帰郷
帰るという
イメージがある
タダイマ
オカエリ
たったこれだけの
挨拶だが
自分の生きてきた
生活史が
その言葉の中に
含まれている
故郷へ帰る
これから何度
繰り返すことができるのか
わたしは今年も
なんとか
帰郷することができる
幼い頃から
家を出奔することが
夢だったわたし
自由の世界が
わたしの
羽ばたく力だった
そうして
大学から就職へと
東京は
わたしの
暮らしの場となった
結婚をするときも
故郷は
遠かった
そしてさらに
もっと故郷から遠い
本州の北端の地
青森県弘前市へ
住み着いた
あれから
32年が過ぎようとしている
父が死んで
母は病臥した今
わたしの
帰郷回数は
増えてきた
今なら
タダイマ
オカエリ
そういって迎える
母の声がある
しかし亡くなってしまったら
仏壇の中の
母としか
声を交わすことができない
チーン チーン チーン
ぼくの
魂は
ここから
始まった
ぼくを育ててくれた
ぼくの大切な
記憶の数々
封印された
わたしの過去
わたしの故郷
そこに
また
帰ろう
ただいま
お母さん