包丁のトギノン ブログ

トギノン販売有限会社 包丁の製造販売店のブログです

-熱処理加工について2-

2009-12-22 | 包丁の熱処理加工について
-熱処理加工について2-

前回の続きです。
今回は熱処理加工の方法としてあげられる物を紹介したいと思います。

まず、熱処理加工のことを私たち刃物業界では「焼き入れ」などと言います。
なぜ焼き入れなのか?以下のような方法からよると思われます。

・煮る
・くべる(薪のように)
・炙る
・蒸す
・レンジ
など。

これが焼き入れ方法???と思われますが、作業自体は上のような工程で熱を金属に入れて熱処理するのです。
それでは詳しくご説明します。
まずは、「煮る」。
煮るなんて聞くと魚や野菜みたいでおかしいと思われますが、金属も煮ることで熱処理加工を行えます。
もっとも、水とかで煮るわけではないですよ。
金属は硬く融点も高いので金属を煮るには・・・
「鉛」
「塩」
などで煮ます。(他にも加工方法はあると思いますが私の所で行っている「煮る」は上記の2つの方法です。)

まず、壺を用意してお釜の様に火で「鉛」or「塩」を煮ます。
温度はそうですねー、1000~1200℃くらいでしょうか。
すると「鉛」or「塩」はどろどろに溶解し真っ赤な飴状から液状になります。
そこに焼き入れしたい金属を入れて煮ます。
そうそう、前記した温度ですがこれは焼き入れ加工をしたい金属の適正焼き入れ温度というのがありますのでそれにあわせて温度設定をします。温度が低い場合は適正硬度が得られませんし、逆に高すぎても「脱炭」(だったん)してしまいます。
脱炭とは...金属に含まれる炭素(カーボン)が金属組織から抜け出てしまうことで、素材がもろくなります。
脱炭は熱処理加工で致命的なミスになってしましますので温度管理に十分注意を払います。
この適正温度の見極めや膨大な試験データ、経験が匠の技を支えています。

「鉛」は鉛焼き、「塩」はソルトバスなどと呼ばれています。
それぞれ長所と欠点があります。コストが高く付くとか塩を使うので後処理をしっかりしないと錆びやすいなど・・・。
長所はハイスやダイス鋼などの高々度の焼き入れ加工も比較的容易に出来るなど。

「焼き入れ」は1000~1200℃くらいで行いますが、焼き入れただけでは靱性が無いためサブゼロ処理などを行います。
サブゼロなどで靱性は得られ折れ、欠けしにくいようにはなっていますが、折れ防止のための「焼き戻し」という特殊作業もあります。
これは高々度に上げた硬度を少し低い温度600~800℃位で焼き直すことで、硬度を下げる効果のことを言います。
この作業をすると粘りのある生の鋼材(熱処理未加工材に戻す)になります。
なぜ、せっかく焼き入れしたモノを焼き戻すのか?答えは以下のようになります。
下記の写真は鉛焼きの焼き戻し作業の物です。壺の熱を下げないように壺の口には細かい炭がしかれています。



柄の中にある茎(なかご)と呼ばれる部位を焼き戻ししています。これにより金属疲労などで折れにくい鋼材に仕上げています。ちゃんとした包丁はこうした作業を行っていますが市場にあふれた刃物の中にはこの処理を行っていない物もたくさん出回っています。
私は柄本が折れたら刃物は飛んで行きやすく怪我をしたりと危ないのではと思いますが・・・皆さんはどう思われますか?
こうした見えない手間が日本製包丁の価値の一つでもあるんですよ。
企業秘密的なところのノウハウもたくさんありますので、ここではあまり記すことは出来ません。今回はこのくらいで勘弁して下さい。

次回は蒸す、くべるなどをお伝えしょうかと思っています。