカズ」を、これからも楽しみにしていて欲しい。


「黒いおたべ」の話なのに、締めのコピーは、「デーモン小暮ニッポン全国ラジベカズ」の訴求?ようよう、どっちの宣伝なんだよう。よく見りゃ、文章もねじれまくってる。新聞使ってラジオ番組のしかもCMの広告ってあまりにも迂遠すぎないか。「一部の店舗とインターネット」って言ってるけど、店の名前もURLもなし。おい、食いたいおれはどうすりゃいいいんだよ…(って、食いたくないけど)。

ははあん、これって、あれだよ「口コミ」起こそうとしてんだね。きっと。ぼくはレピュテーション・マーケティングについて学習したこともないし、いま手元に「日経ビジネス」の評判特集も、ハーストーリーの本もないので、なんら偉そうに言える身分ではないんだけど、これがもし評判マーケッチングの先鋭的な手法としてラインアップされているのだとしたら、いささか寂しいなあ。こんなことじゃ、消費の塊は動かないんじゃないかなあ。ストレートにチラシみたいな新聞広告をクリエイティブしたほうがよほど効果あるよなあ。だいたい「黒いおたべ」なんていちおう珍しいから放っておいてもグルメブロガー、旅好きブロガーたちが口コミしてくれるんじゃない?

「黒いおたべ」を、ググったときに、検索トップにあがってくるとか、アドワーズとかバナーに遭遇していまうといったことがあれば、100歩でも200歩でも譲っちゃうんだけど、どうやらそんな仕掛けもないようだし。

でもこんなふうに、BLOGに書いちゃうってことが、口コミの一端を担ってることになるのかね。

じつは、こんな深い作為はなく、そもそも媒体費も安いし、たまたま枠が余ったので急場原稿を滑り込ませた、といった程度の広告かもしれないけど。

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リアルの世界で黒幕的に口コミや評判を起こそうというのは電通が巨額の費用を投じない限り、やっぱかなり無理がある。現状の企業の評判状況を調査しマネジメントしていくというのは数値化できるだろうけれど、いわゆる評判マーケティングの会社が売り物としているような「商品の口コミ」を誘引するような仕掛けについては話をきく限りでは、波及の測定までの責任は勘定に入っていないようなので、どこかしらアバウトでもある。

そこで、BLOGの登場、ということになるんだろう。デジタルデータという「書き言葉=話し言葉」的(※)仮想物体である「話題」は「保存」され続け「移動」し続ける。可視的だ。本質的なターゲットへの照射という視点からははずれるが、なんらかの「話題」に飢えているブロガーにとっては、企業からの投げかけですら、屈託なく受け入れられエントリー化される可能性も高い。もっとも、BLOGを使って評判を作為的に行おうとすることを見透かされ不買運動に陥った商品もあるくらいなので、リスクは細心の留意でヘッジしなければならないけれど、隠さず自明に行うBLOGキャンペーンであっても口コミ的にBLOGを連鎖させていく方法は、けっこうたくさん考えられそうではある。

たとえば、ようやくわかりやすいBLOGキャンペーンが登場したなあと思っているのがSANYOのインテリアエアコン「四季彩館」。インテリアにまつわるお題を投げかけ、その回答のエントリーでトラックバックしてもらい優秀なBLOGを選ぶというコンテスト形式のキャンペーン、と3行でまとめられるくらいシンプルなものである(逆に、過去のP&Gのキャンペーンなどはこんなふうには説明できないですね)。

もちろん、これにてエアコンの評判・口コミが無数に広がり拡売につながるなんてのは夢のような話ではある。しかし、もし200とか500といったユニークアクセス数を確保しているブロガーが、リンクを明解にしたうえTBを打てば、自動的に200のブロガーに口コミされるということになり、少なくともキャンペーン告知のパフォーマンスは高い。

そしてもうひとつ重要なのは、転んでも只では起きないしかけが内蔵されているところだ。インテリアの趣味にまつわるお題に対しBLOGを書きTBしてくるのは、少なくともインテリアになんらかの関心と意見と批評がある人たちであり、場合によってはインテリアカテゴリーのブログの主催者である可能性も高い。そういった人たちの定性的で大量な意見はカスタマー・インサイトのための重要な材料となる。つまり、背後では生活者のプチ・インタビューが効率よく行われているということだ。

さっきの話同様、ぼくがこんな風に紹介することも多少は話題の拡散の一助になる、ってことなんだけど、まあ、いいものわかりやすいものは、放っておいても伝わるという口コミの大前提に話が戻ったような気もしてきた。以上。


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(※)加藤典洋が『僕が批評家になったわけ』で、ビットとして定着はするがプリントアウトしない限りはつねに消失の可能性も孕んでいる電子エクリチュールを「書き言葉=話し言葉的」と位置づける。これはおもしろい。


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