包丁のトギノン ブログ

トギノン販売有限会社 包丁の製造販売店のブログです

ダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について2

2015-04-27 | 包丁・刃物の鋼材について
ダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について2

ゴールデンウィーク間近!暖かい日が続いていますね。
でも、朝晩は冷えることもあるので、体調の管理には気をつけたいです。

今回はダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について2をお話したいと思います。

以前、ダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について1にて記しましたが、一般的にニッケルダマスカス鋼と呼ばれるものは軟鉄とニッケルの積層に「芯材」の熱処理で硬化する鋼材を使用して作られている。
つまり、「芯材」は非常に硬いのだがそれ以外は柔らかい金属を使用しているので、通常の割り込み材の包丁とさほど特性は変らないとお伝えしました。

それを踏まえて、最近は例外なダマスカス鋼もあります。と記しました。
今回はこの例外物について記します。

結論から言いましょう。
その違いは....軟鉄の部分に熱処理硬化する鋼材を使用しているものがある。です。

例を挙げてみます。
出刃や柳刃などの和包丁などで、日本鋼(芯材)と軟鉄(外側)の2層鋼のものがあります。
また全てハガネで作られた「全鋼」と呼ばれる和包丁があります。
2つの違いは大まかに記すと
「2層鋼」
芯材は熱処理硬化する切れ味の良い鋼材+外側は錆びにくい軟鉄でお手入れ簡単で研ぎやすい鋼材。
片側が軟鉄のため刃物が折れにくい。鞭性(じんせい)が弱くバネのようなしなりが出にくい。

「全鋼」
全てが熱処理硬化する切れ味の良い鋼材のみ使用。鋼材全体が硬く研ぎにくいが刃持ちが永く、錆びやすい。
全てが硬化する鋼材のため2層鋼より折れやすいこともあるが、鞭性(じんせい)が強くバネのようなしなりがある。

という特性を持ちます。

通常のダマスカスは2層鋼のような特性を持ちます。(模様もありますが)
例外なダマスカスは全鋼のような特性を持っています。

こうしてみると2層鋼のほうが使い勝手よさそうで優れた鋼材に見えますが、毎日使用のたびにお手入れをするプロの職人にとっては錆びや研ぎ易いことよりも、丈夫で曲がりにくくバネ特性の強い全鋼を好む方々が沢山いらっしゃいます。
そんな方々にも満足していただけるものが、例外のものとお伝えしたダマスカスの鋼材なのです。

前回に習い例を挙げます。
両刃の刃物鋼材ですが、簡単に言うと例外的なダマスカス鋼と呼ばれる16層の構成はこんな感じでつくられます。

1.スチール   (炭素含有率が低くく熱処理硬化しない鋼材)
2.ステンレス鋼(炭素含有率が高く熱処理硬化する鋼材420や8A、10Aなど。)
3.ニッケル鋼  (炭素含有率が低くく熱処理硬化しない鋼材)
4.ステンレス鋼
5.ニッケル鋼
6.ステンレス鋼
7.ニッケル鋼
8.炭素含有の高く熱処理硬化する鋼材 =「芯材」(V10やSUS440Cなど。)
9.ニッケル鋼
10.ステンレス鋼

↓(上記の組み合わせの繰り返し)

15.ステンレス鋼
16.スチール
これで16層。

通常のものとの違いは軟鉄の部分に熱処理硬化するステンレス鋼を使用します。
こうすることで、丈夫で曲がりにくくバネ特性の強い全鋼にちかい刃物が出来上がるのです。
なぜ、この例外的なダマスカス鋼が一般的に普及していないかというと
1.鋼材の材料費が高価になる。
2.一般的なものよりも鋼材製造技術が必要とされる。
3.熱処理加工も難しくなる。
4.研削加工も難しくなる。
など。幾つかの手間隙+材料費が必要となるから作られてこなかったのです。

実はこの例外的なダマスカス鋼を使用した和包丁があります。(和包丁なので両刃の刃物鋼材と構成は多少異なります。)
以前、「包丁の各部名称(和包丁:編)」で「一角 朧(おぼろ)」の柳刃をご紹介しましたが、この包丁も例外的なダマスカス鋼で作られているのです。
全鋼の特性に近いこの特殊鋼材を使用した和包丁。きっと、全鋼好みなプロフェッショナルな方々にもご満足いただけると思います。


日本鋼も
ステンレス鋼も
ダマスカス鋼も
ピンきりですよ。
鋼材名や構成、熱処理加工による硬度差、刃付け角度など様々な要因が貴方にとって最適な刃物を見つけ出すヒントとなります。
見た目は同じ様に感じても、使用してみると同じではありません。
それではまた。