すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

2022-01-09 09:15:42 | 山歩き

 

 (7日)家の周りの雪掻きをしてから出かけようと思ったのだが、カチカチで歯が立たない。外の水道も凍っていて水は出ない。気温が上がるのを待っていては山の雪もどんどん融けてしまう。一昨日山に行ったばかりなのに、と呆れる家族を気にしながら、一昨日の荷物をザックに詰め直して家を出る。出遅れた感はあるが、6:30。
 凍った道を仕事に出かける人がこわごわ歩いている。なんだか、済まないことをしているような気になる。でもぼくはもう仕事は終えたのだからいいのだ、と考えることにする。「おれたちゃ町には住めないからに」とか「止めてくれるな弟妹よ」なんて古臭いセリフが頭に浮かぶ。ぼくたちの世代はそういう青春だったのだ。すなわち、全共闘世代。もっともぼくは大学のシュプレヒコールを隣の公園で聞きながらジャケットのボタンに薔薇の花を挿したトニオ・クレエゲルだったのだが。
 相模湖駅からバスに乗り、千木良で降りる。登り口にあるベンチでスパッツとチェーン・スパイクをつける。9:30出発。手軽に雪の上を歩きたい時は、この道は高尾山よりは人が少ないので良い。一昨年の一月にも、やはり雪の翌朝に友人を誘ってこの道を登った。その友人を誘えなくなってしまったのが寂しい。
 その時よりも今日の方が雪はずっと少ない。あの時はさらに遅く、11:00近くのスタートだった。道の両側の杉の植林の枝から融けた雪が雨のように絶え間なく落ちて、途中から雨具を着て登ったのだが、今日はそういうこともない。
 今日ぼくの前にここを通ったのは一人だけ。足跡がひとつだけ登っている。ぼくの靴より小さいから、女性だろう。八ヶ岳の山岳救助隊員に、「君は背丈の割に足が小さいし偏平足だから、本格的な山はやらないほうがいい」と言われたことがある。バランスが悪くてしかも疲れやすいのだそうだ。彼の言う「本格的」は大学山岳部のレベルだろうが、ぼくは体育会的集団は大嫌いだったから、やる機会はなかったけどね。
 雪が浅くて、しかも昨日までからからに乾いていたはずの枯葉がじっとり水を吸っているから、スパイクの底面がすぐに団子状態になって歩きにくい。少し歩いては靴を地面や木の幹に打ち付けて団子を落とす、を繰り返す。右ひざの古傷が最近悪化していて、インサイドキックで幹を蹴ったら激痛が走った。幸い、かかとや爪先を打ち付けるのは痛くない。もっとたくさん積もった雪の上なら快適だろうな。以前から使っているアイゼンは、湿った雪で団子になりやすいのだ。しかもアイゼン自体が重い。チェーンの方が着脱もずっと簡単だ。早く、雲取山あたりでこれをフルに使いたいものだ。固く閉まった雪をアイゼンやスパイクで歩くと、夏道よりもスピードが出て快適に歩けるものだ。
 けものの足跡が雪の上にずっと続いている。図鑑で知っているどのケモノとも違う。何だろうと思いつつ登るが、山頂近くなって閃いた。先行する女性が犬を連れているのに違いない。何だ、つまらない(撮った写真はあとで消した)。
 一昨日の疲れがまだ残っている。一日おいて山に行くなど、初めてのことだ(もっとも、アルプスの縦走などの時は4日も5日も連続して歩くのだから、こんな程度で疲れていては困るのだが)。一時間半かかって城山山頂に着いた。
 茶屋のベンチの乾いていそうなのに腰を下ろしてお昼にする。といっても、カロリーメイトとコーヒーだ。ここ3回ほど、冬の装備を持つために他の荷物を軽くしたいので、お昼は試しにカロメとコーヒーだけで済ませている。家族は「馬鹿じゃね?」と言っていたが、全然問題ないようだ。完全栄養食だし、飲み込みにくい時はコーヒーで流し込めばよいし、時間の節約になるし、一箱で400カロリーある。二箱半、1000カロリー分食べた。多すぎるかも知れない。
 たべていると、目の前のテーブルにあった雪解け水がみるみる乾いて小さくなって消えて行く。太陽の熱ってすごいなあ、とあらためて感嘆する。ぼくの背中もその恩恵を受けて暖かい。熱いくらいだ。こんなに気持ちの良いことはそうない。名残惜しいが道を続けることにする。
 (長すぎるので、以下、とばして書く。)ここから先は雪はさらに少ないだろうから、スパイクを外そうか迷うが、雪を踏みに来たのだから、先月シモバシラの霜華がたくさん見られた北側の巻き道を通りたいし、高尾山からの下山にはやはり北側の四号路を通るつもりだから、このまま行くことにする。
 一丁平の手前の展望台は絶好の富士山ビューイングだ。高尾山頂には、やはり雪に惹かれてきたのだろう、そこそこ人がいる。四号路は入り口に「滑りやすい道、注意」の文字とイラストの掲示がある。結局この日はこの四号路の通過が一番楽しかった。凍った吊り橋も美しかった。病院坂を下る前に、もうここからは雪はないものと思い、スパイクを外した。確かにぜんぜん無かった。だが、最後に琵琶滝側に下りたら、滝行場の階段が凍っていた。ぼくの前におっかなびっくり下りる人がいる。ぼくと同年配の男性だ。ぼくもそろりそろり下りた。その人が道を譲ってくれるために下で待っていて、にこにこしながら「ご無事で」と言う。「お互いに」と答えたら、「いのちがあって良かった」という。二人でワハハと笑って「じぁ、またどこかで」と別れたが、実はそこから駅までが道が凍っていて一番怖かった。
 高尾蕎麦の名店「高橋屋」で今日のご褒美に天ぷらそばを食べた。電車に乗って、持参した焼酎を3口飲んで、新宿まで爆睡して帰った。

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