イーハトーブ岩手の水ブログ

岩手の渓流や三陸の海、みちのく奥州の自然にまつわる出来事や話題を伝えます。更にFM岩手「水のラジオ」の情報も掲載。

タイマグラの森で一泊

2009年05月17日 | 釣り師の独り言
早池峰山麓川井村タイマグラで暮らす映画監督の澄川嘉彦さんが、
タイマグラ映画第2弾として製作を進めていた「大きな家」という
作品が完成した。
上映スケジュールも着々と決っているようで、5月下旬から宮古シネマリンで
の連続上映会や6月には花巻の映画祭での上映がある。
出来る事なら「タイマグラばあちゃん」と同様に奥州市での上映
は、僕たちの番組主催で実施したいと考えている。
澄川さんには、今週金曜日放送のFM岩手「野遊び倶楽部イーハトーヴ」
のゲストとして出演してもらう予定で連絡を取り合っていた。

そんな折に、「16日の土曜日にタイマグラで試写会をやるんで、
来ませんか?」というお誘いを頂いた。
実は、ラジオ番組出演の関係で事前に映画のDVDを頂き、作品は
見ていたのだが、タイマグラでの試写会・・・という独特の雰囲気に
も興味が湧いた。
それに、翌日には早朝から川井村・宮古市を流れる閉伊川水系で
岩手県釣り団体協議会主催のヤマメ釣り大会があり、毎年恒例の
前日釣りキャンプをタイマグラに変更するだけなので、渡りに船・・。
喜んで参加することにした。

奥州・江刺を昼前に出発し、遠野で食材とキャンプ道具を補充し、
まずは国道340号で立丸峠を越え、小国川を目指した。
川井村江繋まではやっぱり遠い。途中で買物をしたとはいえ到着
したのは午後2時前。約2時間半のドライブ・・・・。
簡単な昼飯を済ませていつものポイントを覗くと・・・ライズ発見!

早速スタイルしてライズを狙うと20cm程度のイワナが出た。
この川のイワナはなかなか引きが強く取り込みに手間取った。
その後速い流れからヤマメが2尾たて続いたが、まだ黒くサビが残
っていた。県南の砂鉄川や気仙川のヤマメとはほぼ一ヶ月は違う。
その後のライズからはイワナばかりが竿を絞った。
中には泣き尺のイワナも混じり、イワナだけ10尾キープして時計を
見ると午後4時半。イブニングはタイマグラのキャンプ場の脇でやろう
と考えて、一路タイマグラを目指した。

キャンプ場にはいつものように管理人の向田さんがいるだろうと確信
していたのだが、見知らぬ年配の爺さんが馬鹿丁寧な物言いで、
「テント使用料は千円頂きます。」と言ってきた。
正直、これまで一人でキャンプするときには使用料を請求された事
が無かったので面食らったが、まぁそういう決まりならもっともな
ご請求なので素直に従った。
しかし・・・どうも釈然としない。向田久という男はタイマグラでしか
暮らせない男なはずなのに・・・・何故?

不思議に思いながら、イブニングを釣ろうとキャンプ場脇の薬師川に立
つと・・・水量が多い。明らかに雪代水だ。わずかなトロ場を探して、
フライを流してみたが、魚の気配もない。お手上げだった。
そこでその日は竿を畳みキープしたイワナの腹を出し、川の水で洗
おうとおもむろに流れに手を入れた。すると水が痛い!
早池峰の雪解け水で薬師川の水が手を切るように冷たかった。
水温を計ると・・・5度。水量も多いし、これじゃ無理!

キャンプの準備を整えてから、「夕食を家で・・・」という澄川さんの
お言葉に甘えて澄川さんの家に向かった。
土産に江刺金札米を持参したところ、非常に喜ばれた。
奥さんの手作り餃子を頂きながら久々の再会に乾杯した。
この餃子がまた格別に美味かった。
ビールを飲みながら向田さんの事をたずねると、澄川さんもかなり
残念がっていた。澄川さんの話によると、最近キャンプ場の運営を
川井村のNPO法人が委託される事になったらしいのだが、
そのNPOの運営方針と向田さんの意見が合わず彼が身を引く形にな
ったらしい。
タイマグラの住人達も向田さんを頼りにしているので、早くカムバ
ックしてほしいと言っていた。

試写会は、澄川さんの隣の山岳民宿「渓雲荘」で行われた。
参加者はタイマグラの住人20名程度と岩手日報の志田女史と僕。
スクリーンにプロジェクターで投影する方式だったが、自宅のTV
で見たDVDとはまるで別の深い印象を覚えた。
このドキュメンタリー映画の詳細については、後日改めるとして
この作品は本当に素晴らしい映画だ。
機会があれば是非見て欲しい。

試写会終了後、翌朝の事情を説明してほどなく会場を後にした。
しかし、キャンプ場までの帰り道には参った。
距離にして300mくらいの道なのだが、「真っ暗」なのだ。
うっかりとヘッドランプを車に忘れ、その真っ暗な道を這うように
歩く事になった。その暗闇に目が慣れるまでが大変。
最初、ライターであたりを照らしてみたが、その瞬間は良いのだが
火を消したとたんに真っ暗闇。目が慣れるまでまた時間が掛る。
ほうほうの体でテントにたどり着き、ガスランタンに灯を着けると
一瞬であたりが明るくなった。灯のありがたさをつくずく感じた。

そこで早速、枯れ枝などを集めて焚火を起こした。
楢や栃の木の枯れ枝は実に芳しい香で燃える。
その焚火の香を肴に酒を飲んだ。
酒はニッカの余市・・・やっぱりキャンプにはウィスキー。
たった一人のキャンプ場には、薬師川の流れの音と焚火のはぜる音
そして微かな森の物音だけが闇に響き、ゆっくりと時を埋めていた。