包丁のトギノン ブログ

トギノン販売有限会社 包丁の製造販売店のブログです

漂白剤による消毒

2008-09-30 | 包丁について(総合)
-意外と知られていない漂白剤のこと-
お客様からステンレス製の包丁がひどく変色し錆びた...などとご相談を受けました。
私は「通常の使用方法であればさほど錆びることはありませんが、使用後のお手入れは?」と訪ねました。
お客様は「まな板と一緒に漂白剤につけて消毒しています。」とのこと。
私は「包丁などの金属製品に漂白剤は使ってはダメですよ。漂白剤メーカーの注意書きにも明記してありますよ。」と答えました。
お客様は台所の製品を漂白剤で消毒するのが当たり前と認識しておられ、驚いていらっしゃいました。

なぜ漂白剤は金属製品に使用してはいけないのか?それは...
漂白剤の成分に秘密があります。漂白剤は「塩素系」と「酸素系」の2つに分類されます。
「塩素系=次亜塩素酸ナトリウムが主成分」
「酸素系=過炭酸ナトリウム・過酸化水素が主成分」

どちらも漂白剤の成分が物質に触れることにより、水素や酸素または電子を奪ったり、与えたりする。これを酸化還元作用といいます。
この作用により物質はその分子レベルで形が保てなくなり分解されるのです。
すなわち汚れなら分解され汚れが落ちやすく、雑菌なら菌が攪乱して死滅します。
これが汚れや雑菌だけに反応すればいいのですが、金属には錆を誘発させたり、一部の樹脂などにも「加水分解」などを誘発させる大敵でもあるのです。

このこと以外と知らないお客様が多いのも事実で、「薄めて使用していたら表面が綺麗になった。見た所大丈夫そうだった」などの答えが返ってきたこともありました。
でも、俗に錆落としの薬品も実は金属表面を溶かして錆を取っているに過ぎず、取り終わったあと、水や石けん水などで中和して洗い流してやらないと更に錆びることとなります。
漂白剤も浸け置きしておくと金属や樹脂の素材の中に入り込んでしまう、短時間の使用・薄めて使用で表面が綺麗になっていても回数を重ねると中に入り込んでしまうのです。
一見錆びないと思われている「アルミ」も実は錆びます。
「チタン」も実は錆びるんですよ。錆とは気づかないレベルですが、ごく微量に。
...貴方はご存じでしたか?

以上のことから漂白剤は、包丁の金属部や柄の樹脂部などにとっても良くありませんのでご注意下さい。
注)漂白剤の注意書きにも素材によっては痛める可能性があるなどの記載があります。詳しくは御使用になる漂白剤等の注意書きやメーカーにご確認下さい。


刃角と刃厚

2008-09-16 | 包丁の切れ味考察
-刃角と刃厚-

実は一般的に包丁の刃角は重要視されない人が多いんです。
それは一般的使用者の関心は「切れる」か「切れない」かだからだ。
しかし、包丁というのは、細工用から牛刀、出刃、柳刃、薄刃、中華包丁など用途に特化した形状が存在します。
なぜか?
それは、それぞれ使用目的・好みにあう「刃角」や「形状」が必要かつ最適だからである。
今日は刃角・刃厚について述べたいと思います。

基本的に薄切りに優れた包丁は刃角が鋭く、厚切り(硬い物)に優れた包丁は刃角が鈍角になる。
極端な例を挙げると...
薄切り → カミソリ
厚切り → ナタ
という具合になります。
カミソリは毛などを剃り落とすために刃角と刃厚を鋭く薄くする。(鋭く薄くないと毛は剃れない)
ナタは枝や硬い木を落とす為に刃角を鈍に刃厚を厚く作られる。(硬い物を切るために刃かけや折れを起こさないよう鈍角・刃厚に)

上記からも想像できるが、刃角と同じく刃厚も需要なのは、取り回しの良さや刃物の自重による切断能力を左右するためだ。
また、刃角が鋭いと切れ味は良いが刃持ちが悪く、鈍角だと切れ味自体はそこそこで刃持ちが良くなる。

