庭のサツキが咲き出した。前の家から移植したものだ。以前は、庭とも言えない狭い屋敷の片隅に埋もれていた。父親が植え込んだに違いないが、何年経っているかは分からない。かなりの老木だ。移すにあたり活着するか不安だったが、数年で勢いを取り戻した。
私にとっては、寡黙で目立つことの嫌いな父親の遺産みたいなものだ。華やかさとは無縁の父親が、このサツキを狭い屋敷に植えようとした心の内を推し量ると、チョッと切ないものがある。2人の兄が戦士しなければ、違う人生があったに違いない。
この花が、年上の母親に使われていた父親の安らぎになった、と考えると、私の見る目も違ってくる。この気持ちは家内や子供たちには分からないだろう。陽当たりの良い道路沿いの石垣の上に植えてやった。
勘違いするなと言われそうな気もするが。