音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

こわれもの (イエス/1972年)

2010-09-01 | ロック (プログレッシヴ)


プログレッシブ・ロックを代表するバンド、イエスが大きく飛躍をしたと同時にその確固たる存在を音楽界に位置付けることになった、イエスのみならずロック音楽の歴史においても記念すべき重要な1枚である。実は、当ブログではレビューが前後してしまったが随分前に書いている「危機」が、所謂「名盤」という名前に相応しく、殆どの評論・解説書ではそうなっているが、それはフロイドの「狂気」をそのように言うのと同じで、イエスというバンドの歴史とプログレッシブ・ロックの継承を考えると、やはりこのアルバムはイエスに取っての大きな金字塔である。

まず大きな点では、前作「サード・アルバム」で彼らの方向性が確立されていたこと。それぞれ個性の強い3人のオリジナル・メンバーが初めてここで「譲歩」した統一観を持ったことが大きく、更にそこにスティーヴ・ハウというミュージシャンが、所謂、ロッというテイストではなく、ギタリストという音楽家として参加することで、彼らが「オケ」というスケールを持たなくても自分たちの考えている音楽表現ができることを体験したということが第一である。その音楽性に着いていくのを拒んだトニー・ケイに代わって、全くスティーヴと同様の音楽家としてそれをキーボードで表現することのできるミュージシャン、リック・ウェイクマンの加入である。一般的にはリックの加入でイエスが変わったと記されているものもあるが、そうではなくて土壌を作り上げたのはイエスであって、リックはすこぶる自然にこのバンドに加入したことを後年自らのインタビューで述べているように、必要としていたのはイエスでなくてリック自身がこのバンドを必要としていたのである。

アルバムを通して、サウンドがとても洗練されたことが分かる。特に、「ラウンド・アバウト」はイエスを代表する名曲。後に全米No.1シングルとなった「ロンリー・ハート」を称して「1980年代のラウンド・アバウトが出来た」とメンバーが言っているように、彼らの中でもこの曲が自分たちを代表する最高の曲だと賞賛している通り、この曲の斬新さは、まさにプログレスである。しかし、それだけでなく、「燃える朝焼け」とライヴでは必ず演奏され、しかもこのスタジオ盤と同じくメドレーになる「遥かなる思い出~フィッシュ」と、まずこれらの大作はこれまでのイエスの集大成に加え、更に前進させた名曲である。しかし、このアルバムの深さはこれだけでなく、各メンバーが自分たちの色をはっきりと出している曲をそれぞれ収録していることである。曲順に言えば、リックの「キャンズ・アンド・ブラームス」は、ロマン派交響曲最高の1曲であるブラームスの交響曲第4番ホ短調の第3楽章の多重録音であり、同じく「天国への架け橋」はジョン・アンダーソン、「無益の6%」はビル・ブラッフォード、「ムード・フォア・ア・デイ」はスティーヴのソロであり(クリス・スクワイアは前述の「フィッシュ」である)、どの曲もイエスというグループのアルバムに収録してあるのに全く違和感がない。この辺りにこのバンドが、スタジオ録音だけでなくライヴステージというのを範疇に考えた曲作り、アルバム構成をしているのが明確に示されているアルバムなのである。事実、プログレのバンドはこの後、ライヴという側面においては各バンド共色々な工夫を凝らしてスタジオ盤の再現を試みるのである。特にイエスはその世界観をファンからも一方的に求められていたために視覚的にもその演出が重要視され、一方ではその視覚を重視したために、何度かバンドが崩壊の危機に陥る。そういう意味では次作の「危機」はまさしくその危機でもあり、それを考えるとイエスがもしこのアルバムのコンセプトで留まっていたのであれば、この黄金クインテットは永遠であったが、逆にその後の名曲は生まれなかったかもしれない(「危機」より後のアルバムを名曲というのであれば・・・。私的にはこの作品と危機でイエスは終わったと思っているが)。

前述したソロの中の、ビルの曲だけ、アルバム内では妙に浮いていた。このアルバムを聴いたときに(リアルタイムではなかったので・・・)勿論、結果論で申し訳ないが彼の音楽性の違いは明白だった。これも不思議なめぐり合わせで、もし、ロバート・フィリップがピート・シンフィールドと袂を分けなければ新生クリムゾンもなかった訳だし、多分、ビルもイエスに暫くは留まっていただろう。この曲だけが、その後のイエスではなく、「太陽と戦慄」に繋がっていると思うのは、恐らく私だけではないと思う。


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1 コメント

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Round About (Tiffa)
2010-09-05 17:54:49
まさにこのアルバム、そして、ラウンド・アバウトはイエスの代表作です。
私もどうしても危機も良いですが、こっちが好きですね。
イエスのこれ以降の活躍の可能性を沢山秘めている作品になりましたよね。

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