包丁のトギノン ブログ

トギノン販売有限会社 包丁の製造販売店のブログです

-熱処理加工について4-

2010-02-23 | 包丁の熱処理加工について
ご無沙汰しております。
今回はレンジについて述べます。
レンジ??と思われた方もいらっしゃるかと思います。
実はレンジのような熱処理とは、「高周波」のことなんです。

まず高周波による焼き入れの仕組みを正式名称で記すと「高周波誘導加熱」となります。
なんだか物々しい感じがしますね。
今まで述べてきた熱処理のように火は必要有りません。
基本原理としては、電磁誘導現象を利用した加熱方法によって熱処理をおこないます。
下図が弊社で使用している高周波誘導加熱装置です。


この装置による熱処理のメリットとしては以下のような事が考えられます。
・他のの熱処理方法にくらべ1つからでも簡単に処理できる。(炉や釜を使う物は温度が上がるまでに時間がかかる。ある程度の数量ががないとコストが割高になる。)
・熱処理の時間が非常に短い。(炉や釜は高周波より時間が必要。)
・部分焼きが可能。(ソルトバスや鉛焼き等の一部では部分焼きも出来るが、炉や釜を使用する物は全体を熱処理している。)
・熱処理による歪みが炉や釜にくらべ少ない。

などと、良いことずくめのような高周波ですがもちろんデメリットも有ります。
・装置が非常に高価である。
・歪みにくいが、上手く熱処理をしないと表面だけしか焼けない。
・視覚的に火が見えないのは人間がおこなう作業上、危険な場合もある。(加熱中に触れてしまうとか..)
などなど。

下図は作業している時。
金属疲労による柄元の折れ防止のため焼き戻しをおこなっています。
設定温度は650℃。


写真の包丁をコイル状の部位に差し込んで熱処理をおこないます。
コイル状の部位に金属の物を入れると電磁誘導によって、金属の表面に高周波磁束による誘導電流が流れます。
この電流は、金属のもつ抵抗によってエネルギーを損失し、熱を発生させ熱処理が可能となるのです。
コイルの形状を変えれば様々な製品の熱処理が可能になり、温度の設定は時間や電圧の調整などでおこなうことが出来ます。
私が、なぜレンジ?とのべたかというとコイル状の中に包丁を入れスイッチを入れると1~5秒くらい(設定温度や焼き入れ面積、材質などによって異なるため)で「ビー」と音が鳴り熱処理完了の合図が出るからです。なんだか電子レンジみたいでしょ?

次回は2010ギフトショーのレポートを記します。
それでは。

-熱処理加工について3-

2010-01-26 | 包丁の熱処理加工について
今回は、くべる、蒸すについてご説明します。

まずは「くべる」。
くべるは言うまでもなく火の中に鋼材を入れ火で炙ったりくべたりすることを言います。
具体的な方法としては、下の写真をご覧下さい。

日本刀の鍛錬の様子の写真ですが、炎の中に鋼材を入れ熱処理しています。
温度管理が難しく、鋼材の焼き色や炎の色で温度を判断します。
最も古典的な熱処理方法です。
一度に何本も出来ない、熟練工でないと製品の出来上がりにばらつきが出るなど問題がありますが、これでないとダメという製品もありますから、熱処理は奥が深い。
現代に於いては生産性やクオリティーを揃えたりするに不利なため、ほとんど採用されていません。
1点モノは別ですが。

次は、「蒸す」。
蒸すと聞いても一般的には想像しにくいと思います。
金属を蒸すのには水(スチーム)では温度が低すぎます。
じゃあ、どうやって蒸すのかというと・・・
そう、空気を遮断するのです。

空気を遮断??どうやって?
それは、真空状態の密室状態を作り熱処理をするのです。
方法は2つ。
1.釜の中を真空状態にして加熱する。大気中より温度が高くなる。
2.釜の中に還元性、不活性ガスを注入し無酸素状態を作り熱処理。

どちらも目的と結果はほぼ同じですが、方法(アプローチ)の仕方の違いはあります。

この「蒸す」熱処理が優れているのは直接火を欠けるわけではなく「じわっと」熱が入る。
また、どちらも大気を遮断しているので熱処理をした金属表面にスケール(黒こげた酸化皮膜)が出来にくいことがメリットです。
焼き入れ表面はややつや消し状態になる程度でほとんど荒れない。刃物は焼き入れ後研削してゆくのですが、自動車部品やカッターなどの刃は後から磨く必要のないモノもありますので表面が荒れにくい「蒸す」熱処理をすることが多い。
この写真は無酸化炉の様子。ベルトコンベアー式で自動で熱処理加工がおこなわれます。