もちろん、これ以外にも切れ味の要素はある。
材料、焼き入れ加工などなど。これらを考慮することである程度は鈍角な刃物でも鋭く切れたり、鋭い刃角でも刃持ちを良くしたりする事が可能です。
でも、基本的に上記のように理解していただいても間違いありません。

作り手としましてはそれらの項目を総合判断して適している材料・加工方法等をチョイスして包丁などの刃物を創り上げるのです。
そこが悩みどころで、腕の見せ所なんでしょうが...。
私は昨今、食文化が変遷してきており従来通りの製造方法が全て適しているとは言えないんじゃないだろうか。新たな需要や使用環境・方法があるのでは...なんて悩んだりもします。
ですから、お客様に喜ばれる包丁を創り上げられるよう邁進している日々の連続です。
私どもは製造販売を行っている刃物会社です。
こんな包丁があったらな、なんてご意見がございましたら
support@toginon.com
まで、ご相談またはご一報下さいませ。ご希望に添える商品の提供が出来るかもしれませんよ。

最後に...用途に合った包丁を選び、正しい使用方法でお使いいただければ、お料理が楽しくなりますよ。

写真は骨切りナタ(クレバー)と細工用ペテー大の刃厚比較です。
はねきりナタは片刃なので刃角が鋭く見えますが、刃厚は一目瞭然ですね。


包丁のマーキングについて 其の壱

2008-09-10 | 包丁のマーキングについて
其の壱
-初めに-
今回は、包丁のマーキングについて述べたいと思います。
マーキング方法は多種多様ありましてそれぞれ特長があります。
種類としては...
・腐食マーキング
・電機腐食マーキング
・シルク印刷
・プリント印刷
・パット印刷
・刻印
・彫刻(タガネで彫る)
・レーザー彫刻
・レーザーマーキング
などなど

どれが一番優れているかというより、それぞれに特長や趣向がある物なので製造側としてはマーキング選択に悩まされます。
なおかつ、それぞれ加工工程やコストが全然比較にならないくらいの差があるんです。
これをお客様にその価値を違いを御理解していただくのが難しい。
それらの理由から、少しでもマーキングによる「違い」を少しでもお伝えできたならと思い書きました。

其の壱では「腐食マーキング」について述べます。
腐食マーキングとは、刃物の表面に文字や絵?などを彫り込んでゆく加工の事です。
加工方法としては、包丁表面に彫り込むところ以外をマスキング(白抜き状態)して、薬品でマスキング以外の所を腐食(溶かし彫り込む)させるのです。
すると、腐食された所は凹みます。
この状態で出荷されるとマーキング方法は「白腐食」などと呼ばれます。
腐食の凹みを活かして「色入れ」(塗料を流し込む)すると「本腐食」などと呼ばれます。
本腐食は黒や赤、金や緑など様々のカラフルな色入れができます。
また、腐食による凹みによって長年お使いになった包丁でもマーキングが消えてなくなってしまうことがほとんどありません。
もちろん形が原型よりかなり変形してしまうくらい研ぎ上げた包丁はこの限りではありませんが...。

簡潔に述べましたが加工には大変な手間と時間がかかります。それに本腐食は職人による1本1本地道に手作業で行いますのでコストが高く付きます。
包丁で使われるマーキング方法としては技術・コスト・美観など総合で1,2を争うレベルの高い物なんですよ。

少しはマーキングについて御理解いただけましたか?
マーキングのお話はたくさんありますので、ぼちぼち時を見計らいUPしてゆこうと思っております。

下記画像は本腐食」でマーキングした牛刀のマーク部のアップ画像です。
カラフルで素晴らしい仕上がりでしょ


「切れ味が落ちる要素としてあげられるもの。」のつづきです。

2008-09-05 | 包丁の切れ味考察
切れ味の考察2

「切れ味が落ちる要素としてあげられるもの。」のつづきです。

其の弐.刃に付いた脂等
お寿司屋さんで魚を切り分けているとき頻繁に包丁をフキン等でぬぐっている姿を目にされた方は多いと思います。
あれは、生ものを扱う上で衛生面を保つ意味もありますが、切り分けるたびに付く脂を拭き取っているのです。
脂が付くと包丁が被膜をおびたり滑ったりするので、食材に刃が、食い込んでゆきにくくなるから行っているのです。

