包丁のトギノン ブログ

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包丁・刃物の鋼材について -ステンレス編-

2008-11-26 | 包丁・刃物の鋼材について
包丁・刃物の鋼材について
-ステンレス編-

包丁・刃物の鋼材は多種多様。
大きく分けると錆びやすいハガネ系とステンレス系に分類できます。
今回は、ステンレス系についてお話をしたいと思います。

一般的にステンレスはステン(錆) + レス(ない)の造語で「錆びない」と解釈をされます。
しかし実際の所、ステンレスは多種類あり錆びるステンレスもあれば錆びないステンレスもあるのです。

ステンレスなのに錆びるの?とお思いのお客様ここからが重要です。
例えば、金(gold)に18金と24金(純金)の種類があるようにステンレスも添加物により性質が変わります。
しかも金とは違いステンレスという金属は元々無く、ニッケルやクロームなどを練り合わせた特殊合金のことをステンレスと称するのです。

主に錆びないステンレス(全く錆びないわけではない。全く錆びない金属は現存しない。チタンも熱処理や薬品などで酸化「ごく僅かだが錆びる」する。)はスプーンやフォーク、シンクに使われる18-8(18クローム:8ニッケル)や18-10などと呼ばれる物で、主にJIS規格で言うところのSUS430系の材料のことを言います。
これらは割込包丁やダマスカス包丁の「側:ガワ」としては使用されますが、刃が付く部位には使用されません。刃物には適さない材質。

一方、錆びるステンレスというのは熱処理によって硬度が増すのが主たる特長ですね。
厳密には添加物のおかげで、ハガネに比べほとんど錆びませんが。(本気のハガネは手で触れたそばから色が変わり錆始める。)
その違いは...そうです。鋭い方ならお気づきでしょうが、炭素(C):カーボンが入っているから熱処理をすることで金属組織が締まり強力に結合することで硬度が増すのです。話はそれますが、自動車のタイヤも熱や耐摩耗性、強度を上げるために炭素が入っています。あの黒色は炭素の色なんですよ。

錆びないステンレスはいくら熱処理をしても硬度が増しません。いわゆるナマクラです。
硬度が増すと良いことはなんでしょうか?
硬くなることでネジをなめにくい工具、硬くなることで刃を鋭く薄く丈夫に出来る刃物など...実に様々な用途があります。
また、包丁・刃物のステンレス鋼材は一昔前なら超合金と呼ばれるような物で、ステンレスの母材のニッケル、クロームの他に炭素、モリブデン、バナジュウムなど様々な元素を添加して作られています。これにより性質に特性を与えています。
その添加の割合は様々で、使用用途により硬さ、錆びにくさ、耐久性、靱性などを考慮して練り上げます。
高価な材質が良いのではなく適材適所の材質を見極めて私ども作り手は日々研究を重ねています。

主な熱処理加工の出来る刃物ステンレス鋼材
・SUS420j2
・SUS420j2H(420j2のハイカーボン仕様)
・SUS6 ≒ 6A ≒ 440A
・SUS8 ≒ 8A ≒ 440B
・SUSU10 ≒ 10A ≒ 440C
・ACUTO440
・ATS34
・ZDP18
・154CM
などがあります。

一般的に金属はシロガネ色に見え、一見して代わり映えの無い。有色金属と呼ばれるのは金や銅くらいです。
だからこそ、ステンレスの表示で満足するのではなく、なんの材料を使っているのかをもっと気にしてほしい。
極端な例ですが、犬=ステンレスとするのならば、柴犬=SUS6、チワワ=440Cと分別出来ます。この方が特長が解りやすい。それほどステンレスは多種多様の種類があるのです。
あ、ちなみにチタンも純チタンから合金まで多種多様あります。
この材質表示の点は私ども作り手にも責任があると思われますので、しっかりと材質表示をしてゆきたいと思います。

またの機会になりますが、上記の刃物鋼材に使われるステンレス鋼材の成分や特長などに踏み込んでお話ししたいと思います。