次にこの写真は、電気釜です。これは「テンパ」いわゆる焼き戻しをおこなう機械。

例えば熱処理で60°のHRC硬度が出たら焼き戻しで-1~2°落とします。
何故これをするかというと、靱性(じんせい)を出す為。
焼き入れしっぱなしだと、落とすと割れたり、金属疲労が起きやすい。
靱性とは「しなり」でありこれがあると硬くともしなやかな材料となる。
意外とこれをちゃんとやっていない金属加工業もあります。
コストダウンとはいえ見えないところなので省きやすいのはわかりますが、事故が起きてからは遅いのです。
悲しいことですが、現実は作る人、売る人、買う人、使う人が正しい知識がある人ばかりではないのです。

私ども作り手は、少しでもお客様の不安や技術的な違い等をお伝えできるように努力してゆく必要があると考えております。

それではまた。


-熱処理加工について2-

2009-12-22 | 包丁の熱処理加工について
-熱処理加工について2-

前回の続きです。
今回は熱処理加工の方法としてあげられる物を紹介したいと思います。

まず、熱処理加工のことを私たち刃物業界では「焼き入れ」などと言います。
なぜ焼き入れなのか?以下のような方法からよると思われます。

・煮る
・くべる(薪のように)
・炙る
・蒸す
・レンジ
など。

これが焼き入れ方法???と思われますが、作業自体は上のような工程で熱を金属に入れて熱処理するのです。
それでは詳しくご説明します。
まずは、「煮る」。
煮るなんて聞くと魚や野菜みたいでおかしいと思われますが、金属も煮ることで熱処理加工を行えます。
もっとも、水とかで煮るわけではないですよ。
金属は硬く融点も高いので金属を煮るには・・・
「鉛」
「塩」
などで煮ます。(他にも加工方法はあると思いますが私の所で行っている「煮る」は上記の2つの方法です。)

まず、壺を用意してお釜の様に火で「鉛」or「塩」を煮ます。
温度はそうですねー、1000~1200℃くらいでしょうか。
すると「鉛」or「塩」はどろどろに溶解し真っ赤な飴状から液状になります。
そこに焼き入れしたい金属を入れて煮ます。
そうそう、前記した温度ですがこれは焼き入れ加工をしたい金属の適正焼き入れ温度というのがありますのでそれにあわせて温度設定をします。温度が低い場合は適正硬度が得られませんし、逆に高すぎても「脱炭」(だったん)してしまいます。
脱炭とは...金属に含まれる炭素(カーボン)が金属組織から抜け出てしまうことで、素材がもろくなります。
脱炭は熱処理加工で致命的なミスになってしましますので温度管理に十分注意を払います。
この適正温度の見極めや膨大な試験データ、経験が匠の技を支えています。

「鉛」は鉛焼き、「塩」はソルトバスなどと呼ばれています。
それぞれ長所と欠点があります。コストが高く付くとか塩を使うので後処理をしっかりしないと錆びやすいなど・・・。
長所はハイスやダイス鋼などの高々度の焼き入れ加工も比較的容易に出来るなど。

「焼き入れ」は1000~1200℃くらいで行いますが、焼き入れただけでは靱性が無いためサブゼロ処理などを行います。
サブゼロなどで靱性は得られ折れ、欠けしにくいようにはなっていますが、折れ防止のための「焼き戻し」という特殊作業もあります。
これは高々度に上げた硬度を少し低い温度600~800℃位で焼き直すことで、硬度を下げる効果のことを言います。
この作業をすると粘りのある生の鋼材(熱処理未加工材に戻す)になります。
なぜ、せっかく焼き入れしたモノを焼き戻すのか?答えは以下のようになります。
下記の写真は鉛焼きの焼き戻し作業の物です。壺の熱を下げないように壺の口には細かい炭がしかれています。