世界最高峰の切れ味を持つ日本刀でさえ「樋」(ひ)を刀身に入れ血抜きをし切れ味を保とうとしています。
その上、「樋」はリブ加工みたいな物で刀身の強度を保ち折れや曲がりにくくし、切った物が刃の側面に表面張力によってへばりつくのを防ぐ効果もあります。
あと、ウェイトバランスの調整にも一役買っています。


私がお世話になっている食肉加工業者の工場では、衛生面や刃物の切れ味に凄く気を遣っておられます。
加工工場内は10℃前後の室温で作業を行い雑菌の繁殖を抑え、20分に1度まな板を消毒・包丁の交換など様々な対策を取られています。
工場の作業員からは脂がまとわりつくと切れなくなるから頻繁に洗浄して使い、刃も毎日研ぐとの事でした。

一般家庭のお客様でも、脂等の付着はまめにフキン等で拭うか水またはお湯などで洗い流せば少しは切れ味が良くなりますよ。
繰り返しますが、包丁は道具です。使用後はお手入れしましょう。永久に切れる刃物なんて物理的にあり得ません。
だから、プロは毎日刃を研ぎます。
1週間に1度とは言いませんが1ヶ月に1度くらいは包丁を研いであげて下さい。
きっと料理が美味しく、そして料理が楽しく感じますよ。

他にもいろいろとありますが、「切れ味が落ちる要素としてあげられるもの。」で挙げたこの2点が切れ味が落ちる最大要素として考えられます。






切れ味が落ちる要素としてあげられるもの。

2008-09-04 | 包丁の切れ味考察
切れ味の考察1

包丁の切れ味はいろいろな要素で決まってきます。
材質、刃厚、形状、熱処理など...。
今回はなぜ、切れ味が落ちるのかを考察しようと思います。

「切れ味が落ちる要素としてあげられるもの。」
いろいろとありますが、最大要素として考えられるものが2点程あります。そのうち1つを挙げてみました。

其の壱.刃の摩耗や刃かけ
使用するたびに包丁は食材とまな板に刃が触れます。
これにより刃が摩耗したり潰れたりして初期のシャープな形状が崩れ切れ味が落ちます。
これはどんな素晴らしい包丁でも避けることは出来ません。使用するほど切れ味が落ちるのです。

では、外国の包丁はどうでしょうか?
外国の包丁は食文化の違いから来る環境として、あまりまな板を使用しませんので切れ味が落ちにくい。
その上、ナイフ的な使用方法で切り落として使用することが多い。
ですから海外製の包丁は日本で使用するとほとんどの人が切れないと感じることが多い。
エピソードとして挙げますが、知人のイギリス人に私どものペティナイフをプレゼントしたところ、刃先を指でなで回しました。
私は驚いて止めに入ったのですが、時既に遅し...彼の指はパックリと切れていました。
もっとも、彼は「こんなに切れる包丁は初めて」と喜んでいましたが...。
やはり外国で言う「切れる」という定義は日本とは違うようです。
もちろん、外国製の中にも素晴らしい切れ味の包丁もあるかとは思いますが、私個人としては日本製の物が最高ランクの切れ味を誇っていると思います。

カッターナイフの方が切れるでしょ?
包丁は切れ味がすぐ落ちるがカッターナイフなどは切れ味が落ちにくいと言われるお客様が実に多い。
しかし、カッターナイフは剣先しか使わないことが多いので刃先が摩耗しておらず切れ味が落ちにくい。
もし、カッターナイフやナイフをまな板の上で包丁と同じように使用すると切れ味は落ちやすくなります。

刃かけについては形状からも元の形を保てていないように切れ味は落ちます。
硬い物に刃を当てたり、切る際にこじったりすると刃かけを起こすので包丁の取扱には気をつけましょう。

包丁は道具です。使用後はお手入れしましょう。永久に切れる刃物なんて物理的にあり得ません。
だから、プロは毎日刃を研ぎます。
1週間に1度とは言いませんが1ヶ月に1度くらいは包丁を研いであげて下さい。
きっと料理が美味しく、そして料理が楽しく感じますよ。

次回は「切れ味が落ちる要素としてあげられるもの。」其の弐をお送りします。