柄の中にある茎(なかご)と呼ばれる部位を焼き戻ししています。これにより金属疲労などで折れにくい鋼材に仕上げています。ちゃんとした包丁はこうした作業を行っていますが市場にあふれた刃物の中にはこの処理を行っていない物もたくさん出回っています。
私は柄本が折れたら刃物は飛んで行きやすく怪我をしたりと危ないのではと思いますが・・・皆さんはどう思われますか?
こうした見えない手間が日本製包丁の価値の一つでもあるんですよ。
企業秘密的なところのノウハウもたくさんありますので、ここではあまり記すことは出来ません。今回はこのくらいで勘弁して下さい。

次回は蒸す、くべるなどをお伝えしょうかと思っています。




-熱処理加工について1-

2009-11-26 | 包丁の熱処理加工について
-熱処理加工について1-

包丁などの刃物(刃部)に使用する金属は必ず熱処理加工が施されています。
なぜ、こんなお話をするのかというと...
お客様から熱処理加工のご質問をお受けしましたが、誤解をなさっている事が多いのに気づいたからです。

そもそも、包丁などの刃物類はなぜ熱処理をするのでしょうか?
それは、以下のようなことが考えられます。

・昔は鋼を造るとき、金属の塊(インゴット等)がないため、鉄鉱石や砂鉄などを炉で溶かして素材となる金属の塊にする必要があったから(現代でもさほど変わらないが)

・熱して溶解した金属を型に流し込んで冷え固まるのを待つのが「鋳造」、それを更に溶解まで行かない程度に熱してモチの様になった所を叩いて鍛えるのが「鍛造」。よって鋳造より鍛造の方が安定した組織で硬い鋼材となる。
(熱した鉄を叩いて鍛えたりすることにより金属組織の均一化や脱酸素を行い硬い金属が造られるのがわかったから)

刃物は何かを切る物。
切るためには刃を薄くしなくてはならない。
薄くしても強度を保ち、耐摩耗性を上げるためには高硬度の金属が必要。
だから熱処理加工を施す。

また、熱処理加工で硬度を上げるためには素材に炭素が含まれていることが重要。
炭素の含有率が少ない鋼材は幾ら熱処理加工をしても、強度が増すことはない。

スプーンやフォーク、シンクなどに使われる金属はそこまで薄くしなくても良いので熱処理加工によって強度の増すことのないいわゆる軟鉄(炭素含有率がほとんどない鋼材)と呼ばれる物が使用され、俗に18-8や18-10と呼ばれる材料が市中には出回っている。
この18-8などの数値の意味は18クロ-ム+8ニッケルの材料だよということです。
よって、これらを研ぎ上げても刃は付くことは付くが、使用のたびに刃先が潰れていくのが感じられるほど刃持ちが悪くナマクラである。硬度を上げるための炭素がほとんど含まれておらず、ゆえに錆びることはまずない。刃物材として適さないのは明白である。

鋼の包丁は炭素が豊富なので錆びやすい。
ステンでも刃物用鋼材なら炭素含有率が高く錆びますが、ニッケルやクロームなどの錆を押さえる元素も多く含まれているので錆びにくくなっています。
あっ!?これって以前に鋼材ステンレス編でも書いたような気が...。

生活の中で強度を増すために炭素はいろいろな物に使用されている。
炭素繊維を母材とした樹脂?がカーボンシート。ゴルフクラブのシャフトや釣り竿、レーシングカーなどの外装や部品に使われていますね。あと、車のタイヤが黒いのは炭素がゴムに練り込まれているから等...。
探してみると結構身近にあるものです。
また、究極の炭素結晶?はダイヤモンドである。炭素が硬さに貢献しているのが何となく想像できますか?

気がついたことを書き記していたら話が脱線気味になってしまいました。申し訳ありません。
私がお話ししたかったことは、刃物に使われる金属はスプーンなどの軟鉄と違いステンでも錆びることがあると言うことと、強度と切れ味を増すために熱処理をしていると言うことなんです。

また、熱処理加工をしていない俗称「生鉄」と呼ばれる物と熱処理加工後の「焼鋼材」の硬度の差はHRC換算で2~3倍ほど違い、当然ですが加工後の方が硬くなります。
硬さは熱処理加工の技術や材質に含まれる炭素の含有率に左右されます。

金属はほとんどの物が同じ色をしているので材質の見分けが難しく、専門家でも一見してわかる人は少ないです。
この熱処理技術も目に見えない違いです。
そこにも必ず、海外製ではマネできないノウハウや匠の技術があります。「見た目のカタチ」の違いにない何か?は確かに存在します。

次回はそんな包丁の熱処理加工方法などを大まかに説明したいと思います。それでは。